羽佐間道夫、山寺宏一、井上喜久子ら実力派声優が無声映画でアドリブだらけのナマ口演!「声優口演ライブinしたコメ 2009」ライブレポート@浅草公会堂
今回で第2回を数える「したまちコメディ映画祭in台東」。そのクロージングイベントとして、昨年同映画祭で大好評を博した「声優口演ライブ」がさらにパワーアップして開催された。声優口演ライブとは、外画吹き替えで活躍する実力派声優たちが往年の無声映画にナマで声をあてるという企画で、大御所の羽佐間道夫さん、大ベテランの近石真介さん、さらに井上喜久子さんや山寺宏一さんといった人気声優が登場。その芸達者ぶりを存分に披露した。特にチャップリンの作品に全編1人で声をあてた山寺さんは、台本無し、すべてアドリフという離れ業を見せ、改めてその力量を知らしめた。
なお開催日の9月25日はちょうど井上さんの誕生日だったため、羽佐間さんがサプライズで井上さんにお祝いの花束を用意しており、井上さんが感激で涙ぐむシーンも。
●声優の技量に改めて驚く口演ライブ!
台東区浅草という日本喜劇発祥の地を中心に、コメディ映画の祭典「したまちコメディ映画祭in台東」が昨年発足。その中の1イベントとして、かつて活動弁士たちが口上をあてていた無声映画に、現代の人気声優たちが声をあてる「声優口演ライブ」を開催したところ、映画ファンから声優ファンまで巻き込んで映画祭きっての大盛況を呼んだ。そこで今年は映画祭の最後を飾るクロージングイベントとして、浅草公会堂でさらに華々しく開催。日本の喜劇映画の神様と呼ばれる斎藤寅次郎監督の作品と、喜劇王チャップリンの作品に、羽佐間道夫さん、近石真介さん、井上喜久子さん、山寺宏一さんという実力派声優たちが声をあてた。
メンバー登場の際は羽佐間さんが司会となり、それぞれに一節語りながら呼び込んでいく。
井上さんを呼び込む際は、「声優というのは容姿が悪いから声優になるという人が多かったんですけど、こういう人たちが出てきてから、最近は容姿が先だってことになっちゃった」と艶やかな着物姿で登場した井上さんを持ち上げ、「いやいや、そんなこと全然ないです」と恐縮する井上さんに、「本当は舞台女優にしたいくらいですけど、セリフを憶えられないというので」としっかりオチをつける。
山寺さんに対しては「天才」とベタ誉めし、その素晴らしさをどんどん語るが、山寺さん自身はせっかく描いてきたチャップリン風のチョビヒゲに羽佐間さんが一向に触れてくれないため、ヒゲをアピールする山寺さんとすまし顔の羽佐間さんの対比がコントのようになっていた。
まずは斎藤寅次郎監督の『子宝騒動』という作品に、羽佐間さん、近石さん、井上さんが声をあてる。出産間近の妻が産気づき、失業中のダメ亭主が産婆を頼むための金策に奔走するというドタバタコメディで、和製チャップリンと呼ばれる小倉繁を中心に無声映画ならではのコミカルな動きで見せる芝居に合わせて、当代きっての声優たちが声の技を振るった。
続いて日本チャップリン協会会長の大野裕之氏の解説で、本邦初公開となるチャップリンの貴重なスライドとNGフィルムを見ながら声優たちがトークショーを繰り広げる。
同じシーンを納得いくまで何度も繰り返したというチャップリンの完璧主義者ぶりがわかる、テイク889という数には一同驚愕。しかも1日に20テイクしか撮らないという説明に、山寺さんは「アニメでこんなNG出したらクビですよ。明日から仕事ないですよね」とチャップリンに付き合ったスタッフたちにも舌を巻き、羽佐間さんは予算と時間のかけ方に「いやぁ、良き時代だったんだねぇ」と憧れを見せた。
また山寺さんが映像の早送りに合わせて早巻きの音を入れたり、NGフィルムに登場した犬にその場で鳴き声をあて始めたのを見て、負けじと羽佐間さんもアドリブでセリフを入れ始めたため、この後にチャップリン作品に声をあてることになる山寺さんが「羽佐間さん。先輩にそんな上手にあてられると僕がやりにくくなるのでやめてください」と泣きを入れる羽目に。
●圧巻!山寺さんの1人チャップリン!
そして今回最も圧巻だった、山寺さんが1人ですべての登場人物の声を入れる口演が始まる。チャップリンの1917年の作品『チャップリンの冒険』に、台本無し、全編アドリブで山寺さんのマシンガントークが唸る。脱獄犯のチャップリンを巡って十数人が入り乱れる、かなり目まぐるしい作品なのだが、ギャグや時事ネタを散りばめながら声も演じわけつつ隙間なくびっしりと喋り、最後には汗だくになっていた山寺さんの熱演に、会場から絶賛の大拍手が贈られた。
最後に再び全員がステージに並んだところで、羽佐間さんが「こちら側の問題で申し訳ないんですけど、この井上喜久子さんが今日、17才の誕生日を迎えたので」と突如井上さんの誕生日に触れたため、会場のファンからも「おめでとう」コールが巻き起こる。さらに全員でハッピーバースデーの歌を歌い、花束まで用意されていたため、井上さんも「こっそり誕生日を迎えようと思っていたら、こんなにしていただいて、みなさまどうもありがとうございます。びっくりしました。本当の年を聞いたらもっとびっくりしちゃうと思うんですけど、17才おいおいということで、本当にありがとうございます!」と涙ぐみながら喜んだ。
最後のまとめに登場した総合プロデューサーのいとうせいこう氏も、改めて声優たちの技に賛辞を贈り、来年また開催することを約束して映画祭を締めた。
>>第2回 したまちコメディ映画祭in台東