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どれだけ世界観を広げても、監督が『ポッピンQ』で大切にしたのは?

どれだけ世界観を広げても、宮原監督が一番大切にしたのは!?――金丸裕プロデューサーが語る映画『ポッピンQ』の魅力

東映アニメーションがおくるオリジナル劇場作品『ポッピンQ』が、全国約221の上映館にて12月23日(金・祝)より公開されています。本作の主役は、中学卒業を間近に控えながら、心のなかに悩みをかかえて前に進めずにいる15歳の5人の女の子たち。彼女らが異世界“時の谷”に迷い込み、ダンスで世界を救う物語となっています。

王道エンターテインメント作品でありつつ、女の子の心のなかにフォーカスを置き続けた作品でもある『ポッピンQ』……みなさんは、どうご覧になりましたか? 青春、卒業、冒険、ダンスなど、要素もりだくさんの本作を紐とくべく、今回は【ネタバレあり】で金丸裕プロデューサーにインタビューを実施。制作中のお話から、映画を見た人にしかわからない「あの映像」の話も含めて、『ポッピンQ』を横断的に語っていただきました。

▲『ポッピンQ』金丸裕プロデューサー

▲『ポッピンQ』金丸裕プロデューサー

※結末を含むネタバレがあるため、映画の鑑賞後に読まれることを強くおすすめします。

金丸プロデューサーからみた宮原監督

――まずは、企画が立ち上がった経緯から教えていただけますか?

金丸裕プロデューサー(以下、金丸):企画の松井(俊之)さん、僕、そして宮原監督の3人で、「ダンスが物語を進めるような映画ができたら面白いね」と、話をしたのがはじまりでした。それが2011年の秋くらい、宮原監督が『プリキュアオールスターズDX 3Dシアター』(以下『3Dシアター』、2011年)を終えたころです。『3Dシアター』は、ほぼダンスで構成されたサイレント作品でしたが、そのなかに少しストーリー要素があってその表現が僕としても面白かった。そこからさらに発展させて、ストーリーのなかでダンスを描ける映画が作れるんじゃないかと思いました。


――オリジナルの長編劇場作品ということで、企画実現のハードルは高かったのではないでしょうか?

金丸:そのとおりです。この規模感でオリジナル映画を作るリスクを背負えるかというと……そんなアニメーション会社は多くないないと思います。今回の場合、まずはパイロットフィルムを作らせていただいて、そのダンス映像(註:本編のオープニングソング『ティーンエイジ・ブルース』を使用)に反響をいただけたのが大きかったです。それから東映アニメーション社内でもいろいろプレゼンし、宮原監督のやりたいこと、最初のコンセプトを崩さずに映画を作れることになりました。長いあいだ、地道に継続していてよかったです。


――『3Dシアター』のお話が少し出ましたが、演出家としての宮原監督にどんな印象をお持ちだったのかうかがえますか?

金丸:『3Dシアター』後に宮原監督と一緒の仕事をしていたんですが、そのときから「ものの本質を捉えて、アニメーションとして的確に表現できる人」だと思っていました。しかも宮原監督は、作画/CG問わずそれができる。僕の知る限り、ほかにこういう人はいないです。

CGのスタッフは、CGの技術論や感覚論をお持ちで、そこをベースにアニメーションを作ります。そうなると、作画的な演出ができないんです。「作画だとこうですよね」と言うと、理解できても演出はできない。逆に作画のスタッフでCGの技術を知らない方は、CGの演出が絶対にできないんです。たとえばフルコマ(註:1秒=24コマの映像)のCG作品を作るとして、作画の人はコマ割りの感覚が違うので演出が難しいんです。でも宮原さんは、アニメーション表現の本質を捉えた上で、作画もCGも両方の技術がある。この人と一緒にアニメーションを作れば、絶対にこの人らしい作品ができるだろうと思いました。

――アニメーターとしては総作監まで、CGスタッフとしてもディレクターや監修までやられている宮原監督ならではですね。

金丸:さらにいえば、宮原監督の強みってレイアウトにもあると思うんです。構図の決め方が非常にわかりやすいし、伝わりやすい。それなのににディテールの多さもある。『3Dシアター』でいうと、引きの画の使い方がうまいですし、寄ったときも絶対に誰かが奥にいて、楽しく見せるレイアウトになっています。映画というフォーマットで、このセンスを全開にしたらきっと面白いと思いました。映画監督として、トータルで宮原さんに興味が湧いたんです。


――ただ、なかなか監督を引き受けてもらえなかったそうですね?

金丸:松井さんと僕が「具体的な構想があるんだから、宮原さんが自分で監督やるしかないですよ?」と何度も詰め寄ったんですけど、ずっと逃げられましたから(笑)。

でもその気になったあとは早かったです。5人の女の子がいて、異世界に行って、アクションもあって……といった要素がどんどん出てきました。黒星紅白さんに描いていただいたキャラクター原案も「このキャラだったらいける!」と思えるものだったので、宮原さんがイメージボードをバリバリ描くようになりましたね。時の谷やポッピン族のイメージ、ダンス、冒険、伊純に走らせたい場所のイメージなどなど。それらをどうつなげるのか、あとで悩むことになるのですが。

そのころ、松井さんと宮原監督は、小中学校の先生向けのダンス講習会にも参加しています。「ダンスは思いを伝えるツールとして言語よりも前に存在していた」という話にもふれて、「5人がダンス通じて心を合わせていく」というストーリーの骨子がより明確になりました。


監督とのラリーで作り上げた世界観とキャラクター

――プロデューサーのお仕事内容は会社や作品によりマチマチかと思いますが、『ポッピンQ』での金丸さんは、主にどんな役割を担われたのでしょう?

金丸:そもそも僕はまだキャリア8年で、今回が初プロデューサーです。そういう意味でも企画に松井さんがいて、スタッフの座組みなど大きなところは、勉強させていただきながら一緒にやっています。

僕のメインの役割としては、宮原監督の作りたいもの、作るものに対して、「それならこうなんじゃないの?」「こういうこともあるんじゃないの?」と、自分のこだわりをぶつけることでした。僕はアニメの専門学校を出て、演出助手として東映アニメーションに入っていて、アニメが好きで、アニメを作りたいタイプなんです。松井さんからも、「金丸がもっているアニメーション制作のこだわりを絶対に曲げるな。それを徹底しろ」と言われました。

具体的には、だいたいスタジオ近くの喫茶店で、宮原監督と僕のふたりで話す時間を週2~3回、松井さんも含めて3人で話す時間を月に1~2回設けました。僕は宮原監督に嫌がられるようなことを含めて、なにか打ち返しがもらえそうな話を、ずーっとしていきました。宮原監督のラリー相手になるイメージです。


――その場はどんなふうに進んでいくのでしょう?

金丸:たとえば、「伊純(CV:瀬戸麻沙美)ちゃんって……お姉さんいますよね?」と、振るんです。そうしたら宮原監督は、「えぇ? いるかなぁ……いなくない?」と返してくる。もう一度、「いや、いますよ! 伊純ってこういうこと考えてますよね。これって次女なんじゃないかな」と言うと、「あぁ~お母さん厳しいし、お姉さんは先に関東に出てるのかも」と返してくる……。僕はそれをメモるんです(笑)。それを繰り返すと情報が出そろってきて、よしよし伊純ちゃんができてきた……と。

――なるほど(笑)。

金丸:世界観に関しても同じです。たとえば、「最近どんな映画見ました?」という雑談から、宮原さんの大好きな『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015年)の話になる。そこから、異世界を“荒野”にしたらポッピン族たちは生きられるのか――という話になって、ポッピン族たちの住む「時の谷」の世界観ができ彼らの住む街を作ることになりました。

「オリエンタルな感じの街がいいなぁ」という宮原監督に、「たとえばトルコにこんな街並みがありますよ」と振ると、宮原さんが「こうかなぁ……モンゴルとかのイメージもあるよね」と絵を描きはじめて、あの街の雰囲気ができていきました。

砂漠が舞台のゲーム『風の旅ビト』(2012年)の話題から、砂漠に差す光の加減の話になって、時の谷の光の表現の方向性が出たもありましたね。そんなふうに、僕はひたすら話題を振って、宮原監督が返してきたものをストックし共有していきました(笑)。

――“同位体”さながらの連携ですね(笑)。ヒロイン5人がそれぞれ抱えている悩みの内容についても、同じような形で検討を重ねたのでしょうか?

金丸:その点は宮原監督がほぼひとりで作っています。僕らは、ダンスを習っている女の子や、ダンスを始めた子、中学生の娘さんがいる人にお話をうかがうなどのアシストがメインでした。

映画のテーマに「青春」「卒業」を掲げましたが、これはある意味、非常にエゴイズムを含んだテーマだと思っていて、消化するには、5人それぞれに非常にパーソナルな悩みをもたせる必要がありました。結果的にそこがクリアできたので、悩みの乗り越え方についても、基本的に口を出さなかったです。


――映画を拝見して、女の子たちが徹底的に「自分と向き合う映画」になっていると感じました。最後の敵、ポッピン族、自分以外のヒロイン4人に関しても、それぞれが「自分」を写す鏡になっている印象です。

金丸:その要素が大切だったと思います。達成しなければいけない目標は「自分が前に進むこと」だから、敵は自分自身だった。ポッピン族はヒロインたちを導いてあげる存在ですけど、自分を導くのは自分自身だった。自分以外の4人に関しても、それぞれ個性があるけれど、同じように悩みを抱えているのでやっぱり自分自身に返ってくる。目的も、世界観も、主人公たちも、すべて「自分と向き合う」ということに通じています。

――王道エンタメでありつつ、皮を1枚はがすと、すごく内省的なことをやっているという。

金丸:宮原監督は基本的に、『マッドマックス』とか『ロード・オブ・ザ・リング』、『ゲーム・オブ・スローンズ』みたいなハイファンタジーアクションや王道エンタメが大好きで、そういうことをやりたい気持ちをもっているんです。でも根が真っ直ぐでピュアな人だから、結局は女の子の心のなかとか、そういった題材を大切に選ぶんですよね。

『ポッピンQ』は非常にエンタメ色の強い、子どもから大人まで見られる映画です。でも、ディティール一つひとつを取り上げると、どれも心と向かい合っている。これは両極端な要素なので、アニメでやると必ずどこかに飛躍や乖離が生まれてしまうんですけど、『ポッピンQ』では地続きなんです。技術的・手法論的なことも含めて、宮原さん以外にこれができる人はいないと思います。

あれだけ世界観を広げたのに、ひたすら女の子の成長に寄りそったものを、宮原監督が作ったんです。卒業式の朝に家を出て、式が始まるまでの2時間だけの話――その瞬間、刹那です。逆にいうと、刹那をアニメーションとして描いたら、表現としてすごく広がっていった。そのあたり、個人的には『ポッピンQ』は新しいファンタジー映画でもあると思っています。


――伊純たち5人にとっては、時の谷での大冒険も、卒業にいたるひとコマだったと。伊純のお母さんも「女の子は知らないうちに大人になる」と言っていましたね。

金丸:たぶん現実も同じで、異世界での大冒険こそないけれど、女の子にはなにかそういう「瞬間」があるんだと思います。大人から見るとわかりませんが。伊純のお父さんも「ふーん」でしたからね。映画の楽しみ方は人それぞれですが、そうした部分にも注目していただけたら、プロデューサーとしてすごくうれしいですね。彼女たちはその瞬間を生きている。もっといえば、宮原監督の頭のなかにはその先の「瞬間」もあって……。その一端が「特別映像」です。

[取材&文・小林真之輔]

 
 
『ポッピンQ』作品概要

12月23日(金・祝)全国拡大ロードショー

>>映画『ポッピンQ』公式サイト
>>映画『ポッピンQ』公式Twitter(@POPIN_Q_staff)

 
【ストーリー】
「別々の方向を見ていた、その時までは―。」5人の少女たちが過ごす、特別な時間の物語。

春、卒業を控えた中学3年生の伊純(いすみ)は悩んでいた。不本意な成績で終わってしまった陸上の県大会。あの時出せなかったパーソナル・ベストを出したい。このままでは東京へ転校なんてできない。伊純は、毎日放課後にタイムを測っていた。だが、そんな伊純の行動は、県大会で勝った同級生へのあてつけだと周囲には受け止められていた。

卒業式当日、ふらりと辿りついた海で“時のカケラ”を拾った伊純の前には、見たこともない風景が広がる。そしてポッピン族のポコンが現れる。ポコンは伊純と心が通じ合っている“同位体”だった。

伊純が迷い込んだ場所は“時の谷”。ポッピン族は、様々な世界の“時間”を司る一族。ところが、その“時間”がキグルミという謎の敵のせいで、危機に瀕しているという。

“時の谷”には、伊純と同じく“時のカケラ”をひろった少女たちがいた。勉強のためなら友達なんかいらないという蒼(あおい)。プレッシャーでピアノのコンクールから逃げだしてしまった小夏(こなつ)。父のすすめる柔道と母のすすめる合気道のどちらも選べないあさひ。みな悩みを抱えたまま“時の谷”へとやってきていた。そして伊純と同様、その傍らには“同位体”のポッピン族がいた。彼女たち“時のカケラ”の持ち主が、心をひとつにしてダンスを踊ることで“時の谷”を守ることができ、元の世界に戻ることもできる。だが5人目の少女、沙紀(CV:黒沢ともよ)はみんなと踊ることを拒絶する。「私は元の世界になんか戻りたくないから」。

その言葉に伊純の心はうずく。「私だって元の世界に戻って前にすすめる自信なんてない」──。

【スタッフ】
監督:宮原直樹
キャラクター原案:黒星紅白
企画・プロデュース:松井俊之
プロデューサー:金丸裕
原作:東堂いづみ

脚本:荒井修子
キャラクターデザイン・総作画監督:浦上貴之
CGディレクター:中沢大樹
色彩設計:永井留美子
美術設定:坂本信人
美術監督:大西穣
撮影監督:中村俊介
編集:瀧田隆一
音楽:水谷広実(Team-MAX)、片山修志(Team-MAX)
主題歌:「FANTASY」(Questy)
配給:東映
アニメーション制作:東映アニメーション
製作:「ポッピンQ」Partners

【キャスト】
瀬戸麻沙美、井澤詩織、種﨑敦美、小澤亜李、黒沢ともよ
田上真里奈、石原夏織、本渡 楓、M・A・O、新井里美
石塚運昇、山崎エリイ、田所あずさ、戸田めぐみ
内山昴輝、羽佐間道夫、小野大輔、島崎和歌子

(C)東映アニメーション/「ポッピンQ」Partners 2016
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