「マジンガーZ」への愛情の深さを監督が語る!ーー『劇場版 マジンガーZ / INFINITY』志水淳児監督インタビュー
マジンガーZが復活します。その復活の先導役を担うのが、志水淳児監督。監督は、『ONE PIECE(ワンピース)』シリーズや『プリキュア』シリーズなどの大ヒット作をはじめとした映画に14作品も携わっており、東映アニメーションを代表するアニメーション映画監督のひとり。そんな志水監督は、1972年放送の「マジンガーZ」直撃世代。最新作である、『劇場版 マジンガーZ / INFINITY』には、並々ならぬ情熱を捧げているとのことで、監督のZへの愛情を伺ってきました。ぜひ、観る前にご一読ください。
――志水監督といえば、これまで『プリキュア』シリーズや『ONE PIECE』の劇場版など、ファミリー路線の作品を手掛けてこられた印象が強いのですが、スーパーロボット作品は今作が初でしょうか?
志水:監督するのは初ですが、テレビアニメ(1972年)版の『マジンガーZ』は直撃世代で非常に思い入れは強いですし、これまでも機会さえあればぜひやってみたいと思い続けてきたジャンルでした。正直に言うと、『ONE PIECE』のような人間のアクションがメインとなるものより、巨大ロボットのほうが個人的には好きなぐらいなんですよ(笑)。
実は以前に『新世紀エヴァンゲリオン』関係でお誘いをいただいたことはあったんですが、そのときは実現しませんでした。まぁ、あれは巨大ロボットといっても少し路線は違う作品ですけれど。それがこのたび自分にとっては原点ともいえる『マジンガーZ』の新作を監督させていただけることになって、非常に嬉しく思います。
――そもそも、東映アニメーションに入社されたのも『マジンガーZ』の影響があったりはしたんでしょうか?
志水:それは少なからずあったと思いますよ(笑)。僕らの年代だと、やっぱりロボットアニメといえば『マジンガーZ』がナンバーワンだという評価でしたから。
――ようやく念願かなって……という感もある本作ですが、監督として特にこだわりを持たれたのはどういった点でしょうか?
志水:これまでさまざまなアプローチで『マジンガーZ』はリメイクされてきましたが、今回は1972年版のテレビシリーズと地続きの作品であるというのを強く意識しています。
往々にしてリメイク・リブート作品は、オリジナルと根底から変わってしまうなんてことにもなりがちなんですが、決してそうはならないよう、あくまでテレビアニメから10年後の世界を、現在のアニメーション技術で描くことに留意しました。
細かいところで随所に感じるマジンガーへの深い深い愛情
――物語のほぼ冒頭から、当時のテイストのままの機械獣が大量に登場することにも並々ならぬ「マジンガー愛」が感じられたのですが。
志水:機械獣との戦闘に関しては助監督を務めていただいた、なかの★陽さん(註1)にほとんど委ねているんですよ。
(註1)なかの★陽:平成仮面ライダーシリーズの絵コンテをはじめ、アニメ・実写を問わず様々な作品で演出やコンテ、さらには作詞、デザイン、イラストなども手がけるマルチクリエイター。近作では『劇場版 マジンガーZ / INFINITY』以外でも『仮面ライダーエグゼイド』『ウルトラマンジード』『アニメガタリズ』などに関わっている。
――そうなんですね。実は先ほどテレビアニメ版と地続きと言われておりましたが、戦闘では漫画版の、それも永井豪版だけでなく桜多吾作版(註2)にあったシチュエーションも拾われているように思えたので、全方位的にディープな掘り方をしてるんじゃないかと思っていたんです。もちろん、しっかりテレビ版のオープニングも戦闘中に再現されてましたけど。
志水:そこは、なかのさんの仕事ですね(笑)。僕はむしろテレビアニメ版になかった要素はなるべく入れないようにしていて、絵のタッチも永井豪先生やダイナミックプロ作品のものより、テレビ版に近い雰囲気を出すように狙っています。今回のオープニングも当時の雰囲気を出したくてやっていることで、もしかしたらそれが個人的にもっとも譲らなかったところかもしれません(笑)。そこでは今回、本編中には出すことができなかったキャラクターにも登場していただいたり。そのカットの作画は『マジンガーZ』には非常に思い入れをお持ちのアニメーターである越智一裕さん(註3)にお願いいたしました。
(註2)桜多吾作版:石ノ森章太郎に師事し、チーフアシスタントをつとめたのちに独立した漫画家。同じく石ノ森章太郎のアシスタントであった永井豪と交流があったことから、テレビアニメをベースにしたコミカライズ作品となる『マジンガーZ』の連載を「別冊少年ジャンプ」にて開始。しかし次第にテレビアニメ版にはないオリジナル要素を強めていき、その独自のリアリズムを評価するファンは今も多い。他に『グレートマジンガー』『UFOロボ グレンダイザー』など、数々のスーパーロボット作品のコミカライズを担当している。現在は代表作の『釣りバカ大将』より続く釣り漫画をはじめ、様々なジャンルで活躍中。
(註3)越智一裕:メカのシャープなアクションに定評のあるアニメーター。『ザ☆ウルトラマン』『機動戦士ガンダム』『六神合体ゴッドマーズ』などの動画や原画を経て、『魔境伝説アクロバンチ』『プラレス3四郎』などでは作画監督もつとめた。また『マジンガーZ』をはじめとするダイナミックプロ作品への造詣が深く、スーパーロボット作品が映像商品化される際にパッケージアートを手がけることも多い。他に『うる星やつら』などで見せた美少女キャラの描写でも評価が高く、近年では『プリキュア』シリーズで絵コンテを担当。
――東映アニメーションで、1972年当時に関わっておられた方にお話をうかがったりといったことは?
志水:残念ながら、その頃のスタッフで残っておられる方はほとんどいなくて。なのであらたに1から構築することにはなりましたが、まぁ映像のほうは幸いにもしっかり残っておりますので、それを参考に、たとえば効果音なども極力は当時のものを再現する方向で調整いたしました。
もちろん、渡辺宙明さん(註4)の音楽も劇中でアレンジして使わせてもらっておりますし、新録ではありますが、オープニングテーマは水木一郎さんにお願いしています。
▲水木一郎 「マジンガーZ / INFINITYバージョン」Music Video
(註4)渡辺宙明:1970〜80年を中心に『マジンガーZ』を含む数多くのテレビアニメや、特撮ヒーローの音楽を担当。アニソン、特ソンの独特な節回しを作り上げたひとり。本作の音楽を担当する渡辺俊幸は、渡辺宙明の実子。
――他に『マジンガーZ』と『グレートマジンガー』のレギュラーキャラクターも、ほぼ総登場というあたりに原典へのリスペクトを感じますね。三博士のうち、もりもり博士(註5)はきっちり遺影になっていたり。
志水:名のあるキャラクターはなるべく出したいということで、脚本ではボスの経営するラーメン屋にただ「親子」となっていた人物をみさと(註6)に変更したり、そういったこともやらせていただいています。彼女もすごく有名なキャラクターというわけではないかもしれませんけど、テレビを見ていた人なら覚えてるでしょうからね。それで少しでもボスと関わりの深いシーンでの登場となりました。他にも、なんとなくどこかで見たことがあるような人物がいろんなところに紛れていたり、覚えのある声が……というお遊びも入れていますので。
(註5)もりもり博士:弓教授の弟子である三博士のひとり。ブロッケン伯爵の策略により死亡。
(註6)みさと:光子力研究所の一員であり、ボスの遠縁でもある。兜甲児との親密な雰囲気に弓さやかが嫉妬するというのは、テレビ版後半のお決まりのパターン。また、本作ではみさとには娘がいることも判明。みさと役を植田佳奈さんが、みさとの娘役を本渡楓さんが担当。
――そのあたりは『プリキュアオールスターズ』などを監督された手腕が活かされているとか?
志水:まぁ、多少はあるかもしれませんが、今回はオールスターといっても2作品ですからね(笑)。『プリキュア』の影響は、どちらかといえば今作のオリジナルキャラクターであるリサのアクションのほうに出ているかも? 最初に予定していたよりはリサのアクションシーンが少なくなってしまったんですけど。
かつての彼らを取り戻すための「リサ」と、大いなる野望を手に入れた「Dr.ヘル」
――そのリサ(CV:上坂すみれ)については、新キャラクターとしてどのような描き方を意図されたのでしょう?
志水:「ただいるだけ」にならないよう、極力明るいキャラクターに描くことを常に心がけていました。
――設定だけ聞くと、ともすれば悲劇的な役回りにも思えたので、明るいキャラ立てだったのはかなり意外でした。
志水:そうなっちゃうと他の以前からおなじみのキャラクターと並んだときに埋没しちゃいますからね。
――その他の登場人物も、顔ぶれは同じではありつつも、10年の時を経たということで変化しているわけですが。
志水:あまりに昔と変わらないだけでは、あれから年齢を重ねたお客さんが観たときに、なかなか理解しがたいものになってしまいますからね(笑)。なので兜甲児(CV:森久保祥太郎)をはじめとする主要キャラクターには「いい大人」になってもらいつつ、いざという時にはかつての戦う気持ちに戻ってもらおうと。その過程を描くためにも、リサのようなキャラクターが必要不可欠となりました。
――敵のDr.ヘル(註7)たちについては?
志水:あしゅら男爵(註8)とブロッケン伯爵(註9)は、まぁ立場が下の者ということであえて昔とあまり変えていませんが、Dr.ヘルは彼なりにより大きなものを目指す人物にはしたつもりです。昔はただ闇雲に攻めてくるだけでしたけど、宇宙ですとか、この次元世界のことを考えてますからね。
(註7)Dr.ヘル:かつて人類を危機に追いやった天才科学者。テレビシリーズで、マジンガーZに滅ぼされたが、謎の復活を遂げる。CVは石塚運昇。
(註8)あしゅら男爵:Dr.ヘルの片腕。ミイラだった古代ミケーネ人夫婦を元に作られたサイボーグ。右半身が女性、左半身が男性。CVは朴璐美(女性)と宮迫博之(男性)。
(註9)ブロッケン伯爵:Dr.ヘルの部下。元ドイツ人将校が、Dr.ヘルによって蘇ったサイボーグ。首が分離でき単独でも行動できる。CVは、藤原啓治。
――人類に「共存共栄」を説くなど、彼なりの哲学が見える人物像になっていますね。それが正しいのかどうかはさておき。
志水:さすがにそこは昔のままだと、今観る作品としてストーリーが成立しませんからね(笑)。
――あとひとつ聞いておきたいのが、声優陣を新たなキャスティングにされるにあたって、どういった点を重視されたのかということなのですが。
志水:そこは1972年版の雰囲気と違和感がないというのが最重要だったかと思います。当時との地続き感を出すにあたって、そこが最初のわかりやすい入口ではありますからね。兜甲児だけでも40人を超える候補からの選別となったんですが、やはり必殺技ですとか、戦闘中の「こんちくしょう!」みたいなセリフの言い回しに「らしさ」が感じられるかどうかを重視しました。
――原典には最大級のリスペクトを払いつつ、様々な新しい要素を取り入れた作品として仕上がっているという印象ですが。
志水:ひとつには海外市場も見据えたということがありまして、そちらでのニーズを意識して、基本的にはあまりテーマ的に奇をてらわない、いわゆるスーパーロボットアニメらしいテイストが前面には出ています。ただ、舞台設定などについては、そういった海外の人がイメージする日本と違和感が出ないよう、たとえば富士山のスケールなどについては現実に沿って描かれているんです。
――たしかに、光子力研究所と富士山の比率がものすごく現実寄りになっているので、そこでビジュアル的な印象がグッとリアリティを増している感はありますね。昭和の作品は富士山や東京タワーがものすごく小さく描かれがちですので、しっかり雄大な富士山が描かれているのが新鮮でした。
志水:富士山は実際にロケハンも行いまして、ここの角度からならこう見えるというのも現実通りに描いています。なので「聖地巡礼」的なことをしていただいても、ほとんど劇中の通りに見えると思いますよ。
――では最後に、これからご覧になられる方へのメッセージをお願いいたします。
志水:たしかに原典のアニメーションを意識した部分は大きいのですが、昔からのファンの方だけではなく、新しい世代の方が観ても楽しめるような、エンターテイメントとしては作っておりますので、そういった若い年代の方にも観ていただきたく思っております。試写などの反応では、親子連れのお子さんですとか、あるいは女性でも楽しめたという声もいただいておりますので、うれしいです。
――印象としては、まったくノスタルジーに寄ったところは感じられないのが今作の特徴ではありますよね。
志水:それは常々、心がけていたことではあります。なので家族連れでも安心して御覧いただけるかと(笑)。
――ありがとうございました。
[取材・文章:大黒秀一]
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作品情報
『劇場版 マジンガーZ / INFINITY』
<声優>
森久保祥太郎、茅野愛衣、上坂すみれ、関俊彦、小清水亜美、花江夏樹、高木渉、山口勝平、菊池正美、森田順平、島田敏、塩屋浩三、田所あずさ、伊藤美来、石塚運昇、藤原啓治、石丸博也、松島みのり
<スタッフ>
原作:永井豪
監督:志水淳児
脚本:小沢高広(うめ)
メカニックデザイン:柳瀬敬之
キャラクターデザイン:飯島弘也
美術監督:氏家誠(GREEN)
CGディレクター:中沢大樹、井野元英二(オレンジ)
助監督:なかの★陽、川崎弘二
音楽:渡辺俊幸
オープニングテーマ「マジンガーZ」水木一郎
エンディングテーマ「The Last Letter」吉川晃司(ワーナーミュージック・ジャパン)
制作:東映アニメーション
配給:東映
<ストーリー>
あれから10年―。新たな運命が人類を待ち受ける。それは神にも悪魔にもなれるー
かつて悪の科学者Dr.ヘル率いる地下帝国によって滅亡の危機に瀕した人類は、兜甲児が操るスーパーロボット・マジンガーZや光子力研究所の仲間の手によって、悪の野望を阻止し、平和を取り戻した。
あれから10年-。パイロットを離れ、祖父や父のように科学者の道を歩み始めた兜甲児は富士山の地中深く埋まった超巨大構造物と謎の生命反応に遭遇する-。そして、時を同じくして現れる機械獣や宿敵Dr.ヘル。新たな出会い、新たな脅威、そして新たな運命が人類を待ち受ける。かつてのヒーロー・兜甲児の下す未来への決断とは。
再び人類の未来を託されたマジンガーZと人々の激闘を描く、壮大なアクション巨編!
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