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- 逆井マリ
- 神奈川県横浜市出身。音楽フリーペーパー編集部を経て、フリーのライターとしてインタビュー等の執筆を手掛ける。
<さよならじゃない 名も知らない 遠い場所へ>――『劇場版夏目友人帳~うつせみに結ぶ~』を彩る圧倒的な歌声。歌っているのは『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』第2期EDやドラマ『コウノドリ 』第2シリーズ主題歌でも知られている実力派女性シンガーUru。
出会いの数だけ別れがある。いつか終わりが訪れることを知っている人間だからこそ歌える美しい愛のうた「remember」。豊かな声から表現者としての充実も感じさせますが、どんな思いで紡いでいったのでしょうか。
――今年の6月でデビューから2年。ブログにも「前より曲が出来た時の嬉しさが増えました」とその思いをつづられていましたが、ご自身の中で変化や成長など感じることがあれば改めて教えていただけますか?
Uru:まだまだですけど、たくさんの方に歌を伝えられるような場所にくることができて、聴いてくださる方が増えてきていて。今までは自分の世界の中だけで曲を作ってきたんですけど、デビュー前以上に聴いてくださる方の反応を楽しみに作れるようになりました。応援してくださるかたがこの曲を聴いてどんな気持ちになるかなって考えるようになりましたね。閉鎖的な曲作りのなかにその先が見えてきたというか。それを成長というのかは分からないんですが……(笑)。
――いやいや、大きなことだと思います。そんな気持ちは曲に変化をもたらせました?
Uru:とてもうれしい事にタイアップをいただくことが多いので、リクエストをお聞きして曲を作ることも多いんですが……テーマがない状態で作る曲は今も昔も色々なジャンルがたくさんあって。そこはあまり変わってないかなと思います。
――Uruさんは作詞・作曲もご自身でされていますが、アニメソングを作るにあたって心掛けることはありますか?
Uru:『夏目友人帳』もそうなんですが、私が担当させて頂いたアニメはたくさんファンのかたのいる作品が多くて。その方にとってのアニメの世界観が絶対にあると思うので、それをかき乱さないようにというか……。私もアニメのファンの方と同じ気持ちでいられるような歌詞を書きたいなと思って、必ず原作は読みます。
――では『夏目友人帳』の原作を読まれたときはどんな印象を持ちましたか?
Uru:自然がたくさんあって、時間の流れがゆったりとしている印象がありました。妖(あやかし)のお話ではありますけど、私たちの日常がすべて溶け込んでいて……普段人と人との間で生まれるような葛藤や寂しさや孤独も凝縮されているなって。だから大人にも子どもにも、心の琴線に触れるんだろうなと思いました。
――原作を読んでいく中で曲のイメージが沸いていきましたか?
Uru:そうですね。(原作者の)緑川ゆきさんが、あとがきを必ず書いてるんです。そこに主人公の夏目が成長していく姿をうまく描けているか…みたいなことを書かれていたことが心に残りました。人は時の流れと共に成長していくものだと思っています。私もそういうところを歌いたいなと思いました。また、ひとつひとつのセリフに心を掴まれることがたくさんあって、歌詞を書くにあたってグッときたセリフをメモしていたんです。例えば<人だろうと妖だろうと、触れ合わすのが心であるなら、同じだと。 一人でいるのが寂しくなるのも、最初の一歩が怖いのも>ってところとか……。
――いい言葉です。
Uru:あと<いつか旅立ちの日が来ても、それはきっと別れの日じゃないんだから>というセリフがあって、凄くステキだなって思ったんです。それでサビを<さよならじゃない>という言葉にしました。もしかしたら、心のなかでは「さよならかもしれない
って思っているかもしれないけど……一緒に過ごしてきた瞬間やその時々の感情はずっと残っていくと思うんです。映画の脚本を読ませて頂いたときに、出会いと別れがテーマだと感じて、そういう言葉をサビに持ってきたいなと思いました。
――そういった想いから最初のサビの<さよならじゃない 名も知らない遠い場所へ 離れたとしても 記憶の中で息をし続ける>が生まれたんですね。最後のサビもそうですが、聴いていて泣きそうになります。
Uru:ありがとうございます。ずっと閉じていたものがサビで開けるような形にしたくって。回想していって最後に自分の想いを開放するみたいな、そういう流れにしたいなと思っていました。
――Aメロに出てくる<夕にも染まらず風も知らない 青い、青い、リンドウ>という言葉も印象的で『夏目友人帳』の世界の中に入りこんだような気分になります。Aメロの描写は、『夏目友人帳』の景色をイメージされたんでしょうか?
Uru:そうです。『夏目友人帳』の世界は自然がすごく豊かなので、景色や植物の名前を一言でも入れたいなと思っていたんです。あと、リンドウは熊本の県花でもあるんです。原作者の緑川先生が熊本出身ということだったので入れたいなと。情景が思い浮かぶようなイメージで最初のブロックの歌詞を書きました。
実はこの歌詞には2つの意味を込めているんです。<夕にも染まらず風も知らない>……というのは、ちょっと寂しさがあると思うんです。でも同時に強さでもあるなと思っていて。自分のしっかりとした青を持っているからこそ、夕方のオレンジにも染まらなくて、風にも揺れていない。そういう孤独と強さの2つを描きたかったんです。
――凄くいいお話です。Uruさんは、曲を作られていくときは歌詞を先に作られていくんでしょうか?
Uru:時と場合によるんですけど、詞が先の場合もありますし、コードを先に考えてそこにメロディをつけることもありますし、メロディが浮かんできてそこにコードを付けることもあります。大体その3パターンなんですけど、「remember」はコードを先に考えたのかな。鼻歌を歌いながら適当な日本語を乗せていったのが最初だったような……。
――個人的には、曲調は違うんですがUruさんのファーストアルバムに収録されている曲「fly」に閉じ込められていたような、Uruさんの最近の前向きな気持ちや光……みたいなものも成分として含まれているように感じたんですが、そのあたりはどうでしょうか?
Uru:ああ、なるほど……。ちょっと唐突なんですけど……ブログにも書いたんですけど、私って不得意なことがたくさんあるんです。
――不得意なこと、ですか? そんな風には見えないんですが……。
Uru:たくさんあるんです(苦笑)。苦手なことを克服しようとする心持ちや頑張りは大事だなと思うんですけど……凄く頑張っても変えられなくて苦しさだけが残ってしまうような状態なら、そこはある程度置いておいて、自分の得意な場所を伸ばすのもいいのかなって。なんであれもできないんだろう、これもできないんだろうって抱えていたものが、少し楽になってきたタイミングでもあります。
――そういう風に考えられたことで、だいぶ楽になったのでは?
Uru:そうですね。そういうタイミングでこの曲ができました。
――レコーディングはいかがでしたか?
Uru:すんなり入り込めました。ずっと原作を読んでいたので、夏目やニャンコ先生や、妖怪たち、友人たち、藤原夫妻が頭のなかに浮かんで……その世界の中に入りながら歌うことができました。
――素晴らしいですね。この曲を聴いたときに映画で観たらより感動するとは思うんですが……。
Uru:私も凄く楽しみにしているんです。映画の公開が楽しみです。
――2曲目の「ごめんね。」は「remember」
とは毛色の違う明るい曲ですが、どのように作られていったんでしょうか?
Uru:デビュー前からあった曲で歌詞はちょっと違うんですが、曲全体の雰囲気とサビの<ごめんね。>は一緒でした。ノリやすい曲なので、もうちょっと可愛らしい感じにしたいなと思って変えていきました。
――もともとはどういう曲だったんですか?
Uru:ケンカをしたんだけど自分からごめんねって言えない……ということを書いた曲だったんです。喉元まで出てきているのに、なんで最後の一言が言えないんだろうという女性側の気持ちを描いた歌詞だったんですが、(男性側に)少しすがっている感じがあったので書き直しました。恋愛の曲を歌うのってちょっと恥ずかしさがあるんです。なので、少し照れながら歌いました。
――確かに普段は恋愛というよりかは、もっと大きな愛を歌われているイメージがあります。
Uru:そうですね。この曲は色々な想像をしながら書いているんですけど……ちょっと日常を覗かれているような気分になる曲なんですよね。「Uruさんってこういう恋愛してるんだ」みたいな感じに思われたらちょっと恥ずかしいなと思ったり(笑)。
――でもそういった曲も今だからこそ出してもいいなと思ったんでしょうか。
Uru:そうですね。最近はバラードが増えてきているんですが、明るい曲も凄くたくさん聴きますし、歌うんです。実はこんな曲も歌っていますってことを聴いてくださったかたに知ってもらいたいなって。
――こういう可愛くってアップテンポな曲……というのは久しぶりですよね。
Uru:そうですね。セカンドシングル「The last rain」のカップリング曲「Sunny day hometown」くらいかなと思うんですが……。
――それもまたUruさんの気持ちの変化が影響している気がします。
Uru:そうかもしれないです。
――3曲目には山崎まさよしさんのカヴァー「One more time, One more chance」
が収録されています。Uruさんは様々な曲のカヴァーをされていることでも知られていますが、今作にこの曲を入れた理由はなんだったんでしょうか?
Uru:ずっと良い曲だなと思っていました。色々な方がカヴァーされていて、私もいつか歌ってみたいなと思っていたんです。
――凄くポップな反面難しい曲ですよね。歌ってみていかがでしたか?
Uru:感情の持っていきかたがすごく難しくて。最後、サビが3回連続で出てくるんですけど、ずっと同じテンションで歌うか迷いました。ずっと張った感じで歌っていると聴いていて苦しく感じてしまうだろうし、切なすぎて息ができなくなりそうな感じも嫌だな……と思って真ん中で落としてみました。ピアノを弾いてくださったのは、ライブにも参加してくれているHidenoriさんで、伴奏も考えてくれました。
――カヴァーと言えば「フリージア」(『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』ED)のセルフカヴァーも収録されています。久々にレコーディングで歌っていかがでしたか?
Uru:やっぱり難しいなって(笑)。誰かが歌っている曲を私流に歌うことは自然にできるんですが、自分が歌っていた曲を自分で歌うと同じものになってしまう気がして。そこをどう表現するかがセルフカバーの難しいところだなと思いました。
――なんだか、Uruさんの歌い手としての使命感みたいなものを感じます。そこから試行錯誤されたと思うんですが……。
Uru:ソフトに歌ったり、感情を込めたり……そういう風にレコーディングしていきました。
最初はどうしても同じ雰囲気になってしまったんですが、それだとピアノと歌だけを引き抜いたみたいな感じになってしまうので、そうではなくて「フリージアをピアノ伴奏の曲にするんだったら」という言葉が付け加えられるような歌にしたいなと思って制作しました。
――セルフカヴァーにしかり、Uruさんの多彩さを改めて感じるシングルになりましたね。
Uru:「remember」の自分の過去の記憶が広がっていくような曲から、誰にでもありそうな日常を描いた「ごめんね。」、今まで私自身がやってきたカヴァーと、セルフカヴァー……シングルではあるんですが、凝縮された作品になったと思います。
――ところで「remember 」に<帰りたい場所がここにあるだけで それだけで 強さに変わる>という一節があって。夏目の気持ちを考えるとグッとくるものがあるんですが……。Uruさんにとっての<帰りたい場所>というのはどんな場所でしょうか。
Uru:応援してくださっている方に直接お会いする場所だったり、夏目と同じで家族や友人たち……ですかね。絆を感じる場所というか……。
――(このインタビューの時点では)京都サウスホールでの単独公演を控えていますが、きっと素晴らしいライブになるんでしょうね。
Uru:京都は初めてなんですが、個人的に大好きな場所で毎年必ず行ってるんです。なので凄く楽しみです。
――京都はUruさんの雰囲気とぴったりですね。
Uru:本当ですか。嬉しい。京都って伝統や品……日本を感じられる場所が特にたくさんある場所なので、そういう場所で歌えることが嬉しいなと思っています。
――ドレープ状の幕が重ねられた幻想的なステージも話題を呼んでいますが、ああいった演出はUruさんが考えられているんでしょうか?
Uru:演出についてはみんなで考えています。ああいうステージにしている理由としては……皆さん、私のうたを聴きに会いに来てくださっているとは思うんですが……自分の心や過去をステージに映しながら見て欲しいという気持ちがあるんです。なので自然に入り込めるような演出ができたらいいなと思って、相談しながら作っています。
――Uruさんのライブではあるけれど、自分と向き合う時間でもあると。Uruさん自身もそういう気持ちを感じる音楽を聴いてこられたんでしょうか。
Uru:そうかもしれないです。音楽を聴いているときに「この曲、今の自分に似てるな」って思ったりすることがたくさんあります。自分がその曲に気持ちを寄せているところもあるのかもしれないんですけど。誰かに同調して欲しいだけだったり、ただ共感して欲しいだけだったりとか……そういうことってたくさんあると思うんです。それが「大丈夫だよ」だったり「頑張ろうね」だったり……人によって言葉は違うのかもしれないんですけど、そういう感情をライブで吐き出してほしいです。私のライブはイエーイと盛り上がる感じではないんですけど(笑)、こういったしっとりしたライブも良いんじゃないかなと。
――最後に、少しアニメのお話も伺わせて下さい。Uruさんは、好きなアニメや漫画ってありますか……?
Uru:『ちびまる子ちゃん』が大好きです。『赤ちゃんと僕』も可愛くて好きでした。あと……凄く昔の漫画を読むのが好きなんですが……『お父さんは心配性』って知ってますか……?
――もちろん! 私も大好きです!
Uru:嬉しい! 大好きなんです!
――意外にもシュールな漫画が好きなんですね。
Uru:大好きなんです(笑)。『忍ペンまん丸』とか、シュールな武器が出てきて。そういう漫画が大好きです。
――アニメソングはどんなものが好きですか?
Uru:『セーラームーン』の曲や『残酷な天使のテーゼ』を聴いてました。
――「こういう風に曲を受け取ってほしい」みたいな気持ちはありますか?
Uru:あんまり「こういう歌です!」というよりかは、好きなように形を変えて、色々なひとのもとに届いたらいいなと思っています。
――分かりました。ありがとうございました!
[インタビュー・逆井マリ]
神奈川県横浜市出身。既婚、一児の母。音楽フリーペーパー編集部を経て、フリーのライターとしてインタビュー等の執筆を手掛ける。パンクからアニソン、2.5次元舞台、ゲーム、グルメ、教育まで、ジャンル問わず、自分の“好き”を必死に追いかけ中。はじめてのめり込んだアニメは『楽しいムーミン一家』。インタビューでリアルな心情や生き方を聞くことが好き。
New Single
「remember」
2018.9.26 Release
9月29日全国ロードショー
「劇場版夏目友人帳~うつせみに結ぶ~」主題歌
「劇場版 夏目友人帳 ~うつせみに結ぶ~」
9月29日(土)より全国ロードショー!
<INTRODUCTION>
「夏目友人帳」シリーズ初の長編オリジナルエピソードがスクリーンに登場
2003年の初出当初から多くの読者を魅了してきた緑川ゆきの代表作「夏目友人帳」(白泉社 月刊LaLa連載)は、優しさと切なさの溢れる描写が話題となり、漫画ファンを中心に圧倒的な支持を得てきました。TVアニメ第一期は2008年に放送を開始、その後2017年の第六期まで継続され、深夜アニメとしては他に類を見ないロングシリーズとなりました。
そして、2018年秋、アニメ「夏目友人帳」の集大成ともなる劇場版がスクリーンに登場。本作では、シリーズ初の長編映画として、原作者監修による完全新作のオリジナルエピソードが描かれます。総監督は、第一期~第四期TVシリーズの監督(第五期~第六期は総監督)をつとめ、実写的な演出に定評のある大森貴弘。監督はアニメーターとしても幅広く活躍する伊藤秀樹。脚本は数多くの劇場作品を手掛けてきた村井さだゆき。アニメーション制作はTVシリーズを担当してきた朱夏。確かな実力と多くの経験を積んだスタッフの手によって、待望の劇場アニメーションが誕生します。
<あらすじ>
小さい頃から、他の人には見えない妖を目に映すことができた夏目貴志。
亡き祖母レイコが勝負をしかけ、負かした妖に名前を書かせた契約書の束「友人帳」を継いで以来、自称用心棒・ニャンコ先生とともに、妖たちに名を返す日々――。
人と妖の間で忙しい毎日を送る夏目は、偶然昔の同級生・結城と再会したことで、妖にまつわる苦い記憶を思い出す。そんな頃、夏目は、名前を返した妖の記憶に出てきた女性・津村容莉枝と知り合う。レイコのことを知る彼女は、いまは一人息子の椋雄とともに穏やかに暮らしていた。彼らとの交流に心が和む夏目。だが、親子の住む町には謎の妖が潜んでいるらしかった。そのことを調べに行った帰り、ニャンコ先生の体についてきた"妖の種"が、藤原家の庭先で、一夜のうちに木となって実をつける。どことなく自分に似た形のその実を食べてしまったニャンコ先生が、なんと3つに分裂してしまう――!?
<STAFF>
原作:緑川ゆき/月刊LaLa(白泉社)連載
総監督:大森貴弘
監督:伊藤秀樹
脚本:村井さだゆき
妖怪デザイン・アクション作監:山田起生
サブキャラクターデザイン:萩原弘光
美術:渋谷幸弘
色彩設定:宮脇裕美
編集:関 一彦
撮影:田村 仁・川田哲矢
音楽:吉森 信
アニメーション制作:朱夏
製作:夏目友人帳プロジェクト
配給:アニプレックス
<CAST>
夏目貴志:神谷浩史
ニャンコ先生・斑:井上和彦
夏目レイコ:小林沙苗
夏目貴志(少年時代):藤村 歩
結城大輔:村瀬 歩
藤原塔子:伊藤美紀
藤原 滋:伊藤栄次
田沼 要:堀江一眞
多軌 透:佐藤利奈
西村 悟:木村良平
北本篤史:菅沼久義
笹田 純:沢城みゆき
名取周一:石田 彰
柊:ゆきのさつき
笹後:川澄綾子
瓜姫:樋口あかり
ヒノエ:岡村明美
三篠:黒田崇矢
ちょびひげ:チョー
一つ目の中級妖怪:松山鷹志
牛顔の中級妖怪:下崎紘史
河童:知桐京子
もんもんぼう:小峠英二(バイきんぐ)
六本腕:西村瑞樹(バイきんぐ)
津村容莉枝:島本須美
津村椋雄:高良健吾
劇場版『夏目友人帳』公式サイト
『夏目友人帳』パッケージ情報サイト
『夏目友人帳』公式ツイッター(@NatsumeYujincho)