アニメイトタイムズ×FUN’S PROJECT 特別企画 vol.7 声優・木村昴さんに聞く、劇団の作り方と役者としてのバイタリティ【中編・劇団立ち上げの苦難と喜び】
クリエイターやコンテンツホルダーとファンをつなぐサービス「FUN'S PROJECT」と、アニメ声優系ニュースサイト「アニメイトタイムズ」のコラボ企画「クリトーク!」。毎回、アニメ、マンガ、ゲームなどの業界で活躍する著名人のインタビューを連載中です。
今回は前回に引き続き、『ドラえもん』のジャイアン、『ヒプノシスマイク』の山田一郎といった人気キャラクターを演じている声優・木村昴さんの登場です。
中編では、仲間たちと立ち上げた劇団の軌跡を追っていきます。
勢いで立ち上げたのはいいものの、何をしたらいいのか迷う木村さんたち。そこで手を差し伸べてくれたのは、あの人でした……。
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コラボインタビュー企画第7回 木村昴さん(前編)
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缶ビール買ったら終わるレベル
──劇団員を集めたりと、だんだんプロデューサーみたいになってきましたね(笑)。
木村昴さん(以下、木村):みんな子どもでしたし、無知でした。劇団というと「劇団☆新感線」とか「劇団四季」みたいな大きな劇団を思い浮かべていたんです。だから、めっちゃ儲かると思ってたんですよ……。
「でかくなってみんなで稽古場を作ってやろうぜ!」とか言ってみんなを言いくるめて、メンバー6人かき集めて旗揚げしました。
活動の最初は、「どういう打ち合わせをしたらいいのか」という打ち合わせからまず始めて(笑)。「劇団って何すんの? 劇場は必要だよね。どんな劇場があるかな?」って青山劇場を調べてみたら……「嘘だろ、借りるのだけでくそ高い!」。
また関さんに相談しにいきましたね。「劇団って何するんですか?」って。
──そうなりますよね(笑)。
木村:そうしたら関さんが「マジで作ったの!?」みたいな反応して(笑)。「いや関さんが言ったから」って言ったら、「そんだけ言うんなら」と関さんがやっている劇団ヘロヘロ Qカムパニーの稽古場を見学させてくれたんです。
稽古場に行ったら特にこうしろとは言われずに、「見てれば分かるよ」と。そこからしばらく1ヶ月くらいずっとお邪魔して、みんなが何をやっているのか観察させていただきました。
まず役者に指示してる人が演出家というのは分かりましたけど、台本を書いてる人は誰だ? さっきからめちゃめちゃパソコンいじってる人はいるけど誰だ? みたいな感じでしたね。まずみんなが、何をする人なのかを確認していきました。
それをひたすらノートにメモって、自分の劇団に戻っては劇団員に「こういうこと言ってたんだけど」と共有ですね。
「セットが二階建てなんだよ。真ん中が回ってさ。これね、盆っていうんだよ」「えええ~!?」みたいな。「テープを貼るのをバミるって言ってたよ」「まじで!? バミるっていうんだ!」みたいな(笑)。
そんなレベルですよ。アホですよ。やばいですよね。今考えると超ダサいですけど、そのレベルです。女優さんが差し入れを持ってきていて、「差し入れってした方がいいんだね~」とか(笑)。そんなところからです。
──まさに1からですね。
木村:(関さんの劇団で)本番の仕込みやセットを組むのも手伝わせてくれて。舞台ってこうなってるのかと初めて知りました。都度、関さんに質問して、見ながら吸収でしたね。
──そこからの天才劇団バカバッカの初公演は?
木村:最初は、メンバーからなけなしのお金を6万円ずつ集めて、36万円でお芝居を作りはじめました。18歳の時です。
36万円じゃ、青山劇場は無理だとわかって(笑)、探し回った末、新宿二丁目にある「サニーサイドシアター」っていうお客さんが30人くらい入る劇場でやることになりました。
本当に失礼な話ですけど、劇場を下見に行って愕然としましたね。『アニー』の時の楽屋よりも小さいんですよ。でもここから始まるのかって燃えました。
──お客さんはどうやって集めたんでしょうか?
木村:僕も名前が売れているわけでもなかったので、とにかく劇団員6人でかき集めました。6ステージやることにしていたので、180人集めないといけない。まずお母さんには6回来てもらおうとか(笑)。
友達を呼ぶんですけど、当時、僕のまわりでは、東京の高校の演劇部ってダサいイメージが強かったんです。友達に「劇団作ったよ」と言うと、「うわマジかよ。ダッセー」みたいな空気なんです。だから友達も全然来てくれなくて。
新宿の劇場だったのでアルタ前とかでビラを配って。なんとか人を集めて満席にはできました。
ちょっと話が脱線するんですけど、劇団の唯一の自慢は、団員費を取ったのが最初の36万円だけ、それ以来取っていないことですね。
──毎回、団員費を取る団体もある中、それはすごいですね……!
木村:36万円をちょっと増やし、ちょっと増やし、ちょっと増やしで、今日まで来ています。最初で最後の自慢ですけど(笑)。
旗揚げ公演が満席になって、また燃えたんですよね。「キター!」みたいな。もちろん大黒字じゃないですけど。
とんとんに毛が生えたくらい。結局全く儲からず、公演が終わってみんなで「嘘……」と絶望しましたよ。
──儲かる目的でやっていましたからね。
木村:いま思えば、打ち上げの缶ビールとか買ったら終わるレベルですよね。でも、ちょっとだけ黒が出たことで、「これは頑張れば増えるんじゃないか……?」と思えたんです。だから、みんなで頑張れました。
「劇団は儲からない」と思いながら活動している人たちも世の中にはいっぱいいて、そのイメージは壊したいなという想いはずっとあったんです。5回目の公演くらいからは、少ないけど劇団員に1ステージいくらか払えるようになりました。
劇団の名前通りみんなバカなので、難しいことは考えてなくて(笑)。費用を削ったり、稽古場を安くしたり、そういうことはあんまり考えずに「とにかくお客さんが入ればいいんでしょ?」って、とにかく人に来てもらうことに一生懸命でしたね。
人に来てもらうのに一生懸命劇団。どうしたらお客さんが来てくれるのか?みたいなところだけをこだわっていた感じです。作品よりも、内容よりも(笑)。
──でも、頭打ちになる瞬間が来そうです。
木村:そうですね。面白い作品って何だろうかと思い始めるんです。他所がやっていないのは何だろうと。
だから他の劇団のお芝居もみんなで観に行ったりしたんですけど、小劇団って尖ったものが多いから腹を抱えて笑えるようなものに中々出会えなくて。僕らの劇団とはコンセプトが違うんです。そこで僕らのお芝居の価値観もどんどん固まっていきました。“笑えなきゃ意味がない”って。
5年目くらいのタイミングで、劇団のカラーというか、僕たちにしかできないことを追求し始めるタイミングにも入りました。
僕が集めた友達ばっかりだったので、半分がハーフだったんですよ。僕はドイツ人のハーフ、他にもフランス人のハーフ、カナダ人のハーフがいて。それから劇団員もどんどん増えて、一番多い時は11人いたんですけど、その時は11人中8人がハーフでした。
その時に、「これじゃん!」と思いました。ハーフを題材にした物語はウチでしかできないなと。
そういう台本を作るようになって、人種差別のこととかを取り上げ始めたんです。劇団を続けていると、「僕たちの演劇で世界を変えたい」みたいなモードに入ってくるんですよ。
みんなにメッセージを残したいと思って、差別を織り交ぜたブラックコメディをやりました。黒人の男の子を白人2人で挟んで、お前も白くなれみたいなことを言うやつです。
──なかなか挑戦的なやつですね。
木村:やっぱり反応は両極端でしたね。僕たちはすごくやりがいを感じているけど、お客さんの反応が良くない。
それで、もう1回原点に立ち返ろうと。そこで気づいたんですよ。僕らが目指していたものはこういうものじゃないって。最初、俺達はどうしたいって言ったっけ。笑えなきゃ意味ないよねと。やっぱりコメディにこだわって、笑えなきゃダメだよねと。
ただ笑えるだけのやつで、メッセージなんかどうでもいい!もう何も感じないでいい。終わって客席を立って、劇場を出て電車の切符を買っている頃には、もう内容を忘れているくらいでいいと。
ただ笑ったなとか、面白かったなと思えるものにこだわることを今はやっています。
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師匠・関智一さんからの最高のプレゼント
──木村さんが劇団を続けられている理由は何でしょうか?
木村:楽しいのが一番ですね。でもやっぱり、関さんに声をかけてもらった手前、やめるわけにはいかないという想いもあります。
師匠の関さんに観てもらいたいと思って何度も招待していたんですけど、一回も観に来てくれなくて。
ある時、一緒に旗揚げしたメンバーの一人で、僕と二人で劇団を仕切っていたメンバーが辞めることになったんです。関さんには、ずっと劇団の相談はしていて、その話もしていました。
そうしたら関さんから、「そうか、じゃあこれで名実ともに昴くんの劇団だね。俺と一緒じゃん。じゃあ観に行こうかな」と言われたんです。
そこで初めて観に来てくれて。「いい劇団だね」って最後に言ってくれました。
そこから関さんの劇団にも僕を呼んでくれるようになって。そして、ついに先日、僕の劇団にも関さんが出演してくださったんです。カーテンコールは今でも忘れられないです。
「裏でもずっと観ていたけど、いい劇団作ったね。僕も木村くんに負けないように頑張ろうと思うよ。お互い頑張ろう」って言ってくださったんです。
うわ~、今でも泣く~。
──(笑)。
木村:ただ、本番は超ひどかったですけどね。まず予定にないメイクで出てきたし、前髪尖らして某キャラクターのメイクで来て、台本にないフルアドリブですから(笑)。
ストーリーなんかめちゃめちゃになってるんですけど、むちゃくちゃ楽しくて。お客さんも大爆笑でした。
「今日は撮影が入っているらしいじゃないか。DVDが発売できなくしてやる~!」って下ネタは言うし、「ここは俺の劇団だ!」って言いはじめたりして、お客さんが「おお~!」って賛同しようとするから、「いや違う!俺の劇団だ!!」って応戦して(笑)。
そこからはアドリブ合戦ですよ。劇団員とかも感動してステージで泣いている人とかいて。本当にやばかったですよ。めちゃめちゃだけど超熱かったんですよね。
師匠が大暴れしてくれて、結局2時間のお芝居が2時間40分になっちゃいましたけど(笑)。お客さんもめちゃめちゃ喜んでくれました。
──(笑)。それは、これまで頑張った木村さんへのプレゼントだったんじゃないですか?
木村:そう思いたいですね(笑)。でもプレゼントだなって思います本当に。そういう形でのプレゼントって熱いですよね!
──一生思い出に残りますよ。決して消えないでしょうね。
木村:これは消そうにも消えない思い出ですね(笑)。
それと、これまたミラクルなんですけど、2019年の10月10日から天才劇団バカバッカの10周年記念公演があるんですけど、同じ劇場のその前の週が劇団ヘロヘロ Qカムパニーの公演なんですよ。
師匠の劇団が終わってバラした次の日が僕らの仕込み日なんです。たまたまでしたけど超熱い展開ですよね。
──それは運命ですね……!
木村:そうなっちゃいました(笑)。
お芝居や舞台が好きだったらやった方がいい
──木村さんはご自身で劇団の演出もやっているそうですね。声優の活動は演出される側ですが、する側の楽しさとは何でしょう?
木村:する側の楽しさ……。何ですかね。変な言い方ですけど、思い通りになるということですかね。
それは嫌なことを言ったり、役者のやる気を損なわせるということではなくて、ひとりの役者としてあくまで指揮をとっているみたいな感じです。
僕はいっぱしの演出家ではないですし、劇団ヘロヘロ Qカムパニーで勉強させてもらったことをもとに、みんなと一緒に舞台を作らせてもらってます。
だから僕の意見ではなくても、他の人のいい意見があれば、「それやばい、それだ!」って採用していますね。逆に僕がみんなに演出してもらうこともあります。
最終的に、どの意見を採用するのかジャッジができるって超楽しいです。
演出家ではないから、あくまで役者としてみんながどうすれば稽古場に来るのが楽しくなるのかしか基本は考えていません。やっぱりそういう雰囲気は、舞台に乗るんです。
みんなで面白いものを作ろうとしているので、稽古場でも面白くなきゃいけないねと話し合って、今のスタイルになりました。
みんなとはお酒を飲むときも、お互いを褒めあいまくるんですよ。「お前天才だよ」みたいな。「お前が天才だから」「いやいやお前が」「お前が」と。最後はみんなで「生まれてきてくれてありがとう、乾杯!」っていう感じです(笑)。
それに劇団員が親友で、親友と劇団をやっていますから遊ぶのも劇団員とが多いんですよ。そうなると常に芝居とか劇団のこと考えちゃうんですよね。
──これまでお話のまとめとしてお伺いします。劇団は、どうやったら作れると思いますか?
木村:劇団ってどうやったら作れるんだろう……分からないですね(笑)。本当に旗揚げの時は、怒涛すぎて記憶がないんですよ。劇団員のみんなも旗揚げ公演の記憶が無いんです。
旗揚げ公演が終わった時に皆で誓ったのは、もう二度と旗揚げしないってことだったんです(笑)。
──(笑)。
木村:たぶん、旗揚げは人生で一回きりですから。大変ではあるんですけど、やる価値は絶対にあります。
劇団を作るには……勢いとノリですかね。でも、ノリは大事ですけど、ノリだけだと危険だから。でも……と難しいこと考え出したら、絶対に旗揚げなんかしない方がいいんですよ。
じゃあ旗揚げする意味は何かというと、ある種がむしゃらにやってみることに価値があると思うんです。旗揚げが一番勉強になるというか、やらなきゃ分からないことがいっぱいある。
やらない方がいいけど、やらないと分からないことしかない。旗揚げした身としてはお勧めですけど、でも簡単にやるべきだとは言えない。
でも、それくらいお芝居や舞台が好きだったらやった方がいいと思います。まず仲間を集めて、看板を立てて、名前を決めれば劇団ですよ。
──やると決めて、一歩踏み出せば、自ずとやることが見えてくるんですね。やるなら立ち上がれということでしょうか。
木村:そうです! それ、僕が言ったことにしてください!(笑)。
↓後編はこちらから!
コラボインタビュー企画第7回 木村昴さん(後編)
[インタビュー/石橋悠 写真/相澤宏諒]
掲載情報
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