アニメイトタイムズ×FUN’S PROJECT 特別企画 vol.7 声優・木村昴さんに聞く、劇団の作り方と役者としてのバイタリティ【後編・役者をやり続ける理由】
クリエイターやコンテンツホルダーとファンをつなぐサービス「FUN'S PROJECT」と、アニメ声優系ニュースサイト「アニメイトタイムズ」のコラボ企画「クリトーク!」。毎回、アニメ、マンガ、ゲームなどの業界で活躍する著名人のインタビューを連載中です。
vol.7 木村昴さんのインタビューも今回でラスト。『ドラえもん』や『ヒプノシスマイク』といった声優の話題についてお聞きしていきます。
『ドラえもん』という華々しい声優デビューでしたが、そこからの道は前途多難だったと語る木村さん。彼が声優・役者として今でも活動を続けているのは、なぜなのでしょうか?
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コラボインタビュー企画第7回 木村昴さん(前編)
コラボインタビュー企画第7回 木村昴さん(中編)
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高校を卒業するまでの6年間は本当にジャイアンしかやっていませんでした
──ここからは声優の活動についてお聞きします。声優としてキャリアを始められたのはおなじみの『ドラえもん』ですね。
木村:はい。当時、『ドラえもん』の声優陣が新しくなるということで、オーディションを広くやっていたんですよね。
そこで当時所属していた児童劇団のマネージャーさんに「オーディションを受けたいんですけど、受ける方法はないですか?」と相談して、受けさせてもらえたんです。
──そこで見事ジャイアン役を勝ち取ります。最初のアフレコ現場でもいろいろあったとか。
木村:僕は当時、子役でしたけど、子役の世界って子役しかいないんですよ。どのオーディションに行っても子どもしかいません。大人と混じって何かをするのは、合格してからの話です。
だから、子役としての先入観があって、オーディションに来ているのは自分と同年代で、みんな中学生だろうと思っていたんです。でもスタジオに行ったら大人しかいなかった。
やばい、とんでもないところに来てしまった……と思ったんですが、なんとか合格できて。
しかも、僕の家は高校生になるまで家にテレビがなかったような家だったんです。アニメはおろか漫画も全然読んでいないし、しかも、声優さんなんて山寺宏一さんくらいしか知らなかった。
山寺さんだって、『おはスタ!』のおはキッズとして出演させていただいていたので知っていましたが、声優だってことは知らなかったんですよ。
だから、『ドラえもん』の新しい声優陣の方たちのことも全然知りませんでした……。
合格発表の時に新しいキャストが集められたんですけど、ここでも子役の先入観があって。自分と同じで他のみんなも今日デビューで、初めて声優をやる人たちでしょう、と勝手に思っちゃったんです。アホですよね子どもって(笑)。
スタートラインがみんな一緒だったら、一番若い俺がめっちゃ有利じゃんと思って。俺めっちゃすごいじゃんと。俺、デビュー早! みたいに、ちょっと調子に乗ったんですよね一瞬(笑)。
そんな時に大人に舐められちゃいけないということで、関さんのところに行って。「お名前何でしたっけ? 関さん、覚えました。関さん、男同士頑張りましょう!」と握手を求めて(笑)。
──(笑)。そこから洗礼を浴びてしまうわけですよね。
木村:そうです。家に帰って一応調べてみるかって「関智一」で調べたら、「声優界のプリンス」って出て。
Wikipediaを見たら、文章が死ぬほど長い。いくらマウスを回しても全然経歴が終わらないんですよ。
嘘だろ!って。俺が生まれる前から声優をやってるんだって、びっくりしましたね。
次に会った時に、「先日は大変失礼なことを申し上げました」と謝りました。その時に、この人に一生ついていかなきゃ! って思いましたね。
──それは大変でしたね(笑)。しかし、そこから演じようと思ってもジャイアンの声しか出せなくなったそうですね。
木村:そうです。ジャイアン役になって、高校を卒業するまでの6年間は本当にジャイアンしかやっていませんでした。
いざ高校を卒業して、いろいろな作品に挑戦しようと思っても、ジャイアン以外の声が出せなかったんです。やっとオーディションで合格をいただいた作品でも、どうしてもジャイアンになっちゃうんです。
そんな時に出会ったのが『輪るピングドラム』アニメーション監督の幾原邦彦監督です。
──そこからは世界が広がったと。
木村:幾原監督との出会いも衝撃的でした。オーディションの時、原稿を読んだら僕のところまで監督が来て。「木村くんだよね。木村くん、君ほど下手くそな人に会ったことないよ」って言われて。
「どこで勉強してたの今まで。無茶苦茶ヘタクソ。やばいね」って言われたんです。超へこむじゃないですか、真正面からそんなこと言われたら。
「でもね、木村くん。君の声は素晴らしい。僕は君の声がすごく好きだ」と。受けた役がお兄ちゃん役だったんですけど、「それに日本のお兄ちゃんって言ったらジャイアンだよね。お兄ちゃん役できる?」って言われて。
「頑張りたいです」って言ったら、「OK、合格」って言ってくださって。「合格にするけどその代わり、ジャイアン以外の声を出せるようになるまで練習しましょう」と言われて、第1話のアフレコがはじまるまでの2ヶ月間、ずっと稽古をしてくださいました。
僕が新人で全然駄目だったので、
最終話が終わったときにも「もう君が下手すぎるからさ、上手い人集めるの大変だったよ!」と監督に言われましたね(笑)。
でもこんなことって本当にないことだと思うので、幾原監督には感謝してます。監督のおかげで今があるので。
そこからジャイアン以外の声も出せるようになっていきました。
幾原監督との出会いで変わった声優人生
──さまざまな役を演じる秘訣はなんでしょうか?
木村:まずは、キャラクターを通してものを見るようにしています。
あと、毎回、自分でやったことのない引き出しを使うようにはしていますね。この辺の声はあんまり出したことないから、これでやってみようという感じです。
頭の中のイメージは、グラフみたいなものがあって、ジャイアンがここだったらこの辺かなと調整するような感じです。それにプラス、このキャラクターだったらどうするかな、みたいなところを考えます。
このキャラクターだったら、これぐらい振り幅があって大丈夫だから、こういう声の時もあるけど、時にはこの辺になるだろう。じゃあ、このキャラクターはこの図の中でも、この辺のこの部分でやればいい、といった具合です。
──やはり、幾原監督のレクチャーがいきているんですね。そんな声優の活動で楽しい事は何でしょうか?
木村:それはたくさんありますね。声優に限らずパフォーマンスだったり、表現者はお客さまあってのものです。どれだけ自分がやりたいことがあっても、お客さんがいなきゃ始まりません。
いろんな形で知ってもらえる、聞いてもらえる、見てもらえることが僕にとっては最大の喜びなんです。
子どもの頃からミュージカルが好きだったのは、舞台に立つのが好きだったからです。やっている自分も楽しいけど、見てくれている人が「昴って凄いな、カッコ良い、ミュージカルって面白い」って思ってもらいたいという欲が自分の中にずっとあるんですよ。
本当に言い方はちゃちですけど、仕事を頑張ればいろんな人に見てもらえるし知ってもらえるから頑張ろうと思えるんです。その感覚が楽しいんですよ。
だから、「今ここに俺はいるぜ!」みたいな感じですかね。ガキっぽく言うと(笑)。誰にも知られないまま終わるのが嫌なんだと思います。
──生きた証ですね。
木村:そうです。死んだ時に特番とか作ってほしい(笑)。誰かが俺を演じた映画とか撮ってほしいです。『ボヘミアン・ラプソディ』みたいなやつ(笑)。
──(笑)。
木村:死んだ時、どれくらい面白い人生になるかな、みたいなのはけっこういつも考えていて。だから劇団とかやれたのかなと思いますね、もしかしたら。「やったら面白くない?」みたいな。
僕はラップ馬鹿なだけなので(笑)
──役者として活動するバイタリティについてもお聞きします。やはりラップというのは木村さんには欠かせないポイントでしょうか。
木村:ラップが何で好きなのかは、実は自分でもよく分かってないんです。
自分の感覚とか価値観の中に、ラップミュージックの持っている価値観が大いにあるんじゃないかなとは思っています。やっぱり這い上がろうとする力が一番大きい音楽だからなんですかね。エネルギーがある。
ラップミュージックが持つパワーみたいなもの、それこそ差別とか貧困から抜け出すための方法だったという歴史からくるパワーがカッコ良かったんですよね。
一番攻撃的に見える音楽が一番暴力を拒んだっていう。初めて聞いた時、文化に触れた時に「熱いな!」と思いました。
あとはシンプルにカッコ良い。誰もができそうで、誰もができるわけではない音楽というところが良いですよね。スキルで戦うというヒップホップカルチャーがあって、上手い人たちが残っていくのもカッコ良い。
もちろん、聞くのは誰でもいいんですよ。やろうとした時に、やっぱり誰もができるものじゃないと、というところにしびれますね。
──リリック(歌詞)もご自身で書かれていますが、そこも「誰にでもできるものではない」のかなと思います。リリックはどのように書いていますか?
木村:リリックを書くときのオリジナリティとしては、ラップミュージックの持つリアリティを大事にしています。ラップって、その人の人生だったりライフスタイルを描くものなんです。
一般的にみんなが思うことを代弁するわけじゃなくて、自分のリアリティを歌にするというところがラップの魅力のひとつでもあるんですが、日本で不良文化として根付いていた頃はそういう側面がアメリカとかに比べると弱かった印象です。
だから、元々のラップが持つ自分の人生を歌うというリアリティの部分は常にこだわるんですよね。「嘘がないようにしよう」と。
最近挑戦している部分ではキャラクターのことを歌うラップのときは、「このキャラクターが歌うことに矛盾がないようにはしなきゃな」と思っています。
キャラクターのライフスタイルにしか出てこない言葉を入れることにはこだわっています。
あとは自分のことを書くラップでも本心を書くようにしています。思ってもいないようなことは書かない。リアルさがなくなりますからね。
最近は、どれだけ人が使ったことない言葉を見つけられるかも大きなテーマになっています。
とはいえ、ラッパーではなく、僕はラップ馬鹿なだけなので(笑)。リスペクトしているラッパーのカッコ良かったところをいっぱい知っています。『ヒプノシスマイク』をやらせていただいている上では、それも伝えたい欲がプラスされていますね。
キャラクターのリアリティは守りつつ、あのラッパーのあのパンチライン(カッコ良いフレーズ)をちょっと乗せて、「あのキャラクターが言ってたこれって、もしかしてここが出所かな?」って思ってくれたら、面白くないですか?
ヒップホップにおいて知識を持つことの面白さもあるので、『ヒプノシスマイク』を通して、そのメッセージに気づいていただけると嬉しいですね。
──熱いメッセージをありがとうございます……! 最後に、そのバイタリティはどこから来るものなのか、ご自身に答えはありますか?
木村:先程も少し話しましたが、人にすごいと言ってもらいたい欲がまずあります。楽しいことが好きで、笑えるものが好き。そして、みんなに楽しいと思ってもらえることが楽しいんです。
そして、もっと個人的なことを言うと、関さんに認めてもらいたいというところも大きいですね。
今の自分の土台を作ってくださった関さんに認めてもらうためにビッグになりたいです。
まぁ全体的に言えるのは、人が好きなんでしょうね(笑)。
──それは感じました。
木村:幸いだったのは、関さんの事務所でお世話になることになったことです。アトミックモンキーという事務所は、声優をやりながら劇団をやることを認めてくださっているんです。本当にありがとうございます(スタッフに対して頭を下げる)。
一同:(笑)。
木村:劇団の活動は事務所がコントロールしにくい場合もあるので、嫌がられることもあるそうなんですが、アトミックモンキーのみなさんは逆に「舞台もやった方がいいよ!」と言ってくださるので自由にやらせていただいています。
ありがたいですよね。僕は人に恵まれてるなとめちゃめちゃ思いますよ。
[インタビュー/石橋悠 写真/相澤宏諒]
掲載情報
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