買ったお客様から「ありがとう」と言われた|『ユーリ!!! on ICE』勝生勇利モデルウエアに隠されたこだわりとは?【あのアニメコラボのウラガワ聞きました・連載第2回】
アニメやマンガとコラボする“ファンフレンドリー”な企業に、企画のきっかけや商品開発の裏側についてインタビューする連載企画「あのアニメコラボのウラガワ聞きました」。第2回は、数々のスポーツアニメに関わりの深いミズノ株式会社をご紹介します。
ミズノといえば、国内外でも有名なスポーツブランドですが、2016年に放送されたフィギュアスケートアニメ『ユーリ!!! on ICE』(以下、ユーリ!!!)に、衣装協力として参加していました。
その縁もあって、2018年の夏、主人公・勝生勇利着用モデルのトレーニングウエアを、完全受注生産で発売。アニメの設定をもとにデザインされたウエアは、全部で12アイテム。スニーカーとバックパックも揃った、こだわりのラインナップです。
一躍話題となったコラボのお話をお聞きするため、アニメイトタイムズは大阪の本社へ! たくさんの資料を抱えてやってきたのは、ミズノ コンペティションスポーツ事業部の鳥居正敏さん。
「何十回とDVDを見ました」という鳥居さんが明かす、コラボのウラガワとは?
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コラボのきっかけは「フィギュアスケートの日本代表選手を応援したい」
——ミズノは、これまでも『ダイヤのA』や『Free!-Dive to the Future-』でコラボをされています。また『風が強く吹いている』など、スポーツアニメでミズノのマークを見かける機会も多いですよね。『ユーリ!!!』でも、勝生勇利は多くのシーンでミズノマークが入ったウエアを着ていました。
鳥居正敏さん(以下、鳥居):アニメ内で勝生勇利選手が着ているウエアは、ミズノの既存のアパレルがベースになっています。
実際にミズノでは、選手やスポーツへの支援を行っていて、練習着の提供だけでなく様々なサポートを行っています。
例えば、スピードスケートでは、競技で着用するレーシングスーツの開発も手がけ、競技会場にミシンを持ち込み、試合前にミリ単位の調整を行うこともあるんです。
ミズノは公益財団法人日本スケート連盟とのオフィシャルサプライヤー契約を結んでおり、フィギュアスケート・スピードスケート・ショートトラックの日本代表選手が使用するオフィシャルウエアをご提供しています。
そこで、日本代表を応援する一環として、勝生選手とコラボレーションできないかと提案させていただいたんです。
——コラボのきっかけは、日本代表選手の応援だったんですね。時系列を振り返ってみますと、まず2017年の11月上旬にコラボの第一報があり、勝生勇利の誕生日である11月29日に、コラボテーマが「勝生勇利着用モデル」であることが発表。そして、翌月12月24日にコラボのキービジュアル、25日にはアイテムラインナップが公開されました。このスケジュールも、ファンの気持ちを分かっていらっしゃるなと。
鳥居:その年の12月24日は、全日本フィギュアスケート選手権が開催され、シーズン後半の国際大会に出場する日本代表選手が発表される日でした。
「勝生選手が実在し、日本代表に選ばれたら、こんな感じでリンクへ出ていくだろうな」というイメージのコラボイラストを描いていただいたこともあり、この日の発表になったんです。
イラストは、『ユーリ!!!』のキャラクターデザインと総作画監督の平松禎史さんがご担当されたのですが、背景は、全日本選手権が行われた武蔵野の森 総合スポーツプラザをモデルにしています。
オープンしたばかりの新しい会場で、スケートリンク利用時の資料は、私たちが撮影した写真のみ。タイトなスケジュールでしたが、忠実に再現され、制作のこだわりを感じました。
ファンからの声がコラボをパワーアップ!
——勝生勇利着用モデルのコラボウエアは、スニーカーなども含めると全部で12アイテムと多いですよね! 作中に出てきたウエア、ほぼすべてですよね?
鳥居:最初は、オフィシャルウエアのレプリカを販売するのみだったんです。しかし、はじめてコラボのお知らせをしたあと、ファンの皆さんからすごく反響をいただきまして。
その熱意に押されて、アニメに登場するウエアの開発も決まりました。
——先ほど、作中に登場するウエアにはベースがあると伺いました。なぜ、オリジナルで開発し直そうと考えたのですか。
鳥居:「ミズノが取り組むからには、本気で作ろう」がコンセプトでした。品質はもちろん、デザインもアニメに限りなく近づけよう、その実現力も見ていただこうと、チームで何度もアニメを見て開発していきました。
——実際のウエアは、どんなこだわりを?
鳥居:まず、ウォームアップシャツのパイピング(縫い目のライン)とファスナーは、既製品があったのですが、アニメの色に合わせて新たに染めました。ファスナーの引き手も、色からオリジナルで作っていますね。
生産して販売するためには、生産ラインの問題などもあり、それなりのロットを作らなければいけません。今回のようにパーツだけでも新たに作るのには、かなりのコストがかかるのですが、それ以上にこだわりたかったのでここまでやっています。
黒のウォームアップシャツ&パンツ。(写真はシャツのみ)ほんのり裏起毛しているタイプの生地を使用しているのでもちろん氷上で着ていただけます。シンプル&ベーシックな1枚ですが、これもファスナーの引き手まで色別注品です。#yurionice #コラボの裏側 #8月お届け pic.twitter.com/Q4HivC4Hp6
— MIZUNOSHOP(ミズノ公式) (@mizunoshop) 2018年5月11日
また、練習着として登場する7分丈のTシャツは、完全にオリジナルです。
半袖か長袖のシャツは展開していますが、7分丈はミズノの製品にありません。アニメを見ながら、袖の長さを決めていきました。
ウィンドブレーカーシャツは、ミズノが開発した温かさを生む素材・ブレスサーモ(※1)を使っています。
デザインでいいますと、ブランドマークのミズノランバード(※2)です。現在、製品に利用するときはマークのみなのですが、コラボウエアはアニメに合わせてマークと「mizuno」のテキストをセットにしています。
※1:ブレスサーモ
体から発生する水分を吸収し発熱する保温素材。吸湿性能にも優れ、吸湿・発熱した空気を繊維間に取り込んで保温。汗をかいてもムレにくく、ドライで快適な衣服内環境を保てる。(公式サイトから引用)
※2:ミズノランバード
ミズノのロゴマークの名称。宇宙の惑星軌道をモチーフにしたもので、スポーツの躍動感や広がりを表現している。
——そんなに細かいところまで……!
鳥居:生産が一番難しかったのは、スニーカーです。シューズは、サイズあたりの最低生産ロットが決められているのですが、反響の大きさを受けて、途中から小さいサイズ展開を増やしました。
以前『ダイヤのA』コラボを行ったとき、女性からのご注文が多かったことも、参考にしています。
——なるほど。
鳥居:ウエアの生産も、フィギュアを担当しているチームが関わっています。フィギュア選手用のウエアをイメージしたコラボウエアなので、着用してみると一般的なスポーツウエアより丈が短くて細身の印象を受けると思いますよ。
これも、実際に選手が使われている製品に近い生地感や丈にし、リアリティを出しているためです。選手のサポートで積み重ねてきた経験を、そのまま生かしています。
——先程から「勝生選手」と呼んでいたのはそういうこだわりからだったんですね。
鳥居:はい。ミズノだからこそできた、コラボウエアです。
勝生選手が実際に存在している選手という想定のもと、ミズノのウエアなどを身につけるとしたら、どんなものを選ぶのかまで、実際にいろんなことを考えていたんです。
ファンからの「ありがとう」に、嬉しさと驚きも?
——たくさんのこだわりを伺いましたが、大変だったことは?
鳥居:受注生産でしたから、「半年間も待って頂けるのだろうか?」とは思いました。お客様のことを考えると、本来は欲しいときにあることがベストです。
通常のスポーツウエアを待っていただくときも、長くて3ヶ月ほど。半年間待っていただく商品は、あまりありません。
また、今回のウエアは1月に受注して夏場のお届け予定でしたから、「冬物のニーズはないのではないか?」の不安がありました。
しかし、欲しい方へお届けできないよりは、受注生産のほうが良いと判断したんです。結果として、想定していた4倍のお申し込みがあり、喜んでいただけて良かったなと思います。
むしろ、夏までに生産しきれるかが心配で(笑)。全社の朝礼で、社長から「『ユーリ!!!』の取り組みがすごい」と言葉が出るほどに、大きな話題となっていましたね。
——それは嬉しいですね! そして、2018年7月には、大阪と東京で、コラボウエアのお披露目会がありました。
鳥居:ファンの皆さんには、半年間待っていただきましたし、力を入れて制作しましたので、すべてのアイテムを実際に見てほしいと展示会を行いました。
トルソーも、勝生選手に近い体型を探して用意しました。本当は、室内にリンクを作りたかったのですが、予算的に厳しくて(笑)。
カーペットを青に変え、気温を下げ、少し暗くし、ところどころにライトを置いて、氷のイメージを作りました。
——そこまでこだわりが……! 平日の最終日まで、多くのファンが集まったとか。
鳥居:今も定期的に、お礼のお手紙が届きます。皆さんから「ありがとうございます」と感謝の言葉をいただき、嬉しい気持ちとともに、本当にびっくりします。
スポーツウエアを売っていて「ありがとう」と言われることは、なかなかありません。こちらこそ、「ありがとうございます」とお伝えしたいです。
また、2018年の勝生選手の誕生日には、店舗限定で店内をお祝いレイアウトにしました。
ミズノでは、契約選手のお誕生日をSNSでお祝いしていて、「じゃあ、勝生選手にはどうお祝いするかな?」と考えたのがきっかけです。
準備もギリギリでしたが、また多くの方に足を運んでいただき、嬉しかったですね。
作品のパワーだけじゃない、ファンの声あってこそのコラボ
——あらためて、鳥居さんが思う『ユーリ!!!』の魅力はどんなところでしょうか。
鳥居:勝生選手とヴィクトルの2人が、選手としてコーチとして、葛藤しつつ互いに成長していくところが魅力的だなと感じます。
とくにヴィクトルが、勝生選手に「おれにどの立場でいてほしい?」と聞くシーン(4話)が好きです。
ミズノ社内にはアスリートが多いのですが、その目線で見ても面白いという感想もよく聞きましたね。
また、会場の臨場感の描き方がすごい。カメラワークもそうですし、リアリティを追求しているところが良いなと思います。
——最後に、今回のコラボの感想をお聞かせください。
鳥居:「コラボをきっかけに、スポーツを始めました」という声を、かなりいただいています。
「ミズノだからできることをしなくては」と考えていましたから、今回のコラボがスポーツを始めるきっかけとなり、嬉しいです。
ミズノはハードなイメージがありますが、多くの方に手に取っていただき、良かったです。「ユーリ!!! on ICE」が持つパワーも改めて感じ、アニメとのコラボはいいことだなと実感しました。
また、アニメを参考にさせていただいたとはいえ、私たちだけで作っていたら、今回のウエアはできなかったと思います。Twitterをはじめとした、たくさんの声があったから、良いものができました。
ファンの皆さんが求めるもの、そしてミズノに期待されている声を集めることが重要だと感じましたね。
編集後記
「他のアニメも、きっかけがあれば、やらせていただきたいです」とコラボの手応えをお話してくださった、鳥居さん。
ファンの反響がコラボを大きく動かしていたエピソードも、印象的なインタビューでした。
ファンからの「私の好きな作品を大切にしてくれてありがとう」という気持ちは、確実にコラボ企業に届いて、新たな活力に繋がっているのだなと感じました。
SNSのシェアボタンやリプライも嬉しい反応ですが、やはりこういった人と人が直につながる反応は、いつになっても心温まるものですね。
次回はどのようなコラボに会えるのでしょうか? 今後の連載もお楽しみに。
[企画・取材/マチコマキ]