自分のなかにあるもの。見たもの、聴いたもの。そういうものが沁み込んでる──日々のできごとを閉じ込めた、やなぎなぎ カップリング集「memorandum」インタビュー
シンガー・やなぎなぎさんが、ベストアルバムに続き、カップリング曲を集めたアルバム『memorandum』をリリースしました。音源化が望まれていたTVアニメ『色づく世界の明日から』挿入歌「color capsule」など、全14曲が収録されています。
“日々モノづくりが行われている場所”としてセレクトされたジャケットの工場写真。覚書という意味で名づけられたタイトル。日々のさりげない瞬間や、深い内省からすくいあげられた音の粒が、柔らかく繊細な歌声とともに紡がれています。
制約なく作られたカップリング曲だからこそ色濃く独創的。かつ、聴き手の日々にも寄りそう、日常の景色が広がっています。パッケージされた14の物語について、当時の思い出とともに語ってもらいました。
日記とすら言えないくらいの日々の書留
──インタビュー後の雑談で、カップリングをまとめた作品をぜひ出してほしいということをよくしていましたが、いよいよ!ということで。
やなぎなぎさん(以下、やなぎ):そうなんです。表題曲のベストが出たときに、ファンのかたからも「カップリング曲は集めないんですか?」「これはベストになぜ入らなかったんですか?」というお声をいただき、いい機会だし、カップリングもまとめようかなと。
──今手元にあるだけで150曲近くと、カップリングも膨大で名曲揃いです。どのようにセレクトされたんですか?
やなぎ:デビューした直後はカップリングを2曲入れていたので、結構な曲数で(笑)。“memorandum”は覚書という意味なんですが、そういったコンセプトを持たせて、自分の書いた曲を中心に選んでいきました。そのなかでも、その時の心情や音の流行りが分かるような曲が良いなと思って。
──ところで『memorandum』という言葉はどこから出てきたんですか? 先に発表されたベストアルバム『-LIBRARY-』『-MUSEUM-』との繋がりというのは、意識されたんでしょうか。
やなぎ:カップリングを集めるにあたってしっくりくる言葉だなと思ったんです。日記とすら言えないくらいの日々の書留、覚書というか。
そういう意味合いでつけたので、『-LIBRARY-』『-MUSEUM-』はそこまで意識していないんです。でもパッケージの形は揃えました。
──パッケージ、今作もこだわられていますもんね。歌詞カードの曲のタイトルはタイトルに合わせて手書きで。タイトルの横に小さく書かれているイラストが可愛いですね。
やなぎ:時々入っています(笑)。このアルバムにあたってタイトルと共に少しだけイラストを書かせてもらいました。
──今日はいろいろとカップリング曲にまつわるお話をうかがえればと思うのですが……。
やなぎ:はい! ただ結構前に作った曲も多いので、当時のことを忘れかけている曲もあるんです。基本的には作ったら“どっかにおゆき”というスタンスというか、そういう感じなので(笑)。
──親鳥のような(笑)。では1曲1曲、それぞれ辿っていっても良いでしょうか?
やなぎ:はい、大丈夫です! 覚えてるかぎり答えます(笑)。
「洗練されすぎなさが良いなと」
──1曲目に「キミミクリ」を選んだ理由を教えてください。
やなぎ:「瞑目の彼方」(TVアニメ『ベルセルク』エンディングテーマ/2016年発売)のカップリング曲なんですが、そのときに自分のルーツとなる曲をじっくりやりたいなと思って作った曲だったんです。
だからこの曲をスタートに置きたいなと。子どものときの心情を表した曲なので、そういう時に怖かったものもモチーフになっています。
──前回のインタビューでも「瞑目の彼方」で一巡した感じがあるとおっしゃってましたよね。
▼「表現者・やなぎなぎの軌跡 そして“これから”|ベストアルバムインタビュー」
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やなぎ:そうなんです。自分が出したい音を素直にやろうと思った曲なんです。エレクトロニカや当時好きだった音楽をあまり凝らずに出したいなと思いながら作っていました。
──2曲目はスペイシーな「インテンション・プロペラント」。「三つ葉の結びめ」に収録された、2014年の楽曲です。
やなぎ:遠い所へのあこがれ、未知への怖さが入り混じった曲で。深海、宇宙……分からないけど何かすごそう!って場所に対してのあこがれが出ています(笑)。
ARCHITECTさんが私をイメージしてくれた曲なんですが、ピアノを燃やしながらサンプリングした音が入ってるんです。“Burning Piano”だったかな……。「なぎさんっぽいから入れたよー」って言ってくれたエピソードを思い出しました。
──3曲目には、待望の「color capsule」(TVアニメ『色づく世界の明日から』挿入歌)が収録されています。皆さん楽しみにされていたと思います。
やなぎ:なかなかパッケージにする機会がなく。実は最初こっちを「エンディングにどうですか?」って話していたんですが、少し違うかなという話になって。
それで「未明の君と薄明の魔法」がED曲になったんですが、「color capsule」は別の形で使いたいですとおっしゃっていただき、歌詞やアレンジを場面に合わせて変えて作り直したんです。
せっかく挿入歌になるならということで、ギターとベースも録らせていただきました。ベースは大好きな渡辺等さんに弾いていただけて。そこは“私得”なところでした(笑)。音も併せて、ぜひ聴いていただければと思っています。
──4曲目「音のない夢」は北川勝利さんの楽曲で、「ユキトキ」(2013年発売)に収録されていました。
やなぎ:北川さんのこういうゆったりとした曲も好きなんです。この曲もめちゃくちゃ気に入っています。音のない水のなかにドボンと入っていって、ごー……という音がなっているような、そういうイメージです。
──北川さんの楽曲はベストアルバムでも重要な立ち位置を担っていましたね。なぎさんの楽曲には欠かせない方です。
やなぎ:北川さんって曲をお願いすると3曲くらい出してきてくれるんですよ。しかもすごく早くて「違ったらこういう風にもできます」って提案もしてくれるんです。北川さんの頭のなかはどうなっているんだろう……って思います(笑)。
私はやりたいことが明確になっていれば早く書けるんですが、テーマが決まらないとずっと悩んじゃうタイプなんです。北川さんはそういう風に悩んでいるのを見たことがないんです。
もちろんご本人としては悩まれているところもあるんでしょうが、そういう部分が見えない。いつも凄いなぁって。
──「in flight」は「カザキリ」(TVアニメ「ノルン+ノネット」OPテーマ/2016年)のカップリング曲です。サビで景色が開ける、すごく気持ちのいい曲です。
やなぎ:自分が飛行機に乗っていた思い出と共にある曲ですね。ちょうど海外のイベントによく呼んでもらっていた時期で。これは全曲に言えることなのですが、曲を聴き返しているときに自分のなかの音のブームがすごくよくわかるんです。
ちょっと恥ずかしかったですね(笑)。目指そうとする音はあるんだけど、当時の自分はうまくもっていけなかったなぁ……っていうような思いもあって。でもその少し粗削りなところが良かったりします。洗練されすぎなさが良いなというか……。
──なぎさんの中で、そのバランスが良い曲ってありますか。
やなぎ:13曲目の「link」(「ラテラリティ」収録/2012年発売)は昔の曲ということもあって、それを感じます。本当はもっとパキッとした曲にしたくて。
もうちょっとカッコよくしたかったはずなんです。そのときの必死感がこの曲には合ってるなってところもあります。実はこの曲の途中に入ってるカットアップはkzさん(livetune)にお願いしていて。
kzさんのカットアップは洗練されているのに自分の音がついていけていない感があるんですよね……。
──kzさんだったんですか! 当時ご公表されていましたっけ……?
やなぎ:どこかで話したかもしれないんですが、クレジットとかには入っていないんです(笑)。
ご本人も「いいよいいよ」って。kzさんとは、もともと仲良くさせていただいていたんですが「カットアップの作り方が分からないんですが、kzさん作ってくれます?」って聞いたら「いいよ」と言ってくれて。
カットアップだけがやたらカッコよくて「あんなにカッコいいものを作ってもらったのに音の技術が追い付いていない!」と少し凹むんですが、この曲はこれでいいんだなと思います。
──6曲目「halo effect」は2012年に発表された2ndシングル「Ambivalentidea」(テレビアニメ『ヨルムンガンド』エンディング・テーマ)に収録されていた楽曲で、飛内将大さんが作曲・編曲を手掛けられています。
やなぎなぎ:10曲目の「想像の君」(「間遠い未来」収録/2018年発売)も同じテーマなんですが「こういう曲を書いている人はこういう人なんだろうな……」という、会ったこともないのに勝手にイメージを作ってしまうということが自分のなかにあって。
その想像と違ったらガッカリするってすごく失礼じゃないですか。勝手に期待して勝手にガッカリするというか。そういうことを自分でやりたくないなと思ったんです。
自分自身にも多分そういうものを向けられているときもあったと思うんです。もしそれで「違う」と言われたら、それは悲しいですしね。自分自身の戒めとして書きました。
──7曲目には「ユキトキ」のもうひとつのカップリングとして収録された「Surrealisme」が収録されています。美術にまつわる言葉、早口のリーディングが印象的で、レコーディングのときは「噛んでしまった」とおっしゃっていましたね(笑)。
▼「テレビアニメ『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』OPテーマ歌う、やなぎなぎさんに直撃!」
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なぎ:噛みましたねぇ(笑)。きくおさんの世界も凄いし、文字量も結構あるしで。物語の語りというのはそれまでやっていなかったことなので、すごく新鮮に歌わせてもらいました。
──「真実の羽根」(TVアニメ『ヨルムンガンド PERFECT ORDER』挿入歌)は、bermei.inazawaさんが作曲・編曲を手掛けられています。
なぎ:bermeiさんに最初に作っていただいたのは「Ambivalentidea」なんですが……。「Ambivalentidea」は自分の歌唱力が追い付かなくてめちゃくちゃ苦労した記憶があるんです。
ようやく「真実の羽根」でbermeiさんの曲の付き合い方のようなものが発見できたというか(笑)。bermeiさんの曲って聴いているとすごく気持ちいいんですけど、歌っていると「どうしてこうなった!」と思うというか(笑)。
あっちこっちいくし、拍も織り交ぜてくるし、「どれだけワン・ツー・スリー」を入れるんだってくらいカウントもたくさん入る。技術的に難しいんですが、「真実の羽根」でやっとつかめた感覚があって、bermeiさんからも「歌えてきたね。“Ambivalentidea”より良いじゃん」って言っていただけて。光が見えた曲でした。
──「Rain」は「over and over」(TVアニメ『Just Because!』OPテーマ/2017年発売)に収録されていた、ゆったりとした雨の曲です。個人的にすごく好きな曲です。
なぎ:これこそ日々の覚書というか。晴れている日より雨のほうが覚えてるんじゃないかなって思うんです。
「あの大雨のとき」って言われると思いだせるけど「めっちゃ晴れた日ね」って言われるとあまり思い出せないというか。雨の日の光景、においを描いた曲ですね。
──雨のにおいって独特ですよね。抽象的で恐縮ですが、なぎさんの曲からは、その“におい”というのをすごく感じるんですが、カップリングはよりそれがより濃密になっているように思います。
なぎ:におい、温度……そういうものが見えたらいいなとは思いながら書いているんです。自分で書くカップリングは、そのときの好きなものを好きに書かせてもらっているので、より強く反映されているのかなと思います。
──さきほど話にあがった「想像の君」を挟んで、11曲目「鱗翅目標本」(「春擬き」収録/2015年発売)。当時は「りんしもくひょうほん」の読み方が分からなくて(笑)。
なぎ:なかなか使わない言葉ですからね(笑)。
──なぎさん自身に、少し悲しい思い出があるんですよね。
なぎ:そうです。幼いころに蝶々を自らの手で殺してしまったという(苦笑)。蝶々の羽を手で持ってしまったんですよね。りんぷんが剥がれてしまって……りんぷんには意味があって、蝶々が飛ぶために必要なものだったんだと。そんなちょっと切ない思い出をもとに作っていった曲ですね。
──12曲目の「helvetica」(『エウアル』収録/2013年発売)はフォントの名前なんですよね。歌詞はパズルのようになっています。
なぎ:helveticaって角が丸くて綺麗なフォントなんですが、そういう綺麗に並んだものがバラバラになっていく感覚。そういうものを書きたくて完成した曲です。
──先ほども話に上がった「link」で終わって、ラストの「replica」(「Zoetrope」収録/2013年発売)でしっとりとアンコール……といったライブの光景を思い出します。
なぎ:「link」はライブで最後に歌うことが多かったので、順番的にもこのあたりに入れたいなと。「replica」は、ものづくりにあたっての想いを書いた曲なんです。今はいろいろなものが世界に溢れているなかで、モノづくりって難しいなと常々思っていて。
ものづくりとはなんぞやというか。自分のやっていることが新しいことになっているのかどうか分からないけど、自分は作ることが好きだから、いろいろ考えることはあるけど、モノを作っていたい。
そういう葛藤や前向きさ、ものづくりに込めた思いがここにあるので、最後がいいかなと。
──生きざまというとまた違ったイメージになるかもしれませんが、カップリング集からは、なぎさんの人となりといいますか。日常的な景色、さらにモノづくりを作る上でこだわってきたもの、クリエイティブに対する情熱も感じます。
なぎ:自分がデビューして8年……「こういう日々を歩いてきたんだな」という書留になっていると思います。まとまりがないようで、自分らしさが全面に出ているというか。
表題曲の場合はタイアップなどで自分以外の世界観が少なからずとも入ってくるので、そうではない、自分のなかにあるもの。見たもの、聴いたもの。そういうものが沁み込んでるなと。
──これまでも似たような質問をしたことがあるんですが “自分らしさ”というのは、改めてどういうものだと捉えていますか。
なぎ:タイトルもそうなんですが「誰かに聞いて分かってほしい」というよりかは……私はこのとき、こう思っていました、というか(笑)。やっぱり、誰かのためではなく、自分のための音楽という感覚が強いです。
──以前も「自分の手から何かを作ることが好き。音楽に限らず、文字でも、料理でも」というお話をされていて。雑談のなかで「モノを作ることが好きだから、それができるなら山奥に住んでてもいい」といった考えもおしえてくれて、モノ作りに対する情熱を改めて目の当たりにした気持ちでした。
なぎ:ふふ。「作れと言われなくても勝手に作るんで」という(笑)。お礼としてこういう曲を作りたいなと思うことはあるんですが、それも別に「こういう気持ちをもらって嬉しかったから書いたよ」という。
聴いてくれるひとがそれに対して何かを思ってくれたら嬉しいけど、自分が書きたいから書いたっていうのがすごく自分っぽいなと。
──今作の初回限定盤には、「やなぎなぎ ライブツアー2019 -LIBRARY- & -MUSEUM-」追加公演 ライブ映像も収録されています。初回盤だと“やなぎなぎ”らしさをより存分に楽しんでいただけるのではないかと。
なぎ:特典付きで購入していただけると、表題曲もカップリングも楽しんでいただけるという。こっちがリアルベスト説(笑)。
──確かに……!(笑) ところで、さきほど「デビューして8年」という言葉があって、もうそんなに経つんだと感慨深くなりました。
なぎ:そうなんですよねぇ……。次はうるう年なので、2歳の誕生日を迎えます。2月29日がデビュー日なので……。
──わー! そうか! 1stシングルの「ビードロ模様」は2月29日発売ですもんね。
なぎ:あっという間ですよねぇ(笑)。年始にベストが出て、年末にカップリング集が出て、そして来年には2歳になって。来年はいろいろな発表ができるんじゃないかなと思っています。
──新曲も待ちわびております。
なぎ:これから……色々と発表ができるかと思います(笑)。楽しみにしていただけると。
──楽しみにしています!
〔文・逆井マリ〕
『memorandum』
≪収録曲≫
01. キミミクリ
02. インテンション・プロペラント
03. color capsule (TVアニメ「色づく世界の明日から」挿入歌)
04. 音のない夢
05. in flight
06. halo effect
07. Surrealisme
08. 真実の羽根 (TVアニメ「ヨルムンガンド PERFECT ORDER」挿入歌)
09. Rain
10. 想像の君
11. 鱗翅目標本
12. helvetica
13. link
14. replica
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