「用意したまっしろな空間に、自分のやりたいこと、新しいもの、欲しかったことなどを詰め込んでいきたいなって」第2期の旅路が『ホワイトキューブ』からはじまる――やなぎなぎ7thアルバムインタビュー
2012年2月29日、うるう年に「ビードロ模様」でデビューを飾ったやなぎなぎさん。10周年を駆け抜けて、そして先日4年に一度のデビュー日を再び迎え、新しい季節がスタートしました。
やなぎなぎの新章を飾るのは、 7枚目のオリジナルアルバム『ホワイトキューブ』。「ここからは新しいホワイトキューブの中で新しいもので埋め尽くしていきたい!」という想いを美術作品の展示空間・ホワイトキューブに見立てています。
色とりどりの音楽の中には、TVアニメ『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』10周年記念ソングである「ユキハルアメ」や、『最果てのパラディン』の主題歌2曲、TVアニメ『冒険者になりたいと都に出て行った娘がSランクになってた』EDテーマ「homeward journey」なども配置。聴き手である私たちは、想像力を掻き立てられながら、やなぎなぎの描く新しいピースに魅了されていく。
常に何かを作っていたい
――アルバムは2022年の10周年記念アルバム『Branch』以来となりますが、改めて、10周年すごかったですね!
やなぎなぎさん(以下、やなぎ):自分の中ではデビュー以来の大きな区切りになりましたね。いろいろな企画をやって、毎月ライブをやったり、皆さんと楽曲を作ったりして。これまでの集大成をやった感じでしたね。
――2023年には『Branch』ツアーもありました。そんな中で『ホワイトキューブ』にはどのような気持ちで向かっていったんですか?
やなぎ:10年があって、今までの活動が一区切りを迎えた感じがどこかにあって。もちろん今までも自分のやりたいこと、やってみたいことを作品に詰め込んできたんですけど、そこまでの10年の活動がやなぎなぎ第1期だとしたら…………「ここからやなぎなぎ第2期がはじまる」といったイメージで。用意したまっしろな空間に、自分のやりたいこと、新しいもの、欲しかったことなどを詰め込んでいきたいなと思って、『ホワイトキューブ』を作っていきました。2023年の9月くらいに、作品のイメージは浮かんでいましたね。
――美術作品の展示空間のことを「ホワイトキューブ」と呼びますが、『ホワイトキューブ』という言葉をタイトルにした理由についても教えて下さい。
やなぎ:次の作品をどうしようかなと思っていた時に……10周年をいろいろやって終わったら魂が抜けちゃうんじゃないかななんて思っていたんですけども(笑)。でもそれよりも、“常に作っていたい欲”が強くて、それを一枚にできたら良いなって思っていました。新しいスタートを切るとしたら、というのを考えていく中で、この言葉が生まれていきました。
――魂が抜けてしまうんじゃないかという心配は杞憂に終わった、というのはこのアルバムを聴いても分かるところではあるのですが。
やなぎ:活動をしているうちに「もっとああいうこともできるな」「もっとああいうのを作ってみたいな」なんて考えているうちに、いろいろと出てきてしまって。全然魂は抜けなかったです(笑)。
新しいものが詰まったアルバムに
――新居昭乃さんをはじめ、『ホワイトキューブ』に参加されているクリエイター陣もまたすごくて。
やなぎ:今まで声を掛けてみたかったけれど、ちょっと我慢していたというか、ステイしていたというか、そんな気持ちでいた方たちにお願いしました。
特に昭乃さんの場合は、ずっと憧れの方ですし、一緒にやってみたいけど、昭乃さんの曲は昭乃さんが歌うのがいちばん良いという気持ちでいました。だから昭乃さんに書いてもらった曲を自分が歌うのってどうなのかなって思っていて……その葛藤がずっとあったんです。
でも新しいことをやりたいし、自分の創作活動に昭乃さんは外せない存在ですし、それを自分の音楽史の中で形に残すとしたら、今このタイミングなのかなって思って。それでそういうものたちが詰まっているアルバムになりました。
――4曲目「ルーキーシーフ」にはフレデリックの三原康司さん、赤頭隆児さんも参加されています。フレデリックの曲もよく聴かれているのでしょうか?
やなぎ:はい。特に「リリリピート」が好きです。他の曲ももちろん聴いているんですけども、繰り返す中毒性のあるメロディの最たるものが「リリリピート」なのかなと思っていて。そういうメロディの遊び部分がすごく好きなので、この「ルーキーシーフ」にはそういうところをいっぱい入れたいです!というお話をさせてもらっていました。
――遊び心がたくさん詰まった曲ですよね。「ルーキーシーフ」はどういう由来のもとでつけられたタイトルなのでしょうか?
やなぎ:直訳すると新人泥棒なんですけども(笑)。個人的には「怪盗」のイメージです。
――オープニングのインストナンバー「guideroid」のタイトルは造語ですよね?
やなぎ:そうですね。美術館によく音声ガイダンスがあるじゃないですか。展示物の前にいって「1」などのボタンを押すと説明が流れるっていう。そういうイメージで、私のアルバムの『ホワイトキューブ』にも案内人がいたら良いなって思っていました。案内するロイド……アンドロイドから言葉を取ったんですけども、ガイドロイドとして「こういう作品が展示されていますよ」という感じで、いろいろな歴史を教えてくれるような“案内ロボ”を1曲目に持ってきました。
――なるほど……! まさに案内するような1曲ですが、なぎさんの中で“案内ロボ”のイメージはあるんですか?
やなぎ:私の中では小型の、ファミレスなどで採用されているようなロボットだったらかわいいなぁなんて思っていました。
――かわいい! 喋ってほしいです!(笑)
やなぎ:想像するとかわいいですよね(笑)。
――そこからつながっていくのは「色覚醒」(しきかくせい)で、作曲・編曲はMizoreさんが手掛けられています。『ホワイトキューブ』が彩り鮮やかに染まっていくといいますか。そんな感覚を味わえる曲だなって。
やなぎ:Mizoreさんの曲って自分的には不思議なコード感覚というか……掴めそうで掴めない、そういうところが面白いなって。それなのに、入っているギターは……なんて言うんですかね。攻撃的というか、反抗的というか(笑)。そういうギャップも良いなって思っていました。
音からインスピレーションをいただいて、サビでパッと目が開いて、いろいろな色が次から次に飛び込んでくる感じ。あえて強い言葉を使ってみました。〈ぶちまける〉とか。Mizoreさんの曲だからこそぶつけられそうな言葉を書いてみました。
――歌詞も含めて今までにない色も感じる曲になっていますよね。
やなぎ:そうですね。新しいものを詰めていきたいというコンセプトということもあって、今まで使ったことのないような言葉を意識して入れてみました。
――クセになる曲だなぁと思っていました。長さにして、2分半くらいなんですよね。
やなぎ:ふぁーっと過ぎ去っていくかのような感覚もありますよね(笑)。