寺島拓篤さんの4thアルバム『ASSEMBLE』スペシャルロングインタビュー|テーマは何度負けても立ち上がる強さ
音数を削ぎ落した、静かでカッコいい「深海より」
――「深海より」はCMJKさん作曲・編曲で、おしゃれ感&浮遊感があるクラブサウンドですね。
寺島:CMJKさんは2ndアルバム『PRISM』の「luner orbit」以来になります。ディレクターからCMJKさんで、音数が少なく、静かで洗練された曲がやりたいという提案があって。その頃、偶然ラジオで聴いた、安室奈美恵さんの「Photogenic」が音数を削いで、静かでカッコよくて、こんな感じかなと思っていたらほぼイメージ通りでした。
――ボーカルがない状態でもサウンドトラックとして聴けてしまうので、歌詞をのせるのは大変そうです。
寺島:そうなんです! 全体的に進行スケジュールがタイトな中、この曲は早めにいただいていましたが、難し過ぎて、どう歌詞を書いたらいいのかまったくわからなくて。作詞を最後のほうにまわすことになってしまいました。
デモの段階では完成版よりも更に音数が少なかったんですけど、その中で見えてきたのが海中の景色で。海につながりがある、僕の好きな作品からキャラが1人浮かんで。それで書き始めたけど、「やっぱり違う気がする」と何回かリライトを繰り返して、生まれたのがこの歌詞です。ちょっと都会的な部分、都会に住む人の心のしんどさを書いています。
――サウンド感だけでなく、「絶え間なく生まれ消えてゆく 泡のように」などの表現も併せて、心地いい曲です。
寺島:でもそこに怖さもあって。海を歌にする時、優しく、包み込むイメージが多いと思うけど、暗い夜の海の波打ち際に立つと「すべて捨ててしまおう」と暗い気持ちになることもあると思うんですよね。
だけど踏み切れなくて、また都会に戻っていく、人間のはかなさや不思議な感覚を歌詞にしようと思って。ふわふわ気持ちいいだけではなく、危うさも。
――この曲は抽象的に気持ちの状況や流れも描かれているので歌詞の内容を考える楽しさもありますが、ただ寺島さんの優しい歌声とサウンドに身を委ねるのもいいのでは?
寺島:歌い方も意識しました。今回、曲に合うように声の出し方も考えたし、こんなにウィスパーっぽく歌ったのは初めてで、突き詰めていったらどうなるだろうという挑戦でもありました。この曲の主人公は海の中に入らないで戻っていきましたが、音楽を聴いている時は深海に沈んでいる感覚に浸ってもらえたらいいですね。
――最後の「僕らの奇跡」はライブメンバーでもある工藤 嶺さん作曲で、工藤さんの楽曲といえばアッパーなロックチューンのイメージがあるので、ホープフルでゆったりした曲は意外でした。
寺島:僕もビックリしました。温かいバラードを作ろうという話から曲作りは始まりました。前作『REBOOT』でロックのビッグバラードといえる「landscape」という曲を加藤大祐さんに作ってもらったので、別のアプローチの締めくくりっぽい曲がほしいよねと。
でも工藤君の曲は、1曲は欲しかったのでイメージと合わないかもな、と思いつつお願いしたらとんでもなく、いい曲があがってきて、「ポテンシャルすごいな」と改めて実感させられました。
――ライブ終盤で、お客さんと一緒に歌う風景が浮かんできます。
寺島:より「みんなで」を意識した曲です。もちろん今までもライブや『おれパラ』で歌わせていただく機会があるので、「みんなで」を意識して作っていたけど、もうちょっと寄り添えるんじゃないかなと思って。
――「今日くらい集まってさ 歌うたおうよ」や「この宇宙で出会えた奇跡」はいつもライブで思っていることですよね。
寺島:ストレートな想いですね。昔から好きな作品をモチーフにしていて、タイトルなどに音楽を想起させるものがある作品だったので合致すると思ったし、それでいて作中では登場人物や世界観の日常を描いているので、ずっと歌詞にしたいと思っていました。
ライブと同じで、ゲームも1つひとつにイベントがあって、何かをしたらイベントが発生するけど、はずすと発生しないし、見ることもできません。そう考えると1つひとつが奇跡のような出来事で日常が進んでいるし、この曲を作るうえでライブを意識した時、あの瞬間、あの場所に集まれていることは1人ひとりにとって奇跡なんじゃないかなと思っていて。
たぶん僕も1つ選択肢が違っていたらここにたどり着いていない可能性もあるし、一瞬一瞬の奇跡を積み重ねたからこそ、当たり前の温かい日常があるということを歌詞にしたかったし、身近だけど大仰なことを等身大で歌いたいなと思いました。
ライブでは奇跡的に出会えて、同じ空間で同じ時間を過ごせていることを実感するために一緒に歌ったり、クラップしてもらえたらいいなと思っているし、みんなにとっていい想い出になればいいですね。