楠木ともり、TVアニメ『魔王学院の不適合者』EDテーマ「ハミダシモノ」作詞を通して描いた作品の世界｜いろいろな“強さ”が描かれた楽曲に

初タイアップ！　「ハミダシモノ」の歌詞はこうして生まれた

――「ハミダシモノ」で、メジャーデビューを果たすことになりますが、この曲は初のタイアップで、楠木さん自身が作詞をしています。もともと作詞作曲もしていましたが、デビューとタイアップで、制作はかなり大変だったのではないですか？

楠木：そうですね。私はこれまで、詞から曲を作る“詞先”が多かったのですが、今回は事前に素敵な曲を頂いていたので、“曲先”で詞を書くことになり、そこでまずつまずきました。

しかも初めてのタイアップで、作品の魅力を曲としてしっかり引き出さなければいけないというところで、みなさんどうやっているんだろうと、知っている作品の歌詞もいっぱい調べました。

――研究結果はどうでした？

楠木：結局どうしたらいいのか分からなくなってしまって(笑)。もう、自分らしくやってみようと思って書きました。

――(笑)。“曲先”だと、音符に文字を当てはめるのが難しそうです。

楠木：難しかったのですが、たとえば次、どうしようかなと迷ったときに、5文字で考えればいいんだと思えたりしたので、逆に助けられることもありました。そこは良い勉強になりました。“詞先”のほうが書きたいことは書きやすいんでしょうけど、“曲先”も面白いなと思いました。

――では、何に一番時間がかかりましたか？

楠木：原作を読んで、テーマを決めて書き出すまでに、すごく時間がかかりました。アイディアはなかなか降ってこないし、テーマがまとまらないと書き出したくても書き出せないので……。

テーマは“強さ”になるんですけど、それが決まっても、バァーっと進む日もあれば、全然進まないで一行で終わる日とかもあって、結構波はすごかったです。

――「ハミダシモノ」というワードが出てきたのは、大きかったのではないですか？

楠木：この言葉は結構あとのほうで出てきたんですけど、曲のタイトルをどうしようかなというのはずっと頭の片隅にあったんです。

いつも最後にタイトルを付けるくらい、タイトル決めは苦手なんですけど、今回は早めに付けたいと思っていたんです。でも、なかなかいい単語がなくて……。

何か印象的な、作品を象徴するような、それでいて私らしさもある単語がないかなと、ずっと探していました。

最初にアニメサイドにデモを送ったときは、仮の歌詞がついた状態だったんですけど、そのときのサビの頭が“は”から始まる単語で、それを歌ったときにすごく気持ちが良かったので、“は”から始まる単語にしたいとは思っていたんです。

それでずっと考えたら、急にふわっと「ハミダシモノ」という言葉が降ってきて、「これだーーー!!」ってなりました。

――きっと、自分一人で喜びを噛み締めたんでしょうね(笑)。

楠木：ホントに！(笑)　ずっと考えていたものが，パーッと終わった瞬間の爽快感はすごかったです。これはサビの頭にも持ってこれるし、タイトルにもなるなと思いました。

――発明レベルで素晴らしい、作品にも楠木さんにもぴったりなワードだと思います。

楠木：この単語が出てきてから、詞を書くスピードが早くなったと思います。いちばん大事なところが書けたので、そこからはもう好きに書こう！　という気持ちになりました。

――テーマに“強さ”があるとおっしゃっていましたが、いろいろな“強さ”が描かれている曲ですね。

楠木：作品には本当にいろいろなキャラクターが出てくるので、それをできるだけピックアップしたいと思いました。アノスだったら、ミーシャだったら、サーシャだったら……等、いろんなキャラクターの視点で聴いていただけたらと思いますし、自分自身に重ねて聴いていただいてもうれしいです！

――物語を読んでいると、誰のことを歌っているのかが分かったりするのでしょうか？

楠木：私、サビの直前の《君の強さは僕が知っている》という歌詞が特にお気に入りなんですが、そこはいちばんキャラクター達とリンクしているところなのかなと思います。

――この曲には、いろんな“強さ”が描かれていますけど、アノスの強さって、ちょっと当てはまらない規格外の強さですよね。

楠木：そうなんですよ。アノスは強さが圧倒的なので、歌詞に重ねた時に他のキャラクターと違ってもっと俯瞰した聞こえ方になるんです。そこも面白い点だと思います。

――作品から離れて考えると、人には、いろいろな“強さ”があり、《弱さ悔しさも全て力にして》という歌詞にもありますけど、強くなろうとしている人に対して《君の強さは僕が知っている》と、肯定してあげているような感じがしますね。肯定するというのは、楠木さんが以前からよく使っている言葉ですが、そういう意味でも、これまで発表している曲とも共通していると思いました。ちなみにこの歌詞は、アニメサイドからのリテイクもなかったのですか？

楠木：それが特になかったんです！　だからすごくうれしかったです。何度か直さないといけないんだろうなと思っていたので、本当に問題ないんですか？って確認しました(笑)。

――それはすごい！　プレッシャーもすごかったでしょうに。

楠木：初めてのタイアップで慣れないことも多かったので、プレッシャーは大きかったです。作品に対するスタッフさんの熱意もすごく感じていたので、ここで私がコケるわけにはいかないと思っていたから、通って良かったです(笑)。