ディズニー&ピクサー最新作『あの夏のルカ』エンリコ・カサローザ監督&アンドレア・ウォーレン製作インタビュー|“友情”とは何かを問いかけるひと夏の物語
すべてを受け入れるのが“友人”
——ルカとアルベルトのやり取りや人間の町で出会うジュリアと仲良くなるルカに嫉妬してしまうアルベルトなど、私自身、子供時代を思い出しました。彼らの関係性を描く際、重要視したことがあれば教えてください。
エンリコ:今回の物語がただの自伝的なものにならないためには、チームのみんなとの対話が重要でした。みんながルカやアルベルトのような友人がいたり、思春期の経験をしたりしているので、そういう話をみんなでたくさんしました。
お互いに友達がどういうことを学んだり、どんな風にお互いにやったことがないことにチャレンジできるように背中を押し合ったりしたとか。友情の中心にあるのは、自分が1人だったらやらないようなことにも挑戦するきっかけを作ってくれるところだと思うんです。
やっぱりカギとなるのは、友情がどんな風に自分を変えるのか、自分の成長にその友情がどんな風に役立っているのかというところなので、2人が出会うときの気持ちが通じ合う瞬間を描くことがとても重要でした。
アルベルトがルカにベスパを自分たちで作ればいいじゃないかと言うときに、今までできないと思っていたことを解決してくれたわけです。「最高だね!」「一緒にやってみよう!」とすぐにいろんなものを見抜いて友情が生まれる瞬間を描きたかったですし、それぞれが孤独であったことも描きたかった。
——ルカとアルベルトの孤独、ですか。
エンリコ:ルカは家族にしっかりと本当の自分を見せることができなかったり、アルベルトにも家庭の事情があったりして、お互いに寂しい思いをしていますしお互いを必要としている2人でもあります。そこから物語の中でも激変が起きていくわけですが(笑)。
人間の町で出会うジュリアと3人で遊ぶことが多くなったときには、アルベルトがジェラシーを感じますが、これは3人の友人がいると起きがちで、みんな経験したことがあると思うので入れ込みたかった部分、誰もが共感できる友情だと思っています。
だからこそ、最後のほうのルカがアルベルトを傷つけてしまうシーンはなくてはならないシーンでした。“自分のことも裏切っている”と感じる場面を作らなければ、それだけ皆さんにも強い感情を抱いていただけないんじゃないかと思っていたんです。思わずハンカチに手を伸ばすようなインパクトをもってほしかった気持ちもありました。
——また、シー・モンスターの見た目がすごく特徴的ですよね。これは、陸で暮らす「人間」と海で暮らす「シー・モンスター」の違いをキャラクターデザインでも表現しているのでしょうか?
エンリコ:シー・モンスターの一部のデザインには、古い海図に描かれている生き物がインスピレーションになっています。古いイラストには少しグロテスクなものが多いですが、それも代々と薄れていくイメージにしていて。だから、ルカのおばあちゃんはちょっと怖いデザインになっていて、両親はその怖さが少し減って、ルカはさらに減っているというポイントがあります。
そのようなデザインのバランスはありますが、ただひとつ、彼らは"モンスター”ではないんですよね。それはなぜかというと、彼らから見れば、人間が地上のモンスターだから。なので、「シー・モンスター」は魅力的であること、カラフルであること、私たちが受け入れられるようなデザインにしています。
自分と違うものを表現している部分もありますが、“自分だけ違うんじゃないか?”という気持ちは子供のときは感じがちですよね? 僕も小さい頃は結構オタクっぽいところがあったので、みんなとうまく交流できないところがあり、その気持ちを経験しています。
なので、ルカとアルベルトの最後のシーンは、自分のアイデンティティはこうなんだ!と発信しているところでもありますし、それをみんなが受け入れているという素晴らしいものになっていると自負しています。
そして、アルベルトは最初からルカのすべてを受け入れているんです。それは、すべてを受け入れるのが友人であるということを示唆しています。
『あの夏のルカ』作品情報
2021年6月18日(金)よりディズニープラスで独占配信開始
イントロダクション
あの夏、僕らには知りたい世界があった。どんなに禁じられても、大切な何かを失っても…
イタリアの美しい港町ポルトロッソ──ここの住民たちが何より恐れているのは、<海の世界>に住むシー・モンスターだ。だが実は、シー・モンスターもまた未知なる<人間の世界>を恐れており、2つの世界は決して交わることはなかった──これまでは…
ストーリー
平穏な<海の世界>に暮らすシー・モンスターの少年ルカは、海底に沈んでいる“人間のモノ”に興味津々で、見たことのない世界への憧れは募るばかり。人間の世界を知るシー・モンスターのアルベルトと出会った彼は、ついに海の掟を破り、2人でポルトロッソの町に足を踏み入れる。
身体が乾くと人間の姿になる性質を持つ彼らは、どこからみても普通の少年だが、少しでも水に濡れると元の姿に…この“秘密”を人間に知られる恐怖を抱きながらも、ルカは目の前に広がる新しい世界に魅了されていく。もっと知りたい。この世界のすべてを──
だが、ルカとアルベルトの無邪気な冒険はやがて、海と陸とに分断されてきた2つの世界に大事件を巻き起こす。果たして、ルカの禁断の憧れが生んだ<ひと夏の奇跡>とは、何か…?
スタッフ
監督:エンリコ・カサローザ(『月と少年』(第84回アカデミー賞短編アニメーション賞ノミネート))
製作:アンドレア・ウォーレン
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン