同じ役者だからこそキャラの痛みに共感――夏アニメ『かげきしょうじょ!!』渡辺さらさ役・千本木彩花さん、奈良田 愛役・花守ゆみりさん 対談|痛みすら感じたけど「やっぱりこの先も演じてみたい」【連載第7回】
斉木久美子先生による漫画『かげきしょうじょ!!』がTVアニメ化! 輝く舞台へ情熱をそそぐ歌劇少女たちの〈青春スポ根ストーリー〉が、2021年7月より放送中です。
放送を記念して、アニメイトタイムズではリレー連載を実施! 連載第7回(最終回)は渡辺さらさ役・千本木彩花さん、奈良田 愛役・花守ゆみりさんの対談をお届けします。
やっぱりこの先も演じてみたい
――この取材の時点では最終話直前になりますが、読者の皆さんはすでに最終話をご覧になっています。お二人の現在の率直な心境はいかがですか?
花守ゆみりさん(以下、花守):もっと演じたかった、というのが正直な感想です!
千本木彩花さん(以下、千本木):ね~。お話としてもオーディションが終わってこれから文化祭本番というところで終わったので、この続きが見られたらいいなという気持ちです。
花守:でも、それぞれの成長や変化が描かれたという意味では、すごく綺麗な終わり方だなとも感じていて。ある意味、みんながスタートラインに立ったところなので。……でも、やっぱりこの先も演じてみたいです。
千本木:それに、いろいろな場所でいい評判を聞くんです。他の収録現場でも「『かげきしょうじょ!!』、面白いですね」と言っていただくことがたくさんありましたし、ネットの感想でも皆さんが楽しんでくださっているのが伝わってきて……。
花守:「かげきしょうじょ!!」を見て、宝塚に興味を持ったというファンの方もいました。
千本木:とても反響の大きい作品だなと感じていたので、いつかこの先もお届けできたらいいなと思いますし、私も続きを演じてみたいです。
――さて、終盤は予科生たちの熾烈なオーディションが描かれました。まず、第十一幕でさらさがティボルト役を選ぶという展開がありましたね。
千本木:暁也くんとの会話がすごく共感できました。確かに暁也くんの言う通りなんです。相談してアドバイスをもらうときって、だいたい答えが決まっていることが多いですし、実はあとひと押しがほしいだけ……みたいなことって、私にもあるなって。そういう意味では、さらさはうっすらと覚悟が決まっていたんだと思います。
花守:さらさはまわりからロミオの適性が高いと思われているので、ティボルトを選んで驚かれていましたけど、考えた末に自分の意思でもう一度ティボルトに挑戦するところがさらさらしいなと思いました。その上で、役を演じるということに向き合い、さらに自分の過去とも向き合って、お芝居を掘り下げようとする。それがとても熱かったです。
――さらさと愛が芝居というものを掘り下げていくところは、コミカルで面白い部分でもありましたし、そうやって役を捉えるのかと納得させられる展開でした。
花守:「能面」とまで言われた愛ちゃんが柔らかい表情でさらさの前に立っていたのが嬉しかったです。もともとトラウマを抱えていた愛ちゃんは、さらさと出会ったことで深い海から陸地へ上げてもらうことができました。過去はまだ消化しきれていないけど、お母さんの言葉を受け止め、ちゃんと自分の言葉に変換して伝えられるようになった。
その姿を見て、やっと人としてさらさの前に立てるようになったんだなって思ったんです。さらさをはじめ100期生のみんなに浮世離れしたところを繋ぎ止めてもらって、少しずつ人に戻っていったのが、全十三幕での変化だったのかなと思います。
――成長とは違うんですか?
花守:もちろん成長もあると思うんです。でも、どんどん表情が柔らかくなって、考え方も声も柔らかくなりましたけど、心配性だったり、考え込んじゃったりするところは変わってないので(笑)。ジュリエットを演じる前のモノローグも、考えがいったり来たりしていましたし。さらさとの出会いを思い出して、なんとかその感情を役に落とし込めましたけど、意図してそうなったわけではないと思うんです。あくまでも役者としての変化、転換点だったのかなと。
千本木:でも、お母さんの言葉やさらさとの出会いをちゃんと自分のものにしていけるのは、成長の片鱗が感じられますよね。
――ジュリエットを演じるシーンは、愛の大きな見せ場でもありました。演じてみていかがでしたか?
花守:十一幕を経て、愛ちゃんが手に入れたものを全部乗せる気持ちで演じました。最初はぐるぐる考えながら立っているので、音としては綺麗だけど、いまいち身が入っていない状態。そこから最後の最後、「動けば肘が当たるような人の波の中」というセリフから初めて本当の意味でジュリエットと自分を重ねることができる……そんな変化を意識しました。
千本木:映像もすごかったです。愛ちゃん、宇宙にいっちゃうんだって。
花守:宇宙猫(※)ならぬ、宇宙愛ちゃんになってた(笑)。
※真顔の猫と宇宙の背景のコラージュのこと
千本木:現実から離れてしまうぐらい、悩んでしまったんだなって。
花守:だからこそ、愛ちゃんにとっていかにさらさの存在が大きいか伝わってきました。
――このときのモノローグとジュリエットのセリフはいっぺんに録られたんですか?
花守:セリフの熱が全然違っていたので、ここは別にアフレコさせていただいたんです。ジュリエットのセリフは、まだ“型”しか作れていないけれど、きっとこれから心を入れていくことができるだろうという、その片鱗を感じてもらえるようなお芝居を意識しました。
――では、さらさのオーディションシーンについてはいかがでしたか?
千本木:恐ろしいなぁと思いながら演じていました。
花守:かっこよかったですよ!
千本木:嬉しい~! けど、現時点では最終話の放送前だから、どんな反応をいただけるのか今からドキドキしています(笑)。このシーンはさらさ自身、誰かのコピーではなく暁也くんのことを思い出しながら彼女なりのティボルトを演じているので、私もさらさと同じような気持ちで自分自身のティボルトを演じるようにしました。
花守:私は愛ちゃんと同じ表情で見ていました。完全に乙女の顔(笑)。
千本木:ふふふ(笑)
花守:暁也くんとの関係性もすごくよかったです。お互い、本当に大きな存在なんだなって。
千本木:さらさが自分の中のティボルトを探して、そこに暁也くんがいたのはやっぱりそうだよねって、すごく納得したんです。さらさにとっての暁也くんは役者としてのスタートラインであり、自分にないもの、自分がほしかったものをつかみ取れる人。ひとつ乗り越えなくてはいけない存在なんです。それを“糧”として自分の芝居に生かすところは、さらさも本質的に役者なんだなと思わされました。
花守:逆に言えば、さらさは暁也くんにとってのティボルトでもあるんですよね。
千本木:そうなんです。この二人の関係性が終盤ではっきり見えたんじゃないかなと思います。
――オーディションの合格発表を眺めるさらさも印象的でした。
千本木:原作を読んだときに、ティボルトを演じるシーンと同じくらい、このシーンにもぞわっとしたんです。喜びもせず、スッと掲示板を見つめる姿がさらさのすべてを物語っているような気がして。考え抜いて役に向き合った結果、役者として何かをつかみ、ひとつ高いところに上ったことが伝わってきました。
花守:何かを考えているというよりも、「ただそこにある」という境地ですよね。愛ちゃんはまだそこに辿り着いていないので、さらさは何を考えているんだろうって思いながら見ている気がします。
千本木:歌舞伎を見て涙を流すシーン(第七幕)もそうですけど、「かげきしょうじょ!!」って、さらさの中で何かがうごめいている様子、気持ちの揺れみたいなものの表現が素晴らしいんです。そこに言葉はいらないんだって思わされますし、言葉にしないことでさらさというキャラクターに深みが出るのがすごいです。
――一方で、愛はオーディションに落ち、悔しさをにじませました。
花守:その悔しさこそ、愛ちゃんが得られた大きな経験ですね。太一に愚痴をこぼしますが、「努力しなくちゃ」という思いがちゃんと根付いていて。それがさらさをはじめ仲間からもらった変化の種そのものなんだなと思いました。
……なんとなく、愛ちゃんはこれから先きっと大丈夫なんだろうなという気がします。幼少のときの経験から執着というものを断ってきた彼女が、さらさと出会い、再生して、なくしたものを再構築していく。その先に生まれた悔しさや執着というのは、すごくポジティブなことだと思いますし、十三幕を通してその再構築を描いていただけたのが嬉しかったです。
千本木:最初こそ、さらさきっかけでトップスターを目指すようになりましたけど、最終的に自分の感情……悔しさからもっとうまくなりたいと思えるようになったのがいいですよね。
花守:さらさは大きな存在ですけど、これからは愛ちゃんが自分自身で考えて、模索していくことが増えていくと思いますし、悩んだり、失敗したりしても、ちゃんと自分の言葉で考えていけると思います。