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- 逆井マリ
- 神奈川県横浜市出身。音楽フリーペーパー編集部を経て、フリーのライターとしてインタビュー等の執筆を手掛ける。
──では藤原さんの楽曲についても改めて教えてください。ジャジーかつスモーキーで、色気が漂うナンバーですが、藤原さんは初めて「BITTER RAIN」を聴いたとき、どのような印象がありましたか。
藤原:自分が今まで歌ったことのないような色気のある曲だなと思いました。ジャジーで「BITTER RAIN」という名にふさわしい、ほろ苦い思い出が蘇るような……多くの人に共感してもらえるような曲だなと。歌詞と曲が寄り添い合っていて、この曲を歌えることが嬉しいなと思いました。
──大野さんは「BITTER RAIN」を書かれるときも字から入られたのでしょうか。
大野:うん、字から入った。今回は2クール目からの曲で、通常だと6ヶ月で1曲なのが、3ヶ月、3ヶ月で2曲分書いてて。で、アニメのキーワードが「LONDON」から「女」になって、劇伴の音楽内容も違うから、そういうことを加味して書かなきゃいけないのがちょっと大変だったかな。彼女が歌っている「BITTER RAIN」は、字面で言ったら「より大人っぽく」「ちょっと演歌っぽく」って感じだったかな。「演歌っぽく」って言うと語弊があるかもしれないけど、彼女が思う演歌風と言うかね。
──そういうお話は事前に大野さんから聞かれていたんでしょうか?
藤原:レコーディングのときにお聞きしました。最初は「仮歌とかも何も気にせず、思ったように歌ってみて」と言ってくださったんです。自由に歌っていく中で「ここはただ伸ばすんじゃなくて、もうちょっとこぶしを効かせてみて」ってリクエストがあって。そのときに今のお話をうかがいました。
──ところで、大野さんが藤原さんに演歌っぽく歌ってほしいと思った理由はなんだったのでしょうか。
大野:まず単純におもしろいかなと思ったの。声質にも合いそうだなと。
藤原:自分にはないアプローチだったのですごく楽しかったです。
──何事も「面白い」って大切ですね。
大野:うん。なんとなく無難っていうのは好きじゃないの。ちょっと尖ってて、棘があるほうが好き。例えば劇伴ってね、あくまで「劇」の「伴」なんだよ。主役ではない。だけど、普通の劇伴じゃつまらないから。「伴」でいながら、尖るって難しいんだ。でもそれが楽しくもある。
──素人目線で恐縮なのですが、どうやったら曲を尖らせられるものなのでしょうか。それこそ反逆の限り──。
大野:うん、それはもう頑張るしかないかな(笑)。
藤原:ちょっとした違和感なんですかね?
大野:まあそうだね。ただ劇伴の場合は「伴」に徹するのも大事なのよ。でもちょっと出っ張ってるところが、俺のルパンの劇伴の特徴なのかな。曲が出しゃばっちゃう部分も、他の劇伴より意識して書いてる。かといって、全部それだと邪魔しちゃうから、そこの加減が難しい。
あまり劇伴を書いたことがない人が劇伴的なものを書いたときに「面白い!」ってなるんだけど、そういう人は劇伴らしいものは書けないことが多いように思う。要するに全曲出すぎたままになって、主張が強くなり過ぎてしまうんだ。だから出っ張ったポイントをわざと作れるようになれば面白い劇伴になると思う。レコーディングしたあとは、今は全部選曲屋さんがチョイスしてくれるから。
藤原:選曲屋さんですか?
大野:要するに今のシステムでは俺が全部その場面に合わせて曲をつけられないの。もちろん「こんな感じのときにこういうふうに使われるんだろうな」って想像して書くんだけど、それを当てはめるのは選曲屋(音響監督)なの。
藤原:じゃあシーンを想定して作ったものをその方が全部当てはめていくんですか?
大野:まあそうかな。最初にメニュー一覧がきて、それを見て選曲屋が選びやすいように時間やシーンを考えて作ってるね。今は清水くん(清水 洋史音響監督)が選んでくれてるけど彼は素晴らしいよ。
俺は選曲屋さんから届いたメニューの1個に対して3曲くらい作る。じゃないと、同じ曲ばっかり使われることもあるから。それは嫌だから、今回『ルパン三世 PART6』は30曲くらいで大丈夫って言われてたんだけど、確か100曲くらい書いてる。
──100曲……!
大野:いやいや、いちばん多かったのはPART4のとき。218曲だったかな。
藤原:(真顔で)えっ!! 218……!? 昔使わなかったものを持ってくるとかは……。
大野:(首を横に振る)
藤原:私ならもったいないって思ってしまいそうです。
スタッフ:ちなみに、前回のシリーズ(『ルパン三世 PART5』)は180曲でした。
藤原:ひゃ〜! でもシーズンに合わせて書き下ろされるから持ってこられないのか……。
大野:うん。あと「こういうのください」っていうのに合わせて「×(カケル) いくつ」で書いちゃうからどうしても曲数は増えるんだよね。
藤原:頼んだ側としてはめちゃくちゃありがたいですよね。
──すごい。大野さんの真摯な姿勢に加えて、お人柄というのも感じます。気遣いが素晴らしいというか……。
大野:あとはフレーズがちょんぎりやすいようにも作ってるかな。1分15秒でしか成り立たないような曲だと役に立たないのよ。35秒くらいで切れる曲なら途中でもカットできるじゃない。だから2曲が1曲になってるような構成にする。
そうすると使いやすいから。劇伴作家として『ルパン三世』を見ているときに、「ルパンは何秒くらい使ってるシーンが多いかな」って自分で研究して統計を取ってるの。だから、そんな長い曲作ってもしょうがないかなと。
藤原:……いまとんでもないお話を聞いている気がします……!
──私もです……!
大野:切りやすい、っていうのは計算して作ってる。「いい曲ができた!」だけだとまだ駄目かなと。
藤原:劇伴ってすごい。今日は本当にいろいろなお話を聞けて勉強になります…!
──私もです。ちなみに、書かれた譜面はその後どうされてるんですか?
大野:全部家にあるよ。曲ができたときは大量の譜面を紙袋に入れて持っていくから、毎回「紙って重いなぁ」と思うんだよね(笑)。
──さきほど少し話題に上がっていましたが、2022年1月27日(木)、28日(金)東京国際フォーラム ホールAにて「~大野雄二 80歳記念 オフィシャル・プロジェクト~ 映画『ルパン三世 カリオストロの城』 シネマ・コンサート! and 大野雄二・ベスト・ヒット・ライブ!」も決まっています。藤原さんもご出演されるとのことで。
藤原:そうなんです。1月のコンサート、すごく楽しみです!
──新エンディングテーマの「BITTER RAIN」ももちろん聴けるんですよね。
大野:もちろん。あの曲を歌ってもらわないとね。でもあの曲、楽器の編成を厚くしてもしょうがないじゃない?シンプルで艶っぽい曲だし。だからアレンジをどうしようかと思って悩んでるんだよね。どうする?
藤原:(笑)。確かに原曲のままの雰囲気でいくとなったら静かな雰囲気のほうが似合いそうですもんね。何人くらい入る予定なんでしょうか?
大野:オーケストラは50人くらいじゃないかな。
藤原:50人! 50人ものオーケストラで歌うのは私は初めてですね。
大野:もう1曲のほうも楽しみだね。
──もう1曲?
大野:ふふ。それはお楽しみにってことで。でかい編成だからそろそろアレンジも決まってなきゃダメなんだけど、まだ何もやってないからね(※取材時は11月中旬)。だからあんまり話せることはないんだけど。
藤原:なるほど(笑)。
──じゃあ、冒頭でおっしゃってた「最初の4、5日間はもう嫌なの」っていう状態の中にいまいらっしゃるのでしょうか。
大野:いや、今回は7日くらいざわざわしてる。
藤原:(笑)。どうなるのか、楽しみにしています。
──楽しみにしています! ところでインタビューの直前におふたりでMDプレイヤーの音を聴かれていましたが、どんな曲を聴かれていたのでしょうか?
大野:ああ、あれはソニア・ローザっていうね、(『ルパン三世 PARTIII』の「フェアリー・ナイト」を歌っていた)ブラジル出身の歌手の音源になってない、大昔の曲。ある番組の主題歌だったの。
藤原:天才的な方ですね。曲中のギターもすごくカッコよくって。良い曲をご紹介していただきました。
大野:ちなみに、息子はDJ TARO(クラブ・ラジオDJ)だよ。
藤原:へえ~!! 今日は興味のあるお話をたくさん聞けていて、お話が尽きません!(笑)
──本当ですね。あっという間にお時間になってしまいました……本日は多岐にわたるお話をありがとうございました!
インタビュー・逆井マリ
神奈川県横浜市出身。既婚、一児の母。音楽フリーペーパー編集部を経て、フリーのライターとしてインタビュー等の執筆を手掛ける。パンクからアニソン、2.5次元舞台、ゲーム、グルメ、教育まで、ジャンル問わず、自分の“好き”を必死に追いかけ中。はじめてのめり込んだアニメは『楽しいムーミン一家』。インタビューでリアルな心情や生き方を聞くことが好き。
ルパン三世 PART6 オリジナル・サウンドトラック 2 『LUPIN THE THIRD PART6~WOMAN』
Yuji Ohno & Lupintic Six
2022年1月26日(水) Release
3,500+税 / VPCG-83550 / CD1枚組 / Blu-spec CD2 / 紙ジャケット
CD封入特典:大野雄二複写サイン入り四つ折りアートワークポスター/ 連動キャンペーン応募券(期間限定)
試聴・アルバム予約はこちら https://lnk.to/lupinthethird_part6_woman
【収録曲】
「THEME FROM LUPIN III 2021」、「BITTER RAIN feat. 藤原さくら」含む26曲収録
~大野雄二 80歳記念 オフィシャル・プロジェクト~ 映画『ルパン三世 カリオストロの城』 シネマ・コンサート! and 大野雄二・ベスト・ヒット・ライブ!
●日時:
2022年1月27日(木)[開場]17:30 [開演]18:30
2022年1月28日(金)[開場]17:30 [開演]18:30
●会場:東京国際フォーラム ホールA (東京都千代田区丸の内3-5-1)
●公演内容:
<第1部>:映画『ルパン三世 カリオストロの城』シネマ・コンサート
<第2部>:大野雄二・ベスト・ヒット・ライブ! ※各日の演奏曲目が多少異なります。
●出演:
【演奏】YOU & EXPLOSION BAND
【スペシャル・ゲスト】松崎しげる、藤原さくら
【指揮】栗田博文
※都合により出演者が変更になる場合がございます。予め御了承下さい。
●お問合せ
ディスクガレージ 050-5533-0888 (平日12:00-15:00) https://www.diskgarage.com
>>>公演オフィシャルサイト https://yujiohno80th-concert.com/
『ルパン三世 PART6』
2021年10月より日本テレビ系全国30局放送中
2022年1月より新章<2クール目>突入!
※各局の放送日時は公式HPでご確認ください
配信:Hulu他配信サイトで配信中
アニメ『ルパン三世 PART6』公式HP
公式Twitter(@lupin_anime)
1941年5月30日生まれ、静岡県熱海市出身。小学校でピアノを始め、高校時代にジャズを独学で学ぶ。慶應大学在学中にライト・ミュージック・ソサエティに在籍。藤家虹二クインテットでJAZZピアニストとして活動を始める。その後、白木秀雄クインテットを経て、自らのトリオを結成。解散後は、作曲家として膨大な数のCM音楽制作の他、「犬神家の一族」「人間の証明」などの映画やテレビの音楽も手がけ、数多くの名曲を生み出している。
リリシズムにあふれたスケールの大きな独特のサウンドは、日本のフュージョン全盛の先駆けとなった。その代表作「ルパン三世」「大追跡」のサウンドトラックは、70年代後半の大きな話題をさらった。近年は作曲活動としては「ルパン三世」とNHKテレビ「小さな旅」に絞り、再びプレイヤーとして活動を開始。大野雄二トリオでの活動に加え、2006年にYuji Ohno & Lupintic Fiveを結成。2016年にはメンバー編成を新たにYuji Ohno & Lupintic Sixを結成し、都内ジャズクラブから全国ホール公演、ライブハウス、ロックフェスまで積極的にライブを行う。40年以上もの間、ルパンとともに歩み続ける作曲家であり、自らプレイヤーとして第一線で現在進行形のルパンミュージックを表現し続けている。
現在、音楽を担当する最新テレビシリーズ『ルパン三世 PART6』が放送中。
福岡県出身。1995年生まれ。
父の影響ではじめてギターを手にしたのが10歳。洋邦問わず多様な音楽に自然と親しむ幼少期を過ごす。高校進学後、オリジナル曲の制作をはじめ、少しずつ音楽活動を開始。地元・福岡のカフェ・レストランを中心としたライブ活動で、徐々に注目を集める。
現在、シンガーソングライターとしてのみならず、役者としても活動。天性のスモーキーな歌声は数ある女性シンガーの中でも類を見ず、聴く人の耳を引き寄せる。