『銀河英雄伝説 Die Neue These 激突』第二章上映記念──多田俊介監督インタビュー|「掘り下げられるところがあるならば、オリジナルであっても掘り下げようと思いました」多田監督が3rd seasonで心がけていたこと
長く愛され続けている宇宙を舞台した田中芳樹による長篇SF小説『銀河英雄伝説』。1988年からアニメシリーズが制作されたが、2018年からプロダクションI.Gによって新作アニメシリーズ『銀河英雄伝説 Die Neue These』が制作された。
銀河帝国と自由惑星同盟、150年の長きに渡り戦いを続けている両国に現れた2人の英雄、ラインハルト・フォン・ローエングラムとヤン・ウェンリー。彼らが対峙する銀河の歴史も、1st seasonと2nd seasonを終え、いよいよ3rd seasonへ突入する。
キルヒアイスを失ったラインハルトは、かつて自由惑星同盟に奪われたイゼルローン要塞の大規模な奪還作戦を実行に移す。それは要塞の前に要塞をワープさせて攻め込むという、とてつもない作戦だった。
本稿では、多田俊介監督に3rd season「激突」を語ってもらった。
よりキャラクターに寄った演出を……3rd seasonで心がけていたこと
――『銀河英雄伝説 Die Neue These』の3rd season「激突」がついにスタートしました。2018年から走り出したノイエ銀英伝ですが、多田俊介監督にとって、この作品と向き合った4年間はどんなものでしたか?
多田俊介監督(以下、多田):現場仕事の大変さというのは、きっと誰もがそうだと思うので、それ以外のお話をしようと思います。
まず僕自身、原作小説と石黒昇監督が手掛けた『銀河英雄伝説』のOVAシリーズがすごく好きで、何度も観直していたタイトルだったんです。このお話をいただいたとき、実を言うとOVAシリーズをリメイクするのだと勘違いしていたんですね。
絵柄の傾向も当時と今は違いますし、亡くなられたキャストの方もいますので、集めることは難しいからどうしたらいいのかなと思っていたら、原作をもとに新しい『銀英伝』を作ってほしいという話だったので、それならばとスタートしました。
とはいってもOVAシリーズから30年以上経った今、この作品を作る面白味は何だろうと思ったんです。その中で一番最初に感じたのは「現代という時代は銀河帝国と自由惑星同盟を俯瞰で見ている時代ではない」ということでした。
あの頃から世界情勢も変わってきていて、小説が書かれていた頃は米ソ冷戦の時代で、2大大国が睨み合っていたけど、日本は正直に言って当事者の気分ではなかった。ところが今は、ネットで情報が飛び交っていて、もう遠くから俯瞰で見ている時代と違ってきているんですよね。
そこの部分含めて、今の感覚で作り直そうと考え、それを実践してきた4年間だったなぁと思います。つまり、俯瞰で見ているのではなく、未来の銀河の歴史の中で生きている人たちのところへカメラを持って行って、それを描写していこうと思っていたら4年経っていた、という感じです(笑)。
――「銀河の歴史がまた1ページ」とOVAシリーズの予告の最後に言っていた言葉がありましたが、そのスタンスではなくなってきたということですね。もう歴史の当事者の一人であると。
多田:僕としては、ページをめくってつまびらかにしていく余裕がもうない、という感じですかね(笑)。
――今、まさにそういう状態に、世界がなっていますからね。
多田:本当にそうなんですよね……。でも、田中芳樹先生の原作の意味合いを変えたりする意図とかはまったくなくて、逆にとことん原作に沿ってやっていっている感じなんです。それでいて、カメラの置き方や表現の仕方をOVAシリーズとは違う方法論で作っているという感覚です。
――こういう壮大な歴史モノって、長く追うことでの楽しさがあると思うのですが、今は何もかもスピーディーに回っていく世の中なので、皆さん『銀英伝』のどんなところに一番惹かれているんだろうなと、率直に思うのですが。
多田:思うに、OVAシリーズの頃から、積極的に発信している人って、群像劇の中のキャラクターを見ているんですよね。僕も大河ドラマとかが好きでよく見るんですけど、SNSとかの感想を見ると、話題は登場人物に寄っているんですよね。合戦とか大局がどうなっているかではなく、人物に寄っている。
そういう意味では、僕がカメラをキャラ寄りに入れたところとも親和性があるのかなと思いました。
あの頃はみんな、『銀英伝』を見て、戦術と戦略の違いを知りましたよね(笑)。あとはシビリアンコントロールされる軍隊とは何なのかということを知ったり、いわゆるバイブルでした。
――3rd season「激突」は、キルヒアイス亡き後のラインハルトが描かれていくのと、ユリアンの「初陣」から始まるので、また新たなスタートという感じがします。たとえば2nd seasonまででやってきたことから、ここは見直そう、ここは続けようという話はあったのでしょうか?
多田:率直に言うと、1st seasonと2nd seasonは、先程のキャラに寄るという方針で作った割には、寄り切れていない部分もあったんです。OVAシリーズって、本伝の中で、原作の外伝にあるエピソードを持ってきていた部分があるんです。
たとえば、石黒版ではベーネミュンデ侯爵夫人がアンネローゼを謀殺しようとするエピソードを入れて、ミッターマイヤーとロイエンタール、そしてキルヒアイスの話を入れたりしていました。そういうアプローチをノイエ銀英伝でもできればもっとキャラクターに寄れるのかなと思いました。
そんな考えから、キャラクターに寄っていく要素を積極的に……、アニメオリジナルになってもいいから挟んでいこうということで、3rd season以降を作っている感じです。
――確かに見ていると、新たな要素は多かった気がします。
多田:分かりやすいところでは、25話「初陣」にあたるユリアンのエピソードは、OVAだと主役級のキャラクターとの関わりが描かれていたんですけど、今回はユリアンが生活しているフィールドも見せたいと思い、カメラを中に入れる演出をしています。
そこでユリアンの教官や同期のパイロットを描くようなエピソードを入れてもらいました。主人公のそばにいる一般の人を描くことはこれまで実現できていなかったところです。
――ヤンの被保護者というところで、周りがすごい提督たちばかりだったところを、もう少し普段のフィールドに目を向ける感じだったんですね。
多田:そうですね。ユリアンがヒーローであったとしても、周りで運悪く死んでいく人がいたりする。『銀英伝』はヒーローがいつも生き残るドラマとは違うので、掘り下げられるところがあるならば、オリジナルであっても掘り下げようと思いました。
――「激突」第一章での見どころは、帝国の双璧であるミッターマイヤーとロイエンタールが、ラインハルトに忠誠を誓うことになる、クロプシュトック事件に端を発したクロプシュトック討伐部隊でのエピソードでした。これも原作では外伝のエピソードかと思いますが。
多田:これに関しては中身をいじるというよりは、どこに入れるかという議論がされていました。これまで小説の本伝通りの構成でやってきた以上、あらためて外伝を入れるとなったとき、入れる意味合いがどうしても必要になります。
そうなると、ここしかなかったんですよね。キルヒアイスが死んだあとで、ラインハルトを支える人たちが、どういう心持ちでラインハルトのもとに集結しているのかを、あらためて説明するためにはこの場所が一番だった。
なのでエピソードは、ラインハルトとキルヒアイスのやり取り、ラインハルトとロイエンタールのやり取り、もしくはミッターマイヤーとロイエンタールのやり取りが分かるように見せていきました。
最後のシーンで、ラインハルトがまだ提督と呼ばれるには早かった頃に住んでいたアパートを双璧が見上げるところから、提督たちがラインハルトのもとに集結する。キルヒアイス亡き後、これだけの頼れる諸将が集結しているんですという絵を見せることで、銀河帝国ラインハルト体制の全容を見せるような流れにしました。
――さらにこういうエピソードがあると、双璧のファンが増えそうですしね。
多田:ミッターマイヤーがエヴァンゼリンに黄色いバラを持ってプロポーズしたことを、エヴァンゼリンやロイエンタールからいじられるところとかもいいですよね(笑)。
――それにこの位置に入れることで、キルヒアイスが見られますし、若いラインハルトも見られたので良かったのかなと思います。ちなみにキルヒアイスを失ったあとのラインハルトは、ちょっと危なっかしいところもありまして、そこも描かれていたと思うのですが、そこで意識したことなどはありますか?
多田:その演出も苦労するところなんですけど、3rd seasonや4th seasonの演出って、原作での続きありきで考えているんです。僕の中では、原作小説のこのあたりからラインハルトに覇王の風格をまとわせようと考えているタイミングがあるので、キルヒアイスがいなくなった直後から覇王のようになることはできなかったんです。
だから、ラインハルトはこの時期には銀河帝国軍のトップにあるんですけど、一番えらいというのをことさら強調しない演出はしていると思います。そういうところは、この先を見据えて仕込んでいるところなので、3rd seasonでラインハルトが陰鬱な目をしているのは、その先も作るつもりで演出をしているからなんです。
――それで言うと「激突」第二章に関しては、伏線だらけで、だいたいこの先に起こる事件につながることばかりなので、悩ましかったのではないかなと思います。キュンメルもきっとこの先に出てくるでしょうし。
多田:そう言われてみるとそうですね(笑)。シューマッハやランズベルク伯を使って何をしようとしているのか。フェザーンが段取りをしていたりする。振りが多いので、そこはこの先を楽しみにしてほしいです。