音楽
楠木ともり4thEP「遣らずの雨」で描いたのは「引き止める側の主人公自身の変化」/インタビュー

楠木ともり4thEP「遣らずの雨」インタビュー|“雨”をテーマにした楽曲で描いたのは《引き止める側である主人公自身の変化》

ラストの「alive」というタイトルに込めた2つの意味に感動!

――先に「山荷葉」の話からしてしまいましたが、タイトル曲は「遣らずの雨」になります。

楠木:この言葉はスタッフさんが、雨をテーマにすることが決まったとき、会議で作ってくださった雨用語の一覧から選んだ言葉なんです。そこから意味を調べて、曲を考えていきました。

――ヘヴィな歌詞ができましたね。

楠木:深い悩みや苦しみを抱えている大切な人を引き止めようとしている周りの人を主人公にした曲にしたいと思って作ったんです。自分にとって大切な人だから救いたい。でも、周りに相談もできないし、引き止めるにしてもその責任を抱えきれるのかとか。

どんなに優しく温かい言葉を投げかけても、きっと心の奥底までは届かないんですよね。最初は、そのすれ違いを描きたかったんです。苦しみの中にいる人って、周りに川があるというか。絶対に他人が入れない領域を持っていると思うんです。どんなに寄り添っても寄り添いきれない。だから引き止める側が相手に寄っていってしまう。

それがDメロの部分で、主人公自身も何かを越えてしまう瞬間なんだろうなと思ったし、主人公自身の変化も曲では描きたくて、それを意識していました。

――それはMVでも、よく描かれていましたね。

楠木:MVでは、白い衣装と黒い衣装で分かれていて、壁に阻まれていて、どうにか伝えようとするけど、届かないという映像になっていますね。

――その歌詞を、このエモーショナルな曲に乗せるというのもいいですね。

楠木:この曲は、作曲をしたあとにアレンジコンペをしたんです。同じリファレンスでお願いをして、その中から選んだのがラムシーニさん(群咲-ムラサキ-/作・編曲家)でした。バンドっぽいサウンドで、激しいけど透明感も欲しいとお願いしていたんですけど、平歌での透明感とサビでの爆発力に惹かれて選びました。

――ここでも透明感がキーになっていたんですね。

楠木:激情の中にも、今にも消えてしまいそうな脆さと儚さがほしいと思っていたんですよね。そこに不安定さがあったらいいなと。

――イントロのギターリフやサビの激しさは際立っていましたが、透明感で言うと、コーラスが息多めで、儚さを出ていたと思います。

楠木:事前に「山荷葉」を聴いていただいていたんです。コーラスを入れるとなったとき、最初は実音っぽい感じだったんですけど、最終的にほぼほぼ息になり、「山荷葉」以上に、消えそうな、ふわっとした空気のようなコーラスになりました。

――ラストサビはほぼ息を吐いているだけですけど、そこも歌詞に寄り添っていていいですね。ちなみに最初の「雨が……」の一言は、最初からあったのですか?

楠木:最初は何も入っていなかったんです。ラムシーニさんから「ここにウィスパーボイスを入れたい」という話をいただいて、「雨が……」と仮で入れておこうという話になったんですけど、いろいろ考えた結果、「雨が……」が良いんじゃないかとなったんです。やっぱり雨が降るか降らないかは大事だったし、いろいろな意味に取れるし、どちら側が言っているかで意味も変わってくると思ったので。

――サウンドがバンドであり、曲も激しいので、ライブでの盛り上がりも期待したいですね。

楠木:そうですね。今回のメロディは、今までで一番聴きやすいメロディが作れたという自負はあるんです。これまで難しいメロディが多かったけど、聴いていて気持ち良いメロディになったと思っています。

 

――「もうひとくち」は、ラブソングっぽい感じの曲でした。この曲は、これまでの曲の主人公が出てきているんですよね。

楠木:はい。「眺めの空」の続きなのか過去なのか。「眺めの空」は男の子目線で書いていたんですけど、こちらは女の子目線になっています。

「眺めの空」では女の子側に振り回されている描写があって、スタッフさんからもあざとい性格の子だと思われていたんですけど(笑)、違うんですと。たぶらかしていたわけではなく、実は緊張していただけだったという、かわいいところを書きたかったんです。

――作・編曲がササノマリイさんですが、きっと大好きなクリエイターですよね?

楠木:『プロセカ』(『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』)でご一緒したことはあるんですけど、実はササノマリイさんがボカロPとして活動されていた時代から楽曲が好きで、よく聴いていたんです。だから初めてお仕事でご一緒したときは嬉しかったですし、現場でお会いしてもすごく人が良い方で、いつか自分の活動でもお願いしたいなと思っていました。

ただ、ササノさんも私のことを応援してくださっていたらしく、前から好きなんです!と言って頂けて。嬉しかったですね。

――今回は曲を先に書いてもらったのですか?

楠木:私が歌詞を書いてから、作曲をしていただきました。

――詞先で作曲をお願いするときって、どんなことを意識するのですか?

楠木:韻とリズム感です。歌詞しか書いていないけど、グルーヴィにしたかったので、詞からリズム感を想像してもらおうと思って、積極的に小さい「っ」が入る言葉を選んでみたりしています。

――そこまで考えていたら、メロディが出てきそうですけどね。

楠木:実は浮かんだところもあったので、ササノさんからいただいた曲を聴いたときに、ここは一緒だったっていうこともあったんです。でもやっぱり自分では考えつかないメロディもふんだんにあったので、自分ひとりでやらない魅力もあるなと思いました。

――カフェミュージックみたいなアレンジもオシャレでした。

楠木:今回のテーマが雨なので、1曲は明るく楽しい曲を書きたいとなったときに、雨のハネる感じが欲しいと思ったんです。雨宿りでカフェに寄ったけど、そこに馴染めない2人という感じで、音はジャズっぽい、オトナな感じにしてもらいました。

――ジャジーな曲のボーカルで意識することはどんなことですか?

楠木:あえてきれいに音をハメすぎない感じにしていて。ちょっと気だるくラフに歌っている感じがすごく心地良いとササノさんがおっしゃっていたので、メロが何となく曖昧なのは意図したところです。ちょっと外しているけど、それがいい!みたいな感じなのかなって。

この曲はササノさんのコーラスも入っていて。ボーカル録りのときに仮歌のササノさんのボーカルと私の歌を合わせたときにすごくきれいだったので、再度レコーディングをしていただきました。ミックスのときまで、「これ要りますかね?」ってササノさんは仰っていたんですけど、「必要なんです! めっちゃいいんです」とお伝えしました(笑)。

 

――「alive」が、個人的にすごく好きで、サウンドがオルタナティヴでカッコいいんですよね。

楠木:この曲がトラックコンペをした曲で、19曲の中から選びました。作りたい曲のイメージがあって、そのイメージに近かったのと、もともとトラックからメロディを付けるつもりだったんですけど、メロが入る想像ができなかったんですよね。インストだけで完成されているところに、すごく惹かれたんです。

ボーカルがメインじゃない曲でもいいのではないかと、ちゃんとスタッフさんと話してから選んだんですけど、それならばサビだけでもいいのではないかとなって、このような曲になりました。

――確かに歌詞も短いですね。

楠木:これまでで一番短いです。サビだけというシンプルな構成にすることで、ひと言にかかる重みも大きくなり、無駄なく言葉が伝わりやすい形のすごく良い曲になったと思います。

――この歌詞は、どんなことを書いた歌詞なのですか?

楠木:これは自分のライブのことを書いた曲です。昨年末のワンマンライブが、デビューしてから初めて皆さんに直接見ていただけたライブだったんです。その景色が忘れられなくて、それを曲にしようと思いました。

だから歌詞はライブの暗喩になっていて、タイトルも“a live”になるようになっているんです。

――「生きて」という意味ではなかったんですね!?

楠木:実はその意味もあって、「遣らずの雨」からスタートして、生きると対称的なテーマを描いた中で、最後に気持ちよく終わってほしいと、雨上がりをイメージして作った曲でもあるんです。

だから一番暖かくて陽の光が指すような感じを想像しました。今はいろいろと暗いニュースがたくさんあるけど、生きていることが一番だし、この先何があるかわからないけど、生きていてほしいと思うんですよね。生きているからこそ体験できることってたくさんあるし、生きているからこそできる約束もたくさんあるから。

――ライブで「また会おうね」と最後に言っていたのが、いつお客さんを呼んでライブができるのかわからない時期があって。当たり前だと思っていた言葉が当たり前ではなかったんだなと思い知ったので、余計に沁みます。そして7月31日から、『楠木ともり Zepp TOUR 2022』もスタートしますからね! ライブで会う約束ができますね。

楠木:ツアーということで全国各地に行けるし、これまで行きたくても、県をまたいで東京まで行けないというお声も頂いていたので、皆さんの近くまで行って、たくさんの人に会えたらいいなと思っています。

しかも最近は、声優活動の影響もあって、そこから私の音楽を聴き始めたという方も少しづつ増えてきている印象があるので、楠木ともりのライブってこういう感じなんだよというのを見てもらうために、いろいろと今から考えていきたいと思います。

――最後に、今回もアザーカットをいただきましたが、撮影のこだわりなどはあったのですか?

楠木:今回、ジャケットでは透明感と儚さを出そうと思っていて、色も明るすぎない感じにして頂きました。これまでのダークな感じとはまた違った印象になったのかなと思います。フォトブック盤のジャケットはまたちょっと違う感じになっているんですけど、ここではフォギーというレンズフィルターを使っていて、霧がかった感じになっているんです。そこでもふわっとした雰囲気を出してもらっているので、フォトブックからもEPの雰囲気を感じもらえたらと思います!

[文・塚越淳一]

4thEP「遣らずの雨」商品情報

発売日:2022年6月1日(水)

特典情報はこちら

初回生産限定盤A[CD+BD]

価格:6000円(税抜)
VVCL-2046~7

初回生産限定盤B[CD+DVD]

価格:6000円(税抜)
VVCL-2048~9

フォトブック盤[CD+フォトブック]

価格:2400円(税抜)
VVCL-2050~2

通常盤[CD]

価格:1500円(税抜)
VVCL~2052

収録内容

[CD]
01.遣らずの雨
02.山荷葉
03.もうひとくち
04.alive
05.遣らずの雨 -Instrumental-
06.山荷葉 -Instrumental-
07.もうひとくち -Instrumental-
08.alive -Instrumental-

[Blu-ray・DVD]
01.遣らずの雨 -Music Video-
02.山荷葉 -Lyric Video-
03.もうひとくち -Lyric Video-
04.alive -Lyric Video-

Kusunoki Tomori Birthday Live 2021『Reunion of Sparks』
01.アカトキ
02.ハミダシモノ
03.眺めの空
04.よりみち
05.sketchbook
06.未来(cover)
07.くちなしの言葉(cover)
08.Forced Shutdown
09.ロマンロン
10.熾火
11.バニラ
12.narrow
13.タルヒ
14.僕の見る世界、 君の見る世界

初回仕様CD封入物

・プレゼント応募ハガキ&チラシ
・楠木ともり Zepp TOUR 2022 ライブチケット先行申込み用シリアルナンバーチラシ

ライブ情報

楠木ともり Zepp TOUR 2022

7月31日(日):大阪 Zepp Namba open 17:00 / start 18:00
8月11日(木・祝):福岡 Zepp Fukuoka open 17:00 / start 18:00
8月13日(土):東京 Zepp DiverCity open 17:00 / start 18:00
8月21日(日):名古屋 Zepp Nagoya open 17:00 / start 18:00

楠木ともりさんプロフィール

1999年12月生まれ。

声優・シンガーソングライターとして活動中。代表作として、『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン』のレン役、『遊☆戯☆王SEVENS』霧島ロミン役、『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』優木せつ菜役など。2021年10月クールでは『マブラヴ オルタネイティヴ』鑑純夏役、『先輩がうざい後輩の話』五十嵐双葉役と二作品でヒロインを務めた。2022年も「BASTARD!! -暗黒の破壊神-」ティア・ノート・ヨーコ役等、 話題作への出演が決定している。

2020年8月TVアニメ『魔王学院の不適合者』EDテーマ「ハミダシモノ」にてソロメジャーデビュー。 続いて発表した2021年4月リリース2nd EP「Forced Shutdown」、 同年11月リリースの3rd「narrow」も全てオリコン週間トップ10入りを果たす。 2022年7月から初の4都市Zeppツアーを開催。

声優活動を精力的に行いながら、 自身で作詞作曲し、ライブグッズのデザインも手掛けるなど、 多方面で才能を開花させている。

 
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