『サマータイムレンダ』&『STEINS;GATE』の共通点と作品との向き合い方|田中靖規氏×志倉千代丸氏 対談
「夏夢ノイジー」制作秘話
─少し遡ってしまいますが、『サマータイムレンダ』のアニメ化が決まったときはどのようなお気持ちでしたか?
田中:単純に嬉しかったです。漫画家にとってアニメ化はひとつのマイルストーンですからね。実はありがたいことに、何社かからお話をいただいていたんです。その中で「渡辺 歩監督」という文字を見つけて、「これって『ドラえもん』の!?」って。最近だと『海獣の子供』を見ていたんですよね。もちろん『ドラえもん のび太の恐竜2006』も見ていて、すごい監督だと思っていたので、そんな人に監督を務めていただけるのかと。さらにキャラデザや草薙さんの背景がすでに企画書に入っていて、「本気だな」と思っていました。
──アニメ『サマータイムレンダ』2nd Opening Theme「夏夢ノイジー」は志倉さんが作詞・作曲を手掛けております。田中先生のご希望だったそうですね。
田中:そうです。ゲームのほうで『MAGES.』さんに関わっていただけるとのことで「それって志倉さんの会社じゃないですか。ワンチャンお願いできないですか……?」みたいなことを担当づてに聞いてみたんですよ。
志倉:そんなの、Twitterで言ってくれたら良かったのに(笑)。
田中:僕はTwitterはやってないんですけど、そんな感じで良かったんですか(笑)。やっていただけるとお返事をいただいた時は飛び上がりました。
──志倉さんとしては、楽曲のオファーをいただいた時はどのようなお気持ちでしたか?
志倉:いろいろな曲を書かせていただいてきましたが、2クール目のオープニングというのは久しぶりだったんです。だから気合いが入りました。でも2クール目オープニングという大役のプレッシャーはすごかったですね。
田中:やはりプレッシャーはあるものなんですか?
志倉:ありありですよ!(笑) だって1stオープニング「星が泳ぐ」(マカロニえんぴつ)がめちゃくちゃ良い曲でしたから。絵にも合ってるし、熱さもあるし。自分の曲で大丈夫なのか?って思っていました。
──田中先生からなにかリクエストはあったのでしょうか。
志倉:先生からは「戦いです」と聞いていました。「戦いか、よし、戦おう」と。
──戦いですか。
田中:アニメ脚本の瀬古さんのアイデアで、本編のラストバトル、起死回生の場面でオープニング曲が流れることが決まっていたんですよね。ですから「とにかく盛り上がるバトル曲にしたいな」というイメージがあったので、それをお伝えしていて。デモが上がってきた時は「これこれこれ!」という感じでした。素晴らしかったです。
志倉:ああ、良かった。歌詞も苦労したんです。物語を見たあと「こういう意味だったんだな」「ここはあの部分を意識してたのかな」と思えるような言葉を書きたかったんです。いわゆる伏線回収ができるものというか。だからキーワードをド直球に書かないという、ひねくれたことをしていました。ひねくれ人生ですよ(笑)。僕的には、曲というより歌詞で苦労したんですよね。実際には3倍くらいの量を書いていて、そっから削いでいって。
田中:最初の段階で僕も見せていただいていたんです。「こういう作り方をするんだ」と興味深く拝見しました。
志倉:いつもリリックノートに歌詞の3倍くらいの量を書くんです。送らせてもらったのは、1番の歌詞でした。歌詞というよりかは、思いついた言葉の羅列だったんですけど。最初の段階で原作者の先生に共有したのは初めてでした。
田中:へええ~! 貴重なものを見せていただいたんですね。ありがとうございます。確か<旅のしおり><落書き>という言葉はその時にあったと思うんですよね。かなりの量だったので「そのままではないんだろうな」とは思っていました。怒られるかなと思いながら、一か所だけ単語を訂正をさせていただいたことを覚えています。
志倉:逆に訂正いただいてよかったです。単語ひとつの持つイメージで、全体の解釈が変わるので。そのおかげでまとまったような気がします。
田中:ものすごく早いスピードで訂正していただき驚きました。
志倉:ワンコーラスを作ったあと、2番はじっくりと書かせてもらいましたけどね。
──ところで、今回はなぜ最初の段階で歌詞を共有されることになったんでしょう?
志倉:さきほどもお話しましたが、お会いする前からきっと「趣味や感性が近いだろうな」とは思っていたんです。だから「このキーワードはないんじゃないんですかね」って助言をもらえるかもなと。そのほうが気持ち的に楽なんですよ(笑)。でも先生が「お任せします」と。「ああ、頑張ろう……」と思いました。
田中:なるほど(笑)。
──特にご苦労されたところというと?
志倉:歌詞で言うと……例えばサビの<笑っちゃうね>というところは、声を出して笑っているというよりは……笑うしか無いというか。受け取り方次第で変わる心情を描いたつもりだったんです。それさえ伝われば「やるしかないところまで来てしまった」という全体の流れを表現できるかなと思っていたので、そこは工夫したつもりです。2番は、さきほど言った制限のことを僕なりに伏線を張ったり、とあるシーンについても描いたり……。
──<命のパラドックス><神のアルゴリズム>という言葉も、志倉さんからのワードだったんですか?
志倉:そうです。
田中:良い言葉ですよね。
──すごく印象的でした。完成した「夏夢ノイジー」を聴いたとき、田中先生はどのような印象がありましたか?
田中:「これだ!」って思いました。実はアニメ版『STEINS;GATE』の終盤、23話の一番盛り上がるところでゲーム版のテーマソングが掛かって最高すぎるんですが、あのシーンを超えて欲しい、脳汁を出したい、ともお伝えしていたんです。作品が違うので無茶なお願いだろうなとは思いつつも、志倉さんの手に掛かれば、あの場面に匹敵するものを作れるんじゃないかなと思っていました。
志倉:どうしたらあれを超えられるんだ、と思いました(笑)。でも田中先生の熱量はすごく伝わってきて。僕なりにやりきらせてもらいました。
ふたりの作品に対する向き合い方
──ここからはおふたりの作品制作のお話をおうかがいできればと思います。まずは田中先生の制作のベースになっているものを教えていただければと。
田中:ドラマも好きで、『サマータイムレンダ』で言えば、『ストレンジャー・シングス』や『ツイン・ピークス』あたりは、最初の雰囲気として目指した部分があります。外国の片田舎で事件が起こる物語が好きで。あとはやはり、ゲームですね。今作は『Bloodborne』『ライフイズストレンジ』『DEATH STRANDING』『SIREN』『STEINS;GATE』などからインスピレーションを得ました。これは完全な偶然なんですけど、『サマータイムレンダ』の中に『SIREN』の「サ」「イ」「レ」「ン」が入ってるんですよ(笑)。最近気がつきました。
志倉:『STEINS;GATE』は、「タイ」と「ー」しか入ってないですね(笑)。「ン」もあるか。
田中:(笑)。でも『STEINS;GATE』をやっていなかったからこの作品は生まれていなかったと断言できます。あれでループものの面白さを脳に刻み込まれたので。
志倉:へえ、嬉しいなあ。
──さきほど伏線の話がありましたが、『少年ジャンプ+』では連載の合間に掲載されていた「記録」からも、さまざまな考察がされていましたね。それも『SIREN』の影響だと。
田中:ああいうのが好きなんですよ。『SIREN』では、プレイ中に手に入ったアイテム、例えば写真とか日記、新聞の切り抜きなんかの小道具が見れたんです。そういう細部から世界観が広がるのが面白くて、あれをなんとか漫画でも出来たら良いなと思っていました。ネタを考えるのは楽しかったんですが、好きな分、手を抜けなくて。漫画をひとりで描いていたので、一ヶ月に一度くらいは作業量の少ない週を作りたい、という感じで始めた「記録」でしたが、精神的には休みになってなかったです(笑)。
志倉:(笑)。
──それほどまでにゲームの影響は大きいんですね。実際に作品を読んでいると、ゲームをプレイしているかのような気持ちになります。
田中:漫画というよりゲームのつもりで描いている部分もあるんです。例えば澪かひづる、どっちを救うのか?といった慎平が直面する選択肢を、読者にもいっしょに悩んで欲しかった。本当は敵側もいろいろな戦略を考えているんですけど、そこはあえてカットして、あくまで観測者である慎平の目線で進んでいきます。小早川家の食卓を囲みながらハイネとシデが話しているシーンなどは本作の雰囲気にピッタリでお気に入りなんですが、洞窟とか闇の空間でシデたちが「どうする?」って作戦を考えているシーンを描こうとしたら、なんか“悪の組織”の会議みたいになってしまって、違和感がすごくて(笑)。これは『サマータイムレンダ』っぽくないなと思ってやめました。
──(笑)想像すると少し笑ってしまいます。連載スタートの段階から、最後までって田中先生の中ではプロットをしっかり組まれていたんでしょうか。
田中:だいたいの大枠だけです。ラストは最初の日に戻ってくるというのと、ハッピーエンドにしようということだけは決めてました。それと和歌山の友ヶ島に取材に行ったことで、森、神社、学校、廃墟、洞窟などのロケーションと、その攻略順は浮かんでいましたね。このへんはゲームのダンジョンのお約束です。あとは、連載スタート時点では2巻分くらいのプロットしかなかったので、毎週担当と一緒にひとつずつ作っていきました。例えば、敵もループしているという設定も連載中に考えたものです。担当から「それ大丈夫?」と言われた記憶があります(笑)。
志倉:整合性がつかなくなってくる可能性もありますね。
田中:そこは恐怖ではあるんですが、やってみたくなったんです。
志倉:ああ、でもわかりますね。僕はひとつのセリフを言わせたいがために、他の設定を変えることがあるんですよ。例えば『サマータイムレンダ』で言うと(ハイネの)「私もループできるんだよ」という一言ってめちゃくちゃ怖くて。田中先生は、あの言葉を言わせたかったんじゃないかな、とも思いました。でも敵がループするとなると、整合性を取るためにいろいろなことを考えなければいけない。それってすごく大変なことだと思います。
田中:そうですね。大変だけど絶対面白くなるから、そっちへ舵を切ろう!っていう。
──志倉さんの作品制作のベースについてもおうかがいできればと思うのですが。
志倉:僕はただの科学オタクですよ。自身がプログラマーでもあるので、人工知能に興味があります。最近は「意識の下で機能している物事」について勉強していますね。なかなか本がないんですけど。
──それって無意識とは違うものなんです?
志倉:なんていうんだろう。例えば僕が今こうしてスマホを取ろうとするじゃないですか。でもこの話をしようとした時には、すでに脳に「スマホを取る」という信号が伝わってて、筋肉を動かすための神経が動作をはじめているんです。だから、その時に浮かんだ意識のように思えて、浮かぶ前に実は動作をはじめてる。そのちょっとした時間の差がとても不思議だなと。どんなに奇抜なことをやろうとしても、先回りして脳にバレてしまう。これが今僕がいちばん興味のあることです。作品として考えていることではないんですけど。
田中:なるほど。ゲームシステムに落とし込めそうですけどね。
志倉:面白そうだなとは思っています。最新作の『ANONYMOUS;CODE』のセーブ機能は、それに近いことにチャレンジしたつもりです。泣く泣く削った仕様もあるんですけどね。
──科学アドベンチャーシリーズとして発表から約7年の歳月をかけ遂に発売となった最新作『ANONYMOUS;CODE』は、「ゲームのように時を記録しやり直すことができるアプリ」を持っているホワイトハッカーのポロンが主人公です。
志倉:セーブデータを主人公と共有するというシステムで。ポロンはプレイヤーのことをハッカーだと思っているので、プレイヤーと共闘するような場合もあれば、ポロンのセーブに助けられることもある。難しいテーマでしたね。
──今日お話に上がった同シリーズの『STEINS;GATE』との共通点というのも考えられていたのでしょうか。
志倉:『STEINS;GATE』以外にも科学アドベンチャーシリーズはリリースしていますが、すべての作品が『STEINS;GATE』の「世界線変動率」によって縛られているんです。ある意味運命線のようなものですよね。その運命線が作品によっては分岐するんですけど……2037年の地球シミュレータ(『GAIA』)と、現実世界との間には、当然誤差があって。その誤差がいわゆるダイバージェンス(「世界線変動率)と呼ばれるものです。他の作品で最初に数字を明示するのも、そういう縛りがあるからです。α世界線、β世界線、シュタインズゲート世界線……という感じで捉えている方もいらっしゃるようなんですけど、アルファという広がりなんです……って、この話はめちゃくちゃ長くなる。この話だけで4ページくらいになるからまた今度に(笑)。
田中:聞きたいですけどね(笑)。『ANONYMOUS;CODE』をやりはじめたところなのですが、セーブ&ロードという能力は面白いアイデアです。
志倉:ありがとうございます。ただ、説明が難しいんですよね。そもそも、科学でセーブ&ロードできる世界の説明が難しい。
でもこの世界がもし地球シミュレータだったら……というのも、ありえなくないですよね。地球シミュレータの中にも、人はいるわけで。でもその彼らも地球シミュレータを作る。それを今回は世界層と呼んでいます。
世界線というものは世界層によって束ねられているわけですけど、果たしてそこにある次元が……例えば11次元だったとして、他の視点はないのか、どうなのか……?という、その答えが一応あります。
──おふたりの作品には共通点が多いように感じます。
志倉:まず「ループをする」という共通点がありますよね。いろいろなループの仕方がありますけど。代償が変わることで、見え方も変わるなと思いました。あとは「本物か偽物か」という問題が共通しているのかもしれません。『STEINS;GATE』で言うと、別の世界線に行ったときに「もしかして人格が変わってる? どっちだ?」があるんですけど、それとは違う「(本物と影)どっちだ?」が『サマータイムレンダ』にある。
「夏夢ノイジー」には<映し出すキミの影その輪郭が 僅かに揺れるその合図で>という言葉があるんですけど、自分で書きながら「その輪郭が僅かに揺れるって、うわ、こわ!」と思いましたよ(笑)。
田中:岡部倫太郎よりはマシだったと思いますよ、慎平は(笑)。ループする回数が少ないですからね。
志倉:でもいちいち死ぬのは大変ですよね。
田中:確かに。カッコよくは死なせたくないなと思っていたんですが、死=恐怖であることは描きたいなと思っていました。
志倉:そこはポイントとして大きいと思います。カッコいいセリフを残して「だったらこうしてやるぜ、バン」と撃ち抜くわけではない。
田中:そうなんですよね。ともすれば、おしゃれに死ねちゃうんですよ。でもそれはやりたくなかった。
──慎平が死ぬシーンは毎回ものすごい迫力でした。
田中:怖いと思うんですよね。ぶっちゃけ、死んだところで過去に戻れるか、保証はないわけじゃないですか。慎平は頑張ったと思いますね。
──田中先生から志倉さんにおうかがいしたいことはありますか?
田中:作品の作り方というか。走り出すときは(作品の)終わりまで見えてるのか、どこから作り出すのか、といったことが気になります。
志倉:いちばんおもしろいポイントをまず考えるんです。……それはプレイヤーの能力だったり、物語のギミックだったりを思いついた瞬間に、どんなキャラクターだったらそれらを面白く使うかを考えています。そのあとにオープニングはこうはじまる、エンディングはこう終わる、ってところまで書くんですけど……『CHAOS;CHILD』のテキスト量でいうと小説10冊分を超えるんですよね。
田中:すごい!それは何人かで手分けされるんですか?
志倉:そうです。ライターチームで分けて書くんですけど、その中で修正につぐ、修正があります。最初のプレゼンの段階ではほとんど決まっています。最長8時間に渡りセリフを読んだこともありました。楽しんで欲しいので「絶対にページをめくらないこと」というルールを設けて。休憩を3、4回入れました(笑)。