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『すずめの戸締まり』新海誠監督インタビュー

『すずめの戸締まり』新海誠監督インタビュー|神木隆之介さんへのオファーは一度断れながらも電話で直談判!? 10年たった今だからこそ描く東日本大震災への想い

おばあちゃんになってもやってほしい

ーー若い観客のお話もありましたが、当時を知らない方も増えてきましたし、時代の流れも早くなっていますよね。監督から見た今の若い世代の特徴などありますか?

新海:それは全く分からないです(笑)。だけど、Z世代と言われたり、うちのスタッフにも若い方々はいますが、自分たちの若い頃と何か大きく違うなとはあまり思いません。時代は違っても、いつの時代の若者も共通して抱いているものはあるのかなと。

一方で、僕らが若かった頃よりもよりシビアな時を生きているのかなと思います。だからこそ、必然的に逞しくなっていくかもしれないし、世の中ってこういうもんだという諦めのようなものがあるのかもしれない。もう僕たちは若者じゃないので、本当にそうかはわからないですが。

ただ、キャラクターづくりの面でいうと、映画を作るということはキャラクターの事を考えなりきって描くものなので、鈴芽については、現代を生きる彼女がどういう気持ちなのだろうと考え抜いて、彼女に一体化して作っていました。

また、質問の答えになってないかもしれませんが、若い人たちに好まれる新しいエンタメが増えて、映画というものの地位がどんどん脅かされているなとは感じています。かつてはエンタメの王様みたいなものだったと思うんですけど、今はインターネットがあって、YouTubeやTikTokなどライバルがいっぱいいますよね。可処分時間の奪い合いです。インフルエンサーの動画のほうが映画よりも楽しいって人もいると思います。

その中で劇場に行かないと見ることができない映画というエンタメは、選んでもらうのにすごくハードルが高くなりますよね。

それを乗り越えるには映画を完成させるだけじゃない努力を沢山しなきゃいけないなと思います。この映画はどういうものであるかを知ってもらうためのプロモーションの工夫もしなければならない。以前よりももっとハードに取り組まないと負けてしまうなと日々感じますね。

ーー神木隆之介さんが演じる芹澤朋也が昔の歌謡曲を聞いているのは、今のサブスクを使う若者の現在の様子を描いていますし、若者の状況も変わっていっていると思います。

新海:そうですね。曲にしても映画にしても、あらゆるアーカイブが用意されていて、配信サイトに行けば今公開されたかのようにかつての名作たちが並んでいる。今の最新のエンタメは、かつての名作と同じ土俵で戦わなければいけなくなったと思います。

そういえば、神木くんは「ルージュの伝言」は知っていたので楽しそうに歌ってくれましたが、「けんかをやめて」は知らなかったですね。だから何度もリテイクをかけて、「そういうメロディじゃないんだけど、知らない?」って言いながらディレクションをしていました(笑)。

ーーさすがにわかりませんでしたか(笑)。神木さんのお話が出たので聞いてみたいのですが新海監督の作品と言えば神木隆之介さんと花澤香菜さんだと思います。これは何故なのでしょうか?

新海:どうしてでしょうね?(笑) 花澤さんに関しては『言の葉の庭』で初めてお仕事させていただいて、雪野という、少し大人びてミステリアスな役を演じてもらったんですが、キャラクター設定が27歳だったから、そのときのオーディションでは25歳以上の声優さんを集めていたんです。

そんな中で、彼女は当時24歳だったんですが、年齢制限があったにも関わらず「どうしてもやりたい」と応募してくださって。僕らはあまり若い方だと雪野のような仕事や人間関係に疲れてしまっているキャラクターが実感としてわからないのではないかと思っていたんですが、社会の中で疲弊した雰囲気と、その中にまだ残る雪野の幼い部分を、花澤さんは見事に演じてくれました。

あれ以来、僕も花澤さんのファンなんですよね。定期的に会いたくなるといいますか。だけど仕事でもしないと会えない方なのでつい声をかけてしまうんです(笑)。

いつもは遠い場所にいらっしゃるんだけど同じ時代を生きていて、演じられるキャラクターもどんどん変わっていって……。今回はすずめの母親役を演じてもらいましたが、いつかおばあちゃんになっても映画に出てくれないかなと思っています(笑)。

神木くんにオファーしてしまう一番の理由は、彼の役者としての確かさですよね。声の良さ、芝居の良さ。それと同時にちょっとした縁起物というか、一緒に居てくれると安心するといいますか、単純に人として好きという気持ちもありますね。

神木くんも忙しいので、呼べば来てくれるというわけではないんですが(笑)。ただ、芹澤は飄々としているけど後半の雰囲気を決める大事な役柄で、また、映画は外側の役者とキャラクターの関係も楽しむ要素だったりするので、観客にとっても嬉しい配役である必要があるなと思いました。だから、中盤から登場する重要なキャラクターならば、僕の作品でこれまで大切な役を演じてくれた神木くんに委ねたいなと思い、声を掛けました。

でも、芹澤役をオファーした当初は神木くんはすごく迷っていて、実は一度オファーを断られてしまったんです。スケジュール上の都合もあったんですが、『君の名は。』の立花瀧のイメージを壊すかもしれないし、芹澤を演じる自信もない、と。

だけど、僕としてはそんなことはなく、神木君なら過去のキャラクターとは全く違う魅力を出すことができると思い、そのことを神木くんに電話をして改めて説明しました。

そうしたら、「じゃあわかりました。いくつか声のパターンを出してみるからやらしてください」と電話口で直接聞かせてくれて(笑)。そこでトーンの調整をして、最終的には芹澤役を引き受けてくれることになり、一日だけ時間をもらい、アフレコを行いました。

ーーまさかそんな直談判があったとは……!

新海:また次も出てほしいんですけど、真剣に口説かないと出てくれないですよ(笑)。

 

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