あの日誓った姉妹の絆は永遠に――『アキバ冥途戦争』和平なごみ役・近藤玲奈さん&ねるら役・石見舞菜香さんインタビュー 「この世界において、ねるらちゃんは貴重な存在」【連載第7回】
ねるらちゃんがいなかったら「なごみはこの世界に……」
──石見さんは今回の連載には初登場です。いろいろあった回を経てではありますが、改めてオーディションのことや、ねるらのキャラクター性などについて教えていただけますか?
石見:実はなごみちゃんを受けていました。スタジオオーディションでは、ねるらちゃんは対象ではなかったんです。
スタジオオーディションの台本には、ねるらちゃんが死んじゃったあとのなごみのセリフなどがあって。現場で「なごみちゃんにとってねるらちゃんは大事な存在なんだよ」と伺っていました。だから「ねるら役で」とご連絡いただいたときは「あの子か! 良い子なんだろうな」と思いました。
アフレコ当日、現場に行ったときにも「この作品の良心です。本当に良い人なんです」と。年齢はなごみちゃんより少し上ということだったので、あまりお姉さんっぽくは作らずアフレコに挑んだのですが、そうすると「(なごみと)声質が近くなってしまうから」といただいてお姉さんっぽく挑戦しました。
──アフレコの中で「この作品ならではの独特なディレクションだな」と思ったものはありました?
石見:ずっと独特でした(笑)。
近藤:(笑)
石見:「ここまでやって良いんだ」って。収録をご一緒していた皆さんが「もっとやっちゃってください!」と言われていたんです。振り切った演技を求められていた印象がありました。面白い作品だなぁと(笑)。
近藤:私も言われています(笑)。特に5話のトマトジュースのシーンは「キャラ崩壊してもいいので、もっと!」と言われていたので、「じゃあもっといっちゃいます!」と(笑)。本当になんでもありで。
石見:それが面白いよね(笑)。
近藤:そうなんですよね。なごみは可愛らしい見た目に引っ張られそうになるところがありましたが、イメージを180度変えていこう!という気持ちでいつもやっています。思い切り演じられているので、自分らしいお芝居ができているのかなって。とにかく楽しいです!
──おふたりとも現場を楽しまれていることが伝わってきます。
近藤:キャストの皆さん全員に言っているんですよね。1話のアフレコのときから「皆さんこの作品が大好きなんだな」と感じていました。皆さんのそういう気持ちが、お芝居に乗っているんじゃないかなって思います。
──ところで、6話で気になったのは、「姉妹の契り」のシーンです。そもそも「姉妹の契りってなに!?」って(笑)。
近藤:私も「この世界にそういうものがあるの!?」と思いました(笑)。
──しかも誓いの言葉が独特のイントネーションでしたね(笑)。
近藤&石見:(笑)
近藤:(AI風のイントネーションで)「頂戴します」。
石見:いろいろなバージョンを取ったんですよ。
近藤:最初は普通に録ったんですけど、「AIみたいな感じでやってみて」というディレクションを受けて。
石見:やってるときは最初の普通のテイクが使われるだろうなって思っていましたが、完成したアニメを見てビックリしました。「……こっち!?」って(笑)。ちょっと面白かったです(笑)。
近藤:あのイントネーションがアキバの姉妹の契りの伝統なのでしょうか……(笑)。他の店舗の「姉妹の契り」はどんな内容なのかが気になります。
──毎度ですが、今回も情報量が多い回でしたね。そして、ふたりの友情にグッとくるものがありました。
近藤:私が印象的だったのは、ねるらちゃんの「私、お姉ちゃんになるんですね」というセリフ。それを思うと最後の「死にたくない」というセリフにもグッと来るものがあって。
石見:うんうん。
近藤:他の系列店なので最初はねるらちゃんも戸惑っていたけど、きっとなごみの真っ直ぐさに惹かれて「お姉ちゃんになる」と受け入れたんだろうなと。その瞬間の気持ちが、あのセリフに表れているように感じました。
石見:あの場面は「なごみちゃんに言う」というより、「己に落とし込むように言ってください」というディレクションを受けていたんです。
──独り言じゃないですけども。
石見:そうです。言葉にすることによって実感が湧く、というか。ふたりのポジションを考えると、姉妹の契りを交わすことは勇気のいる行動だと思うんです。ことによっては、殺されてしまう可能性もあるわけですから。彼女にとって大きな出来事なんだろうなと思いながら演じていました。でもすごく“人間”って感じが好きでした。立場とか関係なく、人との繋がりを大事にできる子なんだな、好きだなって。
──なごみもそうですものね。
近藤:この作品の中では「人との繋がりを大事にする」って珍しいことで(笑)。なごみも言っていましたけど、とんとことんって全員ヤバい人なんですよね……。
一同:(笑)
──そうですね(笑)。
近藤:でもそれがこの世界の常識。それを受け入れそうになった時に、ねるらちゃんに出会って。もし、ねるらちゃんがいなかったら、なごみはとんとことんに染まっていたんじゃないかなと。だからこの世界において、ねるらちゃんは貴重な存在ですね。ねるらちゃんがなごみのことを引き止めてくれたような気がします。
石見:でもそれはお互い様な気がする。ねるらちゃんにとってなごみちゃんは眩しい存在だったんだろうなって。ねるらちゃんが最初に契りを求められたシーンで「えっ、でも」と言ったのは、彼女は思うことがあっても行動に移せるタイプではなかったと思っていて。
きっと「契りを結びましょう」と言ってくれてきっと嬉しかったんだと思います。そのおかげで一歩踏み出せたところがあっただろうから。
──今「この世界の常識を受け入れそうになっていた」というお話がありましたが、なごみの心の変化についても近藤さんにお伺いさせてください。第5話「赤に沈む!三十六歳生誕祭!」あたりから、なごみはとんとことんメンバー、特に嵐子を受け入れるようになりましたよね。
近藤:そうですね。それまでは私としてもなごみとしても「嵐子さんってどういう人なんだろう?」って思っていたんです。嵐子さんは本音を語ろうとしないので、なごみは「本当に信用していいのか」と思っていたんじゃないかなと。でも「36年前の今日…自分が生まれてさえ来なければ…」と言った時……「嵐子さんってそういうことを言うんだ」と驚きました。すごく人間味のある言葉だなって。
第5話の最後に「…この日、初めて…この街で大切だと思える人たちが出来てしまった」という言葉がありました。とんとことんの人たちが身を削って助けに来てくれた姿を見て、「この人たちは信用して良いんだ」と思えたんだろうなって。とんとことんメンバーに対して自分も愛着が湧いて大好きになりました。
──近藤さん自身も。
近藤:人間らしさを感じたんですよね。嵐子の誕生日を祝うために食費を切り詰めていることにも、愛を感じて。この作品に新たな魅力が加わったなと思いました。めちゃくちゃ安心もしましたし、視聴者の方もとんとことんのメンバーの好感度が上がったんじゃないかなと(笑)。
──ところで、第5話でトマトジュースの樽に入れられたときにいた羊ってなんだったんですかね……?
近藤:可愛いですよね! 私も「なんで羊を放り込む必要があったんだろう?」って思ってたんですけど……きっと、上がってこないように頭に乗っていたんじゃないかなと。あの羊ちゃんがどうなったのかが気になっています。無事であることを願います(笑)。
石見:重りみたいな感じ!?(笑)
近藤:そうなのかなと。薫子さんが何人か殺していることを匂わせていたので、もしかしたら重りがないと確実に死なないのかなと……。
──そう考えると、あのかわいい羊がこわい……!
自分に近づけて役を演じる
──石見さんがこれまでのお話の中で印象に残っている場面というと、やはり第6話でしょうか。
石見:そうですね。私は第6話です。アフレコが分散収録なので他の方たちの収録を見られていなくて。だから自分が演じたところが印象に残っているんです。その中でも第6話は喉を枯らして帰りました。全力で戦って、全力で死にました(笑)。だからねるらちゃん的には第6話だったのかなと。
──喉を枯らすってすごいですね。
石見:あまりないですよね。でも楽しかったです。日常を生きていて、人を殺したいと思うことってないじゃないですか(笑)。人によるのかもしれないですけど、私はそういう感情を抱いたことがなかったので、ドラマや映画で「これが怒りか……」「泥臭い感情か……」と思いながら学んでいるんです。それを出せたのが嬉しかったですね。また、スタッフさんも妥協せずに粘ってくれて。今この瞬間をどうにか生きて戦うことに、全部の気持ちを持っていくことができました。お芝居していて楽しかったですね。
近藤:第6話は石見さんと一緒にアフレコさせてもらっていたんです。それまでのほんわかしたねるらちゃんからは想像がつかないような、立ち向かっていく叫びが衝撃的で鳥肌が立ちました。なごみ的には、自分と近い存在の子が戦う姿を見て混乱していたんじゃないかなと思います。でも「助けに行かなきゃ!」って言ったものの何もできなくて。
それで愛美さんに「泣いとるだけでなんもせん。おどりゃホンマにメイドか?」という言葉にショックを受けて。今までのなごみは人間らしさというか……自分なりの正義感を内側で燃やしながら生きてきましたが、ねるらちゃんがメイドの信念を燃やして戦う姿を見て、ねるらちゃんのように自分の信念を貫かなきゃと思ったんじゃないかなと。第6話があったからこその、なごみの成長がこれからの話でも見られると思います。
──今日のお話を聞きながら、近藤さん自身もなごみちゃんに感情移入していらっしゃるなと思いました。
近藤:私は役を自分に引き寄せてしまうタイプなんです。歩み寄るタイプの声優さんもいらっしゃると思うんですけど、私は自分の経験をリンクさせて感情を作っていきます。
──石見さんはどうですか?
石見:どうだろう? 考えたこともなかったです(笑)。ただ、それこそ私も、若い頃は自分に似た役をいただくことが多かったので、等身大で演じていたんです。でも最近は全然違う役柄を演じる機会が増えてきて。自分の中にない感情の場合は考えたり、映像作品を見て学んだりしています。
私は気持ちで演じたいタイプなんです。時には表現が必要になるお仕事ではあるんですけど、時には気持ちいい音ではなくても、心の声が滲んでいるような音のほうが好きで。だから「自分がその気持ちになってから言う」というのは一貫してあります。まずは感じたままにお芝居をしてみようと。
──喜怒哀楽を表現する上ですべてが気持ちの良い音である必要はないですもんね。
石見:はい。絵が笑っていても、声は悲しそうになっても良い場合があると思うんです。お芝居は私たち(声優)だけがするものではないと過去に学んでいて。別の作品で作画の現場にお邪魔したことがあるんです。その時にお話した作画担当の方が「私も(描いているキャラクターと)同じ気持ちになって描くんです」とおっしゃっていて。そうしたら絵に感情が滲むと。
表に立つのは役者さんが多いので、キャラクターを自分が背負ってる気持ちになりがちですけど、そうじゃなくて、その役のことを考えている人も、作っている人もいっぱいいるんだなって。その中で「自分に何ができるかな」と思ったときに、そういった考えにたどり着きました。もし違う場合は、「違うよ」と軌道修正してくださる方もいらっしゃいますしね。