第8話劇中歌「ゆえに背脂は輝く」のイメージは軍歌? 歌唱しながら「何を歌っているんだろう」『アキバ冥途戦争』なごみ役・近藤玲奈さん&嵐子役・佐藤利奈さん&ゆめち役・田中美海さん&主題歌・挿入歌 音楽プロデュース・佐藤宏次さん 音楽座談会【連載第9回】
「メイド大回転」はもともとインストゥルメントの予定だった
――ではここからは佐藤さんの手がけられた楽曲について詳しく伺えればと思うのですが、そもそも『アキバ冥途戦争』のご依頼がきた時にどのような印象がありましたか?
佐藤(宏):最初の打ち合わせのときにいただいたのが、3話分くらいの最終稿ではないシナリオと、1枚絵、なんとなくの概要でした。アキバのメイドが銃を持って抗争するって「え? どういうこと?」と(笑)。竹中さん(Cygamesプロデューサー)とお仕事する時は、毎回ファーストインプレッションが「ぽかん」なんですよ。
一同:(笑)
田中:「どういうこと?」っていう(笑)。
佐藤(宏):まさにそんな感じで、だから「あ、はい」って。斬新なコンセプトだと思いました。で、「曲の話はまた後日」という感じ(笑)。
その時は、どういう曲にするかまでは考えていなくて、追って煮詰めていこうという話になりました。でもその期間はそこまで長くなかったです。歌に関しては、曲・歌い方ともに「生々しさ」「あの世界の中でやってる感」を出したいなと思っていました。
今回は曲数がそこまで多くはなかったんですけど、曲の流れるシチュエーションがちゃんと決められていたので、それに合わせて制作していこう、と。結果的に好き勝手やらせていただき、楽しかったです(笑)。
――最初に佐藤さんが作った曲はなんだったのでしょうか?
佐藤(宏):第1話の最後に流れたゆめちの歌う劇中歌「純情メイドぶっころ主KISS」です。あの界隈の定番曲、というイメージで作り始めました。あの世界のメジャーなアイドルがああいう曲を歌っていて、それぞれのお店でカバーをして流行ってる、というイメージです。
本来は歌い分けているところをゆめちはひとりで、ちょっと無理くり歌ってる感じ。設定というわけではないんですけども、僕の中でのイメージでした。
田中:なるほど〜! そういうことだったんですね!(笑) 実は「純情メイドぶっころ主KISS」は1月に録っていたんです。
――そんなにも前に録ってたとは!
佐藤(宏):ゆめち像は役が田中さんということもあって割と想像しやすかったんですよね。客の前だったらこんな感じで歌うだろうなってイメージが(スタッフの中に)あって、僕の中でも朧げながらあったんです。それで「アフレコが始まる前でも大丈夫そうだね」って。
ゆめちって普通に(店の中でなごみたちと)喋っているときと、お客さんの前で話している時・歌っている時で声やテンションが違うじゃないですか。なので、客演しているゆめちの歌い方を作っていくっていう感じでしたね。
近藤:「純情メイドぶっころ主KISS」はゆめちのエース感が出てました!
佐藤(利):うんうん!
――ゆめちならではの曲ですよね!
田中:嬉しい(笑)。「純情メイドぶっころ主KISS」を録ったときに、OPテーマを作っているという話を伺っていたんです。で、OP&EDテーマのサンプルを聴かせてもらって。(佐藤宏次さんが)「OPテーマを一番迷っていて」という話をされていたことを覚えています。
EDテーマは今と変わらず歌謡曲だったんですけど、OPテーマには声がほとんど入っていなかったので「じゃあアフレコから声を抜き取って入れるんですかね?」なんて話をしていて。で、第1話のアフレコのときにいつの間にかサビが入っていたんですよね。「あれ? こんなだったっけ?」と(笑)。
あれよあれよと、気づいたらいつの間にかみんなで歌っていました。だから私が「純情メイドぶっころ主KISS」を歌ったあとに、いろいろあったんだろうなと(笑)。
佐藤(宏):元々、OPテーマは歌ものではなくて、元々はインストゥルメントにしようという話で進めていたんです。
――えっ、そうだったんですか!? オープニングはザ・プロディジーのようなデジタルサウンドで格好良いなと思っていましたが、そうしたらサンプリングで声だけ入れる、といったイメージだったんです?
佐藤(宏):そうですね。歌というよりボイスをサンプリングしたようなイメージで。声優の皆さんからボイスの素材のようなものをいただいて、それを切り貼りして作れたら面白そうだなと思っていました。
で、気づいたら半分歌モノになるっていう(笑)。じゃあいっそのこと、歌モノにしようと。ボイス部分もOP楽曲用にサンプリングでは無くレコーディングしまして、結果的にあまり聴いた事のない、不思議な曲が完成しました(笑)。
佐藤(利):お話を伺っていると、時間が一番掛かったのはOPテーマだったということですか?
佐藤(宏):そうなんです。いろいろな要素を詰め込みすぎて……。逆に「あれを歌ってください」と唐突に言われて「皆さんどう思ったんだろう?」と気になっていたんですよ(笑)。実際どうでした?
田中:最初は仮歌さんの声が入っていたんですよね。「どなたが歌われるんだろう?」って思っていました(笑)。
佐藤(利):そうでした。歌うことを知らなかったので「パンチがある曲だなぁ」って。
近藤:まさか自分たちで歌うことになるとは。第1話のアフレコ現場で、歌唱することを知りました(笑)。でもレコーディングもすっごく楽しかったです。
佐藤(利):誰が最初に歌ったんでしたっけ?
佐藤(宏):確か近藤さんからだったような気がします。EDテーマは嵐子が歌っているので、OPテーマは主役のなごみのキーに合わせてスタートしようと思ったんです。
佐藤(利):なるほど。曲の感想をお伝えすると、私は最初のイントロが大好き過ぎるんですよ。異様な雰囲気と言いますか。「もう最高!」って思いました。もっとサンプリングされたものになるのかなと思ったのですが、みんなで楽しく歌わせてもらいました。店長とも歌えたことがうれしかった!
田中:店長がハモってくれてるっていう。
――「メイド大回転」は、もともと高垣さんは歌う予定じゃなかったと伺っています。
佐藤(利):そうなんです。最初は店長が入っていなかったのですが「みんなで歌いたいよね」って話をしていたら、(店長役の高垣)彩陽ちゃんも「歌いたい!」って。それでみんなで歌えることに(笑)。
佐藤(宏):最初は予定になかったんですけど、ほぼほぼ曲が出来上がった後に「店長が歌ってくれるらしいよ」とお聞きしたので「じゃあ、歌う箇所作りましょう!」って作り直しました。
田中:結構ギリギリで作り変えられていたんですね!
佐藤(宏):そう。そんな話を聞いてしまったら店長にも歌ってもらいたいじゃないですか(笑)。
佐藤(利):ジェーニャちゃんの部分(ロシア語)の歌詞ってどうされたんですか?
佐藤(宏):言葉の問題があって「これはどうやって翻訳するんだろう」と思っていたところ、竹中さんから本人に聞いたほうが早そうだな、と(笑)。それで(日本語歌詞をロシア語に変換したもので)サンプルをジェーニャさんから一度いただいて、それを貼り付けた状態でベースを作り、再度レコーディングで歌ってもらいました。
――さきほど近藤さんからレコーディングも楽しかったというお話がありましたが、「メイド大回転」の収録はいかがでしたか?
田中:「おかえりなさいませ」とたくさん言いました(笑)。
近藤:アニメ本編でも何度も言ってますけど、たくさん言いましたね(笑)。
田中:確か、ゆめちはものすごく低いバージョンも録った記憶が……。
佐藤(宏):そこは2コーラス目に入っています(笑)。結構聴こえるよ。
田中:あと、無のロボットバージョンとかも録りましたね。ゆめちだけかと思いきや、なごみも一緒に(笑)。
近藤:いろいろなパターンで録音しました。塩対応っぽい言い方とか。
佐藤(宏):一応、いろいろなパターンを録ったんですよ。その後、どう組んでいこうかなというところで悩みましたけども。無表情の声を入れて、試しながらという感じでしたね。
――佐藤さんとしては手応えを感じられました?
佐藤(宏):久しぶりに攻めた曲になったなと思っています。でもみんなにどう思われるか、今(アニメ公開前)は不安でいっぱいです(笑)。
田中:攻め攻めですよ(笑)。
佐藤(利):すごく癖になる曲です。
近藤:そう思います!