『アキバ冥途戦争』を通して伝えたかったクリエイター陣のメッセージとは? 増井壮一監督、シリーズ構成・比企能博さん、Cygamesプロデューサー・竹中信広さん、P.A.WORKSプロデューサー・辻充仁さん スタッフ座談会【連載最終回】
先日、ついに最終回を迎えたTVアニメ『アキバ冥途戦争』。意外な(?)結末に、様々な受け止め方をしたかと思います。きっと皆さん、様々な考察をされている最中なのではないでしょうか。
連載インタビューの最終回として、増井壮一監督、シリーズ構成・比企能博さん、竹中信広プロデューサー、P.A.WORKSプロデューサー・辻充仁さんによるスタッフ座談会をお届けします。今だから明かせる話、作品の設定など、制作秘話が盛りだくさんです。
また、本連載は今回で最終回となります。それぞれの回にご参加いただいた声優・スタッフの皆さま、インタビューの更新を楽しみにしてくださっていたご主人さま・お嬢さま、ありがとうございました!
目標は「100人のうち1人を泣かせたい」
──皆さんには、連載の第3回にも登場していただきましたが、今回はあの時お話できなかったことについてもいろいろと伺いたく思います!
Cygames 竹中信広プロデューサー(以下、竹中):やっとNGなしでいろいろな話ができますね(笑)。前回(連載第3回)の時は、お話できなかったことも多かったので、少し歯切れの悪い感じになってしまったのですが……。
P.A.WORKS 辻充仁プロデューサー(以下、辻):とは言え、(インタビュー時点で)制作はまだ終わってないんですけどね。明後日終わる予定です(笑)。
──そんなタイミングで恐縮なのですが、まず一段落ついたご感想をお願いします!
増井壮一監督(以下、増井):作っている身からすると楽しい仕事でした。やりたいことができたというか。……どういうニーズがあるのかはわからないですけど。
一同:(笑)
増井:作り手みんなが面白がってるのは、一番大事なことなんじゃないかなと思っているんです。作業中もみんな「楽しい」と言っていました。そういう作品ってわりと珍しいなと思っていたので、貴重だなと。
シリーズ構成・比企能博さん(以下、比企):僕も楽しかったです。最終話の「メイドに銃とかいらなくないですか?」というなごみの言葉が気に入っています。あの場面は、ある種、第1話からずっと築き上げてきた世界をなごみの一言がぶっ壊す……というものだと思っていて。そこの落ち着きが個人的には気に入っていますね。
竹中:最終話の脚本時点では「これで本当に終わるのか」という不安を抱えていました。もちろん決定稿を出しているわけですけど。
でも最終話のダビングを見て「これは終わらせることができるな」と思ったんですよね。そこからは「この作品を最後までみんなに見てもらいたいな」という気持ちに変わりました。でも先ほど、監督がおっしゃった通り、誰にニーズがあるのかは分からなくて(笑)。でも僕にはニーズがありましたので。僕が本当に見たかったものが、最終話で見られた満足感があります。
増井:そういう意味では、僕も「100人のうち1人を泣かせたい」という気持ちでやっていました。目標でもあります。
竹中:100人に1人かなぁ。もっといる気がする。何度も同じフィルムを見てますけど、毎回うるうるします。
辻:でも僕も「納得して終われるのかな」とはずっと思っていました。出来上がるまでは見えなかったんですけど、最終フィルムがほぼ出来て、メイドってなんぞや、という場面の映像もついて「ちゃんと終わったな」と手応えを感じました。それでいて、自分も感動できて。V編中は涙ぐみながら見ていました。だから自分の中では、満足の終わりです。
ところでオーラスのカットのなごみの化粧の濃さは、監督のイメージなんですか? ちょっと気になって。
増井:お化粧周りは仁井(学)さん(キャラクターデザイン・総作画監督)にお任せしました。まあ年頃ですし。
辻:年齢感は出てましたね。口紅は嵐子に合わせているのかなと。でもちょっと「濃いなあ」って(笑)。これは監督に確認しないと、と思っていました。
竹中:本当の最終確認(笑)。
増井:僕がこだわったのは髪型。 なんとなく、偶然美千代さんに似ている雰囲気にしたいなと思いました。前髪をちょっと分けているんですよね。なぜか美千代さんを思い出すというか。
髪の毛の色で言うと、嵐子と凪はブルー系なんですけど、なごみと美千代さんは赤系の髪にしているんです。ふたりは会ったことがないんですけど、世代を超えて、同じ系統の印象にしたいなと思っていました。
竹中:なるほど。
──放送が終わった今だからこそ言える裏話は他にもありますか?
辻:凪は最後まで死ぬ、死なない、とかいろいろ話しましたよね。コンテでは監督が殺していたんですけど。
竹中:監督が急に「凪、殺しちゃいました」と。
一同:(笑)
竹中:それで内容を見たら、まさかの竹槍。「なんじゃこりゃー!」って(笑)。
──凪は当初、死ぬ予定ではなかった?
増井:シナリオではビルから銃声が聞こえて終わり、という流れだったんです。シナリオ会議の時に「このあと僕、コンテを書きますけど、変わってたらすみません」という話をしました(笑)。
──そこは監督のこだわりだったんです?
増井:いやぁ、止められなくなってしまったんですよ。
一同:(爆笑)
増井:「絶対こうしたい」と思ってしまったら戻れない。
辻:シナリオの話で言うと……Cパートには15年後が出る、とは書いてあって。でもその世界がどう変わっているかが分からなかったんですよね。もしかしたら凪もまだいるメイドの世界かもしれない。でも個人的には、そういうのモヤモヤしてしまうんですよ。凪がいるということは、まだ暴力をやってるメイドさんたちがいるのかなと。でも監督が殺してくれたのでスッキリしています。
比企:最後になごみが車椅子に乗っている場面があって。でもお話が暗くなってしまうのは……と思っていたら「車椅子でくるくる回ってるのが良いんじゃない?」って。たくさんシールを張って、可愛い感じにすれば明るく見えるんじゃないかなと。
増井:あれは自分の願望を込めているんです。車椅子にも抵抗がない時代になってほしいなと思っていて。
僕も近所で、車椅子で移動されている方をよく見かけます。車椅子のアイドルもいる時代だし、車椅子のメイドがいたっていいじゃんって。「あり」「なし」関係なく、いろいろな人が認められる世界が良いんじゃないかなと思っていました。
竹中:その気持ちは伝わってきました。
──最終話のダビングのときに、ちょうどこの連載のインタビューがあって。ダビングの映像を嵐子役の佐藤利奈さんと一緒に見させていただいたのですが、佐藤さんは笑いつつも感極まっている様子でした。
竹中:100人に1人がそこにいた!
一同:(笑)
増井:キャストがそういう反応をしてくれるのは嬉しいですね。
──その直前のお話にはなりますが、嵐子が死ぬとは思っていなかったのでビックリしました。
増井:あの辺、比企さんはどう思っていたんです?
比企:僕は絶対に殺したかったんですよ。
辻:(笑)
比企:僕は“居場所”がテーマの作品だと思っていました。嵐子は居場所を守ってはいるんですけど、(他の人の)居場所を奪ってもいる。だから殺したいなとは思っていましたが、プロットが通るかはドキドキだったんです。でも「嵐子を軸とした続きは作れなくなるけど、面白いからそれでいきましょう」と皆さん言ってくれました。
──キャストの皆さんからは「人を殺したことによる因果応報じゃないか」というお話があがっていました。
比企:それもあるにはあるんですけど……第1話に登場したチュキチュキつきちゃんも、誰かにとっての居場所である。それを描きたいと思っていたので、自分の中では誰に殺されるかはこだわっています。
それと個人的な趣味ではあるんですけど、最終回を2回作りたいと思っていたんです。第11話は嵐子、第12話はなごみの最終回というイメージで作っていました。
増井:僕としては、そこでつきちゃんの残党を出したところが面白いなと思っていました。