なぜ、青山吉能はファンへ目標を発信しないのか。1stアルバム「la valigia」のリリースを記念して色々と訊いてみた
新しい青山吉能の魅せ方
――そうだ。アルバムのタイトルは元々違うものだったんですよね?
青山:そうなんです。私がアルバムを出すならこのタイトルって決めていた漢字のタイトルがあったんです。
ただ、ジャケットだったりその他の曲を収録したりする中で気持ちが変わっていきました。「STEP&CLAP」は2023年1月に完成してるんですけど「こういう曲もはいるのか!」って気づいて、いい意味で変化していきました。
後は、ジャケットの仕上がりを見ると、漢字のタイトルが合わないなと思っていたので、もう一回、考えようかなと。それでイタリア語のタイトルになりました。
――イタリア語ってこれまでの青山さんに対するイメージとはまた違うものですよね。
青山:そうですよね?私はイタリアに行ったこともないですし。でも、合唱部の時に日本語よりもラテン語やイタリア語の曲をよく歌っていたんです。課題曲で多いんですよ。
逆に英語のほうが親しみが無いくらい。言葉としてイタリア語のほうが馴染みがあったんです。
――ここにも青山さんのルーツがあったわけですね。
青山:「la valigia」はイタリア語で「スーツケース」とか「旅支度」って意味があるんですけど...。
そうだなぁ。例えば、英語で「Trip」とかにすると何か「全部わかっちゃいました!」ってなりそうじゃないですか?
――確かに。「Trip」と言われたら印象がかなり違いますね。
青山:「la valigia」と言えばこのアルバムだよね、くらいになってくれた方がいいなって。元々考えていたタイトルを外国語にしていく過程でこうなった感じです。
――なるほど。そういえば、「la valigia」はジャケット写真の表情も今までとは違う印象でした。
青山:はい、私は選ばないですね。寝てるカットとか盛れてないだろうなと思っていたんですが、意外と可愛くてジャケットにまでなりました。
――ショートパンツの写真も珍しいですよね。
青山:そうなんですよ。今回、「Page」からお任せしているスタイリストさんにご担当いただいています。このスタイリストさんもファッション誌やCMを多くやられている方で、キャラクターも凄く個性的な方で。声優さんの現場では珍しい方だと思います。
だからよかった。改めてですけど、スタイリストってめっちゃ大事なんだなって思いました。私は歌さえ歌えればいいと思っていたので、ジャケットは気にしてなかったんですけど、そんなことなかった(笑)。
――制作をしていく内に改めて大切さに気づいた、と。
青山:すべてが整って良い作品ができるんだなと思いました。やりたいようにやっているとは言いつつ、その裏で多くの人が関わってくださっている。この取材だってそうですもんね。当たり前じゃないよなっていつも思います。
――...本当にテイチクさんに所属してよかったですね。
青山:急にどうしたんですか(笑)?
――青山さんにもこれまでの歴史があるじゃないですか。例えば、馴染みのあるクリエイター陣やスタッフを起用して...という選択もあったと思うんですよ。ただ、それだといわゆる「これまでの青山さんらしさ感のあるいいもの」ができるとは思いますが、今回のような全く新しい青山さんが表現できるかというと、また違っただろうなと。
青山:確かに!
テイチクレコード宣伝担当:でも、これまでのファンの方がどう思うのか慎重に考えて、青山さんの新しい部分を表現することは意識しましたね。なので、従来のファンの方にもいいと言ってもらえると嬉しいです。
――補足ありがとうございます!
青山:何を持って新しいとするのか難しいんですけどね。私、性格もノスタルジーで、昔のモノこそいいみたいな思ってしまいがちなんですけど。
今回はスタッフの方もほぼ「はじめましての方」ばかりでしたし、曲の作り方もアーティストとして作るってこんな感じなんだなって新鮮でした。
いい意味でお互いのことを知らなかったからこそ、知らなかった魅力が生まれてたのかなって思います。
――ビジュアルだけではなく、アルバムに収録されている楽曲の曲調もそうですよね。
青山:そうですね。それこそ今の活動がなければ、シティ・ポップには出会わなかったと思いますし。私は、ボカロやアニソンっぽい曲やコード進行が好きなので、楽曲も私だけで判断していたら、そういう音楽が中心だったと思います。
でも、今それをやらないっていうか、この青山吉能のプロジェクトでそれをやる必要が果たしてあるのかとも思う。それこそ任せて良かったなと思いますね。
このアルバムを聞くことでみんな幸せになってほしい
――これまでの活動と、ソロアーティストとしての青山さんはちょっと雰囲気が違う感じがあって。でも、そこがいいと思っていたんですよね。ソロアーティストの活動から青山さんを知った方からすると、これがスタンダードになりますし。
青山:私にとっても新しい自分です。私が知っている昔からの私を表現すると、「濃すぎる」かなとも思います。新しい人が聞いた時に、「この味噌汁、濃すぎるよ〜」って(笑)。
でも、応援してくれる方はその味が変わっても「これも美味しいな」って言ってくれるって信頼しています。
逆に私のことも、ファンの皆さんは信頼してくれていると思うんです。だからこそ、新しく私を知ってくれる方が純粋に「美味しい!」って思ってほしい。
なのでこの新しさは良いスパイスになったと思います。そればっかりは「la valigia」が発売する3月8日にならないと分からないですけどね。
――きっといい反応が返ってくると思いますよ。これまでもこれからも愛してくださる方々が青山さんに求めているものってなんだと思いますか?
青山:私が元気に生きてる事?これめっちゃ求められる。
――それは大事ですね。
青山:これって、私がファンの方に強く求めているものでもあります。なんか似るって言いませんか?こういうの(笑)。
私もみんなに元気で幸せに生きて欲しいって思っていて。最近、私のことを気にしてくれている人も、ぜひ幸せになってほしい。青山吉能に関わった人が何らかの形で幸せになれるような人で在りたいと思っています。
このアルバムを聞くことでみんな幸せになってほしい。なんか述語デカ!(笑)
特定の誰かを喜ばせることってできる自信があるんですけど、みんなを楽しませるのは難しい。ライブでも最前列だけ楽しいみたいな状況は絶対嫌なんです。
後ろの席でも楽しくなってもらうにはどうしたら良いんだろうって考えるタイプなので。正直今の状況を寂しいって思う方もいるんじゃないかなと思うんです。
でも、みんなが絶対に幸せになるために、っていうのを考えて今後もやっていきたいですね。
――寂しい、と。
青山:私たちだけのよっぴーだったのに……って思っている人もいるし、最近知って曲もめっちゃいいじゃん!って言ってくれる人もいる。どちらも私にとって大切な愛すべきファンです。
新規とか古参とか私は関係ないと思っていますけど、深さがありますよね。かけてきた時間や重さに対しては真摯にお返ししたいと思うし、新規の方にはもっともっと気軽においでよ〜って言える人でありたいです。
誰かだけを大事にするっていうのはその他を不幸にするのと同じことだと思うので、もっとみんなが幸せになってほしいと思います。やばい、何言ってるのかわからなくなっちゃったな。
――青山さんらしいですね。きっとファンの方に伝わりますよ。...やっぱりこの話をさせて下さい。2022年後半から、青山さんに対する注目度が凄く上がっているじゃないですか?それによっていろんな変化を感じることもあると思うんです。
青山:環境や状況が変わっているのは感じています。
周りの環境が変わることによって色んな人も変わるじゃないですか。「青山吉能と出会った」という変化、「青山吉能が人気になった」という変化を持つ人。
でも私は何も変わっていない。住むところも金銭感覚もそうだし(笑)。私だけ置いていかれてるような感覚があったりします。
――寂しさを感じることもありますか?これには、ポジティブな意味もネガティブな意味もあると思うんですけど。
青山:私は変わっていないのに、みんなが変わっていくというか。青山吉能が遠くなっちゃった...と思う人もいれば、好きになった人もいる。私を置いていくな!という気持ちは正直あります。
コラム(アニメイトタイムズで連載中の青山吉能「みずいろPlace」)でも度々書いていることではありますが。
――最近はそういうお話が多い印象でした。2022年の秋以降、怒涛の時間だったと思うので変わっている部分もあるのかなと思って取材に来ました。
青山:変わってないですよね?
――全然変わってません(笑)。
青山:やっぱり(笑)。いつでも入ってこれるというか、久しぶりに青山吉能の名前を見たな、って人もこのアルバムからまた好きになってほしい。髪型以外何も変わってないから、安心してもらえる気がします。
アーティスト面では新しい事を追求しているので、青山さんはボカロとかアニソンとかもうやらないんだなって思う方もいるかもしれませんが、これはこれでとっても良いな、よくよく聞いたら変わってないなと感じて欲しい。
リード曲の「透明人間」なんて青山吉能の塊みたいな曲ですし。みんなが幸せになるなら、私から離れるのも戻ってくるのも良いことだと思います。
――いい意味で変わらない中で、今の青山さんを芝居や歌に込めていくのが役者やアーティストだと思います。今後どのような表現に挑戦したいですか?今回のアルバムを経て、やってみたいことだったり。
青山:まず、自分名義の曲がこれだけあるのが初めてなんですよね。これまではカバー曲が多くて、他の人が作り上げた完成品をお借りして...というライブだったので。次のライブはほぼ自分の曲で作ることができて、それが初めての体験。
まだまだ初めてがあるということに、ワクワクしているし不安もあります。
カバーのライブは何回もやってきたから、この曲を披露したらみんな腰抜かすだろうな、とかわかるんですけど、全部自分の曲だから色々考えます。正解が音源として残ったりもするので、ライブよりも音源のほうがいいなって思われたりしないかな?とか。
ワクワクと不安が二律背反な感じで生きてますね。
――青山さんってご自身のライブを見返したりしますか?
青山:絶対しないです。もう写真のチェックとか鬱ですもん。
――青山さんはCDもいいですけど、個人的にはライブの方がいいですよ?言われたりしませんか?
青山:言われたことありますけど、ライブ音源とかリハ音源聞くと本当に死にたくなる(笑)。でも、ライブって正解の音源を聞きに来てるわけじゃないじゃないですか。
ギターやキーボードのメロだったり、ドラムやベースの迫力ある音だったり。会場の高揚感。足も自然と動いちゃうしみたいな体験。ライブって体験だからそれ込みで楽しい。私ももちろんそれを楽しんでる部分もあるので。
だから配信ライブって意外と苦手なんですよね。配信は少し冷静になってしまうじゃないですか。
――確かにそれはあると思いますね
青山:配信で現場にしかないあの空気感を体験するのってなかなか難しいじゃないですか。そういう意味では配信と現地は平等じゃないですよね。現地を大事にしていきたい...。
でも配信があるから、現地には来れない方だったり、海外からでも応援できるっていうのもあるから一概に否定できないですよね。
配信されるからこそ生まれるメリットがたくさんあります。なので、これからも自分の中で噛み砕いて「配信の意味」を理解したいです。配信でやることの意義をちゃんと自分の中で納得した上で今後もやっていきたいです。
――ありがとうございます。それでは最後に、今後アーティストの青山さんとして成し遂げたい事はありますか?...青山さんがそういうタイプではないって分かってますけど。
青山:とりあえず聞いとこうって感じですか?
――と言うよりも、分かりやすい目標、いわば点を打つことによって応援の仕方も変わるじゃないですか? 例えば武道館でライブをする。これを目標にすると、それに合わせてファンも盛り上がるし応援したくなると思います。そういった意味で、アーティストとしてその点を打つのは大切なのでは?と思っていたりします。
青山:なるほど。そういう意味ですね。どうして私が目標を言わないかって言うと、それを達成しないといけないという責任を私だけじゃなくて、ファンのみんなが負うことが心苦しすぎるんですよ。
例えば、私がこのアルバムでランキング1位取りたいです、とか○○万枚売りたいですって言うとするじゃないですか。そうすると、ファンの方が「頑張んなきゃ...」ってなる、それが辛い。
よく生きてるだけで偉いよって言いますけど、私のことを好きになってくれただけで素晴らしいのにそんな事を強いれない。絶対にイヤ。
私はこのアーティスト活動だったり、昨年末からの注目のされ方なんて予想してなかった。点を打っておけばよかったって思うくらい(笑)「Twitterのフォロワー10万人行きます!」とか言っときゃよかったって。
でも、フォロワー数なんて気にしたこと1ミリもないし...。
――そんな感じですよね。
青山:このアーティスト活動って私がやりたい歌をやるためだけにあるものなんですよ。
今後も歌いたい楽曲や、歌いたい気持ちが芽生えたらやるっていうスタンスを崩さない。これが目標ですね。後は、みなさんが健やかに幸せに生きて欲しいなと私は思います。
[取材・川野優希]
2023年3月8日(水) 1st ALBUM「la valigia」(ラ ヴァリージァ)発売情報
通常盤 品番:TECI-1797 定価 税込3,300
1.Sunday 作詞・作曲・編曲:馬瀬みさき
2.あやめ色の夏に 作詞・作曲・編曲 : 永塚健登
3.moshi moshi 作詞:雨野どんぐり・青山吉能 / 作曲・編曲:宮原康平
4.Mandala 作詞作曲:矢吹香那 / 編曲:前口ワタル
5.My Tale 作詞:タイラヨオ / 作曲・編曲:hisakuni
6.ツギハギ 作詞・作曲・編曲:トミタカズキ
7.Sweetly Lullaby 作詞・作曲・編曲:馬瀬みさき
8.STEP&CLAP 作詞:渡邊亜希子 / 作曲・編曲:小幡康裕
9.透明人間 作詞・作曲:ヒグチアイ 編曲:木原良輔
10.Page 作詞:青山吉能 / 作曲:矢吹香那 / 編曲:前口ワタル
パッケージ版ボーナストラック:たび 作詞:青山吉能 / 作曲:野田晶子
アニメイト限定盤
品番:TEI-286
価格:税込4,400
内容:通常盤(TECI-1797)+バンドルCD-R(TEI-283)
バンドルCD-R収録内容:
・通常盤収録曲inst ver.10曲
・Special track(アニメイトver.)
ゲーマーズ限定盤
品番:TEI-287
価格:税込4,400
内容:通常盤(TECI-1797)+バンドルCD-R(TEI-284)
バンドルCD-R収録内容:
・通常盤収録曲inst ver.10曲
・Special track(ゲーマーズver.)