『スプリガン』地上波放送記念! 原作者・たかしげ宙さん、皆川亮二さんによる約6000文字のスペシャル対談インタビューが全文公開!
2022年にNetflixシリーズとして配信され、2023年7月からは TOKYO MX、メ~テレにて地上波初放送となるアニメ『スプリガン』。
これを記念して、たかしげ宙さん(原作)と皆川亮二さん(作画)による、原作の連載に至るまでの秘話や、制作プロセス、キャラクター誕生の裏話、アニメシリーズへの感想、アフレコ時のエピソードなどが語られた、約6000文字のインタビューが公開となりました。
『スプリガン』原作者スペシャル対談インタビュー
原作者:たかしげ宙×皆川亮二
1989年から1996年にかけて連載され、今なお名作として語り継がれている漫画『スプリガン』。古代文明やオーパーツといったロマン溢れる舞台設定と主人公の御神苗優をはじめとしたキャラクターの造形。その魅力は完結から四半世紀を経た今もまったく色褪せていない。昨年には初のアニメシリーズ化、Netflixで配信されるや否や、リアルタイマーから新たに本作と出会ったファンまでが熱く支持。その追い風を受けて、このたび2023年7月からはTOKYO MXとメ~テレでの放送も決定した。それを記念して、原作・たかしげ宙と作画・皆川亮二の対談が実現。連載当時のエピソードや、今回のアニメを観ての感想を語ってもらった。
――改めて『スプリガン』が描かれた当時のことを伺いたいんですが、連載開始が1989年でしたね。
たかしげ:ちょっと前に初代担当の方が当時をまとめたものがSNSに上がっていて、自分もそれを見て再確認したんですけど、最初に自分が原稿を持ち込んだんですよ。そのとき彼(皆川) は別に漫画を描いていて。
皆川:そう、だから僕は『スプリガン』をやることをまったく知らなかったんです。
たかしげ:担当編集者も違ったからね。
皆川:僕は当時、高校の同級生でもある神崎将臣先生の手伝いをしていたんですね。そのときに『サンデー』の編集者の方に「描いてみな」って言われたんですよ。たぶん深い意味はない、リップサービスのようなものだったと思うんですけど、僕は本気で捉えて必死になって描いたんです。その『HEAVEN』という作品がデビュー作になったんですけど、そこからいつの間にか『スプリガン』をやるという話になって。
たかしげ:脚本を持っていったときに担当編集Kさんが「ちょっと描かせたい人がいるから」と言っていたんですよね。それが彼だったんです。「おそらく次に入選するから、そうしたらこれをやらせるから」って。「やらせるから」って言いましたからね(笑)
――ご本人のまったく知らないところで(笑)
たかしげ:担当編集Kさんは前の担当さんに「この子はちょっと出したいのがあるから俺にやらせてくれ」と要求して代わってもらったらしいです。それから半年ぐらいかかって1989年の2月に連載がスタートしました。手塚治虫先生が亡くなった翌日だったので、よく覚えています。
皆川:僕はその前の夏ぐらいにデビューしていたんですけど、その頃に担当さんが挨拶に来いっていうから行ったら、いきなり『スプリガン』の原作を渡されて「おまえはこれを描きなさい」って。新人なので断れないじゃないですか(笑) 「わかりました」って言ってやるしかなかった。
たかしげ:だから、『スプリガン』が始まってからも彼とはしばらく面識なかったんですよ。初めて会ったのは連載が始まって半年ぐらい経ってから。
皆川:忘年会のときでしたね。
たかしげ:会ってみたら同い年だし、好きなものも大体重なっていたので話が合って。それからは仲良くやらせてもらいました。
――たかしげ先生が最初に持ち込んだ原稿の時点で、世に出た『スプリガン』の大枠はできあがっていたんですか?
たかしげ:そうですね。もう出所がインディ・ジョーンズの『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』のラストシーンなんで。いっぱい宝物が重なっているんですけど、あれが全部危ないものだったら大変だなと思ったところからの発想だったんです。そこに、現代劇だから現代性を取り入れたほうがいいのかなと思って、ああいうフォーマットになっていきました。
皆川:僕も原作を読んだときに「これは絶対に『レイダース』が好きなやつが書いてるんだろうな」と思いました。僕もスピルバーグが大好きで、スピルバーグの映画の影響で漫画を描いていた感じだったので、これはもしかしたら話が合うやつかもしれないと思っていましたね。
――改めて読み返してみると、インディ・ジョーンズ的な冒険活劇の側面と同時に、当時の世相や社会情勢も投影されていますけど、これは?
たかしげ:そういうのは彼(皆川)が大好きだったんです。そういうの入れようよって。
皆川:若気の至りですね(笑) なんか世の中に対して怒っていたんでしょうね。『朝まで生テレビ』とか観ながら、アホみたいにとんがってた。
たかしげ:そういうものをちょっと入れるのは別に自分も嫌いじゃないんですけど、彼が「学歴社会を入れようぜ」とか言ってくるんで、「わかった、ちょっと考えてみる」とか言って。
皆川:ごめんなさい(笑)
たかしげ:謝らないでくれ、それなりに何とかなったから(笑)
――それが『スプリガン』という作品を多面的なものにしたところはありますよね。
たかしげ:そうそう。我ながら言われて書いたわりによくできたなと思ってたし。
皆川:今読むと「恥ずかしい!」ってなるんですけどね。
――連載開始当初はお互い顔を合わせないままに作っていたわけですよね、それはどういうプロセスだったんですか?
たかしげ:最初は自分が書いたものを担当がチェックして皆川さんに回すっていう形だったんですけど、仲良くなってからはダイレクトに要求が来たり、今みたいに「こういうのやらない?」って言ってきたり。そういう彼の要求を受けて、やり取りをしつつ転がしていきましたね。
皆川:最初担当のKさんに「とにかく面白くしろ」って言われて。それが一番難しかったですね。さっき話したとおり、デビューするまで僕は漫画を一本ちゃんと描いたことがなかったんですよ。まったく漫画のことを知らなかったから、イチから基礎を叩き込まれましたね。今思うとそこで育ててもらえたことはありがたかったなと思います。最初の「炎蛇の章」のときはまだたかしげさんに会っていなかったので、とにかく怒られながらやっていた印象があります。
たかしげ:でも実際に会うようになってからはだんだんうまくいくようになって、「狂戦士(バーサーカー)の章」ぐらいからは本当にスムーズに進むようになったと思います。
――主人公の優をはじめ人物造形とかキャラクター設定も『スプリガン』の大きな魅力だと思うのですが、ああしたキャラクターはどのように生まれていったんですか?
たかしげ:基本は自分のほうで考えましたけど、キャラの肉付けは皆川さんがやってくれました。
皆川:僕は漫画のキャラクターの作り方もよくわかっていなかったので、自分の好きな漫画のキャラクターを思い浮かべながら描いていましたね。望月三起也先生が大好きなんですけど、望月作品に出てくるキャラクターみたいなかっこいいキャラを描こうと思って描いていたら、そしたらいつの間にかキャラクターができていった。
たかしげ:自分も望月三起也というイメージはありました。高校生とかがヒーローになるっていうのも望月先生はやっていたので。
皆川:それでいろいろなキャラクターがどんどんできていったら、今度は「こういうキャラクターが欲しいよね」というのも出てきて。そうやってどんどん増えていきましたね。
――とくに思い入れのあるキャラクターっていうと誰になりますか?
たかしげ:当時の会話ですけど、「帰らずの森篇」で暁巌というキャラクターを出したんですけど、あれは意外と適当だったんですよ、こっちとしては。こういうタイプのこういう位置づけのキャラクターがいないと成り立たないよなっていうことで入れたんだけど、上がってきた原稿を見たらいいキャラクターになっていて。
皆川:キャラクターって物語の中でどんどん育っていっちゃうんです。そういう意味では僕は染井芳乃とかは大好きでした。唯一いつも出ている女の子として、描いていて楽しかったですね。
――芳乃も暁も、本当に最後の最後まで重要な役回りを担うキャラクターになりましたよね。
皆川:なんだかんだそうなっちゃいましたよね。そこで消えると思っていたら、思いのほか最後まで残っちゃった。
たかしげ:いいキャラだったのでまた出したっていうのもあるんですよ。
皆川:ボー・ブランシェなんて、絶対に使い捨てキャラだと思っていたのに、描いてみたら思いのほか面白かった(笑)漫画ってそうやってできていくんですよ。逆に御神苗優がいちばん描きにくかったですね。描けば描くほどサブキャラが育っていっちゃって、思い入れも強くなっていくので、だんだん御神苗が蔑ろになっていってしまう。「どうするかな」と思って十字架みたいなものを背負わせたりするんだけど、そういうことをやっていると御神苗というキャラがどんどん暗くなっていっちゃって。そこは難しかったですね。
たかしげ:でも逆に、周りが極端だから真ん中にいりゃいいやって作り方をしてたところもあって。他の漫画でもよくあるけど、サブキャラの方が個性的だから主人公がキャラ多角形フレームの真ん中にいるっていう。そういう作り方をしていたつもりです。
――そこから時を経て今回アニメシリーズ化されたわけですが、その前1998年には劇場版『スプリガン』が公開されました。あの作品に対してはおふたりはどんな印象を持っていましたか?
たかしげ:いや、あれは「すごい」以外に何がある!?っていう話なので(笑)
皆川:ただ、最後に打ち合わせをしてからだいぶ時間が経ってからの公開だったので、忘れた頃にできあがったっていう感じだったんですよ。
たかしげ:だから当時から「これはきっとドッキリカメラで騙されているに違いない!」って言っていたんですよ(笑)
皆川:できましたって言われてびっくりして、実際に観てさらにびっくりして。
たかしげ:そこからまただいぶ時間が経って今回のアニメ化だったので、それもびっくりしました。でも今回のアニメはあの劇場版とはまったく違うところに重点を置いているので、また違う面白さがありますよね。
皆川:僕も今回のアニメはずっと観ていましたね。
たかしげ:毎日2周するくらい観ましたから(笑)
――今回のアニメシリーズは原作のエンタテインメントとしての盛り上がり方やテンポ感、スピード感みたいなものがよく表現されている感じがしました。
たかしげ:これ、友達や作家さんみんなから言われるんですけど、内容的には原作から結構変わっている部分があるのに、観終わった後の感覚が漫画の読後感とかと変わらないって。それがすごいって言ってもらえますね。
皆川:ノリとか間の取り方がまさに一緒なんですよね。だから、よっぽど『スプリガン』を読んでくれている人が作ったんだろうなって。たぶん僕らよりも『スプリガン』に詳しいと思う(笑)
――確かにめちゃくちゃ好きな人が作った感じがしますよね。
皆川:レイアウトから何から、観ていて「こうすればよかった」って後悔する場面もありましたから。本当にすばらしいなと。
たかしげ:そういう意味では脚本家の方も好きでいてくれたらしいし、絵を描いているみなさんも結構好きな人が集まってくれたらしいので。SNSとかで「やりたい」って手を挙げていた方も何人かいらっしゃいましたからね。
皆川:だから「ありがとう」という感じですよね。僕の中では『スプリガン』って、確かに自分で作った子供なんですけど、もうとっくに大人になって結婚して独り立ちしたような感じなんですよ。その子どもが国民栄誉賞をもらったみたいな感覚がありますね。「おめでとう!」みたいな(笑)
――アニメを観たときに改めて面白いなと思ったエピソードはありますか?
たかしげ:話が面白いって言っちゃうと自分を褒めちゃうことになるのでちょっと違うんですけど、森の話は結構、絵が強かったですね。知っている人はみんな感心してる。こんなになるんだって。ある友達はプロジェクターシステムで観たときに音がちゃんと四方で動くからゾワゾワするって言っていました。怨霊に囲まれる感じ。
皆川:僕は「忘却王国」ですね。あれ、正直地味な話なんですよ。それをあんなにかっこよく作ってくれたというのは感激しましたね。あと「水晶髑髏」のボーの動きもすごかった。漫画でも確かに描きましたけど、こういう感じになるんだって。ボーがぐるぐる回っていて、朧が「いつまで回ってるつもりですか」って。「これ使ってくれたんだ」っていう(笑) 何から何まで漫画のままやってくれてるっていうのが感動的でしたね。
たかしげ:やっぱり小林寛監督のバランスの取り方がうまいんですよね。
――声優陣の演技についてはいかがですか。
皆川:僕は初回のアフレコを見学させてもらったんですけど、そこでまずみんなが台本を読むじゃないですか。それに対して音響監督から指示が出るんですけど、その時点で「これでいいじゃん」って思っていました(笑)
たかしげ:アドリブもすごかったですね。帰らずの森で芳乃が暁と「おじさん」って問答する辺りの会話があるんですけど、あれはアドリブなんです。音響監督から「適当に会話で埋めてください」の指示で、ほぼ一発であれができていたんで、すごいなと思いました。
――あのシーンは本当に芳乃と暁というキャラクターが出ていますよね。
たかしげ:そうなんですよ。「そう言うよね」っていう。リアクションもそうだよねっていう感じだったし。声優さんってすごいなって。
――劇場版に参加されたキャストの方も今回登場していますね。
たかしげ:うん、朧役の子安武人さんと、劇場版で御神苗役だった森久保祥太郎さんが参加されています。
皆川:ネタバレになっちゃうけど、森久保さんに最後にあのセリフを言わせるのも面白いですよね(笑) あれを元々主人公だった森久保さんが言うっていう。
――そのアニメが今度は地上波で放送されるということですが、その先の続きも気になります。まだまだ残っているエピソードがたくさんありますからね。
皆川:そうですね。そのためにもまずは今回、みんな観てくれたらいいなと思いますね。
――最後に、今回のアニメで『スプリガン』に出会う新しいファンに向けてメッセージをお願いします。
たかしげ:とにかく作者がいちばん喜んでいますので、とにかく観てください。観て、楽しんで、この作品を前に進ませてください。続編をいちばん楽しみにしているのは原作者ですので。一緒に楽しんでいただければ、それが何よりの喜びです。
皆川:うん、とりあえず何でもいいからパッと観てもらえたら、面白いからたぶんずっと観てくれるはずなので。とにかく観てほしい。漫画は読まなくていいから、アニメを観てくれって思います。
たかしげ:そう、アニメのほうがいい出来なので(笑)
Interviewer:小川智宏
『スプリガン』作品情報
作品名 | スプリガン |
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放送形態 | 配信 |
スケジュール | 2022年6月18日(土)~ Netflixにて全世界独占配信 【TV放送】 2023年7月7日(金)〜2023年9月22日(金) TOKYO MX・メ~テレにて |
話数 | 全6話(TV版12話) |
キャスト | 御神苗優:小林千晃 ジャン・ジャックモンド:阿座上洋平 朧:子安武人 山本所長:浜田賢二 スティーブ・H・フォスター:大塚明夫 メイゼル博士:麻生智久 マーガレット:小林沙苗 染井芳乃:伊瀬茉莉也 山菱理恵:神戸光歩 笹原初穂:河瀬茉希 笹原香穂:渡部紗弓 マリア・クレメンティ中佐:早見沙織 川原鈴子:赤﨑千夏 諸刃功一:成田剣 ヴィクトル・シュトローフ:乃村健次 マクドガル大佐:村瀬歩 リトルボーイ:岩田光央 ファットマン:間宮康弘 暁巌:細谷佳正 ボー・ブランシェ:稲田徹 ラリー・マーカスン:竹内良太 ボーマン:菅生隆之 ナレーション:増谷康紀 |
スタッフ | 原作:たかしげ宙 皆川亮二「スプリガン」(小学館「少年サンデーコミックス」刊) 監督:小林寛 副監督:三宅将平 シリーズ構成・脚本:瀬古浩司 キャラクターデザイン・総作画監督:半田修平 サブキャラクターデザイン・総作画監督:内藤直 プロダクションデザイン:JNTHED 美術監督:金子雄司 色彩設計:三笠修 佐々木梓 CG ディレクター:石井規仁 撮影監督:元木洋介 村上展之 鯨井亮 編集:三嶋章紀 音楽:岩崎太整 音響監督:長崎行男 ミキサー:小原吉男 音響効果:倉橋裕宗 白石唯果 音響制作:ダックスプロダクション 音楽制作:エイベックス・ピクチャーズ 制作:david production 製作:スプリガン Project |
主題歌 | OP:「Seeking the Truth feat. YAHZARAH」岩崎太整 ED:「Ancient Creations feat. Shing02」岩崎太整 |
公開開始年&季節 | 2022春アニメ、2023夏アニメ |
電子書籍 | 『スプリガン』電子書籍(コミック) |
(C)2021 たかしげ宙、皆川亮二・小学館/スプリガン Project
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