Never↓andへ誘われた囚人たちとの楽しい楽しい夢裁判──『MILGRAM』×『Clock over ORQUESTA』コラボレーション記念!『MILGRAM』原案者・山中拓也さん&『Clock over ORQUESTA』原作者・大河ゆのさん&プロデューサー・岡本純さんの初対談
クリエイターであるふたりが作品に向かう原動力と描きたい「愛」
──岡本さんからクリエイターは感情の導線をクリエイティブしていくもの……といったお話がありました。山中さんはものづくりに関してはどういう意識を持たれていますか?
山中:難しい質問ですね……。感情のコントロールは普段の作品では意識しているんですが『MILGRAM -ミルグラム-』に関してはライブ感のあるコンテンツなので、お客さんの存在きっかけでリアルに物語が進行していく。今までの作品作りとは使う頭が違って、すごく立体的に考える必要があるなと捉えています。お客さんを作品の登場人物にする、ということに挑戦している最中ですね。
──ものづくりにおけるおふたりの原動力に共通点はありますか?
山中:原点で言うと『Caligula -カリギュラ-』に遡ります。コンシューマーゲーム業界で自分の考えたゲームを出せる人って本当に一握りで。当時僕は28歳だったので相当恵まれていたと思います。
次に作れるチャンスなんてあるか分からなかったので、“誰かが好きかもしれないもの”という不明瞭なものよりも、自分の好きなものをつくろうと。その『Caligula -カリギュラ-』のときの発想は、今考えても理にかなっていると思っています。自分が好きなものをブレずに作れば、自分と同じ趣味の人には確実に刺さる。そういう人が数万人いれば商品として成立するという理屈ですね。その作り方で世に出てきたので、今更“みんなが好きそうなもの”は作れないと言いますか。作れないわけじゃないかもしれないけど、それは僕より向いている人がいると思うんですよね。自分の好きなものと世の中の好きなものが一致している人こそ天才ってやつだと思うんですよ。僕は残念ながらそうじゃないので。
僕の感覚に何か気付かされるものがある人、共感する人が楽しんでくれたらそれだけで幸せだなーという考えのもと、『MILGRAM -ミルグラム-』も作っています。自分が考えている怒り、疑問、不満……その中にある尊い感情……僕が好きなものや感性に共鳴してくれる人が『MILGRAM -ミルグラム-』も楽しんでくれているといいなと。
大河:すごく良いお話。それは本当に正解ですよね。私の場合、ものづくりの原点は幼少期まで遡ります。特殊な環境だったから、友達がいなかったんですよ。幼い頃から人が好すで、人恋しくて、寂しがり屋でしたから、人ばかりを見て育ってきたんです。他人に対して感じたことや、なぜ自分は人を愛しているのか、他人の行動原理はなんなのか。……人生を通して考え続けていることを、どうアウトプットするかいつも考えています。その方法が今回は楽曲と音声作品でした。
インナーチャイルドを愛していて、描きたい気持ちがあるんです。見た目は大人、心は子どもというか……育ちきれなかった子どもの心を描くために、“夢”に迷わせて、子どもの姿に変化した、というのが『Clock over ORQUESTA』。人間の弱さを描きたい、人間が成長するところを見たい……そういった気持ちが根底にあります。
山中:ああ、分かります。僕らの作品って多分ダークで少しグロテスクなイメージを持たれがちだと思うんですけど、それを描きたいわけではないんですよね。最終的に「人間とは」「愛とは」ってところを書きたいんですよね。ある意味、道徳的だと思っているんです。ダメなものはダメ、善いことは良い、人には優しくしたほうがいいし、嘘はつかないほうがいい。悪ぶるつもりもなくて、そういった当たり前を表現する過程に、ダークでグロテスクなものがあるんですよね。だから露悪的にグロいところを見せよう、奇をてらおう、こういう展開にしたら皆騒ぐかな、なんてことはまったく考えていないんですよね。
大河:そうですね。私もそうです。きっと山中さんも私も、本当に人のことが好きで、自分が愛しいと思える感情を切り取って、描いて、「一緒に愛して欲しい」と考えている。
山中さんは「愛せるやつだけついてこい」という気高いスタンス。私は「愛してください」とお願いするスタンス(笑)。その違いはあれど、描きたいものは同一のように感じています。
山中:一緒ですね。キャラクターって愛しやすい形で二次元化していますけど、そのキャラクターに思う気持ちを隣人、恋人、家族に持ってくれたら良いというか。現実を見る、変化のきっかけになってもらえたら良いなと思って作っています。
大河:人間の弱さ、間違える瞬間……そういうものが好きなんですよ。
山中:僕もそうですね。今はネットニュースでいろいろな人の失敗が出てきます。それを素直に叩く気には僕はあまりなれなくて。その人たちにこそ、そうなってしまった原因があるだろうし、と僕の場合は過剰にその背景を想像してしまうんですね。そうするとどうしても『赦し』というものに思いをふける瞬間が出てくるんですよね。それが作品作りにもつながっているのかも。
大河:すごく良いお話。
──さきほど道徳というお話がありましたが、子ども向けアニメもそうじゃないですか。根本には愛があって、それを違う形で表現しているのかなと。
山中:そうですね。それぞれの年代やファン層によって、好む見た目や味付けがあると思うので、表現方法は違うかもしれませんけど、最終的に一部クリエイターが伝えたいことって共通しているのかもしれないなと、今お話をしながら思いましたね。
大河:純粋ですよね。それを辿っていくと子ども向けアニメになっていく。それを大人向けに描いているっていう感じ。
山中:たまに検索をすると、僕の作品を好きな人が追っている作品の中に、女児向けアニメが入っていることがあるんですよね。もちろんその中に『Clock over ORQUESTA』さんもあるんですけど。同じようなメッセージを受け取ってくれているのかなと。
大河:そこに同じエッセンスを感じられる共感性の高さを持つ人たちが、作品を追いかけてくれるんでしょうね。
山中:そうですね。結構な展開のことをやっていても、ちゃんと楽しんでくれてる、っていうのはそういうユーザー層がついてくるように設計できているからなのかな、と。ある意味、お客さんを選んでしまっているかもしれないけど、ちゃんと楽しんでくれるお客さんだけが付いてきてくれて、その人にとって最高の遊び場になっているといいなと思います。
それぞれのコンテンツのタイトルの由来
──さきほどロゴの話が岡本さんから挙げられました。『Clock over ORQUESTA』もロゴにこだわられている印象があります。
山中:かっこいいですよね。
岡本:うれしいです。ロゴは看板なのでとてもこだわりました。すごく悩んだんです。私たちが作っている世界観はガツッとしているものというより、マイルド、そして不気味、神秘……そういったものを表したかったので、太いフォントでは絶対ダメだな、と。弊社には素敵なデザイナーがたくさんいるので、大量のロゴを前にコンペを行いました。
山中:そもそもタイトルが攻めてますよね。
岡本:あ、本当ですか。
山中:もっとシンプルなほうが分かりやすいんじゃないか、とか僕が会社務めであれば言われるんじゃないかなと。
岡本:当初はシンプルなものも考えたんですが……このデザインも大きかったのかもしれません。時計に落とし込めるバランスのタイトル。『MILGRAM -ミルグラム-』さんはタイトルを決めるのにどれくらい悩みました?
山中:全然悩まなかったんです。僕の場合は企画書の段階でタイトル決まってて。過去作の『Caligula -カリギュラ-』もこの『MILGRAM -ミルグラム-』も人名なんです。だから検索性はよくないんですね(苦笑)。「もっと売れそうなタイトルを考えたほうがいい」ってお客さんが言ってくれてたりもするんですけど、元の意味を書き換えてしまうくらいのエネルギーがあれば良い話だなと。
岡本:確かに。
山中:『Clock over ORQUESTA』さんの名前もそうですけど、覚えづらいものほど覚えたときに一生忘れないような気がしています。だから耳馴染みの良い言葉ではなくても、つけたいタイトルをつけるようにしています。
岡本:素晴らしい考えだと思います。私は作家の先生とお会いする機会ってそう多くないんです。だからお話を聞けて、率直に楽しいなと(笑)。
山中:ありがたいです。でもそれは、僕が純粋な作家ではないからかもしれません。プロデューサーと二足のわらじなので。今僕がやっている仕事は、自分プロデュースのものが半分、プロデューサーが別にいてシナリオだけやるものが半分なのですが、後者の仕事をやるときに褒めていただけることってプロデュース目線があることなんですよね。もともとプロデューサーからはじまったので、魅力の言語化というところをまず突き詰めたから……ということもあるのかなと。
岡本:私自身も、純粋なプロデューサーというよりは、音響監督をやっていたり、漫画編集をしたり、他のクリエイティブなお仕事をしていたりと、幅が広かったので、一方向の目線だけではないかもしれませんね。
山中:いろいろとやられていたんですね。
岡本:はい。ただ、作る以外は何もやってこなかったんです。だからこそ、山中さんが譲らないところってものすごく共感します。同時に、それが『MILGRAM -ミルグラム-』の魅力のひとつなんだなと。ただ、プロデュースは客観性、作家性は主観性が求められるように思うんです。そこがご自身の中で衝突するタイミングはありますか?
山中:それはありますね。やりたいことと売れることは別で、いつだってぶつかるものだと思います。
やりたいことはやらせてもらいつつも、作品を応援してくれるファンの方がいるおかげで今があるので、作家性の許す範囲の中でどうやって楽しんでもらうかというのはいつも迷っています。