収録3曲すべてタイアップ楽曲! カノエラナさん「Queen of the Night」リリース記念インタビュー|『ティアムーン帝国物語』『Helck』『千紘くんは、あたし中毒。』をそれぞれ違うアプローチと歌声で表現
A、Bメロ、サビで歌っている対象を変えている!? Dメロは過去と現在のミーア姫が手を結ぶ場所
――オケは、1番はA、Bメロはシンセの音などが軽やかで、サビや間奏ではストリングスも入って壮大になっていて。
カノエ:普通ではない物語を音でも表現しようとなると、打ち込みっぽい音も入れて更に飛び立つようなイメージを入れていただきたくて。生楽器も入れたらどうかなとアレンジャーの河合英嗣さんと話し合って、結果的には『ティアムーン帝国物語』の曲としても、カノエラナの曲としても成立するサウンドになったかなと思います。
――キーワードに挙げていた宇宙感や夜空感がシンセの打ち込みなどから伝わる不思議なサウンドやアレンジですね。
カノエ:良かったです。過去と現在の生々しさと未来っぽさをうまく混ぜようと思ったけど、なぜかずっと大理石が頭に浮かんで。「ちょっと硬すぎるから木造も欲しいかな」みたいに建物を考えながら作ったことも大きいかもしれません。
―――歌い方もA、Bメロはきれいかつ丁寧に歌って、サビでは熱く、そしてDメロはここまで歌っていた人とは違う人が歌っているように思えました。
カノエ:AメロとBメロは今の幼いミーア姫が綴っている物語で、サビはちょっと大人のミーア姫が出て来て。そしてDメロは民衆のイメージで、河合さんにも「私の中ではここが一番華やかな部分なんです。ここがキモなのでしっかりと音圧を出したいけど、大きくなるのではなく、静かに喜んでいる感じを出したいんです」と話して、無理やり声を重ねてもらうチャレンジをしました(笑)。
――聴き心地はいいし、アニメのEDらしさはある一方、「ん? この音は?」と気になるところがあったり、実際に聴き直すたびに発見があるんですよね。
カノエ:そう言っていただけると嬉しいです。強さを出すためにあえて一人でサビを歌うとか、逆に最後は仲間になってくれる人がいるからハモりを入れようと考えたので。歌う人数を決める時は、物語を全体的に見てスケール感に合わせるようにしています。作った時はそれほど意識していなくても、実際に編曲が出来上がって、レコーディングする段階で客観的に見たいなと思いながらレコーディングしています。
――かなり緻密に楽曲を作られていて、シンガーソングライターとしてだけでなく、まるでプロデューサーまで兼ねているような。
カノエ:私の場合、ボーカルディレクションの方がいらっしゃらないので、全部自分で構築するしかなくて(笑)。もちろんレコーディングでは、周りのスタッフさんに相談をさせていただきながら最終的な判断は自分でしています。
――「Queen of the Night」のお気に入りのフレーズや聴きどころなどのご紹介をお願いします。
カノエ:やっぱりDメロですね。過去の姫と今の姫がつながって、手を結んだ場所となる、こだわった部分で。あとは、ラスサビで歌っているタイトルフレーズでビブラートを入れるか、入れないかも何度も試しました。最終的にストレートに歌いましたが、EDで流れた時、次が気になる消え感を意識したので、そこも聴いてほしいです。
性別や年代問わずに楽しめるアニメだと思うので、かわいいキャラ目当てだったり、転生ものが好きとか、入口は何でもいいのでアニメを見てほしいです。そうじゃないとこの楽曲の真意が伝わらないような作り方をしているので、アニメと曲をセットで楽しんでいただきたいです。
――「Queen of the Night」のMVのコンセプトやどういった撮影だったのか、お聞かせください。
カノエ:今回は初めての完全CGによるMVです。そもそも自分は生身の肉体なので、過去や未来などを表現するには別空間にいないとつじつまが合わないということでCGになりました。撮影スタジオに行ったら全面グリーンバックで「これ、映画とか朝のニュース番組でやっているやつじゃん!」みたいな(笑)。なので、撮影していてもまったく想像がつかなくて、「背景に月があるのかな?」とか、今、舞台に立っているのか、森の中にいるのかさえもわからなくて。
ただ、監督とお話しした時、感性が自分と合っている感じで、やりたいことも理解できましたし、撮影中も「上から落ちてきます」とか「今、前に進んでいくために強い表情で」などの指示もわかりやすかったです。この物語に出てくる少女がどういうふうに時を巡って、物語を進めていくのかなど、『ティアムーン帝国物語』と私の世界をうまく合致させていただいたので、完成が楽しみでした。(取材時点では)完成したものはまだ見ていませんが、少しだけCGと合成された映像を見させていただいたら、見事に溶け込んでいて、「あんなに緑だったのに」とビックリしたし、「現代の技術はすごいな」と感心しました。
「ヒカリ」は、原作をひたすら読み込み、へルクの過去のことのみを歌った楽曲
――2曲目「ヒカリ」は、10月より第2クールに突入したアニメ『Helck』のED曲ですが、原作やアニメをご覧になった感想や魅力を感じた点をお聞かせください。
カノエ:今回のお話をいただいた時「アニメ『Helck』は前半の流れと後半の流れで大きく変わってくるところがあって、カノエさんにご担当いただくのはちょうど境目にあたるお話で、へルクの過去が解き明かされます」という説明を受けました。その後、単行本を読み始めたらコミカルだったので驚きました。ですが、アニメの第2クールにあたるエピソードから急に重たくなって。そんな中でキャラが味方も敵も誰一人絶望せずに、あきらめていないのがすごいなと思いました。
この作品も貴族と民衆との関係性を描いているところがあって、私が好きなフィールドですし、アンちゃん(ヴァミリオ)がへルクと2人きりになった時にどういう人間であり、どんな過去があったのかを探っていくところや、2人だけの語りで話が進んでいくのが興味深くて。そもそも物語の初めに、へルクが言った「人間、滅ぼそう!」というセリフがあまりにもパワーワード過ぎて衝撃的でしたが、へルクの過去を知ると納得できたし、より感情移入してしまいました。
私の推しキャラのアンちゃんも(ヘルクから話を)聞かされた時はつらかったと思うけど、へルクの真意を知るためには大切ですし、より絆が深まった気がします。ここから戦いが更に激しくなって、それぞれの想いが交錯しながらお互いの正義を貫き通すのがアツいです。毎回、すごい映画を見ているような感覚です。
――タイアップで関わったどの作品も熱く、深く語れるのはすごいですね。
カノエ:タイアップ曲を作る時は、その作品に1カ月くらい浸るので、同時並行して複数曲を作るのが難しいんですよね。原作を読んでいたり、楽曲制作から離れていても「この時、アンちゃんだったらこう考えるかな?」とふと想像することも多くて。そうしていると、私自身も少しずつですが成長していることで見方が変わったりして。なので、タイアップ曲の制作はお仕事を超えた楽しさがあるんです。
――「ヒカリ」を制作する際に意識した点や、アニメのスタッフ側からのオーダーなどがあれば教えてください。
カノエ:オーダーは「コミカルさはゼロで、へルクの過去のことだけ書いてください」だったので、逆に悩みました。最初は新曲を作るつもりでしたが、以前作った曲の中で『Helck』の世界にバッチリ合う曲があることを思い出して、試しに聴いていただくことにしました。歌詞はもちろん書き直すつもりで、作った当時は「暗闇の中でいつヒカリが見えるの?」という歌詞でしたが、『Helck』は「ヒカリが見えなかったけど、たくさんのヒカリがあったじゃない」という方向性に変えさせてくださいと説明して。そして早速、歌詞を書き始めましたが、いつもより集中して書けたからか、第2稿でOKをいただきました。
ケルト風のオケで温かみをプラス。歌い方は語り部のイメージ
――ゆったりとしたリズムでせつなさも感じますが、ケルトっぽいオケがさわやかさを、カノエさんの歌声からはくじけない力強さを感じました。
カノエ:冷たくなくて、温かいのが大前提で、アレンジャーさんに「できるだけ重たくならないように、色で例えるなら緑色だけど深く沈み過ぎない色合いでお願いします」とオーダーさせていただきました。あと参考音楽としてケルト民族っぽい楽器が使われている曲をお渡しして、「イメージはこういう空気感です」と細かく指定させていただきました。
――ED曲らしく余韻に浸れるのもいいですね。
カノエ:過去を回想すると、どうしても重たくなってしまいがちですが、その空気感を引きずらずに、思い出話として語れる曲、読み聞かせをするような曲にできればいいなと。
――歌詞も作品の世界観に寄り添い、へルクの想いを歌っているようで。
カノエ:この曲は歌詞一本に集中すればよかったので、ひたすら読み込みました。ポイントになるところに付箋を貼っていったらいつの間にか付箋だらけになりました(笑)。些細なケンカやいざこざから大きな戦争になってしまうと、元々、何とケンカしていたのか、何が原因で怒りや苦しみの感情が生まれたのか、わからなくなってしまう気がして。自分の考えを押し通そうとするのではなく、信じてほしい人だけに伝えることで、水面が広がっていくように繋がりも大きくなっていって、より強くなっていくという物語ですし、ヒカリが見えなくても実は一番近くにあったものが温かいもので自分を強くしてくれるものだったという曲にできたらいいなって。
――この曲の歌い方は、「Queen of the Night」のようにパートごとに変えるのではなく、ずっと変わらず、ストレートですね。
カノエ:一貫して語り部としての立場で、私は物語を俯瞰で見ていたり、読んでいる背景みたいに感じてもらえたらいいなという想いがあって。コードもサビで明るくなったりなどせず、大きく変わりません。その中で、いろいろな楽器で広がりや明るさを表現してもらいました。
――「ヒカリ」のお気に入りポイントや聴きどころなどのご紹介をお願いします。
カノエ:以前から歌っていたこともあって好きな曲でした。カノエラナの曲としてアコースティック編成のアルバムやシングルのカップリングとして収録する方法もありましたが、「今じゃないな」とか「何かしっくりこないな」を繰り返していて。ずっと大切に温めてきた曲を世に出せるタイミングはここだと思ったし、運命的なものを感じました。私のライブで聴いたことがある方もいらっしゃると思いますが、今回音源化して生まれ変わった曲を聴いて、一緒にゾクゾクしてください(笑)。