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『16bitセンセーション ANOTHER LAYER』第9話放送後インタビュー:若木民喜さん(原作)×佐久間貴史さん(監督)×中山信宏さん(プロデューサー)|コノハのゲームがついに完成! 完全オリジナルとなる第10話以降はコノハと守の関係値に注目【連載第10回】
美少女コンテンツが堂々と表に出てきた時の衝撃を、リアルタイム世代が伝えてほしい
――物語は、第8話のSFネタに続いて、第9話は大きな区切りとなるような話数でした。
中山:コノハが中心となって、これまでにないゲームを作り上げたあとに、守とコノハが別れるところは、なんかすごいいい感じになったな〜って思いました。あのさり気ない感じが良かった。
――雪のシーンですね。第9話でゲームを完成させましたけど、第7話で守が98を繋げて、すごいPCを作り上げたじゃないですか。あれは実現可能なのかが気になっていまして。
中山:とりあえずPC-98を繋げれば何でもできる!と若木さんに言われたので、じゃあ大丈夫かなって(笑)。
若木:一応、森瀬 繚さん(設定考証)が解説してくれてたし(笑)。
中山:そうですね。「理論上は不可能じゃない」と確かに言われたんですよ。98 オクタコアは不可能ではない、と。
若木:でもほら、ロマンがあるから……。『ゴジラ-1.0』で〇〇が出てきたみたいに、レトロなやつが蘇ってくるとカッコいいみたいなところあるじゃないですか。守だけがそう思ってるのかもしれないけど(笑)。なので、昔98を使っていた人たちが喜んでくれたらいいなと。
――このあたりは、コミケで98のお葬式をやろうとしていた守を、コノハが止めたというのが伏線にもなって、ここに繋がっていったんだなと思いました。
若木:そうなんですよね。だから3回くらいアニメを観たほうがいいんですよ。小ネタを一旦置いておくところまで繰り返し観てほしい(笑)。
中山:一応98ネタは最後まで拾っていますしね。
――そういう会話が、前回お話しされていた、絵コンテで削れなかった要素でもあったんですかね?
佐久間:それもありますし、単純に最後までの展開を自分の頭の中に入れていたので、絵コンテにするときに、シナリオに記載がない描写でも、ここでこういう描写を入れておこうとか、結構前の話数から何気ないセリフや芝居を仕込んでいたんです。なので、第9話あたりの守くんの言動も、ここまで観てきたなりの感想は抱いてくれるとは思うんですが、最後まで観てから、もう一度第6〜9話あたりを見ると、守くんに対しての印象が変わるんじゃないかなって思いながら作っています。
若木:そのへんは同人誌版だと味わえないところというか。同人誌は美少女ゲームの歴史通りに描くけれど、今回はオリジナルなので、そこが強いところですよね。
――冬夜は原作でも美少女ゲームの会社を作りますが、アニメでは相当コノハの影響を受けている感じがしました。コノハがいたから、ああなっていくというか。原作とアニメの関係性が絶妙だったなと思いました。
佐久間:冬夜は、もしかしたらコノハがいなくても原作通りに美少女ゲーム業界に入って、仕事をしていくのかもしれないですが、考え方とかはコノハの影響を受けているんじゃないかって、自分の認識としては思っているんです。あと漫画版だと、最初のほうって冬夜のキャラを深掘りしていなかったと思うんで、アニメでは出番を増やしているんです。
僕は全キャラクターが好きなんですが、コノハだけでなく冬夜にも感情移入をしてくれる視聴者が現れてくれたらいいなぁと思って、絵コンテのチェックや演出さんへの指示出しをさせてもらっています。
――第9話のラストでは、守がおじさんになって現代に登場しました。阿部(敦)さんに取材したときは、まだ声を聞いていなかったのですが、アニメを観て、思っていた以上に細かく声を変えている印象でした。このあたりの幅はいかがでしたか?
中山:オーディションのときからいろいろ年齢幅があることは決まっていたので、そこでおじさんバージョンもやってもらっていたんですよ。阿部さんってベースの声が若いので、ベースが20歳くらいの守の感じなんですよね。そこからより若くすると、中高生の声音になるし、年齢を上げていくとおじさんになっていく。そのあたりの違いはぜひ聞いてほしいです。
若木:僕は順繰りに聞いていたので、普通に歳を取っていく感じだな〜って思っていたんですが、途中で予告を録るときに、急に昔の守に戻って、「こんなに違っていたのか!」ってびっくりしたっていう記憶があります(笑)。
――監督は、第9話で印象的なシーンはありますか?
佐久間:第9話は好きなシーンがたくさんあるんです。メイ子とコノハがしゃべっているシーンも好きだし、コノハと冬夜がしゃべっているシーンも好きだし、コノハと守が歩いているシーンも好きなんですよね。あと川澄綾子さんが話していましたが、第9話のかおりの酔っぱらいの演技もいいですよね。
中山:「こんなもん作れて、あたしゃー満足だ!」のところですね。
佐久間:そうです。アフレコ時にテストが終わって「これはやりすぎですかね?」って川澄さんは少し心配されてた様子だったのですが、その酔っ払ってる芝居がめちゃめちゃおもしろくて、自分や音響スタッフ側のブースの全員が今の芝居でOKですって言ってましたよね。
若木:川澄さんのかおりさんは、全体的にすごく良かったですよね。
――堀江由衣さんのメイ子も本当に可愛かったですしね。
若木:堀江さんは、ちょっと声がオーパーツ過ぎるんですよ。
中山:今回は作品の特性も合わせて、「このキャラは堀江さんで、これは川澄さんでしょう!」みたいな感じでしたからね。オーディションはちゃんとしたんですが、そういうキャリアを経てきている人がやっているので、「やっぱり本場もんはすごいな!」っていう感じはありました。
若木:第5〜6話で、「『ToHeart』みたいにコンシューマーを目指すぞ!」っていうのを、2人がやっていたのがちょっと面白かったです。
――最初は視聴者もコノハ視点で、業界の歴史を、ある意味ドキュメンタリーのような感じで傍から見ている感じがしていたと思うんです。でも第7〜9話でコノハが当事者になったので、第9話で秋葉原が美少女の街に変わっていく様を当事者として見ることができたような気がしました。
若木:今の若い人にとっては、秋葉原ってずっとああいう感じですが、当時は本当に地味な街というか、電気街でしたからね。
中山:オタクの街になってからの秋葉原しか知らないでしょうしね。そこから今はさらに進んで観光地になっている。なので観光地になった秋葉原しか知らないかもしれないんですよ。秋葉原がオタクの街になるスタートラインでもあるゲーマーズ本店(でじこビル)のことを知らない方が多いと思うんですね。僕らから見ると、秋葉原の変遷が分かりますが、今の人が見たらどう思うんだろうって思っています。
若木:知らないところから知らないところに変化しているだけかもしれない。でも、あの時の、美少女がビルのてっぺんに出てきた衝撃を当時の人も伝えてくれたらいいなって思うんですよね。嬉しいとかではなくて、「いいんですか?」みたいな(笑)。
中山:「美少女が表に出てきていいんですか?」っていう、あの感じですね。
若木:美少女が好きな人ですらビビった、あの堂々たる感じ。それを誰かが伝えてほしい。多分アニメを観ただけではそれは分からないかもしれないから。
――アニメを観た上で、「この時の気持ちは実際こんな感じだったんだ!」とつぶやいてほしいんですね。でも、今お二人が教えてくれた感じではありますけど(笑)。
若木:逆に言うと、ゼロ年代が異常すぎるんですよ! 美少女ゲームがそのままアニメになったり、それに対して何も思わない感じがすごい。本当に美少女が一般化したんだなって思います。それがすごい! あれだけ底辺だったのに。
中山:こんなに美少女のプラモデルとかフィギュアが出るとは思いませんでしたから。
今後の見どころはさまざまな伏線と、コノハと守の関係値
――では最後に、今後の見どころを聞いて終わりたいと思います。
佐久間:第10話以降は、原作漫画では一切出てこないところが舞台になるので、原作を知っている方も、アニメしか観ていない方も、同じように楽しんでいただけるのかなと思っています。でも、クライマックスに向けての伏線はいろいろ張っているんです。結構最初の話数から、「何でこのキャラはここにいたの?」みたいなところまで考えて作っているので、気になったら前の話数を振り返っていただけたりすると、いろいろな発見があると思います。
あとはコノハと守の関係値ですね。この二人がどうなっていくのか注目して観てほしいです。
若木:アニメの最初のほうはネタのパワーが強かったので落ち着いて観られなかったかもしれないですが、ここからは僕もどう仕上がっていくのか分からないんです。漫画という物差しがない状態のところに突入するので、僕もいち視聴者として楽しみにしています。「やっぱりオリジナルっていいな!」って思ってくれたら嬉しいですね。次が分からない展開って面白いな――!みたいな(笑)。
中山:「オリジナルは安心して観られないのが……」とか言われるご時世ですけどね(笑)。そんな中、オリジナルをやっておりますが、この作品は、キャラクターがすごく魅力的なんです。コノハもわちゃわちゃしていているので、受け入れられるのか最初は心配だったんですが、そこを古賀葵さんがすごく上手く表現してくれて、皆さんに受け入れられて良かったなと思っています。
コノハの話だという作品の筋が通っているので、コノハを見ながら、どうなっていくんだろうって思って観ていただけていると思うんですが、ここからは急にSF要素が増えていく怒涛の展開になっていくので、全部観終わったあと、何かしらの解説を入れられたらいいなと思っています。ただ、ネタは少なくなっていくとは言え、結構パワーのあるネタがこのあとも入ってくるので、「そこは結局変わってないな」とか思いながら観ていただければと思います。
若木:主人公はイラストレーターですよ?っていうくらい怒涛でしたね。イラストレーターの体験できる最上級の体験があるかもしれない(笑)。
中山:そこは楽しんでもらいたいです。あとは監督も言っていましたが、守ですかね。守とコノハって、別にベタベタしているわけではないけれど、二人はちゃんと本質のところでは繋がっているんだよっていうところも見えてくると思うので、そこをしっかり観ていただければと思います。
『16bitセンセーション ANOTHER LAYER』作品情報
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あらすじ
ある日、ひょんなことから過去の名作美少女ゲームをゲームショップの店主から譲ってもらうことに。美少女ゲーム黄金時代に思いを馳せ、『同級生』のパッケージを開くと突如まばゆい光に包まれ、気づくとコノハは過去にタイムリープをしていた!
行きついた先は1992年!世は美少女ゲーム黎明期!アルコールソフトという会社で働くことになったコノハは、美少女を想い、美少女を描き、美少女を創りあげていけるのか!?
圧倒的な美少女への愛でお送りする、ひとりの少女の物語――『じゃ、始めるね!』
キャスト
(C)若木民喜/みつみ美里・甘露樹(アクアプラス)/16bitセンセーションAL PROJECT