スナックバス江に招かれた“ふじやん&うれしー”こと、藤村忠寿さんと嬉野雅道さんに、おふたりのファンである阿座上洋平さんが対面! 阿座上さんの反応は……?
「最終的に続けることが勝ちなんです」
――お仕事を続けていく中で、さまざまな逆境があったかと思うのですが、その時につらいと感じることはありますか。
嬉野:なんだろうなあ。車に酔ったこと?(笑) それくらいかなあ。
――ほぼないということですね(笑)。阿座上さんは?
阿座上:お金や仕事がなかったときも楽しかったですよ。つらいと感じてしまえば、この仕事はできないなと思っていました。僕はのらりくらり。マイペースにやってきた感じがしますね。もしかしたら不真面目だったのかもしれないですけど。僕はどちらかと言うと怒られる立場だったんですよ。
嬉野:そうなんだ。
――阿座上さんにそういう印象がまったくなかったので意外です。
阿座上:実はそうなんですよ。大学も出てないですし、社会経験もまったくせずに19歳でこの業界に入ってきたので、まったく何も分からない状態だったんです。
嬉野:でもそれって「相手が怒ると思わなかった」ってことだよね。
阿座上:そうです。
藤村:俺だったら怒らないけどなあ。
阿座上:同じことを思ってました。よく「相手の立場になって考えて」と注意されていたのですが「俺はその立場では怒らないけどな」と。だからズレてるんですよ(苦笑)。でもきっちりしている人ほど、心が折れる印象があります。
藤村:うんうん。
阿座上:仕事がないとか、表現がなかなか上達しないとか、壁にぶち当たったときの理想の自分とのギャップで、辞めていってしまう人が多いです。
藤村:理想の自分か……。
嬉野:なんかね、言いたいね(笑)。
阿座上:僕も「こうなりたいな」という理想像はふわっとありましたけど、みんな僕以上に強いんですよね。でも理想が高ければ高いほど折れやすくもなってしまう。だからガス抜きじゃないんですけども、常にユルく自分を保ってないとな、というのは『水曜どうでしょう』を見ながら思っていました。「これで良いんだ」っていう。
嬉野:ああいうのも笑えるんだよね。「面白いってなんなんだろう」と改めて考えさせられるよね。
――何事も続けることが大切だとは思うのですが、皆さんが「続けてきて良かった」と思うことについても、おうかがいしたいです。
藤村:最終的に続けることが勝ちなんですよ。声優さんにしても、アニメの番組にしても。だからうちは『水曜どうでしょう』を死ぬまで続けたいなと思っています。その時点で我々の中で勝ちが見えました。普通だったら視聴率という指標を持たなきゃいけないじゃないですか。もう視聴率という指標すらそこにはありませんから。ファンの方に対してモノをちゃんと作ってれば、「この人たちは観てくれるだろな」という確信もあるので。だから続けるってことがいちばんの勝ちだと思いますよ。結構みんなすぐやめるんですよ。1年やって「頑張ったけど結果が出なかった」って次に行く。それがいちばんの仕事だと思っている人が多いけど……辞める、という判断は仕事の上でいちばん簡単なんです。同意も得やすいですしね。「辞めたくなかったですね」と言いつつも、「これをずっと続けるのはつらいし」って安心しているところもある。
うちの場合は、なるべくきつい状況にならないように、あまり気を張っていないというか。これだったら辞める・辞めないじゃなくて、やっていけますよねっていう。
嬉野:我々は4人でずっとやっているけど、特段仲良しってわけじゃないんですよ。1996年当時、我々には『水曜どうでしょう』の船以外には可能性はなかったわけですよ。だから多少不満があっても、4人でずっと乗っていなきゃいけないっていう。でもそういうことって意外とできないんですよね。思い通りにいかないことがあれば、辞めてスッキリしたくなる。でもスッキリしたら、スッキリするだけで終わっちゃうから、勿体ないと思いますよ。
「ここから出られない、出たら損するな」って思いが我々を同じ船に乗せていた。堤防の下で足の蹴り合いをしてるくらいの感じで。それが内圧を高めるからね。ただのローカルの放送で終わっていたら、今、誰も覚えていないですよ。あのあとDVDにしたことで、えらいみんなが観てくれて視聴率も自由になれた。最近はライブビューイングで新作を上映して、5万人の人が見に来てくれた。でも別に自信満々でやってるわけじゃなくて「今回どうだろう」「地上波でやったら危険かな」って感じで、重々我々のことを知っている人たちに、暗がりで見てもらってね。長く続けていると、いろいろなことができるし、知るわけですよ。全然まだまだできる。
藤村:みんなすぐやめちゃうから気づかないんですよね。『水曜どうでしょう』のお客さんはこの20年間変わってないから。その安心感はあるよね。みんな番組を変える度にお客さんが変わっていく。うちの場合、ずっと同じお客さんが相手だから、下手に店を改装しないほうが喜ばれる。意外とマズイものを出したら喜ばれる。「ちょっと変わってますよね、これ」って。
嬉野:珍味ってことね(笑)。
阿座上:いい話だ。
――阿座上さんが続けてきて良かったことというと……。
阿座上:やはりこの仕事です。まさに今日もおふたりに会えてそう思いました。ちょっと真面目な話をしてしまいますが……この仕事をしていると、いろいろな人に関わることが多いんです。続けていることで、一度お世話になった人から「あいつまだがんばってるんだな」とまた仕事を振ってくれることもある。その瞬間もすごくうれしい。自分ひとりで自分の道を歩み続けてきているつもりだったのが、いろいろな人が船を出してくれていたんだなと、この歳になって気づきましたね。それを噛み締めているところです。
藤村:意外と人間関係が大事な世界だもんね。技術云々ももちろんあるけど、ちゃんと続けていくことで、人間関係が広がって、仕事が安定して楽しくなる。最終的に人間性がいちばん大事なんだろうね。声優さんは特にそうなんじゃない?
阿座上:そうですね。人ですね。
藤村:いい人とか悪い人とかじゃなくて、嘘をつかず「こいつはこういう人間なんだな」って出せるかどうかっていうね。
嬉野:「これで来てるからしょうがないんだ」ってところをね。
藤村:そこにお客さんをつけるっていう。
嬉野:『水曜どうでしょう』もスキルでやってるわけじゃないですもんね。気持ちから離れた商売をしていると、続かない気がするな。
藤村:うん。
――『水曜どうでしょう』をお好きな方は、『スナックバス江』はきっと好きなテイストだと思います。
嬉野:ああ、確かに。これもずっと密室劇だもんね。
阿座上:おふたりが出演すると知れば、『水曜どうでしょう』のファンの皆さんもきっと観てくれるはずです。脱力しながら見て欲しいですね。ギャグですし。
――あっという間にお時間になってしまって。良いお話ばかりで、ぜひスナックで聞きたかったなと思うくらいでした。
阿座上:お酒を飲みながらっていうのも楽しそうですね(笑)。今日はお話できて感無量でした! ありがとうございました。
藤村&嬉野:こちらこそ!
[聞き手・逆井マリ]
『スナックバス江』作品情報
放送情報
2024年1月放送開始
TOKYO MX、HTB北海道テレビ、BS朝日にて
キャスト
明美:高橋李依
バス江:斉藤貴美子
山田:阿座上洋平
タツ兄:落合福嗣
森田:岩崎諒太
風間:福島潤
スタッフ
原作:フォビドゥン澁川 『スナックバス江』(集英社「週刊ヤングジャンプ」連載)
監督・脚本・シリーズ構成・美術監督:芦名みのる
キャラクターデザイン・作画総監督:富山。
撮影監督:大久保潤一
音響監督:郷 文裕貴
音響効果:古谷友二
音響制作:ビットグルーヴプロモーション
音楽:小鷲翔太
音楽制作:ポニーキャニオン
アニメーション制作:スタジオぷYUKAI