この記事をかいた人
- わたなべみきこ
- 出産を機にライターになる。『シャーマンキング』『鋼の錬金術師』『アイドリッシュセブン』と好きなジャンルは様々。
ヒンメルは冒険に誘うよりもずっと前にフリーレンと会ったことがあります。それは、幼いヒンメルが森に薬草を取りに行き、道に迷ってしまった時のことです。夜の森を彷徨い、人生で初めての孤独と不安に襲われる彼の前に現れたのがフリーレンでした。
しかし、人里の方向を教えてくれはしたものの、彼女が励ましの言葉を口にすることはなく、ヒンメルは「子供心になんて冷たい人だと思ったよ。」とその時のことを語ります。ですが、フリーレンはそのまま立ち去ってしまうかと思いきや、不安でいっぱいのヒンメル少年に「花畑を出す魔法」を見せてくれたそうです。(原作57話)
「生まれて初めて魔法が綺麗だと思った。」と語るヒンメルが思い出しているのは、美しい花畑と優しい微笑みのフリーレン。ヒンメルの初恋の相手こそ、他でもないフリーレンだったのではないでしょうか。
『葬送のフリーレン』 魔法紹介
— 『葬送のフリーレン』アニメ公式 (@Anime_Frieren) October 7, 2023
【花畑を出す魔法】
まとめ▼https://t.co/vJ6L6IkZws #フリーレン #frieren pic.twitter.com/eSJDOVLkwA
ヒンメルとフリーレンとともに10年間旅をしていたハイターとアイゼン。彼らはおそらくヒンメルの恋心に気付いていたと思われます。
想いを伝えることはしなくとも、その想いを隠しきることはできないヒンメルとその気持ちに気付かないフリーレンのやりとりを最も近くで見守っていた2人は、ヒンメルの葬儀で後悔の念に駆られて涙を流すフリーレンを見て、さぞ切ない思いをしたことでしょう。
だからこそ、2人は死者と対話したという記録が残っているとされている大魔法使いフランメの手記を探すことにしたのだと思います。ハイターとアイゼンは、本人たち以上にヒンメルとフリーレンの再会を願っているのです。
ここからは原作を読み返して印象的だった2人のエピソードをピックアップして考察してみたいと思います。
魔王討伐の旅が終わり、1人で魔法収集の旅に出たフリーレンは、ヒンメルに預けたままだった暗黒竜の角を引き取るため50年ぶりにヒンメルに会いに行きます。(原作第1話)
【コマ紹介】
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1話15P#フリーレン pic.twitter.com/J6WjQugJBf
返してもらった暗黒竜の角を「適当に納屋にでも放り込んでおいてくれてよかった」「そんな大層なものじゃない」と言うフリーレンに対し、ヒンメルは「大切な仲間から預かった大事なもの」としてタンスに保管しており、その温度差が印象的なシーンです。
【人物紹介】
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●暗黒竜の角●
魔王城でフリーレンが拾った邪悪なオーラを放つ角。ヒンメルが50年間タンスで保管。#フリーレン pic.twitter.com/gLJxF0UpIH
私は、ヒンメルにとって暗黒竜の角は「フリーレンともう一度会えるお守りのような存在」だったのではないかと推測しています。なぜなら、50年ぶりの再会を果たしたヒンメルが「……もう一生会えないのかと思っていたよ」と言っているから。
彼はフリーレンにとって50年や100年はほんの少しの時間にすぎないことを十分に理解しています。そんな時間感覚で生きる彼女が自分が生きているうちに会いに来てくれる保証はありません。
もちろん「50年後にまた半世紀(エーラ)流星を見よう」と約束はしていますが、人間の寿命では50年後には亡くなっている可能性もあるため、絶対に会えるとは言い切れないのです。
しかし、暗黒竜の角という預かり物があれば、生きているうちにきっと取りに来てくれるという希望が持てたのではないでしょうか。魔法オタクのフリーレンのことなので、魔法に関する道具を預けたことを忘れることはないでしょう。
邪悪なオーラを放つ暗黒竜の角が、ヒンメルにとってはフリーレンにもう一度会える唯一の希望だったと私は考えています。
原作第3話「蒼月草」ではプロポーズのようなヒンメルの台詞が登場します。本話のタイトルでもある蒼月草はヒンメルの故郷の花で、何十年も目撃例がなく現在では絶滅したといわれている青く美しい花。
フリーレンがヒンメルから蒼月草の話を聞いたのは、魔王討伐の旅の途中で「花畑を出す魔法」を見せたときのことです。ヒンメルはフリーレンに花かんむりを贈り、愛おしさと切なさが混じったような目で彼女を見つめます。
#ヒンメル pic.twitter.com/UlGudbNb6G
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ヒンメルは美しい故郷の花を「いつか君にも見せてあげたい。」とプロポーズとも取れるような言葉を口にしますが、フリーレンは「そう。機会があればね。」といつも通り素っ気ない返事を返すだけ。
それからおよそ80年の時を経て、弟子・フェルンとともに絶滅したといわれている蒼月草を探すフリーレンは、とうとう群生地を発見し「遅くなったね、ヒンメル」と一言。さらに、魔法で綺麗にしたヒンメルの銅像にはかつて彼がそうしてくれたように蒼月草で作った花かんむりを被せます。
【コマ紹介】
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3話31P#フリーレン pic.twitter.com/MteYvl7efe
ヒンメルの想いに気付くまではまだまだ時間がかかりそうですが、80年前は人に関心のなかったフリーレンが少しずつヒンメルの気持ちに近づきつつあることが感じられる話です。
今は亡き勇者に捧ぐ(1/10) pic.twitter.com/5zcz0rA1Bm
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連載中の原作漫画では、これまで可能性のひとつであったヒンメルの恋を裏付ける話が公開されています。現在原作ではヒンメルの死の53年前、つまり勇者一行の旅路が描かれているのですが、そこで彼らは大魔族の襲撃を受けます。
ヒンメルは奇跡のグラオザームによって「楽園へと導く魔法(アンシレーシエラ)」をかけられ失神。この強力な精神魔法は「決して叶わないと諦めた幸せな夢」を見せる魔法です。目覚めたヒンメルは白いタキシードに身を包んでおり、場所は教会。目の前にはウェディングドレス姿のフリーレンが……。
もちろんこれはグラオザームの幻影の中の「叶わないと諦めた幸せな夢」。ヒンメルは本心ではフリーレンとの結婚を夢見るほど彼女のことが好きだったということがはっきりとわかってしまいました。
しかし、ヒンメル自身も読者もこれが本当に叶わない夢であることを知っています。本作の中でも群を抜いて美しく残酷なシーンです。
最新第117話 「奇跡の幻影」公開🪄
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ヒンメルの葬儀をきっかけに少しずつ変化していっているフリーレン。しかし、ヒンメルの本当の気持ちに気づくにはまだまだ時間がかかりそうな様子です。
また、恋愛感情に疎いのは他人に対してだけでなく自身に対しても言えることであり、ヒンメルがなぜ自分の中で特別な存在になっているのかもフリーレンはおそらくわかっていないでしょう。
この感情の正体に気付いた時、フリーレンはどんなことを思うのでしょうか。そして、魂の眠る地(オレオール)でヒンメルと再会することはできるのでしょうか。多くのファンが彼らの静かで切ない恋路を見守っています。
1990年生まれ、福岡県出身。小学生の頃『シャーマンキング』でオタクになり、以降『鋼の錬金術師』『今日からマ王!』『おおきく振りかぶって』などの作品と共に青春時代を過ごす。結婚・出産を機にライターとなり、現在はアプリゲーム『アイドリッシュセブン』を中心に様々な作品を楽しみつつ、面白い記事とは……?を考える日々。BUMP OF CHICKENとUNISON SQUARE GARDENの熱烈なファン。