「華を持っている人じゃないと、柊は演じることができない」『映画 ギヴン 柊mix』鹿島柊役・今井文也さん&八木玄純役・坂泰斗さんインタビュー|「syh」の初楽曲&音楽が紡いだ特別な関係性
収録秘話、重要なのは演じるキャラと等身が近いこと!?
――お互いが演じるキャラクターについて、ご本人と似ているなと感じる部分はありますか?
今井:坂さんにも僕にも言えますけど……身体。
一同:(笑)。
坂:えっ、どういうこと?(笑)。
今井:体格。
坂:そっか、玄純はそうね。
今井:柊もだいたい身長が同じぐらい。ちなみに身長は何センチですか?
坂:183cm。
今井:玄純よりデカい! 玄純は180cmです。
坂:そんな!身長に憧れるお話!? 内面じゃないの?(笑)。
一同:(笑)。
今井:ちなみに、鹿島柊は175cmです。私(わたくし)、172cmなのでちょっと彼の方が大きいですね。
坂:十分だよ。身長がありすぎても、マイク前で屈まないといけないので大変なんですよ。本当に腰が……現実的に良くない(笑)。
一同:(笑)。
坂:僕が今井さんと柊の似ていると思うところは、社交的だし華があるところです。柊というキャラクターは僕自身と真逆で。僕が後ろ向きな人間なので「芯があって前向きで人を惹きつける…ああ、全部持ってないわ」っていう。憧れはありますね。
今井:おお! もっと言って!(笑)
坂:フフフ(笑)。華を持っている人じゃないと、柊は演じることができないんじゃないかなと思います。
今井:(得意げに鼻の下に指を当てながら)これ書いておいてください。「鼻の下に指を当てながら」って(笑)。
一同:(笑)。
坂:でも本当に、そこに居るだけで人の目を惹くエネルギーを感じます。
――ちなみに坂さんと玄純の共通点は?
坂:俺かぁ……。
今井:立ち位置が上手いですよね。その場でどのポジションに入ればいいかとか、会話の入り方とか。人間をずっと見続けている人じゃないと分からないような入り方とか、節々に感じます。コミュニケーションが上手いが故の引き方を分かっている部分が玄純の視点に似ているなぁと。
坂:たしかに、見ているかも。
今井:現場でも思っていました。……あとはやっぱ身長(笑)。(収録中に)横から坂さんが話すと、「声の落ち方はこういう感じか」って。
坂:俺は見上げる必要性はないもんね。向いてる方向によって声の出方が違うし、たしかに。
――柊が今井さんで、玄純が坂さんで良かったとお互いに感じた部分を教えてください。
今井:先ほどの続きにはなりますがこれは冗談ではなく、等身が近いことは芝居する上でありがたくて。実際の柊たちのイメージが掴みやすく、(坂さんが)マイク前に立った時の姿やどういった呼吸を意識されているかという点でも、とても落とし込みやすかったです。そういう位置で玄純が見ているのなら柊はこのくらい出そうという調節がしやすかったので、立ち位置の上手さが坂さんの武器の一つだなと思いながら収録していました。
坂:玄純は柊という存在が全てなんですよね。彼がやることが全て正解で自分の答え。ともすれば自分の芯がない、0であるからこそ今井さんの柊のお芝居が出すものの基準になっていくんです。
怒り・悲しみ・喜びとかをコミカルにし過ぎると『ギヴン』という作品が壊れてしまうのですが、この作品でできるギリギリの限界値のコミカルさを今井さんが出していたので、僕はそれに寄り添うだけでした。劇場で見ていただいたものが良いと感じて下さったのであれば、それは寄り添い、元を作ってくれた今井さんのお陰だと思います。そう思えるぐらいやり切ってくれたなと感じます。
「syh」の初楽曲について、音楽が紡ぐキャラクター同士の関係性
――やはり『ギヴン』といえばライブパートが魅力だと思うのですが、今回「syh」の楽曲を聴かれた際の第一印象をお聞かせください。
坂:僕、実はまだ聴けていないんですよ。なので、今井さんがどういうディレクションを受けたとか歌唱の際にどういう感情を込めたのかというのをお聞きして、より一層聴くのが楽しみです。
――今井さんは歌われてみていかがでしたか?
今井:めちゃめちゃ棘があるなぁと思いました。ギヴンの真冬の方は、溜めていたものを絞り出す感じが人を惹きつける魅力だと思うのですが、syhは溜まっていたものをパワーとしてバンっと放出するようなイメージです。ドラムとベースの2人組ではあるんですが、それだけではない音色がたくさん聞こえてくるような楽曲です。
作曲のセンチミリメンタルさんも、「syhはギヴンと違ってバンド内以外の楽器や音を取り入れて楽曲を作っています」と仰っていたので、色んなことが器用にでき、取り入れられる柊っぽさもあるなぁと思いながら。
劇場で流れたら実際のバンドを観ているみたいで楽しいだろうなと。キラキラと歯を見せながら歌っている絵が楽曲を聴いて浮かびました。
坂:楽しげにね。
――2人は特に今作で真冬と立夏の心を動かすキーパーソンになっていくのかなと思います。おふたりからは柊・玄純・真冬・立夏の4人の関係性がどのように見えていますか?
坂:玄純目線で言うと、見えているのは柊しかいないというか。もちろん他の2人とは友達ではあると思うのですが、柊のことは自分が存在する理由として見ている。
真冬に対しては、お互いに望んで認め合って許し合っている関係を手に入れているのになぜ覚悟ができないのか、という憤りがあったり。嫌いではないと思うのですが沸々と感じるものがあります。
立夏に対してはもう別次元の人という認識なんでしょうね。劇中でも触れているのですが、「玄純自身は柊という存在に許して貰えたからそれで十分、ぶつかっていく気はないしそれが俺の強みだ、弱さはない」と意思を示すシーンがあります。だから立夏たちは別の軸の人たちとして、見えてはいるけど興味がないんだと思います(笑)。
一同:(笑)。
今井:僕が感じるのは、当人たちからすると自分達の関係が特別だと当然のように思っていないこと。当たり前な青春の真っ最中だと思うのですが、側から見てもこのまま進んで行くと普通の大人というよりは、ちょっと達観した、人と違う目線を持っている人同士なので。
音楽に熱中し、何かしらの形あるものを残し、そこからまたストーリーが生まれていく。当たり前のように生きて、音楽を続けていくことで、周りに影響を与えていくメンバーだなぁと僕は思います。
特に柊目線では、ようやく自分の意見や表現を分かってくれる人たちを見つけたと思うので。学生同士という枠組みでは収まり切らない、友人・理解者・ライバルなんだろうな。
――たしかに、各々に唯一無二の形を感じました。
今井:きっと替えの効かない人たちだと思うし、存在だと思います。
――それでは最後に『ギヴン』という作品、キヅナツキ先生の作風の魅力をお聞かせください。
坂:やっぱり“等身大”ということ。一切のコミカルさやギャグを排除するのなら、それは邦画で良いんです。アニメーションだからできる表現であったり、崩すことも等身を少しなら変えることもできますし、でもそのラインがものすごく繊細で。人間の繊細な感情の機微だったり、関係性の変化というものを一番大事にされている作品なので、子供から大人になるまでの感情の揺れ動きが緻密に描かれている作品だなと思います。
今井:余白や背景で感情を表すところがとても魅力的だなと。(漫画を)捲った時に台詞がなくとも絵だけでどういう感情なのかを表現する力というのは、我々役者の読み解き方にも関係してきますし、とても人間味のある感情の描き方がされていると思います。
ジャンルとしてはボーイズラブ(BL)ではありつつも、人間ドラマに主軸を置いているところも魅力です。キャスト間でも話しているのですが、男性が読んでも面白いし、本当に共感できるものがいっぱいあるので、もっと色々な方々に読んで頂きたいな。まだ観たことがない方も、この映画からでも入りやすいと思うので、どこからでも入ってその繊細さに触れて欲しいと思います。
[取材・文/笹本千尋 撮影/井上顕太郎]
ヘアメイク
坂様:小松るみ
今井様:江川千恵子
スタイリスト
ヨシダミホ
作品情報
あらすじ
高校生の上ノ山立夏は、佐藤真冬の歌声に衝撃を受け、中山春樹、梶秋彦と組んでいるバンド「ギヴン」にボーカルとして真冬を加入させる。
真冬加入後初のライブを成功させ、立夏は真冬への想いを自覚し、ふたりは付き合い始める。
その後も活動を続ける「ギヴン」はフェス出場をかけたコンテストに出場し、惜しくもライブ審査に落ちたものの、ますます注目を集めていた。
その頃「ギヴン」が落ちたコンテストに受かった真冬の幼馴染み・鹿島 柊と八木玄純のバンド「syh〈シー〉」はデビューが決まっていた。
柊は、「syh」に不在のギターの一時的なサポートとして立夏に白羽の矢を立てる。
さらに柊は、立夏に「お前とやってみたいことがあるんだ」ともちかけ……。
キャスト
(C)キヅナツキ・新書館/ギヴン製作委員会