アニメ『葬送のフリーレン』種﨑敦美さん(フリーレン役)×市ノ瀬加那さん(フェルン役)×小林千晃さん(シュタルク役)ら声優陣が1クール目で感じたキャラクターの変化、そして2クール目の見どころは?
大きな期待の中で始まったTVアニメ『葬送のフリーレン』は、その期待をはるかに上回る素晴らしさで1クールを駆け抜けた。原作の漫画を知っていたとしても新鮮に感じる演出や構成。ゆったりとした世界観に寄り添う劇伴や、キャラクターの奥行きを感じる絵と声の芝居。視聴者も、ファンタジーの世界に入り込んで、アニメが終わったあとは余韻を楽しんでいたのではないかと思う。
2クール目を前に、フリーレン役の種﨑敦美さん、フェルン役の市ノ瀬加那さん、シュタルク役の小林千晃さんに1クール目を振り返ってもらった。
話数を重ねていくほどに感じる第1話や第2話の重さ
――ここまでで印象に残っているエピソードを教えてください。
種﨑敦美さん(以下、種﨑):第8話の「葬送のフリーレン」のラストは衝撃でした。もともと原作でも好きなシーンだったんですけど、演出と音楽とアニメーション、すべてが素晴らしすぎて!
最後にフリーレンとフェルンが同じ表情・構図で重なっていくところも良かったですし、そのシーンの音楽はフィルムスコアリングで作られたそうなんですが、諏訪部順一さん(リュグナー役)のセリフ含めて、すごいシーンだなと思いました。
市ノ瀬加那さん(以下、市ノ瀬):私は第9話の「断頭台のアウラ」です。フェルンとリュグナーの戦いが想像以上過ぎて! 斎藤監督をはじめスタッフの皆さんの、原作からイメージして立体的に映像で描く力がすごかったです。360度のカメラワーク、音楽も含めて素晴らしい動きで、何度でも見返したいシーンになりました。
人間の侮ってはいけない底力みたいなものが見えたので、すごく良かったです。
小林千晃さん(以下、小林):僕はシュタルクの過去ですね(第12話「本物の勇者」)。兄のシュトルツやお父さん、家族との話から現代に移り変わって、誕生日を祝ってもらうという風習。このエピソードは見え方によっては切ないというか。
シュタルクがそれまで誕生日を祝ってもらったことがないと思い込んでいたんですが、それをフリーレンたちが前向きなほうへ持っていってくれて、結果的にすごく温かい思い出も思い出されていく……。この作品の「ふと前向きになれる」ところが、このシーンには詰まっているなと思いましたし、ほっこりしました。
この作品は音楽や、絵のちょっとした差異。繊細な表現で、よりグッと来るものになっているので、すごいなと思いました。
――シュタルクが第9話でジャケットを着るシーンやフェルンがコートを脱いで投げ捨てるシーンの描写とかも、ものすごく細かったですからね。
市ノ瀬:すごく動いていましたよね!
小林:漫画の行間をちゃんと描いてくれているんですよね。僕らが想像で補っていたものを絵に落とし込んでくれるので、すごく納得させられるというか。これこれ!っていう映像になっているんです。
種﨑:それがどこかの話数とかではなく全部のシーンがそうだからすごいというか。
小林:そうなんですよね! ずっと行間を補い続けてくれている。戦闘シーンもそうですけど、こうなのかもって想像したところをさらに超えて映像にしてくれているので、本当にすごい作品だなと思います。
――放送前から話題になっていたタイトルでしたが、大きな反響を感じることはありましたか?
小林:作画はもちろんきれいだし、戦闘シーンもすごいんですけど、この作品で盛り上がっているのってそこではないというか。結構日常のちょっとしたやり取りとか、生き死にについてとか。ゆったり流れている時間の中で教えてくれるんですよね。
現代の人が忘れがちというか。今はいろんなコンテンツがあって、作品数も多いから1.5倍速で見る話しを聞くんですけど、この作品ってそれを許さないし、自分の時間を削っても、ゆったりとした時間を描いたこの作品に触れたくなるんです。だからある意味で、たくさんの作品がある現代にマッチしているんじゃないかなと思いました。
市ノ瀬:私も夜中に観ながら、言葉にできないじわ〜っとする感情が出てくる感覚があって。『葬送のフリーレン』を見ていると、忙しく生きていたら感じられないような、普通の日がいかに大切なのかということを気づかせてくれるんです。
それとこの前、たまたま街を歩いていて、『葬送のフリーレン』のアクリルスタンドが売っているコーナーを見つけて、私はフェルンちゃんのアクスタを買ったんですけど、ちょっとふら〜っとしてから戻ってみたら、小学生の女の子がアクスタを買おうか悩んでいて。直に届いている瞬間を見届けることができて、気持ちがほっこりしました。年齢問わず届いているんだなって実感しました(笑)。
種﨑:反響でいうと、放送前にありとあらゆる現場で「楽しみにしてます!」と言っていただき、さらに放送開始後にも何度も「フリーレン見てます!」と声をかけていただきました。
そんな中で印象的だったのは、ある音響監督さんが、「東地宏樹さん(ハイター役)があの溢れるほどの色気を完全に消していて流石だなと思いました」と仰っていて、普段からいろいろなお芝居や声を聞いている方ならではの感想だなと思いました(笑)。
あと反響ではないんですが、私、放送前のいろんな取材の場で「この作品は、何かが心に降り積もっていく作品なんだ」と、どこか抽象的に言っていたんです。でも放送を見ていくにつれ、それが今ならもう少し言語化できるかもしれないと思ったんです。
それは、話数を重ねていくほどに、1話や2話の重さ大切さ尊さみたいなものがよりわかるようになっていくんですよね。ああ、これが降り積もっていくってことだ…これが言いたかったんだ私はって思いました。話数を重ねるほどにその前までの話が、最初に見た時よりもさらにグッと来るようになるんです。
小林:それぞれがそれまでに生きてきたものを持ったまま次の話数を迎えている気がするから、キャラクターが生きている感じがするんですよね。
――アニメから入ったのですが、第1話と第2話って、そんなに泣かなかったんです。でも、アニメを12話くらいまで見たあとに、コミックスの第1話を読んだら、涙なしには読めないんですよね。なので、まさにその通りだなと思いました。先ほど行間という話が出ましたが、コミックスと読み比べると、構成や演出がアニメならではのものになっていたりしますが、アニメならではで良かったなぁと思うシーンはありますか?
小林:やはりパッと思い浮かぶのは戦闘シーンになりますね。フェルン対リュグナーとシュタルク対リーニエの戦いは本当にすごかったです。もちろん、フリーレン対アウラも。
種﨑:相手も強いけどシュタルクもマジで強いな!って思ったし、フェルンの魔法って本当に速いんだなって感じました。
小林:アニメになることで、速度が明確になるというのはありますよね。
種﨑:ここで目元を映すのか〜とか、口元だけで表現するのか〜、みたいなところで、その意味に気付かされるみたいなことは本当にたくさんあって。
小林:あと、口がめっちゃ動きますね! 母音の口の形に添っていたりするんですよ。そこまで細かく口に動きを付けてくれているのはものすごいし、それも特徴のひとつだと思います。
――声をあてている身としては、ドキッとしますね。
種﨑:そうなんです。この絵に見合うお芝居が出きているのだろうかドキドキ、みたいな。
小林:僕らの節とかテンポで、口の開け締めも決められていると思うから、すごく光栄ですし、嬉しいことではあります。
種﨑:あと、第13話で、中村悠一さんがザイン役で加わって、色が変わったと思ったんです。漫画でもシュールな面白さがあるんですけど、監督のギャグセンスというか、間が素晴らしくて! ザインが出てきたことによってコミカルさが上がって、それがより顕著にわかるようになったと思いました。
あと、これはわかっていたことではあるんですが、3人のときって、誰かがボケたら誰かがツッコんでいたけど、3人ともボケだったんですよね……。
小林:ちゃんとした大人が出てくると、シュタルクは基本的にポンコツだから、ツッコミで助けられるシーンは多かったです(笑)。漫画でも空気感は変わっていたけど、映像と音が加わって、4人になったことで芝居感も確かに変わっていったというか。アフレコでも感じていたけど、映像で見ると、やっぱり空気は違いますね。賑やかになったし、ちゃんとしたツッコミは必要だったんだって思いました。
――フェルンも諭されたりしますからね。
市ノ瀬:3人のときでも、シュタルクとフェルンは等身大な感じが出ていたんですけど、そこにザインが交わることで、より幼さというか、男の子・女の子感は増した気がします。
種﨑:かわいいですよねぇ。
――アフレコのお話が出ましたが、掛け合いで印象的だったことなどはありますか?
小林:僕は第5話からの参加だったんですけど、僕は僕なりに考えて、こうやろうかな、みたいなことは考えていたんです。で、第5話の出番がBパートからだったんですね。先にAパートでのお二人の掛け合いを見てから参加したんですけど、すごく静かな空気感の中で会話をしていたので、そこにどう寄り添おうかな、みたいなことはすごく考えました。
種﨑:この現場だと、キャストさんがそれぞれのキャラクターっぽいなって思います。そう見ちゃっているだけかもしれないけど、シュタルクには(小林さんには)こっちが何かを言ったら、なんか「わぁ!」ってなってほしいみたいな。(笑)。
(笑)。
――中村さんも、3人の空気感に合わせて、チューニングをしていたそうなのですが。
種﨑:立ち位置や役割をふまえつつ、中村さんがこれほど明確に「考えている」姿を見たのは初めてかもしれないです。すごく的確にチューニングされる方なのはわかっているんですけど、今回はディレクションを受けた後に「考えている」のがすごく伝わってきたような気がします。
小林:すごい方なので、ザインをこうやろうとか、このシーンは僕ら3人とこう作っていこう、というのが感じられて、一緒に作品を作っていく感じやすごい熱量を感じていました。あと、休憩時間もザインっぽいというか。大人で静かなんですけど、同じ目線でしゃべってくれるので、居心地が良い4人でした。