原作小説の本質はそのままに。魅力的な登場人物たちを丁寧に描いた『銀河英雄伝説Die Neue These』多田俊介監督インタビュー
過去にも様々なメディアで展開してきた田中芳樹さんの伝説的SF長編小説『銀河英雄伝説(以降、銀英伝)』を原作に、2018年放送のファーストシーズンから、2022年に劇場上映されたフォースシーズンまで全48話が制作されている『銀河英雄伝説Die Neue These(以降、ノイエ銀英伝)』。昨年11月には、続編新作の制作決定を発表。1月16日(火)からは、日本テレビアニメ枠「AnichU」で1話から48話までの毎週放送がスタートします。
そこで、『ノイエ銀英伝』で監督を務める多田俊介監督へのインタビューを実施。『銀英伝』や『ノイエ銀英伝』について、あまり詳しくない読者に向けて、改めて作品の魅力を語っていただきました!
『銀英伝』は、ストーリー性がある連続ドラマのお手本
――『ノイエ銀英伝』のファーストシーズンからフォースシーズンまでの全48話が、1月16日(火)から日本テレビの深夜アニメ枠「AnichU」で放送がスタートします。放送後には「TVer」での見逃し配信も実施されます。その感想を教えてください。
多田:いわゆるファミリー向けの長寿番組を除けば、今の時代に在京キー局で4クール通して放送していただけるのは非常に稀なこと。しかも、「TVer」さんで配信されるということは、実質、全国ネットのようなものですから、とてもありがたいです。年明けから暮れまで、毎週毎週、物語を積み重ねていける。『銀英伝』という作品は(壮大な)大河ドラマですし、元々、そういう形で楽しんでほしいコンテンツ。この機会に、1話から48話までを毎週続けて観るという体験をぜひ多くのお客さんにして欲しいです。
――『ノイエ銀英伝』の企画に関わる以前、多田監督にとって『銀英伝』という作品は、どのような存在でしたか?
多田:先ほどは大河ドラマと言いましたが、いわゆるストーリー性がある連続ドラマのお手本。田中芳樹先生の書かれた原作小説はもちろん、初めて映像化されたOVA、いわゆる石黒監督版のアニメも良いなと思えるところがたくさんあります。原作(の本伝)は新書版で10冊あるので、読んだことが無い人は「長いな」と思うかもしれませんが、読み始めたら長さはまったく気にならないはず。多彩なキャラクターが大勢いて、起承転結のあるお話が展開し、お客さんに何かしらの感慨を与える。こういった面白いドラマ性がある作品を作りたいという思いは、ずっとありました。
――その『銀英伝』を新たにアニメ化するプロジェクトが始動し、監督のオファーがあったときの心境を教えてください。
多田:『ノイエ銀英伝』のお話を頂く前から、たまに「『銀英伝』がまたアニメになるらしい」とか、『どこどこのプロデューサーが企画を動かしているらしい』みたいな、出所の分からない噂が流れてくることがあったんですよ(笑)。そのときから、どんな形でも良いから関わりたいなと思っていました。それこそ大河ドラマなので、1本くらいはどうにかならないかなって。
――1本どころか全話を作る監督でというオファーがあったわけですが、どう返事するか迷ったりもしたのですか?
多田:これは、業界人のメンタルの恐ろしいところといいますか……。たぶん僕以外のディレクターさんもきっと同じだと思うんですけど。「ビッグタイトルだから怖いな」とか、「僕くらいのキャリアの人間がおこがましい」とかは、全然思っていないんですよ(笑)。好きな作品だったら、なおさら。結果を出すのが目的でやっているわけですから、結果が出ないかもしれないということは想定していないんです。だから、『ノイエ銀英伝』のお話が来たときも「大好きなタイトルが来たー! なんとか面白くするぞ!」というモチベーションがほとんどすべて。ただ、素直に引き受けました。
――『銀英伝』の物語を新たにアニメ化するにあたり、特に意識したことを教えてください。
多田:監督も制作会社も違いますから、石黒監督版でやったことをそのままやることはできないし、やるべきでもないですよね。でも、『銀英伝』の本質的なところを変えてはいけない。これは、原作のファンであり石黒監督版のファンでもある僕としても絶対のことでした。例えば、キャラクターは同じだけど性格設定やストーリー展開が違うとか、そういう作品にすることは考えていなかったです。では、どういう風に作っていくのかという自分なりの方針についてはかなりじっくりと考えました。そこで決めたのが、「何年に何々の戦いがありました」「何年に誰々が死にました」みたいに絵巻物の順番のようにカメラを向けていくよりは、なるべく登場人物がカメラを持って移動するように作るということです。それをある意味、持ち味として、シナリオや映像を作ってきました。
宮野さんのラインハルトと、鈴村さんのヤンの対比も面白い
――『銀英伝』は、非常に多くの魅力的なキャラクターが登場する群像劇ですが、やはり物語の中心となるのは、銀河帝国軍のラインハルト・フォン・ローエングラムと、自由惑星同盟軍のヤン・ウェンリーだと思います。この二人を『ノイエ銀英伝』では、どのように描いているのかを教えてください。
多田:仰るとおり、群像劇ではありますが、やはりラインハルトとヤンは主役ですよね。もちろん、作品の中での彼らの役割や意味合いは原作に忠実に作っています。『ノイエ銀英伝』ならではの魅力と言えば、例えば、最初の頃、僕が作画のスタッフやキャストさんに伝えていたのは、「今回の『銀英伝』では、最初から人物が完成しているという風にはやらないでほしい」ということでした。才能を持って生まれて、タイトルの通り、後に銀河の歴史に英雄として刻まれる二人ではあるのですが、完成された「こういうキャラクター」という風には思わないでくださいとお願いしました。さきほど、なるべくキャラクターが主観でカメラを持てるようにしているとお話ししましたが、例えば、ラインハルトは、お話が進む中で明らかに取り巻く状況が変わり、それに合わせて本人の見た目や言動も少しずつ変わっていきます。そういうところをなるべくしっかりと見てもらえるように作っています。あと、ラインハルトに関しては、物語の途中から、時折、あるしぐさをするようになるのですが、それは一回見せれば、どういう心境なのかは分かると思うんです。でも、あえて、頻繁にそれを見せているのですが、今回、1年かけて放送されることによって、そこの繋がりをよりしっかりと見てもらえると思います。
――演出意図がよりはっきりと伝わりやすくなるわけですね。
多田:はい。あと、ヤンには、ユリアン・ミンツという同居人がいて、物語の序盤に登場するキャラクターなのですが、二人の関係が徐々に深まっていくことも、4クール連続で観ることによってさらに強く感じられると思います。
――『銀英伝』をあまり知らない人に、ラインハルトとヤンのキャラクターとしての魅力を伝えるとしたら、どのようなことを伝えますか?
多田:今回の日本テレビさんでの放送用に作っていただいた番宣映像があって、先日、チェックで観させていただきました。ラインハルトバージョンとヤンバージョンの2種類が作られているのですが、その映像がすごく端的に二人の魅力を表してくれています。ナレーションの出だしは韻を踏んでいて、ラインハルトは、大切な存在を守るために軍人になったと言われている一方、ヤンは、ただ勉強をするために軍人になったと言われているんです。
――ラインハルトは、銀河帝国皇帝の後宮に召された姉アンネローゼを取り戻すため軍人になり、父親が事故死して天涯孤独になったヤンは、お金が無くても歴史の勉強ができるという理由で士官学校に入学しました。
多田:野球選手なりサッカー選手なりを目指した少年が、プロ野球やJリーグに行くというお話は、定めた目標がある上でのサクセスストーリーじゃないですか。でも、『銀英伝』の主役二人は全然違う目的でスタートしたのに、銀河の英雄になっていくわけです。これがとにかく面白いんですよ。そこを楽しんでもらいたいです。
――では、ラインハルトを演じる宮野真守さんと、ヤンを演じる鈴村健一さんのお芝居の魅力についても教えてください。
多田:ラインハルトは、軍事と政治に関する天才的な頭脳と感性を持った人物ではあるのですが、(物語のスタート時点で)20歳。ヤンよりも若いんです。だから、先ほどの話とも重なりますが、老成して完成している風には演じないでほしいと、宮野さんにも最初に伝えました。どちらかといえば覇気が強く出ちゃって若さも見えるところから、だんだん成長していくキャラクターなんです。とはいえ、成長前も青臭くて嫌な奴に見えるのではなくて、若いなりに魅力はあって、それがさらに魅力的に成長していく。宮野さんは、そういうところを非常に的確に演じてくださっています。一方、鈴村さんの演じるヤンは、ブレないんですよ。ラインハルトより10歳くらい上なので、老成とまではいかないけれど、物事を達観することもできる上に知性もある。スタートから、ある程度は完成度の高い状態をやってくださっています。だから、宮野さんが演じるラインハルトと、鈴村さんが演じるヤンの対比も面白いんです。