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漫画『日本の月はまるく見える』(著:史セツキ)あらすじ&レビュー

“好きなシーンを描けないならなんの意味もない”──中国でBLを描く漫画家の葛藤とは? 漫画『日本の月はまるく見える』レビュー|日本の編集者と出会い、夢を叶えるために連載を目指す【プレゼントあり】

BL漫画を描き続ける中国人の漫画家が日本で連載を目指す物語『日本の月はまるく見える』。著者は、中国の一人っ子政策を題材にした漫画『嘘をつく人』で注目を集めた史セツキ先生です。

本作は、2023年モーニング22・23合併号に発表された読み切り漫画『日本の月はまるく見える』を第1話とし、現在モーニング・ツーWEB(講談社)にて連載中。コミックス第1巻が2024年2月22日に発売決定しています。

日本で活躍されている中国出身の史セツキ先生ならでは切り口で、厳しい規制のなかでBLを描く漫画家の葛藤にも触れる本作。主人公は、中国で思い通りの作品を描けず悶々とした日々を過ごしている中国人の漫画家・夢言(ムゲン)。彼女は夢を叶えるために日本へと旅立ち、日本のBL誌での連載を目指します。

中国と日本の文化の違いや漫画家としてのリアルな悩み、そして好きなものを描く夢へと近づいていく希望が描かれており、多くの方々に読んで欲しい一作です。本稿では、中華BL作品の読者でもあるライターが本作のレビューをお届けします。

 

『日本の月はまるく見える』あらすじ

母国・中国でBL漫画を連載中の夢言。規制が多くなかなか思った通りの作品を描けず、そして収入も満足に得られず、悶々とした日々を送っていた。そんな時、お見合いの話が舞い込んだ。相手は同級生の致遠。彼とは夢言が描いた漫画に関して因縁があり、夢言が今一番会いたくない男性だった…。

(公式サイトより引用)

 

中国で漫画を連載中の漫画家・夢言を通して見るBL規制のリアル

 

小六で初めて同性同士でも恋をすることを知り、その尊さに夢中になった程 夢言(テイムゲン)。BL漫画を描き続けるも、母国である中国ではいつからかBL漫画が不良文化だとされるようになっていました。

「野火曠夜」(のびこうや)のペンネームで漫画家として中国で連載中の夢言ですが、思うように描かせてもらえず葛藤する日々。キスシーンを入れたくとも規制があるため男性同士の友情としてしか表現できない。「もう描けないかもしれない」「好きなシーンを描けないならなんの意味もない」と、表現の自由を奪われる辛さを抱えていました。

夢言は日本のpixivに漫画をアップしていた頃、日本語の勉強を頑張ってセリフを日本語で書いていたことがあります。とても熱いコメントをもらったり「いいね」が一つ増えるだけで嬉しくてたまらなかったのですが、その後pixivは国の規制によりブロックされ、VPNを使っても不安定でアップできないことが増えたのです。

中国でBL作品を展開する難しさに関して、私たちは読者(視聴者)視点で知ってはいても、作者視点での底知れぬ苦悩は見えない部分でもあります。本作では中国人の漫画家である夢言を通して、そんな繊細なテーマの核心に触れられています。

 

私には“日本の月はまるく見える”

本作のタイトル『日本の月はまるく見える』にはどんな意味が込められているのでしょうか。目を惹くタイトルですよね。中国では“外国の月がまるい”という言葉があるのですが、自分の国より他国が優れていると思う人を揶揄する時に生まれた言葉なんだとか。そう、夢言にとって“日本の月はまるく見える”のです。

昔と違いBL規制がどんどん厳しくなり描きたいものが描けなくなっていくなかで、夢言はふとpixivに漫画をアップしていたことを思い出していました。

久しぶりにpixivを開いてみた夢言は、1年前に届いていたメッセージを見つけます。そこに書かれていたのはなんと、日本の出版社からの連載オファーだったのです!

ようやくチャンスに恵まれるも、ネット規制で連絡すらとれないという事態に陥った夢言。その絶望は計り知れないですが、久しぶりに再会したお見合い相手でもある同級生の林 致遠(リンチエン)が背中を押してくれて、彼女はついに日本へと旅立ちます。

一度きりの人生──夢を叶えるために大きな一歩を踏み出した夢言。実は相当の覚悟を持って、漫画家になることを反対していた母親を説得して家を出ています。

本作の見どころはBL規制のことだけではなく、好きなことを追い求めて一歩踏み出した夢言のここからの物語にも詰まっています。また、中国ならではの文化や結婚観など興味深いことも多いです。

ちなみに致遠は夢言が初めて描いたBLを読ませた相手。かつて致遠に自分の趣味を否定された夢言は彼に読ませたことを後悔しているのですが、致遠のBLに対する認識や思いの変化も注目したいところです。

 

日本人編集者との出会いと価値観の違い

日本の編集者との出会いは、夢言にとって大切な希望。けれど、変な中国人と思われたくないし、“中国から来たBL漫画家”はどう写るのか不安も大きい様子。いざ編集者の山田さんと会うことになり、初対面は絶対に失敗できないと意気込むなかでハプニングが発生します。

日本人は「遅刻を嫌う」「建前上手」という夢言が得た情報は、対日本人の処世術なのかもしれませんが、やはり大事なのは信頼関係ですね。必死に取り繕うために夢言がついた嘘に、「価値観や考え方が違う」と山田さんは少し不安を覚えています。けれど、夢言の漫画に惚れていることや優しい笑顔の山田さんに、読んでいるこちらまで安心感が広がります。

そして、連載に向けて動き出す夢言と山田さんのやりとりも本作の注目ポイントのひとつ。漫画家と編集者が一緒に作っていく様子がとても印象的です。中国に戻ると通信が不安定で、連絡を取る手段すらままならない夢言に寄り添ってくれる温かさにも泣けてきました。

また、夢言が愛読しているBL作品の作者・佐藤いも先生との出会いなど、本作にはほっこりするエピソードも詰まっています。シビアなテーマを扱いながらも、今のところ悪い人はいない(はず)なので安心して読めるのも嬉しいです。

日本にはネットにも書店にもBL本が溢れていて、夢言は好きな本を好きなだけ手にとることができる幸せを噛み締めています。私たちが当たり前のようにできていることも国が違えばそうではなかったり、夢言が日本からBL本を持って帰るのも一苦労していたりと、改めてその厳しさを実感しています。

日本でも人気の中華BLファンタジー小説『魔道祖師』(著:墨香銅臭先生)を例にあげると、アニメ化や実写ドラマ化では厳しい規制のなかで明らかなBL要素はカットや改編して“ブロマンス”作品として描かれています。そのため、中国の規制や検閲のことは日本でも広く知られており、多くの方にとって気になるテーマとも言えそうです。

 

果たして夢言は日本のBL誌で連載できるのか?

今や大注目を集める中華BLですが、中国出身だからこそ上手く描けるのかと言えば、そう単純な話ではないことも夢言の挑戦を見ていて感じました。

実際のところ、熱狂的なファンが多い人気作品には読者を引き込む緻密なストーリーや唯一無二のキャラクターなど魅力が満載で、作者の豊富で深い知識や巧みな言葉選びに魅せられる部分もあります。たくさん勉強されてきたのだろうなと、才能だけでなくその努力にも尊敬の念を抱くばかりです。

山田さんが夢言の描く漫画の素晴らしさを信じる一方で、連載ネームを見た編集長の感じ方は少し違っていました。果たして夢言は日本のBL誌で連載できるのでしょうか……⁉

連載を目指して奮闘し、食べる時間さえ惜しんで原稿へ注力する夢言。無理はしないでほしいと思いながらも、好きなことに一途になれる姿に心から応援したくなります。彼女の漫画も読んでみたい……!

夢言はビザやお金の問題を解決できれば日本で好きな漫画を描きたいと言っていますが、今の彼女にとっては日本が輝ける場所なのでしょう。

日本でも中国でも見ている月は同じ。もしかしたら“日本の月はまるく見える”には未来への希望も込められているのかもしれませんね。

 

[文/藤崎萌恵]

 

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数年前にBLと出会い、心に潤いを取り戻しました。BLとブロマンスを愛し、大好きな作品はたくさんありますが『チェリまほ』が心のよりどころです。そして『魔道祖師』をはじめ中華BLの沼へ。趣味は国内外のBL漫画や小説を読むこと&ドラマ観賞で、これまでに執筆した記事は『チェリまほ』『美しい彼』『魔道祖師』『陳情令』『ENNEAD』など。

この記事をかいた人

藤崎萌恵
数年前にBLと出会い、心に潤いを取り戻しました。BLとブロマンスが癒し。主な記事は『チェリまほ』『陳情令』等。

担当記事

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