存在は偉大すぎるがゆえに私が「幸せになってほしい存在です」って言うにはおこがましい|春アニメ『狼と香辛料 merchant meets the wise wolf』キャストインタビュー【後編】ホロ役・小清水亜美さん
ひとつひとつ、ちょっとずつ進んでいくホロを支えてあげたい
──小清水さんにとってホロとはどういうキャラクターだと思っていますか?
小清水:難しいですねぇ……。抱えてるものが、特に序盤は多すぎて。ずーっと1つの約束のために自由に生きず、その場に留まり続けるっていうのがどういうことなのかとか。
ホロは「1人は辛い」ってよくこぼすところがあるんですけれど、そう思うぐらいに長い時間を1人で居続ける。本当の自分を知らない人たちで埋め尽くされて、神として偶像として崇められることでしか存在しなくなるっていうのが、どういうことなのかすごく深く考えさせられます。
そう言った人間では本来抱えきれないようなもの、経験できないものを経験しすぎているから、一瞬わがままに見えるんですけれど、それって全くわがままじゃなくて。相手の顔色を読みながら、今これ言ったらわがままだけど、笑ってもらえる範囲かなっていうのを常にこう見ながらスタートするんで。
存在は偉大すぎるがゆえに私が「幸せになってほしい存在です」って言うにはおこがましいというか、なんかこう「人間がごめんなさい」みたいな気持ちなんですよ(笑)。
だからストーリーが進むにつれて、ちょっとずつ本当の気持ちを吐露するのが、ロレンス目線で見るとわがままの域を超えているというか、八つ当たりされて見えるシーンとかもあるんですけど。そういったところもむしろ、人の顔色を伺わず、ホロがホロである。本音を外に出せてる状況そのものが、喜びともまた違うな……良かったなって思うのともまた違う複雑な感情なんですけれど、なんだかそういったひとつひとつちょっとずつ前に進んでいく姿を支えたいみたいな気持ちになります。
もちろん、私はホロを演じる役者ではあるんですけれど、もし本当にホロという存在が居たと仮定したら、自分の喉を貸し出すことによって少しでも生きていることが幸せだと思ってもらえたら嬉しいな、みたいな存在ですかね。
いやー、すごく言葉にするのが難しいですね。思うことはすごくあるんですけど。日本語はいっぱいあるのに。なので、お姉さんのようであり、妹のようであり、娘のようであり、もっと神のような存在でありって、すごくいろんな面のあるキャラクターなので、その都度私の中でもホロに対して思う感情もちょっとずつ変化があったりとか。まぁ、一言にまとめるなら「スペシャルな存在」ですね!
──では、相棒のロレンスについてはどうですか?
小清水:これは私が年を重ねてしまったことによる変化だと思うんですけれど、当時のアニメではロレンスはちょっと大人な感じに見えていたんですよね。まだ勉強不足で至っていませんよっていう描かれ方をしているものの、当時の自分からするとお兄さん的に見えているところもあったんです。
でも、今あらためてロレンスを見ると、若い! 若いです(笑)! 現代の年相応の人たちよりはしっかりしていて、そうでないと命に関わるからすごくその地に足がついてるように見えるんですけど。でも根っこの部分って少年っぽいところが残っていたりとか、背伸びして大人に見せようとしてたりとか、そういう部分が「なんと少年のような人か」みたいな。
──自分の立場が変わることによって見方が変わるというのは面白いですね。
小清水:そうなんですよ。で、やはりここがホロの芝居に影響があるところで、ホロって元々ロレンスがそう見えているはずなんですよ。だからあえて、いじったりからかったり、こう言ったらこういう表情するだろうなっていうのも計算の元やっているのが、今の私でようやくわかったんです(笑)。「本当の意味がわかった!」みたいな(笑)。なので、そこはせっかく自分自身がロレンスをそういう風に見られるようになったからこそ活かして演技に反映させています。
一言でまとめると、よく頑張ってる人間だと思います(笑)。
──長年演じてきて、小清水さんにとって『狼と香辛料』という作品はどんな作品になっていますか?
小清水:自分にとっての分岐点にある作品かもしれないです。当時は20歳、オーディション受けた時はギリギリ10代だったので、10代から20代になるって自分の中すごく変化があって。そこをどうしていこうかってなっていた時に頂いた役だったんです。
そんな中また時を経て、これから私は40代になるというタイミングで、どういう風に役者としてやっていこうかと今一度考えて、変わっていかなければならない時に、またホロが舞い降りてきて。
このホロを演じなかったら見えなかったもの、気づかなかったものってすごくあって。それは今回もそうなんですよね。当時の自分を振り返ったり。声色としては最近あまり演じていない役どころなので、そういう役を今、たくさんのセリフ量で演じることで見えるものもあります。なので、私の分岐点で、未来に気づきをくれる作品……ですかね。
──最後に2つメッセージをお願いしたいと思いまして。今回のアニメから『狼と香辛料』に触れる新しい方たちへのメッセージと、これまで応援し続けてきてくれたファンへのメッセージをお願いできますか?
小清水:まずは新しく作品に触れてくれる方へ。長く愛され続けている作品ではあるんですけれど、そんなことは深く考えずに、ただただ純粋に見てもらえたら嬉しいなって。それで楽しいって思ってもらえたら、こっちとしても喜ばしいし、もしかしたらちょっと難しいなって思うかもしれない。それはそれなので、本当に難しく考えずに、ストレートに入ってきてください。
当時を知ってる知らない関係ないので。今回の『狼と香辛料』を知ってもらえること。それを見てもらえることが私たち作る側にとって嬉しいことなので。その中で何か楽しかったとか気に入ってもらえたら、その気持ちを届けてもらえたら嬉しいなと思いますので。オンエアを楽しみにしててください。
そして古参のファンのみなさん、初めにも言ったんですけれど、今回の新しい解釈というか、令和版『狼と香辛料』を見ていただいて、これはこれで好きだなとか、当時の方が好きだったなあとか、こっちの方が好きだなって色んな感情を頂くと思うんですけれど、それの全てが正解で、当時のが好きな方はぜひその当時のものを変わらずに愛し続けてもらえたら嬉しい。無くなるものじゃないし、塗り替えようとして新しいものを作っているわけではないんですよね。なので、それを大事にして欲しいなって。そして今回のシリーズを好きって言ってもらえる皆さんには今回の『狼と香辛料』がどうなっていくのかをワクワクしながら見守ってもらえたらなって。
さらに言えばどっちも好きって言ってもらえる神様みたいなお客様は、どっちもそして原作も含めて全てのホロを、そしてロレンスを、キャラクターを愛していってもらえたら嬉しいな。そういった皆さんに、少しでも答えていけるように我々も頑張りますので、改めて今後ともよろしくお願いいたします。
作品概要
あらすじ
ある日、黄金色の麦畑が広がる小さな村を訪れた彼は、耳と尻尾を有する美しい少女と出会う。
「わっちの名前はホロ」
自身を“賢狼”と呼ぶホロは、豊穣を司る狼の化身だった――。
彼女の「遠く北にあるはずの故郷・ヨイツの森へ帰りたい」という望みを聞き、ロレンスとホロは北を目指す商売の旅の道連れとなる。
だが行商人の旅には思いがけない波乱がつきもので……。孤独だった行商人と、孤独だった狼の化身を乗せた馬車が、今、騒がしく走り始める。
キャスト
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