『僕の妻は感情がない』小杉タクマ役・豊永利行さん×ミーナ役・稲垣好さんインタビュー|「社畜サラリーマン」と「家事ロボット」の夫婦生活を通して、明るく楽しく価値観を"アップデート"してくれる作品
会話のキャッチボールができない特殊な現場、稲垣さんは私生活にも影響が!?
ーー作品のイベント等でおっしゃっていたと思いますが、本作のアフレコの際にはもう映像がすでに完成していたと。
豊永:そうですね、1、2話はもうほぼ完成していました。もちろん細かい修正は入るらしいのですが。
ーー後はおふたりの声を入れるだけという感じですかね?
豊永:そうですね。なので、個人的にはとてもやりやすかったです。1話をご覧になっていただくと分かると思いますが、細かいところに息遣いやアドリブが入っているんです。
これは画が完成していたからこそできる部分なので、「制作スタッフのみなさん、すごい! ありがとうございます!」という感じでした。それぞれ声優さんによって、やりやすさの定義は違うと思いますけどね。
稲垣:逆に画の中で口が動いていたりするとやりにくさを感じる方もいらっしゃいます。
豊永:ミーナちゃんに関してはそういうのないよね?(笑)
稲垣:もう、口が開かないですから。
豊永:逆にやりやすそう。
稲垣:やりやすかったです〜!
ーー映像ならではの作品の魅力もお聞きできればと思います。
豊永:1話を見させていただいたのですが、それこそさっき言っていたドヤるミーナちゃんが良かったです。
稲垣:あのシーンも含め、ミーナちゃんの目の描写がすごかったです。
豊永:そうそうそう! キュイーンって動く感じが、改めてロボットらしさを感じました。
稲垣:音が付くことで、温かみやポップさが増していて作品に親しみやすくなっていると感じました。あと、原作の描写をアニメとして広げるような細かい日常の瞬間も描かれているんです。私が特に好きなのは、ミーナが缶ビールを「ブシャアッ!」って潰してしまうところ。
豊永:あそこは良かったね。
稲垣:原作の描写に迫力が加わっていて、強そうな感じがしました。映像でふたりの日常が描かれることで、一緒に過ごしているような感覚になりますよね。
豊永:住んでいる部屋自体の印象が暗めなんですよ。蛍光灯だし(笑)。そのリアルな雰囲気とふたりのギャップも含めて、楽しんでいただけるんじゃないかなと。
稲垣:あの部屋は無機質過ぎますよね(笑)。
ーータクマの働きぶりだと、もう少し良いお部屋がありそうですけどね。
豊永:「もっと良いところあるだろ!」って(笑)。
稲垣:近未来の世界のはずなのに、和室!?(笑)
ーー(笑)。話を戻しまして、アフレコ現場での、ディレクションはありましたか?
豊永:吉村文宏監督もそうなんですが、音響監督の伊藤巧さんには以前から別作品でもお世話になっていて、伊藤さんや監督の思い描くタクマ像を最初にお話いただいたんです。そこから、僕が作ってきたタクマ像をすり合わせて作らせていただきました。なので、ディレクションは細かいイントネーション等のみでしたね。
伊藤さんは「豊永くんなら大丈夫っしょ」という空気を出してくださったので、逆にプレッシャーでした。「いやいや、やめてください!」と思いながら(笑)。
ーー豊永さんがイメージしていたタクマと、制作サイドのイメージに違いはありましたか?
豊永:僕の中でのタクマ像はちょっと気持ち悪かったんです。ただ、気持ち悪さを出しすぎると作品のコンセプトにそぐわなくなってしまうというお話があって、僕の想定よりは少し爽やかにしました。
ーー稲垣さんはいかがですか?
稲垣:最初に私が持っていったお芝居では、かなりロボット喋りをしていたんです。文節や単語ごとに間を開けていたのですが、「そこまでロボっぽくしなくても良い」というディレクションをいただき、少し柔らかめになりました。
さらに「冷たすぎる」や「ちょっと怖い」ということ、長セリフを読んでいる時に私の息が保たなくなってしまったことについてもご指導いただきました。イメージとしてロボットは息継ぎをしないのではないかなと思っていました。
ーーなるほど。
稲垣:息継ぎの音さえも入れたくないなと思って一息で読んでいたら「ドキドキしてたね」と言われて(笑)。
豊永:「息苦しそうだったね〜」とか(笑)。
稲垣:そこは何度もリテイクさせていただきました……! また、感情が声に出ない分、どこで抑揚を出していくかという話もしましたね。もう動きで感情を出すしかないので、首の向き、手の動きや目の動きまで、全部を意識しながらやっていこうと。
豊永:かなり繊細な作業だね。
稲垣:ロボットなので、何かを握る時も声に変化はないのですが、ちょっとした音の揺れにまでこだわって、考え抜いて演じました。難しかったので、今ミーナちゃんがどんな動きをしているのか、台本にイラストや矢印を書いていたんです。
ーーロボットと人間の掛け合いがあったかと思いますが、収録はいかがでしたか?
豊永:人間同士ではないので、いわゆる会話のキャッチボールが異様なんですよ。僕が投げた球は必ず一定方向に、なんの変化もなく返ってきます。なので、稲垣さんはリアクションを取りすぎないようにするのが難しかったんじゃないかなと。僕は僕で、どんな球を投げても同じということに対して向き合わないといけなかったですね。
本来ならばそんな掛け合いはストレスを感じるんですが、そうでなければいけないし、タクマはそんなミーナとの掛け合いが普通なので、僕がストレスを感じてはいけない。これが当たり前なんだと思いながら演じる必要があるので、自分の中で腹落ちするまで2日間くらいかかりました。
稲垣:2日(笑)。私も受け取りたい気持ちが大きくて、豊永さんの球を「かしこまりました!」と返したいのに、そこでバツっと切らなければいけないのが苦しかったです。
1話でもタクマが感情的にミーナに話しかけるシーンで、「ここはバッサリと切って欲しい。その温度感が面白いんだ」というディレクションがあって。1エピソードだけでは、慣れなかったのですが、徐々にバランスがわかっていきました。
ミーナちゃんって話す相手や状況によって、態度が違うんです。冷たい時や、演じていて「仲良くしたいのかな?」と感じる時とか様々あるのですが、タクマと話す時には自分でも無意識に柔らかになっていて、「ミーナちゃん、とても柔らかく喋るんだな」と。
タクマの言葉を聞いて、返事が柔らかくなっていって、最初に課題だった冷たさがなくなっていったんですよね。豊永さんのお芝居があってこそだと思っています。
豊永:でしょうね〜。
一同:(笑)。
豊永:やめてください(笑)。現場では「ミーナちゃんって役者殺しだよね」という話をしていました。役者は「何より会話しろ」と言われるのに、それを否定しなければいけない作品でしたから。
稲垣:実は日常生活にも支障が出ていました。
友人に「それ思ってないよね?」みたいに言われることがたまにあって(笑)。
豊永:ちゃんと受け取ってるのに、アウトプットできなくなっちゃったんだ(笑)。