『夜のクラゲは泳げない』連載第10回:監督 竹下良平× 脚本 屋久ユウキ|「普通」という皮をかぶったクリエイター・まひるに“エゴ”を出してほしかった
「普通」という皮をかぶったクリエイター・まひるに“エゴ”を出してほしかった
――第10話ですが、何よりも最後の木村ちゃんの歌に心を揺さぶられて、涙が出ました。
屋久:いや、あれは僕も泣きましたね。映像コンテが来た段階で一度泣いてるんですけど、完成映像でもまた泣いて(笑)。
竹下:めい役の島袋美由利さんの下手くそな歌の演技というのが、もうめちゃくちゃすごかったんですよね。
屋久:ほんとに! “下手が上手すぎる”んですよね。
竹下:だから、もはや上手いんですよ(笑)。
屋久:この才能を早く知ってほしい!って、ずっと思っていたんです。やっと放送が終わったから、皆さんも見つけてくれたと思うんですけど。
竹下:第10話は、動画工房の若手が中心になって作っている回でもあるんです。特にコンテ・演出の大迫光紘さんと、めいの歌唱シーンを担当した八木佐織さん、120カットくらいやっている水野公彰さんの3人が中心になって作っていたんですけど、島袋さんの名演技も相まって、新しい才能が、うまく組み合わさって爆発した回だった気がします。
――音痴なんだけど、これ絶対にいい曲だっていうのがわかる、絶妙さでした。
屋久:そう! 曲もいいんですよね。で、その時のちょっとした芝居もいいんです。めいが足をぎゅっと踏ん張るところとかが入っているんですけど、そういうのもすごく好きだし、表情もずっと大好きなんです。本当に熱量を感じる映像でした。
竹下:八木さんはとても悩みながら原画を描いていたみたいですけどね(笑)。実は島袋さんの歌唱部分が先に上がっていて、それに対して原画を描くという流れで作っていたんです。歌唱に感情がこもっていたから、それを映像にすることへプレッシャーをとても感じていたみたいです。それでも周りの期待以上のシーンをしっかり完成させて、若手ながらリスペクトしていました。
屋久:熱量と熱量の階段ができていて、びっくりしました。
――この回は、まひるが絵描きとして、プロの現場に行って挑戦するところが描かれていました。花音のことは、めいとキウイの2人に任せて、自分は自分のことをする。自分を試したい、成長したい、何者かになりたいという自分の気持ちを優先させるんですよね。
竹下:まひるの行動は賛否両論あると思いますが、私はまひるのことを応援していました。監督の仕事って、スタッフの仕事を否定する側面もあるんですよ……。自分のやりたいことや理想に近づくためにしょうがない部分もあると思うのですが、その結果、スタッフを傷つけてしまって思い悩むこともあります。
だからまひるには、周りを気にせずに、自分がクリエイターとしてすごいものを作る可能性がある道を選んで欲しいと思っていました。
まひるって、もともと「普通」という皮をかぶった生粋のクリエイターだと自分の中では解釈していたので、ここは自分のエゴを出してほしい部分だったんです。
屋久:まひるが選び取るところをどういう風に見せるのか。「普通」の女の子としての積み上げからどんな言葉を選ぶのかというのは、脚本を作っていく中でもいろいろ考えたし、直しも多かったところなんです。
まひるがひどすぎる子になっちゃいけないし、まひるの気持ちも、花音の気持ちもわかるようにしないといけない。だから言い方ひとつでも工夫しないといけないと思ったんですね。
あまり長い会話にしすぎると良くない、バッと短いセリフで、まひるが傷つくようなことを言うようにしないといけないと思い、第9話ラストの「まひるは、ヨルは、泳げないクラゲなんでしょ」というセリフを書きました。
そして、まひるが早川雪音にほだされるというか、感化されるところも、「これを言われちゃったら目が輝いちゃうよね」というものにしないといけなかったので、第9話Aパートラストの雪音のセリフは大変でした。
――絵も褒めてくれて、それに対して努力していることも分かってくれている。これは惹かれますよね。
竹下:これもクリエイターあるあるというか。クリエイターとして、花音と仕事をすることに物足りなさを感じてしまう。全肯定してくれる人って、嬉しい反面どこかつまらなく感じることがあると思います。自分の成果物の評価してほしいところを雪音が的確に見てくれるから、まひるのクリエイターとしての本能は雪音を求めてしまう。
屋久:そうですよね。
竹下:監督の仕事も似たような側面があると思います。だから雪音が会議室でまひるを説得するシーンは思い入れがありました。自分も人の仕事としっかり向き合いたいなって。
――これがクリエイターとプロデューサーや監督の関係性だなと思いました。そのまひるの挑戦がどうなるのかはこの先になりますが、クライマックスに向けての見どころを訊いてもよろしいでしょうか?
竹下:キャラの決着回ということで、自分も納得いくラストが描けたと思っています。だから楽しみにしていてほしいです。特に第12話は、自分がコンテ・演出を担当していて、スタッフ総動員で作った総力回になっています。 最終話のエンディングまで、楽しみにしてもらえたら嬉しいです。
屋久:第10話が終わった時点だと、「あと2話でまとまるの?」って思っている人も結構いるんじゃないかなと思うんです(笑)。ここからも展開はあるんですけど、ちゃんとまとまったと思うので安心してください。それぞれの悩みとかテーマみたいなところも、それぞれがちゃんと答えを見つけて決着するような話になっているので、期待して楽しみに待っていてほしいなと思います。僕は第12話が一番好きなので、めっちゃ面白いと思います!
TVアニメ『夜のクラゲは泳げない』作品情報
あらすじ
明日話すべき話題も、今週買うべき洋服も、
全部スマホ(ルビ:トレンド)が教えてくれる。
何者かになってみたい——そんな願いを持つ間もないほどこの世界は忙しい。
活動休止中のイラストレーター“海月ヨル”
歌で見返したい元・アイドル“橘ののか”
自称・最強Vtuber“竜ヶ崎ノクス”
推しを支えたい謎の作曲家“木村ちゃん”
世界から少しだけはみ出した少女たちは匿名アーティスト“JELEE”を結成する。
自分じゃない“私たち”なら——輝けるかもしれない。
キャスト
(C)JELEE/「夜のクラゲは泳げない」製作委員会