転移したからって成功できるわけなんてない!? 異世界転生・転移作品として初の主人公は“アンチ異世界もの”な役どころ? 夏アニメ『異世界失格』センセー役・神谷浩史さんが第1話を振り返る【インタビュー連載第1回】
毎回、タイトルになるセリフがあるのも特徴。でも収録では意識せず!?
――私はあの異世界に導いてくれる、あのトラックが自分の元にも来てくれないかなと思ってしまいました。
神谷:何を言ってるんですか!? 異世界に行ったところで、役に立たない人は役に立たないままなんですよ(笑)。
――でも、アネットから「せめて職業を身に付けていって」と言われて、「僕は生まれながらにしてライターだよ」と答えてみたいじゃないですか。
神谷:そんなこと言ったらアネットも「はあ?」ですよ(笑)。でも「僕は生まれながらに作家だよ。それ以上でも以下でもない」というセリフはカッコよかったですけどね。
――あとセンセーが発するセリフは心に刺さる名言のようなものがたびたびあるのもいいですね。
神谷:各話のタイトルがそれっぽくなっているので、狙って作っていると思います。でも僕はまったく意識していなくて。そこを意識してやると、本来の意図とはズレたところに音を作ってしまいそうなので。例えば「お前の役、来週死ぬから」と事前に聞いてしまうと、役者はその布石として前の週から死ぬっぽい芝居をしたくなるし、どうしても色を付けたくなってしまうもので、僕もそのタイプです。でも死というものはだいたいが唐突に訪れるものなので、それは良くないと思うんです。
このアニメでも「このセリフがタイトルになっているんだ。じゃあカッコよく言ってやろう」と考えてしまいそうなので、何も考えずにアプローチしています。それが結果として、タイトルとして成立していたらいいなと。それにそういうものも意図した上で監督も映像を作ってくださっていると思うし、もし足りなければ「ここはタイトルになるセリフなので、もう少し印象的にお願いします」とか言われそうだけど、そういうこともなかったので、きっと大丈夫だったんじゃないかなと。シーンと成立していればOKで、僕のアプローチも間違えていなかったんじゃないかなと思っています。
――では皆さんに、改めて今後の見どころの紹介とメッセージをお願いします。
神谷:原作ファンの方の期待を裏切ることは一切なく、皆さんが思い描く『異世界失格』のイメージがそのまま具現化されています。既に第1話をご覧になっていただいた方は今後も安心して、引き続きご視聴ください。
そして、これまで異世界ファンタジー、特に転移ものをたくさん見てきた百戦錬磨の方にすれば、「何だよ、これ?」と思う作品であることは間違いありません(笑)。でもそう感じてもらえたら、こちらからすれば願ったり叶ったりで。「そうなんです。“何だよ、これ”なんです」みたいな(笑)。
異世界に行って、みんなが安易に成功できるわけなんてないんです。そういうイジワルな作品です(笑)。でも異世界作品を何冊も読んでいたり、アニメを見てきた猛者ほどわかる、お約束的なものも散りばめられているので、絶対に楽しめると思います。
何となく普通のアニメとして見たとしても、主人公は「とある文豪」をモデルにしているので、自分がかつて学んだ知識が役立って、前知識もなく楽しめると思います。そんな入口が広い、ちょっとズルい作品です(笑)。その着眼点は原作の野田先生の魅力であり、それを河合監督、そして僕らがおもしろがって関わらせていただいて、一生懸命にアフレコしました。もしよろしければお付き合いください。「一緒に心中してください」とまでは言いませんから(笑)。
――次回、登場するアネット役の大久保瑠美さんにオススメしたい文学作品を教えてください。
神谷:それほど文学作品は読んでいませんが、ミステリーは好きで、江戸川乱歩の作品は夢中になってよく読んでいました。江戸川乱歩作品の中で何が入口にいいのかなあ……一番有名な『D坂の殺人事件』かな。「D坂」って響きがカッコいいですよね。まあ談合坂の話なんですけど(笑)。
でも江戸川乱歩のセンスでは「D坂」になって、一文字アルファベットが入るだけで、印象的なタイトルになるんですよね。そういうセンスが光っているところも含めて、この作品です……でも『押絵と旅をする男』も超変わった作品で好きなんだけどなあ。『屋根裏の散歩者』とか、『人間椅子』という変態的な作品とか。
――江戸川乱歩は明智小五郎シリーズで有名ですが、猟奇的な作品も多いですよね。
神谷:文豪って紙一重だなって気がするんですよ。ぶっちゃけ江戸川乱歩はエログロナンセンスじゃないですか? 「この人、本当に変態だったんだろうな」と思うことが結構あるので(笑)。『D坂の殺人事件』にはそれが凝縮されているので、一応オススメしておきます。
連載バックナンバー
『異世界失格』作品情報
あらすじ
憂い多き人生の如く渦を巻く激流へと身を投げ...るよりも早く、猛スピードで突っ込んできた〝例のトラック〟によって。
文豪が目を覚ますとそこは、異世界の教会。案内人は、慈愛に満ちた瞳で微笑みかける。
「ようこそ冒険者よ。あなたは選ばれ、転移したのです」
御多分に洩れず、勇者の使命を背負わされてしまう文豪。だが、彼は転移者の誰もが与えられる〝あるもの〟を持たなかった......。
「...ふふ。恥の多い生涯だ」
この世でも、異世界(あの世)でも <失格者>の烙印を押された文豪(センセー)の冒険が幕を開ける。
きっと、どこかにいるはずの「さっちゃん」を見つけ出し、今度こそ、あの日の本懐——心中を遂げるために。
キャスト
(C)野田 宏・若松卓宏・小学館/「異世界失格」製作委員会