「弧次郎ってそんな簡単に吹き飛ぶかな? 悔しくてすぐ戦闘態勢に入らない?」悩み苦労した分思い入れあるキャラクターに|TVアニメ『逃げ上手の若君』連載第5回:弧次郎役・日野まりさんインタビュー
『魔人探偵脳噛ネウロ』『暗殺教室』を手掛けた人気作家・松井優征先生が描く歴史スペクタクル漫画『逃げ上手の若君』がTVアニメ化。2024年7月よりTOKYO MX・BS11ほか全国30局にて放送中です。本作の主人公は、信頼していた幕臣・足利尊氏の謀反によってすべてを失った北条時行。時行は逃げ落ちてたどり着いた諏訪の地で仲間と出会い、訪れる困難を「逃げて」「生きて」乗り越えていきます。
アニメイトタイムズでは、本作の魅力を深掘りする連載インタビューを実施! 第5回目は、弧次郎を演じる日野まりさんにお話を聞きました。ちょっとのさじ加減で、キャラクターの見え方が変わってしまう可能性がある“芝居”。日野さんは弧次郎を演じるにあたり、今までにないくらいのチャレンジをしたと振り返ります。続けて、「悩み、苦労した分、すごく好きなキャラクターになりました」と笑顔で語ってくれました。
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今までの役の作り方じゃさ、ダメなんじゃない?
――弧次郎が登場した第二回からここまでの物語を振り返ってみて、印象的だったシーンを教えてください。
弧次郎役・日野まりさん(以下、日野):アフレコのときに印象的だったのは、犬追物(第四回、第五回)で若(時行)に点数が入ったときに弧次郎がはしゃぐシーン。あそこで音響監督の藤田さんから「もっと子供らしいところを出しちゃっていいからね」と言われたんです。それで、弧次郎を演じるうえでの最後のピースが埋まったような気がして。
――最後のピース、ですか。
日野:はい。私は弧次郎がクールな子だと思って、そこにフォーカスをあてて演じようとしていたんです。でも、当たり前なんですけど、クールってだけでは人は成り立たなくて。頭がいい面もあるし、強いし、男らしいけれどちょっと野蛮なところもあって。ディレクションを何度も受けるなかで、私の掘り下げが浅く、演じるうえで足りないものが多かったことを痛感しました。
演じるなかで色々なピースが埋まっていきましたが、最後にハマったのが、先ほど挙げた弧次郎がはしゃぐ様子。大人っぽい面もあるけれど、はしゃぐところははしゃぐ子供らしい面も、彼にはあるんですよね。あのディレクションを受けて、ようやく弧次郎を演じる芝居の方向性がちゃんと定まった気がします。
――私も原作が大好きで欠かさず読んでいるのですが、弧次郎は逃若党のなかでも、特に色々な面が見られて成長が楽しみになるキャラクターな気がします。
日野:そうかもしれません。でも、ちょっと人をからかうところを強くするだけで(風間)玄蕃みたいになっちゃうし、クールを立てすぎてしまうと吹雪に寄っちゃって。その塩梅が難しかったです。ちょっとずつ、ちょっとずつ慎重にピースを集めて、考えて演じたキャラクターでした。今までにないチャレンジをたくさんしたので、恐らく死ぬときに思い出すキャラクターの一人になったと思います(笑)。
――本作のアフレコは「1000本ノックだった」と時行役の結川さんがおっしゃられていました。
日野:納得の言葉です。10何年ぐらいこの業界にいますが、私もこれまでにないようなディレクションを何度も受けました。あまりに上手くいかなさすぎて、アフレコの帰り道でお世話になっている先輩の高橋伸也さんに相談をしたんですよ。そしたら、高橋さんが「今までの役の作り方じゃさ、ダメなんじゃない?違うステージにいるんじゃない?」とおっしゃったんです。鈍器で頭を殴られたくらいの衝撃を受けました。
――先輩からの言葉でハッとしたということですね。
日野:はい。五大院宗繁に弧次郎が弾き飛ばされたシーンで私は、「吹き飛ばされる芝居が欲しいんだな」と思ったんです。でも藤田さんからは「あのさ、弧次郎ってそんな簡単に吹き飛ぶかな?悔しくてどっかにしがみつこうとしたり、足を引っかけたりして、すぐに戦闘態勢に戻ろうというガッツがあるんじゃないかな」というディレクションがあって。
これまで私は、客観視して「こういう役やシーンには、こういう芝居が欲しいんだろうな」と思って演じることが多かったんです。でも、藤田さんのあの言葉は「もっと主観的な視点を持って演じて欲しい」ということだったんだろうなって。そういう芝居を今までやってこなかったので苦労しましたが、おかげさまですごく好きなキャラクターになりました。
――苦労した分、学びも多くなる現場になった。
日野:なりましたね。デビューしたばかりの声優同然の気持ちで、最後までアフレコに臨ませていただきました。