変わらないスタイルと、新しい挑戦を融合させたMay'nの20年目。TVアニメ『モブから始まる探索英雄譚』EDテーマ「ストロボ・ファンタジー」インタビュー
グルーヴ感を大切に、リズミカルなポップさを
――May'nさんらしさを理解した華余子さんの曲だからこその歌いやすさもあったのでしょうか。
May'n:歌いやすい部分もありましたが……私は常に感覚的に歌っているところがあるので、改めてディレクションを受けると難しかったところもありました。華余子さんはアレンジャーやプロデューサーとしての語彙力がすごいんです。私がただ感覚で歌っていた部分を、音楽的に説明してくださいました。例えば、「ここはこのビート感だから、ハネ感を大切にしてほしい」とか。で、その説明を受けて初めて気づいたことがたくさんありました。そういう意味では、音楽的にもすごく勉強になりました。
例えば……皆さんもカラオケなどで歌うときは、リズムの一番下のキック部分を意識することが多いと思うんですが、実は上の方の音も大切だなとか。私も、普段は無意識でしていた部分で、華余子さんが「May'nちゃんはこういうふうにリズムを取るよね」と細かく指摘してくださって。
前回の「蒼の鼓動」(テレビ愛知「10チャンベースボール」テーマソング) のようなロックな楽曲だと、「いけいけ、ど〜ん!」って感じで勢いで歌い切れる部分も多いのですが、今回の曲は細かなリズム感が合わないと、ゆるっとしてしまって締まりがなくなるんです。
だからこそ、華余子さんは感情やノリだけでなく、グルーヴ感を大切にディレクションされていたんだと思います。そういった意味では、難しさもありましたが、自然とそれができたことで、華余子さんと私のグルーヴ感が合うことも実感しました。
――華余子さんのテクニカルなサポートも光ったレコーディングだったんですね。
May'n:そうですね。ここまで細かいリズムを意識して歌ったことは最近だとあまりなかったかもなと。譜面に100%合っていなくても、人間が歌うからこその心地良いリズムもありますし、日本語独特の響きが伝わることに意識を置いて少しズラす場合もありますし。特にバラードやロックは、そのほうが想いが伝わりやすいように思っています。
今回は言葉を大切にしつつも、ここ最近ではいちばんリズムに重きを置いたレコーディングになりました。だからこそ、ルンルンするようなハネ感が、ポップ感につながったと思っています。
――May'nさんならではの、リズミカルなポップ感ですよね。まるで羽が生えたかのような。
May'n:華余子さんに「ポップな楽曲にしてください」とお願いしたら、多分、どんなものでも作れると思うんです。キュートな印象のメロディもポップに昇華できるとは思いますけど、今回はかわいらしいポップさではなく、それだけではない、もう少しリズミカルなポップさを目指してみました。細かく話し合ったわけではないんですけど、自然とそこに着地しました。
聴いていて、とても気持ちいい楽曲になったと思います。ちょっと早口になるラップのようなパートも、実際に口ずさんでもらえると、もっともっと楽しんでもらえるんじゃないかなと。
――歌詞について先ほどコメントがありましたが、歌詞はコライト。メッセージ性がありながらも、リズムに乗りやすい言葉が選ばれている印象もあります。
May'n:ああ、そうですね。だから歌詞を書くのが、私はめちゃくちゃ難しかったというか……。原作を読んだ上で、さきほどお話した通り「あなたが頑張っている姿を私に見せてくれることで、私もこの旅を楽しめているんだよ」という気持ちを歌詞にしたいなと思ったんです。
でも、特にAメロやBメロでは、なかなか歌詞がハマらなくて。最初はもっと作文のようというか……バラードに合いそうな言葉選びになってしまったんですよね。それで華余子さんにお手伝いいただき、このリズムトラックに乗れるようなキャッチーな言葉選びをしてもらったんです。
――〈AtoZ〉などのアイデアはMay'nさんから?
May'n:そこは華余子さんからでした。私は基本的には英語を使わなくて。ときには一緒に書くこともあって、ちょこっと入っている英語に関しては、キャッチーな歌い方にして伝わりやすさを意識しています。
〈ただの偶然?それともまさか必然?〉という冒頭の一行は私が書いたり、次の〈ステレオタイプな運命だって〉は華余子さんが書いたりと、それぞれのブロックによって違いはするんですけど。タイトルの「ファンタジー」に関しては、最初から私が決めていたんです。
――そうだったんですね。
May'n:ファンタジーな存在であるシルフィーから「この出会いってすごく特別! ファンタジーみたい!」という言葉が出てきたら、すごくかわいいんじゃないかなって思って。ファンタジーな子こそがファンタジーと感じることってあるんじゃないかなと。どんな人だろうと、自分を召喚してくれた人を支えることが当たり前だったシルフィーだけど、こんなにも楽しめる人に出会えたことはきっと特別って思っているんじゃないかなって思ったので、そういう思いを込めて、このタイトルをつけた上で歌詞を書いていました。
華余子さんからは「ファンタジー」というタイトルは世の中によくある言葉だから、もっともっと特別感のあるタイトルにした方が良いというアドバイスをいただきました。それでこの「ストロボ・ファンタジー」というタイトルになったんです。
このタイトルにしたことで、楽曲全体がより特別なものになったと感じています。レコーディングの細かいディレクションもですけど、歌詞のやり取りも勉強になりました。
――〈希望を掴む右手 わたしを守る左手〉〈明日を手繰る右手 昨日を繋ぐ左手〉という表現は、なんだかMay'nさんらしいなって思いました。
May'n:前にもっともっと伸ばしていきたい、という思いを右手で象徴していて。一方の1番の〈わたしを守る左手〉というのは、前に自分にとってのヒーローがいるイメージで書きました。シルフィーの目線で言えば(ヒーローは)海斗くん。前に立って「危ないよ」と声をかけてくれたり、「一緒に行こうか」と前から手を差し伸べてくれたり。前にいてくれる存在を意識して、この歌詞を書きました。
――May'nさん目線で言うと、ヒーローってどのようなイメージですか?
May'n:この歌詞を書いている時に、特定の誰かを強く思い浮かべていたわけではないんですけど……ステージに立っているとき、私のことを「ヒーロー」と思ってくださる方たちから「May'nが頑張っているから私も頑張ろう」というようなメッセージをたくさんいただくんです。でも私自身は目の前にいてくれているみんなの存在があるからこそ歌えるんだなと感じることがたくさんあります。
やっぱり一人では頑張れないと感じることが本当に多いんです。この歌詞の世界観とは違いますけど、みんながいてくれるから私は頑張れるんだなって思うことがたくさんあると思うと、私にとってのヒーローはファンの皆さんですね。
――編曲はebaさん、岸田さん(岸田教団&THE明星ロケッツ)、草野華余子さんが担当されています。編曲が入ったことでイメージは変わりましたか?
May'n:最初から割とこのイメージで進めていました。華余子さんが当初からアレンジしてくださっていたんですけど、細かいリズムトラックがより豪華になりました。だから、全体的なイメージは大きく変わっていなくて。
今回は、華余子さんがebaさんと岸田さんにお願いしてくれたんです。こちらからアレンジャーさんに具体的なリクエストを出すこともありますが、今回は華余子さんが「この曲にはebaさんのキャッチーなアレンジが合うし、岸田さんには、細かいリズム作りをお願いしたい」とパートごとに判断して、それぞれにお願いしてくださいました。
レコーディングの時にクレジットを知って「おふたりに参加していただいたんだ!」と驚いたくらいでしたね(笑)。