時行を本来の時行以上に大きく見せる行動が「逃げる」というのが面白い|TVアニメ『逃げ上手の若君』連載第12回:諏訪頼重役・中村悠一さんインタビュー
役者は一人で戦えるかどうかもすごく大事
――物語の主人公・時行にはどのような印象をお持ちですか?
中村:難しい人物だと思います。というのも、彼は「絶対に自分はこれを成す」という決意みたいなものを振りかざさないじゃないですか。宣言されたら、「なるほど、目的はそれなのね」って見ている側も分かるんですけど、時行は鎌倉に戻りたいという気持ちはあれども、それが今すぐの動力源じゃないというか。尊氏みたいに国を取るみたいな素振りもないじゃないですか。正義感が強いというのも、何か違うし。当時の倫理観だと普通なのかもしれませんが、あの年齢で敵の首を躊躇なくはねますからね。
計算高そうな一面があったりもしますが、有言実行な感じはないですし、見方を変えると場当たり的にも見えちゃう気がします。演じるうえでも難しいキャラクターで、デジタルな感じでは表現できないと思いますね。
――デジタルではない表現が必要、ということですか?
中村:はい。喜怒哀楽がハッキリわかるような表現ではなく、曖昧な、どこでもないような感情をアナログで探さないとチューニングできないようなキャラクターだと思います。もしかしたら、演じる人によって見え方が全然変わるキャラクターかもしれません。
――そんな時行を今回は、結川あさきさんが演じられました。頼重は、時行とのかけ合いも多かったと思います。
中村:僕としては、結川さんが出してくるものを頼りにお芝居をさせていただくしかないなと思いながらかけ合いをしていました。僕が勝手に時行はこうだって決めてやるには、あまりにも分からないキャラクターだったので、結川さんが表現して、監督たちがその方向で進めていったものに対して、頼重としてリアクションを出していきました。
――実際に結川さんとかけ合ってみて、いかがでしたか?
中村:結川さんの面白いところは、萎縮しないんですよね。彼女は声優としての経験がまだあまりなかったこともあり、序盤は特にリテイクも多かったんです。ただ、それで萎縮して芝居がどんどん小さくなるのではなく、次の収録時には「こういうアプローチを私は考えてきました」というものを提示するんです。それはすごくいいことですし、彼女のなかに監督・音響監督さんへの確かな信頼があるんだなと思いました。
――そういう心意気みたいなものは、声優には必要でしょうか。
中村:ハートの強さは必要だと思います。結局、役者は現場に入っちゃったら誰も助けてくれる人がいないので。自分一人で自分のことを見てやっていかなきゃいけないから、一人で戦えるかどうかはすごく大事だと思います。
――今回の連載で足利尊氏役の小西克幸さんは「(ディレクションで)ずっと粘ってもらえたということは、もっといいお芝居ができると思っていただけたということ」とおっしゃっていました。
中村:それはそうだと思います。監督たちも、100%できない指示をしてもしょうがないんですよね。だから、「この表現、このまま続けてもこれ以上はないな」と思われてしまうと、求められていることが100%できていなくても、OKテイクになっちゃうことが多いんです。本作では、結川さんなら何かしらの答えがちゃんと出てくると監督たちが感じていたんでしょうね。
――これから結川さんと同じように、まだ経験が浅い方が現場に入って何度もリテイクされても、心を強く持ってやったほうがいい。
中村:ですね。色々と言っていますが、僕だって若手のときは監督や音響監督が怖いなと思ったら、その人の顔色をうかがいがちになることもありました。
きっと多くの新人も何度もやり直しされると怖いから、その人が納得するお芝居をしなきゃと考え過ぎて、新しい表現に踏み切れなくなってしまったんじゃないでしょうか。ディレクションって、別に怒られている訳じゃないですから。そこは萎縮せずにやればいいと思います。実際に、結川さんは怒られていると捉えてはいなかったんじゃないかなと。演出指示を受けていると認識していたから、次々とチャレンジができたんだと思います。
時行を本来の時行以上に大きく見せる行動が、「逃げる」というのが面白い
――様々な魅力的なキャラクターが登場した本作。なかでも、中村さんが特に印象に残ったキャラクターを教えてください。
中村:小笠原貞宗です。原作から濃いキャラクターでしたが、声の表現が付いたことで憎めなさがすごく上がった気がします。時行の命を狙っているのでいい奴とは言いづらいですが、それでも、会話ができそうな奴だなと思いました。青山 譲さんのお芝居によってより魅力的なキャラクターになったと感じています。
――演じる青山さんは本連載で、貞宗は敵という立場ではあるけれど、時行にとっては壁として立ちはだかる、父親的な役割があるのかもしれないとおっしゃられていました。
中村:そうですね。父親的なことをしようとはしていないけれど、役割が結果的にそうなっている気がします。時行は貞宗の行動や背中を見て参考にしたり、反面教師にしたりしているところがあるのかなと。頼重が時行のいちばん近くにいる大人ではありますが、その次に位置しているのは貞宗なのかもしれません。頼重から学べないところは、貞宗から盗んで得ているところはあると思います。
――今回の連載ではみなさんに共通してお聞きしているのですが、中村さんは「逃げる」という言葉にどのような印象をお持ちですか?
中村:元々は、やっぱりネガティブなイメージがありましたね。ただ本作を通じて、生きているだけで誰かしらの脅威になるというのは、確かにそうだよなと思いました。逃げる才能って要は生にしがみつく才能ということだと思うんです。そこから立ち去るという表現ではなく、次のステップがあるという表現としての「逃げる」という言葉もあるんだなと、本作を通じて思いました。
――実際に、足利尊氏は時行のことを脅威に思い始めます。
中村:けしかけてもなぜか生きているだけで脅威じゃないですか。時間が経てば経つほど、見えない恐怖が妄想の中で巨大化していくんだと思います。時行を本来の時行以上に大きく見せる行動が、「逃げる」というのが面白いですよね。
原作とアニメでの違いを見比べてみて欲しい
――本作は史実に基づいたストーリーを展開しています。中村さんは歴史の勉強はお好きでしたか?
中村:歴史ですか。別に好きじゃなかったです(笑)。というか、僕が通ってきた道での歴史の授業が、そんなに面白くなかったなと思います。声優の仕事って、自ら能動的には触れないであろう作品や知識に触れる機会があるのが面白いんですよ。「こういう世界があるんだ」と知って、楽しめるんです。僕にとっては歴史がそのひとつでした。
――そうだったんですね!
中村:はい。ある仕事で、僕は戦国時代の人物を演じることになったのですが、その人物について全く知らなかったんですよ。それで、歴史が好きな先輩にその人物について聞いてみたことがあって、「そいつはね、病気で早く死んじゃったけど死んでなかったら勢力の関係図が変わっていたかもというくらい重要な人物なんだよ」と教えてくれたんです。
それから、改めて自分でもその人物がどういう人だったのか調べてみたら、どんどん興味が湧いてきて。人一人から始まった物語が勢力になって、時代になっていく。そうやって歴史を見ていくと面白いなと思いました。
――学校の歴史の授業、特にテストはどうしても暗記科目ですからね。
中村:そうそう。結局、覚えることが主になっている気がします。「覚えといてね」という言葉もよくないのかな?
――言われてみれば、学校で教えてもらえるのも、単語を暗記しやすい方法とかだった気もします。
中村:ですよね。攻略法的な教え方で入っちゃうから興味が出なかったのかも。効率はいいんでしょうけど、それで身に付くのかどうか……。結論、僕は歴史の勉強は好きではなかったですが、教わり方次第ではすごく面白いものなんだろうなと思っています。
――本日は貴重なお話ありがとうございました。最後に、アニメの放送が終わったいま、中村さんが改めて思う本作の魅力や振り返ってここに注目したら面白いというポイントを教えてください。
中村:原作をとてもリスペクトし、大事にしながらも、アニメの表現に挑戦している作品です。テロップの入れ方ひとつも工夫されていますし、所々で入る心理描写などはCGを入れているなど、漫画ではできない表現がふんだんに盛り込まれています。原作を読んでいてアニメを見ていない方がいたらすごくもったいないですし、アニメから入った方にも原作を読んでもらって、違いを見比べてみて欲しいですね。
今回はアニメを1クールやらせていただきましたけども、当然、原作はまだ続いている訳で。きっとみなさんの応援の声が届けば、アニメ続編もやるんじゃないでしょうか! 僕はやれると信じているので、アニメは一旦終了しますけれど、引き続き応援していただけるとありがたいです。
[取材&文・M.TOKU]
作品概要
◆放送情報
2024 年 7 月 6 日より毎週土曜日 23:30~TOKYO MX・BS11 ほかにて放送開始!
【放送局】
TOKYO MX 7 月 6 日(土)より 毎週土曜 23:30~
とちぎテレビ 7 月 6 日(土)より 毎週土曜 23:30~
群馬テレビ 7 月 6 日(土)より 毎週土曜 23:30~
BS11 7 月 6 日(土)より 毎週土曜 23:30~
MBS 7 月 6 日(土)より 毎週土曜 26:08~
RKB 毎日放送 7 月 9 日(火)より 毎週火曜 25:58~
長崎文化放送 7 月 10 日(水)より 毎週水曜 25:18~
宮崎放送 7 月 10 日(水)より 毎週水曜 25:26~
愛媛朝日テレビ 7 月 10 日(水)より 毎週水曜 25:50~
HTB 北海道テレビ 7 月 10 日(水)より 毎週水曜 25:55~
テレビ新潟 7 月 10 日(水)より 毎週水曜 25:59~
中京テレビ 7 月 10 日(水)より 毎週水曜 25:59~
北陸放送 7 月 10 日(水)より 毎週水曜 26:00~
静岡放送 7 月 10 日(水)より 毎週水曜 26:15~
大分放送 7 月 10 日(水)より 毎週水曜 26:25~
IBC 岩手放送 7 月 10 日(水)より 毎週水曜 26:28~
テレビユー福島 7 月 11 日(木)より 毎週木曜 24:59~
鹿児島放送 7 月 11 日(木)より 毎週木曜 25:20~
琉球朝日放送 7 月 11 日(木)より 毎週木曜 25:20~
さくらんぼテレビ 7 月 11 日(木)より 毎週木曜 25:25~
東日本放送 7 月 11 日(木)より 毎週木曜 25:31~
信越放送 7 月 11 日(木)より 毎週木曜 25:42~
秋田朝日放送 7 月 11 日(木)より 毎週木曜 25:50~
青森放送 7 月 11 日(木)より 毎週木曜 25:54~
RSK 山陽放送 7 月 11 日(木)より 毎週木曜 25:55~
広島テレビ 7 月 11 日(木)より 毎週木曜 25:59~
テレビ山口 7 月 11 日(木)より 毎週木曜 26:00~
チューリップテレビ 7 月 12 日(金)より 毎週金曜 25:53~
熊本放送 7 月 12 日(金)より 毎週金曜 25:53~
テレビ山梨 7 月 12 日(金)より 毎週金曜 26:55~
アニマックス 7/27(土) 毎週土曜 20:30~
リピート:7/28(日) 毎週日曜 9:30~
【配信】
▼7 ⽉ 6 ⽇(⼟) 24:00〜 毎週⼟曜⽇ 24:00〜
Prime Video
▼7 ⽉ 9 ⽇(⽕) 12:00〜 毎週⽕曜⽇ 12:00〜
d アニメストア/d アニメストア/FOD/ABEMA/U-NEXT/アニメ放題/バンダイチャンネル/Hulu/Lemino/Netflix/TELASA
(⾒放題プラン)/J:COM STREAM(⾒放題)/au スマートパスプレミアム/milplus ⾒放題パックプライム/DMM
TV/WOWOW オンデマンド/アニメタイムズ/Disney+/
※配信⽇時は編成の都合等により変更となる場合がございます。予めご了承下さい。
◆スタッフ
原作 : 松井優征(集英社「週刊少年ジャンプ」連載)
監督 : 山﨑雄太
シリーズ構成 : 冨田頼子
キャラクターデザイン・総作画監督: 西谷泰史
副監督 : 川上雄介
プロップデザイン : よごいぬ
サブキャラクターデザイン : 高橋沙妃
色彩設計 : 中島和子
美術監督 : 小島あゆみ
美術設定 : taracod/takao
建築考証 : 鴎 利一
タイポグラフィ : 濱 祐斗
特殊効果 : 入佐芽詠美
撮影監督 : 佐久間悠也
CG ディレクター : 有沢包三/宮地克明
編集 : 平木大輔
音響監督 : 藤田亜紀子
音楽 : GEMBI/立山秋航
音響効果 : 三井友和
制作 : CloverWorks
◆キャスト
北条時行 : 結川あさき
雫 : 矢野妃菜喜
弧次郎 : 日野まり
亜也子 : 鈴代紗弓
風間玄蕃 : 悠木 碧
吹雪 : 戸谷菊之介
諏訪頼重 : 中村悠一
足利尊氏 : 小西克幸
◆イントロダクション
少年は逃げて英雄となる―――
鎌倉幕府滅亡から始まる一人の少年の物語
『魔人探偵脳噛ネウロ』『暗殺教室』の松井優征が描く、「週刊少年ジャンプ」で大人気連載中の歴史スペクタクル漫画がついにアニメ化!
鎌倉幕府滅亡の後、北条家の生き残り・北条時行が動乱の世を駆け抜ける!アニメーション制作は『ぼっち・ざ・ろっく!』などを手掛ける「CloverWorks」が担当、監督は『ワンダーエッグ・プライオリティ』で副監督を務めた山﨑雄太、シリーズ構成に『その着せ替え人形は恋をする』の冨田頼子、キャラクターデザインに『劇場版ポケットモンスター ココ』で総作画監督を務めた西谷泰史など奇才たちが集結し、美麗かつ迫力の映像で歴史の一片を紡ぐ!
◆プロローグ
時は西暦 1333 年、武士による日本統治の礎を築いた鎌倉幕府は、信頼していた幕臣・足利尊氏の謀反によって滅亡する。
全てを失い、絶望の淵へと叩き落とされた幕府の正統後継者・北条時行は、神を名乗る神官・諏訪頼重の手引きで燃え落ちる
鎌倉を脱出するのだった......。逃げ落ちてたどり着いた諏訪の地で、信頼できる仲間と出会い、鎌倉奪還の力を蓄えていく時行。
時代が移ろう大きなうねりを、「戦って」「死ぬ」武士の生き様とは反対に「逃げて」「生きる」ことで乗り越えていく。
英雄ひしめく乱世で繰り広げられる、時行の天下を取り戻す鬼ごっこの行方は――。
◆WEB
公式サイト:https://nigewaka.run
公式 X :@nigewaka_anime (推奨ハッシュタグ:#逃げ若)
◆原作情報
既刊1~16 巻 発売中(集英社「週刊少年ジャンプ」連載)