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- 藤崎萌恵
- 数年前にBLと出会い、心に潤いを取り戻しました。BLとブロマンスが癒し。主な記事は『チェリまほ』『陳情令』等。
“高校3年の春、先生に恋をした―――”
一途でひたむきな生徒・高田澄人×過去にとらわれた国語教師・染谷美幸の、切なく甘いラブストーリーを描く『雪解けの恋』(著:itz先生)。季節を通して変化していく二人の関係が情緒豊かに映し出される作品です。
雪が舞う花冷えの日、公園で泣いている男性をみかけた澄人。どこか見覚えがあると思っていたら、彼は澄人が通う高校の教師・染谷だったのです。
コミックスは2016年6月に発売されて以降、続々と重版。ページをめくる度に胸が締めつけられたりキュンとなったり、読んだあとはきっと心が浄化されるはずです!
本稿では、そんな癒やしも与えてくれる『雪解けの恋』をご紹介。失恋した人、恋愛に臆病な人、心が疲れた人にも読んでほしい作品です。併せてオススメしたいスピンオフ作品『ぼくらが恋を失う理由』もご紹介します。
澄人(すみと)はある日、公園で泣いている男性を見かけた。それはなんと、自分が通う学校の国語教師、染谷(そめや)だった。
染谷のことを知れば知るほど惹かれる澄人と、澄人のことを知れば知るほど近寄れなくなる染谷。頑に澄人を拒む染谷には苦い過去があって…! ?
純粋で一途な生徒×過去にとらわれた先生の切なく甘い青春BL。
(公式サイトより引用)
『雪解けの恋』は表題作の他、「ルアーノート」、「ファイナルチャプター」の2作品+「雪解けの恋」後日談の描き下ろしも収録されています。
作者はitz(アイティーゼット)先生で、他に代表作は『コントラスト』『リバイバルブルー』など。
高校3年生。容姿端麗で人当たりが良く朗らか。気になる染谷に話しかけるようになり、やがて彼への恋心を自覚します。年下ワンコの愛らしさとイケメンっぷりの振り幅が大きく、目の表情が多彩で魅惑的。気持ちを真っ直ぐに伝える男前です。
国語教師で32才。真面目で静かな印象ですが、隙があって可愛い一面も。端正な容姿で生徒からも人気です。同性愛者である染谷は、過去のトラウマが原因で恋愛には臆病。美人で黒髪、眼鏡、年上、教師……染谷先生はいろんな方に刺さるタイプではないでしょうか。
季節外れの雪が降る公園で、一人涙を流している染谷に目を奪われた澄人。それ以降、染谷のことが気になって、心から離れなくなっていきます。春から夏、そして秋へと季節は巡り、染谷と一緒に過ごす度に想いは募っていく。
生徒が先生に惹かれていく気持ちもすごく分かりますし、先生があえて一線を引こうとしているのも大事なポイント。双方の心の動きにリアリティがあって澄人と染谷の関係に感情移入しやすく、読者を大いに悶えさせてくれます。
物語に寄り添った繊細で美しい絵が、疲れた心にスっと染みわたり、この作品を読んでいると自分が過去に置いてきた青春のトキメキや恋の苦しさのようなものが蘇る感覚も。
本作の視点は主に澄人ですが、複雑な染谷の心情も丁寧に描写されているため、それぞれの切実な想いに共感できるはずです。
染谷は文芸部の顧問なのですが、ほとんど活動はしていないため、染谷が一人で休憩している文芸室に澄人が遊びに来ることも。愛くるしい表情で先生を慕う澄人と、どこか儚げで憂いを帯びた染谷の落ち着いた空気感。本が好きな澄人と、同じく本をよく読んでいる染谷はより近い存在となっていき、本の話をしている二人に流れる時間も心地良いものです。
本の趣味、笑ってる顔、泣いてる顔……自分だけが知っている先生が増えていく。この学校で彼のことを一番知っているのは自分だと思うと嬉しくなりますよね。ちょっとした秘密の共有や交わした言葉の積み重ねによって、澄人は染谷への“好き”の気持ちが止められなくなっていきます。
一方で澄人の存在は染谷の心に確実に入り込んでいて、しばらく澄人が来ないと「随分静かだな…」なんて思いを馳せるように。澄人に懐かれている自覚はあっても、ひたすらに生徒と教師の距離を保とうとしていて、染谷の心情を考えると苦しくもありもどかしくも思えてきます。
自分の気持ちを真っ直ぐに伝えることができる澄人は、染谷への告白も男前。そんな澄人を染谷は相手にせず突き放すわけですが、実際のところ染谷の心は澄人に傾いているように見えます。
“教師”であること、自分が“男”であることを理由に澄人を遠ざけようとしながらも、澄人の好意を完全には拒みきれず葛藤しています。
実は高校時代のある出来事によりトラウマを抱えており、その経験ゆえにひとりでいることを選んできた染谷。男しか好きになれない自分と違って澄人には世間でいう“普通の幸せ”を得ることができるのだと言って線引きしているのです。でも、本当はひとりでいたいわけじゃない……
白銀の世界に二人だけで閉じ込められたような幻想的なシーンがあるのですが、この非日常感の中でふと漏れる染谷の本音は胸に迫るものがあります。
『雪解けの恋』を語る上で、澄人の親友たちも欠かせない大事な存在です。“おーちゃん”こと央志郎は、澄人の話に優しく寄り添う良き相談相手。そしてもう一人は、央志郎の幼馴染でもあるコバ。
澄人は二人に、自分の好きな人が“染谷先生”であること、それが“本気の恋”であることを打ち明けています。過去の恋をなかったことにしなければならなかった染谷の凍りついた心は、澄人によって解かされていく。澄人の友達が、かつて染谷を傷つけた人たちとは違うということも大きな救いです。
本作は生徒×教師の王道BLですが、失った恋と同時に負った痛みを昇華していく救済の物語でもあります。この作品がitz先生の初コミックスとは思えない圧倒的な完成度。何度読み返しても胸が熱くなり、私たちの心も浄化してくれます。
雪の描写やストーリー構成も美しい作品ですので、気になる方はぜひお手にとってみてくださいね。後日談も必見です!
表題作以外の2作品「ルアーノート」「ファイナルチャプター」は、いずれも短編でありながら深く余韻に浸りたくなるお話です。
『ぼくらが恋を失う理由』は『雪解けの恋』のスピンオフ作品です。攻めは34歳のサラリーマン・稲村 聡、受けは28歳のサラリーマン・坂井央志郎。そうです、本作の主人公は澄人の親友である央志郎。『雪解けの恋』から約10年後のお話です。
長年、幼馴染のコバを密かに想い続けている央志郎。コバへの感情に違和感を覚えたのが中学生の頃。その後、それが“恋愛感情”ではないかと自覚し始めるも、気づかないフリを続けるしかありませんでした。
小さな希望を持ちそうになることもありながら、それでも“友達”でいることだけを考えて、“恋愛感情”であることを否定し続ける日々。
この感情をどうしたら失えるのか。そう悩み苦しむなかで出会ったのが稲村で、央志郎は包容力のあるその手に救いを求めるようになります。
長年の想いと決別しようとするお話ですので切なくもありますが、傷ついた心を包み込んでくれるような癒やしの物語でもあります。前作で“おーちゃん”が気になった方にもオススメ。澄人と染谷もちらりと登場しますので、ぜひこちらも併せてお読みください!
幼馴染のコバへ長年密かに想いを寄せている央志郎(おうしろう)。ある日、バーで飲んでいると稲村(いなむら)という男に声をかけられる。軽い調子の稲村を不審に思うが、コバへの恋に悩む央志郎は優しく包容力のあるその手に救いを求めて……。
(公式サイトより引用)
著者:itz
出版社:三交社
レーベル:Charles Comics
発売日:2016年6月25日
著者:itz
出版社:三交社
レーベル:Charles Comics
発売日:2017年3月25日
数年前にBLと出会い、心に潤いを取り戻しました。BLとブロマンスを愛し、大好きな作品はたくさんありますが『チェリまほ』が心のよりどころです。そして『魔道祖師』をはじめ中華BLの沼へ。趣味は国内外のBL漫画や小説を読むこと&ドラマ観賞で、これまでに執筆した記事は『チェリまほ』『美しい彼』『魔道祖師』『陳情令』『ENNEAD』など。