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【祝10周年!】BL小説『美しい彼』が人々の心を捉えて離さない理由

【祝10周年!】引力のごとく惹かれ合う平良と清居──『美しい彼』が人々の心を捉えて離さない理由を作中の文学的な言葉とともに紐解く

凪良ゆう先生が綴るBL小説『美しい彼』(キャラ文庫)が、2014年12月19日に発売されてから10周年を迎えました。

底辺“ぼっち”な男子高生・平良一成とカースト頂点に君臨する美しい清居 奏。強く惹かれ合いながらもすれ違いを重ねる二人の関係を細やかに描いた珠玉のラブストーリーは、国内外で多くのファンを魅了しています。

2021年11月、萩原利久さんと八木勇征さん(FANTASTICS from EXILE TRIBE)のW主演でドラマ化されて大反響を呼んだ本作。2023年2月には続編となるシーズン2が放送。シーズン1、2ともにギャラクシー賞(主催:放送批評懇談会)のマイベストTV賞グランプリを受賞し、2年連続の快挙となりました。同年4月には『劇場版 美しい彼~eternal~』の劇場公開を果たしています。

斉藤壮馬さんと小野友樹さん出演でドラマCD化されており、北野 仁先生作画のコミカライズは現在第4巻まで刊行。さらに2024年12月25日に『劇場版 美しい彼~eternal~』シネマ・コンサートの開催が決定するなど、様々な形で『美しい彼』は人々の心へと届けられています。

本稿では10周年をお祝いし、長年愛され続ける『美しい彼』を大特集! 平良と清居の愛が紡がれる本作の魅力を紐解いていきます。

※本記事には『美しい彼』のネタバレが含まれます。ご了承ください。

 

耽美な言葉で紡がれていく『美しい彼』

『美しい彼』の著者は凪良ゆう先生。2019年刊行『流浪の月』で2020年本屋大賞を受賞し、2020年刊行『滅びの前のシャングリラ』で2年連続本屋大賞ノミネート。2022年刊行『汝、星のごとく』で第168回直木賞候補、2023年本屋大賞に選ばれました。2024年10月に「美しい彼」シリーズ最新作『儘ならない彼 美しい彼4』が刊行されています。

平良と清居の出会いとすれ違い、偏愛を描いていく『美しい彼』。耽美な言葉で紡がれる狂おしいほどの愛が心をさらっていき、いつの間にか作品世界にどっぷりと浸かって夢中になってしまいます。小説を読んでいると情景が浮かんでくるようでもあり、ドラマを観ると小説の世界に入り込んだかのような心地に。

ここからは、ドラマでも描かれた内容を中心に、その文学的な言葉を辿りながら作品の魅力に迫っていきます。

 

引力のごとく惹かれ合う平良と清居

 

高校2年生の春。教室で自己紹介を控えていた平良一成は、信じられないぐらい美しい清居 奏に一目で心を奪われます。

“引力めいたものに引きずられて”と描写されている通り、平良にとっては劇的な出会いの瞬間。清居の圧倒的存在感を示すこの場面はドラマでも非常に鮮烈で、清居の完璧な佇まいは“キング”の説得力を揺るぎないものにしました。

必ずしも優しさや正しさが救いになるわけではないことを嫌というほど知っている平良は、負のループに巻き込まれ続けた自分を引っ張り上げてくれる清居を神のごとく崇拝するように。筋も何も通っていないことを通してしまう格好良い清居にますます惹かれていきます。

“残酷で輝かしい烙印が自分の額に押されている”(小説『美しい彼』より引用)

それはどこか誇らしげな烙印。清居のためならばパシリでも構わないと思えるほどの境地へと昇華した平良は、他の誰でもなく清居のために走ります。烙印を押された平良は、“清居のもの”となったのです。

一方で清居にとって平良は単なる興味でしかなかったのですが、長めの前髪の隙間からじっと見てくる平良を“キモい”と感じながらも、自分へと向けられるその視線はとてつもない快感を得られるものでした。

寂しい幼少期を経験した清居は熱狂的に追い求められたいという強い欲求があるため、いつも自分のことを見つめてくる平良の狂気的な愛情によって満たされるように。平良の存在はどんどん清居の深い部分にまで侵入していきます。

どうしようもなく求めてしまう、まさに引力のごとくお互いを引き合う平良と清居。心の一番深いところを満たし合う二人の関係が、『美しい彼』に魅了される理由のひとつです。

清居しか好きになれないし、平良じゃないとダメ。清居と離れても一度会えば瞬く間に平良の体中に電流が走り抜けていくし、清居が何度も何度も平良のことを忘れようとしてもできなくて、どうしても平良じゃなきゃダメだと気づかされてしまいます。

 

 

卒業式の日、これまで散々自分を追いかけ回してきた平良が何も言ってこないことに苛立ち、清居は自らキスを授けて去っていきました。しかし平良の反応は予想だにしないもので、清居からのキスと言葉を“お情けの餞別”と“別れ”の意味として受け取り絶望の淵へ。

平良にとって音楽室や放課後の教室で過ごした二人の時間は宝物。そして清居からもらったものも全て大切にしている平良にとっては、別れさえも例外ではありません。

“それが花でも毒でも刃物でも、清居からもらったものは抱きしめるしかない”(小説『美しい彼』より引用)

清居にしてみたら、キスをする理由なんてひとつ。しかしこの時の清居は、平良には常識が通じないということが理解できていなかったのです。

 

一瞬にして清居へと引き戻されていく

 

高校卒業後、平良は清居との別れを受け止めながら、自分を理解してくれる仲間と平穏な大学生活を過ごしていました。そんななか突如として訪れた清居との再会は、平良の日常を一変させていきます。

“清居は嵐のように、せっかく実った果実のすべてをもぎとっていく”(小説『美しい彼』「ビタースイート・ループ」より引用)

一瞬にして清居へと引き戻された平良。それは初めて清居と出会った時の衝撃にも似た、平良の世界が変わる瞬間でもありました。

もぎとられることを待っていたかのような情景。禁じていたことをようやく許されたような愉悦さえ感じられる気がします。こうなったらもう、平良の想いは止められません。“──俺は、ずっと、清居のものでいたい”(小説『美しい彼』「ビタースイート・ループ」より引用)

 

 

高校時代、渇望を満たしてくれる平良に想いを募らせていった清居。あれだけ自分を追いかけ回していたのにと、卒業以来全く連絡をよこさない平良にモヤモヤしていました。ずっと平良からの連絡を待ち、平良の姿を探し求めていた清居は、再び平良の視界に入る機会を得ます。

清居のターンが始まると、恋する清居のかわいらしさが露わになっていき、同時にあまりにも噛み合わない二人の関係性に引き込まれていきます。追いかけられていたつもりが、いつの間にか追いかけているという構図に。

清居は平良について徐々に知り得たことがあります。平良は頑強で意味不明なマイルールがあること。そして、清居がキングであり平良は仕えるという関係が成り立っているにも関わらず、実は平良が清居以上に“王様”であること。

清居をキングとして崇め、重症なファン体質でもある平良は、清居が自分のことを好きだなんて知ろうともしません。交錯する気配がない二人がどのように結ばれるのか、平良の独特な思考と清居の切ない葛藤から目が離せなくなります。

平良に崇められるのは気持ちいいけれど、度が過ぎて常識が通じない。告白のつもりで放った言葉さえ平良には届かず、すれ違いを重ねます。好きな人の前でプライドも捨てる清居の健気な姿に、見ているこちらも泣けてきてしまい感情がぐちゃぐちゃに。

好きな人とは付き合いたいし触れ合いたい、自分も普通の男なんだと本音を漏らした清居を前に、それでも平良はそれが自分だとは思い至りません。「清居、好きな人がいるの?」なんて聞かれ、清居はもう我慢の限界を超えて「おまえだよ!」と告げてしまいました。

 

 

生きてきた環境も思考も異なり、まだお互いを理解しきれていない部分も当然あるんですよね。平良と清居は何度もすれ違い、ぶつかって向き合って歩み寄って、そして何度も絆を深めていく。『美しい彼』の魅力は「もどかしさ」にもあり、切なさのなかにある甘さもまた絶妙なのです。

これまで己の欲を清居に向けることを憚っていた平良ですが、本当は触れたくて触れたくてたまらなかったといいます。神のように崇める存在でありながら欲情してしまう葛藤は計り知れず。

心が結ばれて一気に高まる情欲、じっくり愛を交わしていく官能的な時間。欲を解放する平良と素直にゆだねる清居に悶絶しながらたっぷりと満たされ、ずっとここで溺れていたい心地良さがあります。

ドラマでは見事な映像美で平良と清居の関係の変化を描き、二人の大切な日々をノスタルジックに、そして色っぽさを幻想的に映し出し、どの場面を観ていても「美しい…」と溜息が漏れるほど。

シーズン1が全6話、シーズン2が全4話と限られた時間のなかで原作の大切な部分が丁寧に引き継がれており、これほどまでに美しい実写化の実現に感動を覚えます。

 

<次ページ:十四番目の月に喩える想い>
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