天鬼は山田先生や忍術学園と出会わなかった土井半助の姿――『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』藤森雅也監督 インタビュー|新キャラクターについてや前作映画のマル秘エピソードまで……?
新キャラクターについてや前作映画のマル秘エピソードまで……?
──楽曲を手がけている馬飼野康二さんとはどのようなやりとりをされたのでしょうか? ダンスナンバー「ドクタケ忍者隊の曲」についても伺えればと思います。
藤森:どうしても歌って踊るダンスシーンは「入れたいな」と思っていました(笑)。
あのダンスナンバーに関していうと、土井を騙すための曲だから邪悪な感じはなくむしろ「自分たちも頑張ろうぜ!」といった励ましを込めた曲調なんです。ただし洗脳感がほしいので同じリズムの繰り返しをしていただいたりしました。
サスペンス的な楽曲はTVシリーズの『忍たま乱太郎』とは異なり、この映画ではいろんな場面で必要になっていきます。例えば探索シーンでは曲に意味がほしいのではなく、テンポがほしいとか。普段の『忍たま』の楽曲からすると少し違う方向の曲を作っていただくことが多かったので今回、馬飼野さんも随分と付き合ってくださって何度もお会いしてお話させていただきました。楽曲が上がるごとに曲を聴かせていただいて、それに対してコメントを返していくという……。
──全42曲、一曲一曲に対してでしょうか?
藤森:やっていましたね。ほぼ全曲やっています。だけど、馬飼野さんからは「面白かった」と言ってくださって良かったなと。叱られるんじゃないかなとドキドキしていました(笑)。
──(笑)。制作に際して尼子さんとはどのようなやりとりをされたのでしょうか?
藤森:尼子さんには節目ごとにプロットやシナリオ、絵コンテを見ていただきましたが大きな修正はあまりなくとても喜んで下さっている感じがあって。むしろ「完成を楽しみにしています」とおっしゃっていただけて、非常に嬉しかったです。
──全体的な制作過程の中で難航した部分を教えてください。
藤森:難航したのは、やはりシナリオでした。自分がどういうふうにしていきたいかはお話ししていましたが、最初から明確な答えがあったわけではなく、入れたい要素を整理するのが一番苦労したところですね。
一年は組が活躍するというラインを一本立てたいという構想はありましたが、それをどのように全体と組み合わせていくかが課題でした。一年は組のラインと六年生のラインが最終的に一つになって終わらせないといけなかったので、阪口さんには何度も直しに付き合っていただきました。
このシナリオは単純に「きり丸が土井を恋しい」というお話ではなく、土井もきり丸や山田先生、一年は組のみんなが居ることで救われている。そこから広がり六年生も同じように土井のことが大好きだからあれだけ一生懸命になっているんだよね、という流れに繋がっていきます。
土井ときり丸の関係というものがどんどん大きな器の中に入っていくという構造が見えた時に最初の光明が見えました。きり丸だけの話ではなく他の人からの物語でもあるという映画の幹ができあがりました。そこから先のプロット作業でも苦労はしましたが、この幹ができるまでに半年掛かりました(笑)。
──本作で初登場を果たした「なにわ男子」の大西流星さんと藤原丈一郎さん演じる、新キャラクターであり六年生のひとつ上の代の桜木清右衛門、若王寺勘兵衛についてもお話をお聞かせください。
藤森:卒業生を2人出すというアイデアは、企画の初期段階からありました。それに対して尼子さんに実際のキャラクターの絵と名前、設定を作っていただいて、さらに得意武器まで描いてくださって。それを元に現場でアニメのキャラクターとして作り上げて行ったという流れですね。
──アフレコの際は大西さんと藤原さんに新キャラクターについてどのようなお話をされたのでしょうか?
藤森:最初にご挨拶をした際に、「『忍たま乱太郎』はご存知ですか?」と尋ねたところ「知ってます!子供の頃、見ていました!」とおっしゃっていただいて、作品の世界観について説明する必要がほとんどなく、スムーズに進められたので、すごく助かりました(笑)。
その上で2人のキャラクターの個々の雰囲気みたいなものを最初に説明していきました。この作品の中で2人の役は土井先生へ非常に恩義を感じているし、一年は組と同じぐらい土井を助けたいと思っているキャラクターです。
しかし、助けたいと思っている気分のどこかにプロになって一年目の忍者ということで、雑渡に対してなんとか自分が土をつけることができたら、忍者業界で評価を得られることができるかもしれないという若者らしい欲望も少し入っているかもしれないというお話をして、そのつもりで演じていただきました。
──個々の雰囲気とは、どのような説明をされたのでしょうか?
藤森:(大西さん演じる)桜木清右衛門は「一見、優男で飄々としているが実は芯が強いキャラクター」、(藤原さん演じる)若王寺勘兵衛は見た目の通り「猪突猛進。熱血感があるキャラクター」と、それぞれの性格を説明しながら役作りを進めました。
──そんな、なにわ男子が歌唱する「勇気100%」についてお話をお聞かせください。
藤森:自分にとってはTVシリーズの初キャラクターデザインのアニメ『忍たま乱太郎』の主題歌ということで、非常に思い出深い楽曲でもあります。良い曲なので、例えば運動会などですごく耳にする機会も多いんじゃないかなと思います。
ただ、制作者としては毎回同じ曲でオープニングの絵コンテを考えて作画を作らなければいけないので、「もう無理だよ。アイデアが出ない」と非常に苦労しました(笑)。
おそらく4、5回は同じ曲で絵コンテを描いていると思います。
──制作側からしたらそういった見え方があるんですね……! 今回はどうやってアイデアを出したのでしょうか?
藤森:今回は物語の締めということを考えていたので、「みんなの帰り道」という物語の流れを踏まえたものとなっています。
だから、テレビシリーズのオープニングのように、一から新しいアイデアを考える必要は少なかったです。ただ最後の最後でキャラクターがいっぱい出るシーンを作ってしまって現場は大変でした……。
やはり、最後はみんなで歩いて、走って、しゃべってという光景を(視聴者に見せて)幸せな気持ちになってもらうためにはどうしても入れたくて。制作的にかなり押し詰まっていた段階ではありましたが、スタッフに頑張ってもらいました(苦笑)。
──(笑)。いつもの方が苦労されるとお話されていましたね。
藤森:いつもの「勇気100%」はOPなので作品の「顔」として新しいアイデアを出さないといけない…… まぁ、3本ぐらいまではいいんだけど……。(苦笑)
1番最初から2番目までOPは僕の絵コンテではないのですが、実景で描くのではなくスタイリッシュなデザイン化された絵で構成するというテーマがあったと思うんですよね。それを毎回苦労して形にしてます。
──改めて、尼子騒兵衛さんが描く作品の魅力はどのようなところだと感じられていますか?
藤森:歴史考証や設定をめちゃくちゃ調べて描かれているところです。
しかし、そこまで徹底的にやっておきながら、山田先生が自転車に乗ってやってくるという(笑)。そんな飛ばすところを飛ばす独特な感性が面白いと思います。やはり、真面目なだけではここまでの人気はでないような気がしますね。
──それでは最後の質問となりますが、これまでの歴史ある『忍たま乱太郎』にまつわる思い出深いエピソードをお聞かせください。
藤森:たくさんありすぎてどこから引き出したらいいのか悩みますね。うーん。
制作過程で特に印象に残っているのは、前作の映画『劇場版アニメ 忍たま乱太郎 忍術学園 全員出動!の段』の際に尼子さんのご自宅に伺ったことですかね。尼子さんがプロットについて一部に引っ掛かっているということを聞いて、直接お話しさせていただく機会を作ってもらいました。
その引っ掛かっていた部分というのは、劇中で登場する“ふんどし”についてなのですが、忍術学園の課題で「オーマガトキの殿様の“ふんどし”を取ってくる」ということに対して、常識的に考えていくらなんでもそれはないでしょうというご感想を尼子さんが抱かれていて。
ただ、自分として映画を象徴するアイテムとして“長い布切れ”を共通のイメージとして使いたいという気持ちがありました。ふんどしは洗えば包帯にもなる、しかし殿様のキンキラキンのふんどしは包帯にもならないし、こんなところに余計なお金を使っているのだ、みたいな意図を込めて扱っていました。この意図を尼子さんに説明したところ、「なるほど、そういうことでしたら大丈夫です」とご快諾いただきました。
つまり、前作の制作の際には尼子さんのご自宅に伺ってふんどしの説明をさせていただくという重要イベントがあったりもしたんです(笑)。
[取材・文/笹本千尋]
作品概要
あらすじ
タソガレドキ忍者・諸泉尊奈門との決闘に向かった後、消息を絶ってしまった土井先生―
山田先生と六年生による土井先生の捜索が始まる中、担任不在の一年は組では、タソガレドキ忍軍の忍び組頭・雑渡昆奈門と、尊奈門が教壇に立つことに!
そんな中、きり丸は偶然、土井先生が置かれた状況を知ってしまうのだった。
一方、土井先生捜索中の六年生の前に突如現れたのは、ドクタケ忍者隊の冷徹な軍師・天鬼。
その顔は、土井先生と瓜二つで―
忍たま達に立ちはだかる最強の敵を前に、今、強き「絆」が試される。
果たして乱太郎、きり丸、しんべヱたちは、土井先生を取り戻すことができるのか―??
キャスト
(C)尼子騒兵衛/劇場版忍たま乱太郎製作委員会