『TOMORI KUSUNOKI BIRTHDAY LIVE2024 -灯路-』ライブレポート|誕生日当日に届けた、この夜限りのストーリー
2024年12月22日。楠木ともりの誕生日当日に恒例で行われているバースデーライブ。今回は直前の11月6日にリリースされた5th EP『吐露』を引っさげてのライブということで、タイトルも『TOMORI KUSUNOKI BIRTHDAY LIVE2024 -灯路-』(灯路と書いて、“とろ”と読む)と名付けられていた。『吐露』のインタビュー時、「バースデーライブなのに、暗い曲ばかりのEPになってしまったけど、良いセットリストができた」と、自信を覗かせていたのだが、それも納得のセットリストだった。コンセプチュアルでメッセージ性もあって、その上楽しい。最高のバースデーライブを振り返る。
オープニングで観客を惹きつけた横浜BUNTAIの壮大な演出
想的な音楽が響き渡り、オープニングムービーが流れると、観客の集中力がぎゅっと高まる。会場となる横浜BUNTAIのステージはかなり横に長く、備え付けのLEDスクリーンもそれに比例して横長で、インパクトは絶大だった。映像では、一冊のノートがめくられていくのだが、そこにはまだ文字は綴られていない…。
一瞬の静寂を挟み、バンドが音を一気にかき鳴らし「ロマンロン」からライブが始まる。ライブオリジナルのイントロ、バンドそれぞれに見せ場があるアレンジ、心地よいビートをバックに楠木ともりは気持ち良くシャウトし、ロングトーンを決めていく。曲の最後にネオン風のデザインで、ライブタイトルの『灯路』が大きくスクリーンに表示されたのだが、ここまでド派手で大胆な演出は、かつてなかったし、とにかくカッコ良かった。
「一夜限りのバースデーライブ『灯路』。お越しいただきありがとうございます! 楽しみ方は自由です。精一杯楽しんでください!」と伝えると、菊池真義によるメロディアスな泣きのギターから始まった「クローバー」を、情感たっぷりに歌っていく。青い空と雲を映し出しながら、切なさと脆さを感じるボーカルに心を揺さぶられた。
5th EP『吐露』からの新曲「DOLL」は、亀田誠治が編曲した楽曲。宮本將行が奏でるベースラインと幡宮航太による鍵盤の気持ち良さに自然と体が揺れる。そして、ウィスパーで息多めに歌うボーカルの美しさと毒のある歌詞のバランスが絶妙で、薔薇の映像も相まって、ライブだからこその良さを最大限発揮していた。
そのムードを引き継ぎながら始まった「BONE ASH」では、徐々にテンションを上げていき、カオティックに、エモーショナルになっていくカタルシスが最高だった。温かいキャンドルライトを灯しながらの新曲「NoTE」は、歌詞をスクリーンに映し出しながらの歌唱。感情を隠すことなく、吐き出すように歌う楠木のボーカル。バンドも、その感情に寄り添うように演奏していた。
幕間映像で、ノートに手書きで綴られた「NoTE」と「DOLL」の歌詞を映し出す。それをステージ上でジッと見つめていた楠木は、ピアノのイントロと共に、前を向く。スポットライトに包まれながら歌った「sketchbook」は、ピアノと歌だけで、静かにしっとりと届けていく。
途中から、ウィンドチャイムやドラム、ウッドベースといったぬくもりのある音色が加わり、歌を優しく彩っていく。そして、会場の真ん中にあるセンターステージで、アコースティックギターを手にした楠木が、話すように歌い始めたのは、新曲「最低だ、僕は。」。
アーティストだからこそ生み出せる曲の世界観と、声優として声を司る彼女だからこそ出せる表現力。そしてその感情のままに、自分でかき鳴らすギター……。音源では、ギターの菊池と共にレコーディングした楽曲であったが、彼女の内側の深いところにある想いを吐露した曲だからこそ、ライブでは弾き語りで歌うべきだと個人的に思っていたので、まさに思い描いていた光景でもあった。
だが、その想像をはるかに超えるパフォーマンスに、ステージから一瞬たりとも目が離せなかった。きっと、観客の多くも同じような気持ちだったのではないだろうか。
そしてそのまま、「それを僕は強さと呼びたい」をアコースティックアレンジで披露する。自分を否定するような言葉が並ぶ曲のあとに歌うからこそ、この曲の肯定感が胸に染み込んでくるし、優しさが溢れるアレンジもあって、心が浄化されたような気持ちになった。