音楽
『文スト』初の劇伴ライブ「-迷ヰ犬達ノ音奏-」東京公演レポート

白熱の生演奏と映像で描き出される10年の軌跡――初の劇伴ライブ「文豪ストレイドッグス -迷ヰ犬達ノ音奏-」東京公演レポート!

文豪の名を冠したキャラクターたちが異能バトルを繰り広げる、朝霧カフカ・春河35による人気コミック『文豪ストレイドッグス』のTVアニメ化10周年を記念した初の劇伴ライブイベント「文豪ストレイドッグス -迷ヰ犬達ノ音奏-」が、5月4日に大阪・オリックス劇場、5月23日に東京・TACHIKAWA STAGE GARDENで開催された。

2016年4月にTVアニメの放送が開始し、その後、現時点で第5シーズンまで制作されているほか、2018年には劇場作品『文豪ストレイドッグス DEAD APPLE』が公開、公式スピンオフ作品『文豪ストレイドッグス わん!』も2021年にアニメ化されるなど、根強い人気を誇る本作。今回の公演では、それらすべてのアニメ作品の劇伴を手掛ける音楽家・岩﨑 琢がバンドマスターとして陣頭指揮を執り、実力派揃いの演奏家・歌手たちと大画面に映し出されるアニメの名場面の融合によって、迷ヰ犬たちの心躍る物語が音楽で活写された。ここでは”千秋楽となった”東京公演の夜の部、3rd STAGEの回想録をお届けする。

 

 

武装探偵社の軌跡を彩る名曲群と圧巻の生演奏

開演前、会場の空気を一気に弛緩させたのが、中島敦(CV:上村祐翔)、太宰治(CV:宮野真守)、芥川龍之介(CV:小野賢章)、中原中也(CV:谷山紀章)によるアナウンス音声。今回、大阪・東京で行われた計3公演の開演時・終演時に、それぞれ異なる内容の新規収録によるボイス演出が流されたのだが、今回は太宰が敦に「一緒にお笑いで世界を目指そうって約束したじゃないか!恥ずかしがらずに自己紹介して!」といきなり無茶ぶりするところから始まり、その後も芥川・中也を交えた丁々発止のやり取りを太宰が華麗にいなしつつ、みんなで公演の注意事項を伝えていく。ポートマフィア組の芥川と中也は、禁則行為を見つけ次第、手足をもぐだの重力ですりつぶすだの、物騒極まりないことを言い始め、会場からは笑いが起こっていた。

そんな前口上を経て、いよいよ音楽の時間。「Spider Web」の物々しい電子音を出囃子代わりに演者たちが登壇する。この日の演奏を担ったのは、岩﨑 琢(バンドマスター、キーボード)、今堀恒雄(ギター)、田辺トシノ(ベース)、實成 峻(ドラムス)、Funta7 (シンセサイザー)、そしてサックスカルテットの中村有里 GroupとJill率いるストリングス隊・Jill Strings。管弦楽器を交えた豪華編成だ。最後に登場した岩﨑が舞台中央に置かれたエレクトリックピアノの前に位置すると、「文豪0」で演目の幕を開ける。TVアニメの本放送が始まる前に公開されたPV第1弾に使用されたこの楽曲。そのサスペンスフルかつ優雅な雰囲気が“迷ヰ犬達ノ音奏”と題した本公演の開幕に丁度よく馴染む。舞台背面に大きく掲げられたスクリーンには当然PV第1弾の映像が流れる。

文字通りジャジーな「文豪AcidJazz」では、異能者たちの登場する場面を繋ぎ合わせた映像が投影され、各人が己の音をぶつけ合うかの如き演奏で会場の熱を一気に高めていく。ウッドベースの蠢く低音、エレキギターのいななく咆哮、華麗に泳ぐピアノ、推進力を生み出す力強いドラミング、ユニゾンで分厚くブロウする管楽器隊。どれも迫力満点だ。続く「異能ノススメ」では次々と流れ行く各話のサブタイトルの映像を背景に、ブリティッシュハードロック~プログレの系譜を感じさせる技巧的かつ熱のこもった演奏が勇壮さを演出。そこからTVアニメ第1話より太宰の敦に向けた台詞「今日から君は武装探偵社の一員だ」という言葉を挿み、彼らを象徴する楽曲「武装探偵社」へ。リズム隊の重厚な演奏が下支えするなか、縦横無尽に暴れ回るギターとサックスソロが火花を散らせ合う。その緊迫感に満ちた雰囲気から一転、重心を後ろに置いたレゲエ風のゆったりした演奏と武装探偵社の面々のコミカルな場面を中心にした映像で緊張を緩和したのが「君死にたまふことなかれ」。緩急自在の演奏で作品の様々な側面を表現していく腕前は流石のひと言だ。

そしてTVアニメ第3話より、芥川の「死を惧れよ、殺しを惧れよ、死を望む者、等しく死に、望まるるが故に、お初にお目にかかる。僕(やつがれ)は芥川……」という名文句が流れると、ポートマフィア側のテーマ曲とも言える「River Side Mafia」を披露。岩﨑はアンテナに手をかざして演奏する特殊な電子楽器・テルミンを用いて前衛的な音を発生させ、その不安定でいて耳を惹く音響と管楽器隊の描く重々しくも物悲しい旋律のアンサンブルが、ポートマフィアの存在感を浮かび上がらせていく。映像の最後は首領である森 鴎外のカットで締め括られた。

続く「焦眉」からはストリングス隊も演奏に加わって、より劇的な音空間を創出。冷たいシーケンスと共に、国木田独歩や江戸川乱歩ら武装探偵社の面々と敵対する者たちとの緊迫した場面を彩っていく。さらに岩崎が楽器をグランドピアノに換えて「芙蓉」へ。音の苛烈さが増してますます熱を帯びていくなか、映像の中の武装探偵社メンバーも強敵たちと対峙して窮地に追い込まれていく。

 

友愛と正義、そして迷い――『文スト』が描く人間ドラマ

ここで映画『文豪ストレイドッグス DEAD APPLE』より、敦が在籍していた孤児院の院長の台詞が流れて、岩﨑の物悲しいピアノの調べと弦楽隊の演奏で構成された小品「The Door」に転換。さらにフィルムスコアリングで制作した同映画の劇伴曲「Dead Apple」を劇中の映像に合わせて演奏し、敦が己の過去や葛藤と向き合い、もがき苦しみながらも超克していく様を音楽と映像でドラマチックに表出していく。そしてTVアニメ第10話の国木田と敦の会話より、国木田の「走れ、敦!」という台詞と共に始まったのが、勇ましくも疾走感に満ちた「走れ敦!」。ストリングスの流麗な響きや中盤でメロウに展開するサックス、そこからさらに芯を強く加速していく音像が、成長していく敦の姿に重なる。3曲を通して敦の変化を描くような一幕だった。

場面は転じて、TVアニメ第16話より太宰が今際の際の織田作之助と対話するシーン。その悲しき過去を弔うかのように、ジャズボーカリストの菅井美和が登壇して優しくしっとりと歌い上げたのが「Dear Prince」。太宰がポートマフィアに属していた「黒の時代」の織田作との思い出が過ぎ去っていくなか、ベルベットのように優しい歌声が、すべての悲哀を包み込む。さらにバー・ルパンを訪れる足音とグラスを弾く音を合図に、ロマンティックなバラード「Scarlet Sky」を歌唱。太宰、織田作、坂口安吾の友人3人が過ごした時間、思い出の中に色褪せず残り続けるバラ色の日々に献杯を捧げるような名演だった。

そこから、管楽器の豊かな響きとテナーサックスの美しい調べが満天の星空のように美しくも心休まる景色を描き出した「友といふもの」、厳かにして力強い演奏が聴衆の心を震わせた「What is justice?」と続け、アニメの名場面の映像と共に作品内で描かれる、それぞれの立場にとっての友愛や正義を表現。そしてTVアニメ第28話より中原中也と森 鴎外の会話シーンに転じ、次曲「Wake Up Call」で劇伴の宴は佳境へと向かっていく。哀切感の滲むサックスとエレピの絡みを皮切りに、ラッパーのLotus Juiceが登場すると共に楽曲と中也をフォーカスした映像がスリリングに展開し、客席はクラップして盛り上がる。さらにTVアニメ第24話から太宰の「生き方の正解を知りたくて、誰もが闘ってる。何を求め闘う?どうやって生きる?答えは誰も教えてくれない。我々にあるのは迷う権利だけだ。どぶ底を行くストレイドッグスのように」という象徴的な台詞を挿み、ハードバップ×ヒップホップといった趣きの「Good For Nothing」へ。岩﨑はパッドを手にしてステージ上を徘徊しながらビートを叩き出し、演奏メンバーにもパッドを叩かせたかと思えば、客席まで降りて観客をも演奏に参加させる。無用な垣根を感じさせない姿勢、何事も楽しむ精神、大人の余裕に満ちた遊び心。音楽の楽しさを改めて実感させてくれる瞬間だった。

一拍置いて、引き続きLotus Juiceがラップで参加した「Eye of the Tiger」に繋げ、敦らの白熱した戦闘シーンを中心に構成した映像の力も相まって会場の熱気もさらに上昇。いつの間にか総立ち状態で、手拍子や体を揺らしながら音楽に身も心も委ねていく。そしてTVアニメ第37話、敦と太宰がストレイドッグに乾杯する場面を経て、高揚感に満ちた歌曲「OP.19 No.3」に突入。浜田雅貴と南 颯希の男女シンガーが威勢よくステージに登場し、ツインボーカルでソウルフルな歌声を会場いっぱいに響き渡らせていく。菅井とLotus Juiceも舞台に並び、コール&レスポンスや演奏陣のソロ回しで会場を極限まで盛り上げ、最高の山場を作り上げてライブ本編を締めくくった。

素晴らしい熱演に会場中がスタンディングオベーションでアンコールを求めると、ここで想定外の嬉しいサプライズが実現。岩﨑が「敦くん、僕と一緒に漫才で世界を獲るんじゃなかったの?」と言いながら、ステージに連れてきたのは、なんと中島 敦役の声優・上村祐翔。彼も本公演を観に来ていたとのことで、特別に登壇することになったという。突然のことに会場の各所から歓喜の声が上がる。上村もライブを観覧しながら、この10年のことをいろいろ思い出したとのことで、特に「走れ敦!」にはグッときたという。「今日は全力を出し切って『文豪ストレイドッグス』の世界にどっぷり浸かってください」「ジャンプしたら芥川に八つ裂きにされるから気を付けてね(笑)」と呼びかけて、演奏陣に残りの時間を託した。

 

ファンと共に歩んだ10年、その軌跡を胸に

アンコールは、シネジャズやスパイ映画の音楽に通じるスタイリッシュさとラテン音楽の高揚感を併せ持った「Batalha」。TVアニメ第16話の織田作が犯罪組織・ミミックの本拠に単身乗り込む場面で流れた楽曲で、本公演ではジイドと二丁拳銃で争うカットなども織り交ぜた映像と同期させることで、「黒の時代」の名シーンを熱気たっぷりに表現していた。そしてエンディング、岩﨑が「こんな素晴らしいコンサートをみんな一緒に作ってくれてどうもありがとう!」と挨拶して、バンドメンバーが退場すると、舞台に一人残った岩﨑は「楽しい時間は本当に一瞬でした。でも楽しいライブも終わるからいいんだよ、きっと。楽しいアニメも、人生も、いつか終わるから楽しいんじゃないかと思います」と語り、最後にもう1曲、「Scarlet Sky」を再び、今度はピアノの独奏で届ける。本公演のパンフレットで岩﨑がインタビューに答えた内容によると、この楽曲は“太宰の頭の中で流れ続けている音楽”をイメージして作ったのだという。織田作や安吾と一緒にグラスを傾けながら語り合った日々を偲ぶ、美しくも儚い人生の音楽。まるで文豪の記した詩のように雄弁で想像力を掻き立てるピアノの音色が、在りし日の思い出を優しく描き出して、本公演はそっと幕を閉じた。

終演後、中島 敦から「親愛なるあなた」に向けてボイスメッセージが贈られる。「武装探偵社のみんなは、まるでジャズのように、一人ひとりは個性的で奔放なのに、ひとつの音楽を奏でているようで、いつの間にか自分もその中にいたいと思うようになりました」「ここまで来れたのは、あなたが寄り添ってくれていたからです。僕たちの歩んできた軌跡が、これからもずっと、あなたの中に残ってくれたら、僕はとても嬉しいです」。その言葉が示唆する通り、きっとストレイドッグたちの物語は、この日に奏でられた音楽の記憶と結びついて、観覧したファンの心にいつまでも残り続けることだろう。

[文・北野創]

 

「文豪ストレイドッグス -迷ヰ犬達ノ音奏-」SETLIST

1 文豪0
2 文豪AcidJazz
3 異能ノススメ
4 武装探偵社
5 君死にたまふことなかれ
6 River Side Mafia
7 焦眉
8 芙蓉
9 The Door
10 Dead Apple
11 走れ敦!
12 Dear Prince
13 Scarlet Sky
14 友といふもの
15 What is justice?
16 Wake Up Call
17 Good For Nothing
18 Eye of the Tiger
19 OP.19 No.3

20 Batalha
21 Scarlet Sky (Piano Ver.)

「文豪ストレイドッグス -迷ヰ犬達ノ音奏-」終演アナウンス全文

「見守ってくれている、親愛なるあなたへ

 役立たずだった自分が、行き場のない自分が、
 噂に聞いていた薄暮の武装集団、武装探偵社と出会いました。

 頭の中ではいつも起きろと警鐘が鳴っています。
 僕は閉ざされた扉の前で、自分を見つめる虎の目と向き合って、
 正義とはなにか。と自分に問い続けます。

 武装探偵社というのは。まるでジャズのように、
 ひとりひとりは個性的で奔放なのに、一つの音楽を奏でているようで。
 いつの間にか自分もその中に居たいと思うようになりました。
 そうして、虎に変幻する異能と向き合っていきました。

 なんとなく居場所を見つけても、この世界は死と隣り合わせで、
 僕はマフィアと相対し、外国(とつくに)の異能者にヨコハマが狙われ、
 時に狩人に追われ、そうして危機が迫るたびに、
 ようやく見つけたその場所を守るため、
 心臓が破裂しそうになっても走り続けました。

 そうやっているうちに、最初、何も持っていなかった僕にも、
 いつからか背中を預けることができる戦友ができました。

 此処までこれたのはあなたが寄り添ってくれていたからです。
 僕たちの歩んできた軌跡が、これからもずっと、
 あなたの中に残ってくれたら僕はとてもうれしいです。

 まだまだ道は半ばで、これからも平坦な道ではないと思いますが、
 あなたがこれからも見守ってくださるように、
 精進していきますのでこれからもどうぞよろしくお願いします。

 本日はご来場いただき、誠にありがとうございました。
 気を付けてお帰りください。

 中島敦より。」

 

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