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- 逆井マリ
- 神奈川県横浜市出身。音楽フリーペーパー編集部を経て、フリーのライターとしてインタビュー等の執筆を手掛ける。
国内のみならず海外のリスナーからも強い支持を得ている実力派シンガー、Suaraが3/25(金)、東京・渋谷にあるMt. RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASUREにて、アコースティック・イベント『Suara Acoustic LIVE 2011~朧月夜に逢いましょう~』を開催した。3/21に開催された大阪のライヴと合わせて全2公演に渡り行われたこのイベントは、震災の影響で開催可能か否か直前まで判断がつかない状態であったが、HPで無事に開催出来ることを発表し、公演及びグッズの売上げの一部を義援金として寄付することも同時にアナウンスした。当日は開演前にSuaraがステージに登場。被災者に向けて観客と共に黙祷を捧げたあと、“歌”を通して大きな希望と夢を与える力強いメッセージを送ったのだった──。
穏やかなSEと共にバック・バンド(ピアノ:足立知謙、Wベース&チェロ:澤健太郎、ギター:村上喜洋、パーカッション:岡野リキ、バイオリン:西村泳子)と登場したSuara。淡い紫色のワンピースが華奢な身体に似合っている。会場からの大きな拍手が届くと、まずはエモーショナルなミディアム・バラード「太陽と月」を。凛とした歌声と、それぞれの音色がゆるりと繋がり、切なくも心地よいリラクゼーション効果を生んでいく。続けて 「天音唄」「MOON PHASE」と、幻想的な雰囲気のナンバーでグラデーションを描きながら厳かな世界へと引き込み、序盤にも関わらず会場を透明な“Suara”色に染めていったのだった。
3曲バラードを演奏したところでブレイクを取り「皆さまこんばんは! “朧月夜に会いましょう”にようこそいらっしゃいました!」と挨拶。ゆったりとした客席を見渡し「席、凄くゆったりしてるでしょ? 今日のリハーサル中に席に座って(バンドの)演奏を聴いてたんですけど……眠くなっちゃうんですよ(笑)。あ、最悪寝ても良いですよ(笑)。隣で寝ているかたがいらっしゃったら起こさないで下さい。気持ちよく聴いてくれているんだろうと言うことで(笑)」と自然体のSuaraらしい言葉で会場の笑いを誘った。
少し声のトーンを落とし、「今日の東京公演はギリギリまで(開催が)分からなかったので、皆さんを不安にさせてしまったと思うんですけど、こうして無事に開催できて本当に嬉しく思ってます。たくさんの方に来ていただきまして……重ねがさね、ありがとうございます!」と感謝の思いを伝えたあとは、これまでのナンバーとは一転した軽快な「星想夜曲」へ。客席からは自然とハンズ・クラップが沸き起こり、後半のファルセット・ヴォイスでは、まるで花びらが舞うような華やかさを持って会場を彩っていく。加えて、3拍子のリズムで軽やかに綴った「遠い街」、伸びやかな歌声で聴かせる「水鏡」、切ないメロディーを疾走するサウンドにのせた「赤い糸」と、キャリアを総括するような代表曲を届けたのだが、アコースティック・アレンジならではの際立った歌声は実に新鮮。ナチュラルな人柄の奥に潜む才能・歌声が浮き彫りになったのがこの前半のライヴだと私は感じたのだが、Suara自身は「アコースティック・ライヴということで……皆さん、どういう風に乗っていいか、分からないですよね?(笑) 手探りな感じですよね? 私もそうなんですけど(笑)」といたって消極的(笑)。
「去年あたりからアコースティック・スタイルのライヴが始まって、今回、東京、大阪でやらせていただいたんですけど……アコースティックでライヴをやるのは、東京では初めてですね……って、なんかシーンとしてるから、緊張する(笑)」「なんだか今日トークがうまく出来ない」と強張った心境を吐露しながら「……皆さん、楽しんでくれてるのかな?」と客席に問うと大きな拍手が沸き、ホッとした様子で自然と笑みをこぼした。
ここで、今回のライヴのために用意したという新曲を。「春なので“桜”という思い切ったタイトルで作ってきました。季節感のあるタイトルは私自身凄く好きだし、Suaraらしさっていうのもそこにあると思うんですけど……世の中にはたくさん桜ソングはありますが、その中でもSuaraらしい曲が出来たんじゃないかなと思います」と語り、旅立ちへの前向きな気持ちを綴った爽やかなスプリング・ソングを披露した(4月からフルサイズの配信が決定したとのことでチェックを!)。
さらにミディアム・ナンバー「春夏秋冬」、「星座」を熱唱と、アコースティック・ライヴ特有の美しさがもっとも発揮されたのが、この中盤のセクション。中でも弾き語り&バイオリンで施した“舞い落ちる雪のように”は息を止めて聴き入ってしまうほど素晴らしい演奏だった。静かにオーディエンスの感動を煽ったあとは、メンバー紹介&少し長めのブレイクを取り、複雑な心境を語った。
「……今もまだ大変な状況が続いています。東京公演はギリギリまで開催できるか分からなかったし、開催が決まってからも……私自身の心が定まらなかったところもあって、こういう時に“歌を届けて良いのだろうか”と悩んだりもしたんですけど、リハーサルで歌っている中で、私自身が歌詞にハッとするところがたくさんありまして……“あ、そうだな”って心から思えたり、“あ、そういうことだったのかな”って気付けたりとか……そういうところが歌詞にたくさんありまして、これを皆さんに届けなきゃいけないなって……歌う中で心が定まりました」。そしてオーディエンスひとりひとりの顔を見るかのように客席を見渡し「特別凄く大きなメッセージがあるわけじゃなくても、何かしら感じてもらえる曲なんじゃないかなと思って──だから、一生懸命届けなきゃと思って、今ステージに立っています」と前向きな表情で語り、その気持ちを届けるように「明日へ-空色の手紙-」「アオイロの空」「光の季節」、代表曲「夢想歌」と希望に溢れたハイトーンなナンバーを熱唱し、大きな拍手がステージに送られたのだった。
「やっぱ“夢想歌”は盛り上がりますね(笑)」と少し照れた表情を浮かべながら、5/25にリリースされるニュー・アルバム『Pure2-Ultimate Cool Japan Jazz-』のことをお知らせ。『Pure-AQUAPLUS LEGEND OF ACOUSTICS-』に続くシリーズ第二弾で今回は11曲入りのジャズ・アレンジのアルバムになっているとのこと。「いつかジャズを歌えればなとは思っていたんですけど、こんなに早く歌える日がくるとは思っていませんでした」と制作期間を振り返り「あとはマスタリングと発売を待つのみという段階です」と報告した。
そのアルバムにはジャズ・バージョンで収録された「キミガタメ」をこの日は通常バージョンで披露。その歌声はもちろんだが、情熱的なアレンジを施した中盤から後半にかけての熱演はバック・バンドのさすがの実力を感じさせた。
本編ラストを飾ったのは“あの”曲。「私自身凄く落ち込んでいる時に“元気出さなきゃな”って……昨日よりは成長できたんじゃないかって毎日を過ごせたらいいなと思って作った曲です。ここに集まってくださった皆さんに向けて歌いたいなと思います」と「トモシビ」をオーディエンスと大合唱。〈決して消えない トモシビを燃やし続けたい 不安定な心に未来を明るく 照らせるのはきっと 自分でしかない〉。そのメッセージは明日への活力として、そして大きな希望として心にグッと響いてきた。日本中に、世界中に届きますように──そんな気持ちさえも感じさせる力強い歌声はこの会場にいた全員の心を熱くさせたことだろう。
この日はアンコールこそ用意されてなかったが、本編終了後に再びステージに登場したSuara。「……こういう大きなこと(震災)が起こったときに……歌の力に自信がもてない時期があったんですが、ブログやメッセージで皆さんから力強いメッセージをもらって“私は1人で歌うんじゃないな”って思ったんです。来てくださる皆さんと一緒にライヴを作り上げることが出来て、それがちょっとでも大きな力になっていくんだなって思えたときに自信が戻ってきました。本当に皆さんのおかげです」と感謝の気持ちを込め、アンコールの代わりとして公演後に握手会を行うことを発表した。オーディエンスとのさらなるキズナを深めるかのように、ひとりひとりの目を見て手を握っていた姿は、何事にも真摯な姿勢で挑むSuaraならではのモノだった──。シンガーとしての実力と人柄が如実に現れるアコースティック・ライブを成功させた彼女はこれからもそのパワーを発揮していくはずだ。
<テキスト:逆井マリ>
神奈川県横浜市出身。既婚、一児の母。音楽フリーペーパー編集部を経て、フリーのライターとしてインタビュー等の執筆を手掛ける。パンクからアニソン、2.5次元舞台、ゲーム、グルメ、教育まで、ジャンル問わず、自分の“好き”を必死に追いかけ中。はじめてのめり込んだアニメは『楽しいムーミン一家』。インタビューでリアルな心情や生き方を聞くことが好き。