「パワードスーツ」の原点と終着点がここに! 『一夜限りのスペシャル・トークイベント パワードスーツの深イイはなし 荒牧伸志監督×宮武一貴氏』レポート
7月17日(火)、同月21日に公開を控える映画『スターシップ・トゥルーパーズ インベイジョン』のトークイベント『一夜限りのスペシャル・トークイベント パワードスーツの深イイはなし 荒牧伸志監督×宮武一貴氏』が実施された。
『スターシップ・トゥルーパーズ インベイジョン』は、スケールの大きな宇宙戦争を描いたSF小説『宇宙の戦士』を原作とした映画『スターシップ・トゥルーパーズ』シリーズの最新作にあたる。1997年に公開された『スターシップ・トゥルーパーズ』は、ジャンルの草分け的な作品のひとつであり、現代のSF作品においては欠かせない存在となった「パワードスーツ」が初めて登場した作品とあって、現在も根強いファンが多く残っている。
イベントに登場したのは、『機甲創世記モスピーダ』や『機神大戦ギガンティック・フォーミラ』などでメカデザインを多く務めた本作の監督、荒牧伸志さん。そして、原作小説『宇宙の戦士』の挿絵や、「パワードスーツ」のデザインを担当した宮武一貴さんのおふたり。今回はそんなおふたりの、クリエイターとしての素顔に迫った対談の様子をお届けしてゆく。
■ 原点は「呪縛」。そこから抜け出すために荒牧監督が見出した「正解」とは
イベントは、MCがお題を出して、それに沿って話が進む対談形式で進められた。『宇宙の戦士』における「パワードスーツ」のデザインについての話など、まさにプレミアムな話題も飛び出している。『スターシップ・トゥルーパーズ』のファンとしては、これを聞き逃す手はないだろう。
――荒牧さんと宮武さんの出逢いについて
荒牧:『機甲創世記モスピーダ』の仕事が終わった後、ちょっとしたパーティーというか、スタジオぬえさんとアートミックさん(当時のアニメ制作会社)合同の忘年会みたいなものが吉祥寺でありまして。その時に初めてお話させていただいて、感激したのを今でも覚えています。……これで間違い無いですかね、宮武さん。
宮武:間違い無いと思います(笑)。
荒牧:一応もっと遡ることもできますよ。一番古くまで行くと、小学生の頃にですね……。
宮武:え、ちょ、ちょっと待ってください(笑)。
荒牧:まぁまぁ、お聞きください。宮武さんのことを最初に知ったのは、『マジンガーZ』のスタッフロールです。エンディングロールの中に、マジンガーZの内部構造が出るんですよ。そのメカの緻密さに、当時の僕は感激しまして……。その図解を描いていたのが宮武さんだった、ということなのです。なんでかは分からないけど、その図解が小学校の学生新聞に載ったことがあったのですが、先生に頼み込んでその新聞を貰ったくらい、心を奪われていました。
宮武:今見ると、ヘタでヘタで申し訳ないんだけど(笑)。
荒牧:いやいや、あの図解がなかったら今の僕はありませんよ。そこから始まって、『宇宙戦艦ヤマト』のメカ設定だとか、『宇宙海賊キャプテンハーロック』のアルカディア号だとか……。宮武さんの関わった作品を観て育ちました。そこからSFに興味を持って、高校2年生の時に『スターシップ・トゥルーパーズ』の原作の『宇宙の戦士』を初版で買いまして。そこで宮武さん加藤直之さんがデザインした「パワードスーツ」を初めて見たんです。自分のスタート地点で、それがあったからやってこれたとも言えるでしょうね。だから、本当に感謝しています(笑)。
――海外プロモーションでの反応について
宮武:そういえば、荒牧さんは今日サンディエゴから帰国したところだったと聞きましたが。
荒牧:今日の朝の便で到着して、サンディエゴのコミコン・インターナショナル(サンディエゴで開催されている、大規模なアニメや漫画に関するイベント)で上映させていただきました。日本語を翻訳して英語で作ったものなので、笑いどころなどの手応えが分からなかったのですが、しっかり笑いどころで笑っていただけて良かったです。その際には、初代『スターシップ・トゥルーパーズ』で主役を演じたキャスパー・ヴァン・ディーンさんと、脚本家のエド・ニューマイヤーさんなどに登壇していただきました。
宮武:ということは、反応は良かったんだ。
荒牧:そうですね。終わった後に質疑応答の時間があったのですが、皆さん残っていただけまして。かなり突っ込んだ質問も含めて、たくさん話すことができました。
宮武:質問って、どういうものがありました?
荒牧:なんで今回はフルCGで作ったのか、という所に注目が集まってました。ちなみにその回答は、作品のスケール感をより強く表現するためです。
――『スターシップ・トゥルーパーズ インベイジョン』を見た、宮武さんの感想
宮武:これでようやく、これ(小説版『宇宙の戦士』の挿絵)の呪縛から逃れられるかな、と思いました。原作が出版されたのが1959年で、僕が生まれたのが49年……。原点が出来上がったのは僕が10歳の時なんですよ。それで、文庫になった『宇宙の戦士』の表紙を僕が描き上げたのが77年。「こんな昔のものに、みんなどれだけ囚われてるんだ!」と思いまして。
荒牧:それだけすごい作品だったということですよ。
宮武:勘違いしてはいけないのは、どこまで行っても僕の絵は「挿絵」のためのデザインなんだということ。小説に書かれているまま、矛盾の無いように描いたのは確かです。でも、やっぱりいちばん映えるのは印刷物なんですよ。実写やアニメ作品になる時は、当然デザインを変えなくてはいけません。
荒牧:動かすにあたって、あまり細かにデザインが描かれていると、アニメとして動かすのが難しくなってしまいますからね。
宮武:サンライズさんが『宇宙の戦士』をアニメ化する時にも僕が関わったのですが、少しでもデザインを変えようとすると文句を言われるんです。「変えてくれるな!」って。そう言いつつ「バズーカが長いから、フレームから切れちゃう。短くして」とか言うんですよ。根本的に考えなおさなきゃいけないのは「メディアが違ったらデザインは根本的に変えなければならない」ということです。もちろん、そのデザインに関わる理念や理論はそのままで、ですが。その点はすごく勉強になりました。
――『スターシップ・トゥルーパーズ インベイジョン』の「パワードスーツ」を見た宮武さんの感想
宮武:パワードスーツについては、モロにマリンコ(marine corps:海兵隊)だなと思いました。実際の兵隊はこんなに重たい銃を抱えて走るのはムリなので、パワードされていいるのは当然なんだけど、雰囲気としては現代のマリンコの印象に密着しているように感じましたね。「パワードスーツ」と言えば確かにそうですが、「スペースコープス」ものと言えばそのまま通る作品かな、と思いました。
荒牧:そう言っていただけると嬉しいです。
宮武:原作の「金属製のゴリラ」という一文に対して、ファンはすごいこだわりがあるんですよ。それを捨てて、ソフトな素材でデザインされているゆえに、より現代的なデザインになっています。
荒牧:宮武さんに聞きたかったのは、CGでデザインをすることの意味ですね。僕もアニメのデザインをやってきて、今はCGに手を出しているのですが……。アニメの場合は線画だけで質感なんかまで表現しなければいけませんよね。それに対してCGなんかは、テクスチャで自由に質感を変えられます。宮武さんは、少ない線で質感を表現していましたよね。それが、こういった形になったことについて、どう思われますか?
宮武:3DCGのアニメーションって、もう普通の役者が演じているものと遜色ない所まで来ましたから、なんでもできますよね。その中でも、『スターシップ・トゥルーパーズ インベイジョン』は、リアル調の最右翼な作品に当たるのかなと。あとは、デザイナーとしての「俺だったらこうする」話になっちゃいますが……。
荒牧:それをぜひ聞きたいです!
宮武:肩と腰から伸びるバックパックから、ひざ下に向かって駆動用の別アームを付けたいかな。「足に関して、人間は一切支えていない」というサインとしての、可動フレームのようなものを。ただそれをやると、CGにした時に体とパーツに隙間が生まれてしまいます。それが非常に鬱陶しいので、その辺りに関する検討もされた上でこういった形になったと思うのですが。
荒牧:なんだか逃げたみたいですいません(笑)。
宮武:いやいやそんなことは、ありませんよ(笑)。
――『宇宙の戦士』の挿絵から、荒牧さんが受けた影響について
荒牧:最初に見たパワードスーツがこの挿絵ですから、ファーストインパクトの呪縛は残っていると言えると思います。だから今回は、コンセプトデザインに別の人を立てて、別の視点からのデザインを取り入れています。僕だけが作ったら、最初に見たパワードスーツそのままになってしまいますからね。映画の世界観を強くアピールするデザインにしたい、という依頼でしたので、あえてそういった形で制作しました。
宮武:十数年前の小説を映画化しよう、ということ自体が、そのままでできるわけがないんです。あくまで小説の『宇宙の戦士』は素材でしかありませんので、先程言ったように「根本的に」考え直さないと仕方ありません。そういう意味では、今回のやり方はかなり「正解」なアプローチだと思っていますよ。
荒牧:もう……。感無量でございます(笑)。
――宮武さんの、今後の活動について
宮武:今『マクロス』シリーズ30周年を記念した、イベントに出展するための大きな絵を描いています。今まさに悲鳴を上げているところですよ……。果たしてこの絵は間に合うのか!
荒牧:『マクロス』というと、やっぱり戦艦の方のマクロスですか。
宮武:要塞艦型ではなくて、強攻型(人の形)になったマクロスです。僕はデザイナーですから、普通はB4の紙しか扱わないんですよ。1度に大きなサイズで、というのはもう手に負えないサイズで、描いても描いても終わらない。普段と勝手が違うものですから、1度紙を全部捨てたり……。
荒牧:ああ、それは完成品を見るのが楽しみです。
宮武:あとは、『宇宙戦艦ヤマト2199』の手伝いですね。
荒牧:あれももう、30年前どころじゃない作品ですよね。……そういった、昔の作品のリメイク作業って、どう思いますか?
宮武:これを言ってしまって良いのか分かりませんが……。デザイナーというのは、絵が描き上がった時点でその作品は「過去」になります。そこから先はすべて「未来」。描いている最中だけが「現在」なのです。だから、次から次へと作品を移っていくのが僕のやり方になります。でも、デザインに接する方にとっては、接した瞬間から「現在」となり、記憶はすべて「今」になってしまいますよね。
荒牧:そのギャップは、確かに難しいですね。
宮武:『宇宙戦艦ヤマト』のことは色々と訊かれますが、僕にとってはもう遠い過去のもので、今見たら下手でたまりません。「そんなことありません」と言われても、ただただ困ってしまいます。新しいものへのチャレンジこそが、僕にとって重要な部分なのです。完成したデザインを送ったその時点をもって、私の中では完結、固定化されます。極端に言ってしまえば、デザインを仕上げて監督に渡したら、それはすべて監督のもの。僕のものではありません。そうやって完成された作品はとても大切で、僕自身の誇りであり、生きてきた証なのです。ですが、それが「未来」の僕に干渉してきて、僕が支配されてしまってはたまったものではありません。……と、今のタイミングでは絶対に言ってはいけないことを言ってしまった気がします(笑)。
荒牧:いえ。これはデザイナーにとって非常に重要なことです。
宮武:『宇宙戦艦ヤマト』や『スターシップ・トゥルーパーズ』、『宇宙の戦士』のファンの方にも申し訳ありませんが、これは「呪縛」なんです。ただ、分かってほしいのは、何度も言っているように「メディアが違えば違う作品」なのだということです。
荒牧:先程もおっしゃってましたね。
宮武:はい。だから、違うメディアで記憶に残っているものがあったからといって、それに足を引っ張られて作品を楽しめなかったらおしまいなのです。そういった意味でも、今回の荒牧さんの作品はしっかりと違うデザインに生まれ変わっていますから。これは、新しいメディアへのアプローチという意味で、ひとつの「正解」なのだと思います。
荒牧:もったいなきお言葉……。
宮武:いえいえ(笑)。そういう意味で私のデザインは、本の挿絵としては永遠足りうるのかもしれません。これを大事にしていただけることは嬉しいので……。本当に皆様、ありがとうございます。
――ファンに向けてのメッセージ
荒牧:『宇宙の戦士』という作品は、僕の中のスタートラインのひとつです。今回の制作は、『スターシップ・トゥルーパーズ』と『宇宙の戦士』を、自分の中でひとつにする仕事だったのかなと感じました。その中でパワードスーツをどう表現するかは、僕に課せられたミッションだったと言えるでしょう。それに対しては、ひとつの答えを出せたのではないかと思っています。まぁ、まだまだ勉強する所はたくさんありますが……。
宮武:かなり良かったですよ。
荒牧:ああ、本当にありがとうございます……。
宮武:そして、それが「どう良かった」かは、その目で確認してください!
荒牧:おお、いい締めだ(笑)。
ひと通りの流れが終了すると、主人公であるリコ役のキャスパー・ヴァン・ディーンさんからのハイテンションすぎるビデオメッセージと、コミコン・インターナショナルで公開されたトレーラーが披露され、イベントは終了の運びとなった。本作『スターシップ・トゥルーパーズ インベイジョン』は、21日と迫っている。ふたりの言う「パワードスーツ」が、実際にどう変化したか。ぜひその目に焼付けていただきたい。
『スターシップ・トゥルーパーズ インベイジョン』は2012年7月21日(土)より新宿ピカデリー他で全国ロードショー!
<STAFF>
監督:荒牧伸志
脚本:フリント・ディル
プロデューサー:ジョセフ・チョウ
ストーリー:荒牧伸志、ジョセフ・チョウ、河田成人
製作総指揮:エドワード・ニューマイヤー、キャスパー・ヴァン・ディーン
CGIプロデューサー:河田成人
音楽:高橋哲也
提供:STAGE 6 FILMS
制作:SOLA DIGITAL ARTS
2012年 アメリカ作品 配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
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