『009 RE-CYBORG』の神山健治監督インタビュー

最新アニメ映画、『009 RE-CYBORG』の神山健治監督にインタビュー! 作品に託した熱い想いを語る!

 2012年10月27日に公開予定の『009 RE-CYBORG』は、大ヒットシリーズ『攻殻機動隊』などの監督を務めた、神山健治さんが手掛けるアニメ映画だ。

 原作は石ノ森章太郎さんによる、『サイボーグ009』というSF漫画で1964年に連載がスタート。特殊な能力を持った9人のサイボーグ戦士たちの活躍を描いた作品で、当時から注目を集めていた。ただ連載の途中で原作者が死去してしまったため、物語自体は未完で終わっている。それでもなお、原作は2012年まで3期に渡ってアニメ化がされるなど、現在でも根強い人気を誇っている。

 そして今回、映画となる本作の舞台は2013年の現代。ロンドンやニューヨークといった大都市の高層ビルが、次々と崩壊するという同時多発事件が発生。かつて世界を救ったサイボーグ戦士たちは、その事件を解明するべく集結する。

 歴史ある原作を映画化するにあたって、監督の神山さんはどんなことを考え、視聴者になにを伝えたかったのか。アフレコ現場でのエピソードも交えてお届けしよう。

『009 RE-CYBORG』 神山健治監督

『009 RE-CYBORG』 神山健治監督

■ 物語を複雑にせず、シンプルで楽しんでもらえるような脚本にしたい

――『009 RE-CYBORG』を制作するにあたっての経緯とは?

神山健治監督(以下、神山監督):もともとは押井守さんが監督をする予定だったんです。でも押井さんの考えたプロットは、ゼロゼロナンバーズはほとんど死んでしまっていて、ギルモア博士もいない。それで島村ジョーとフランソワーズだけが旅をしているストーリーになっていました。それだとちょっと原作そのものを否定してしまう、ということで、結果僕が脚本と監督を兼ねる形になりました。

■ 単体ではなく掛け合いで聞いたとき、いちばん化学反応が起きそうな声の組み合わせを意識して配役を決めました

――今回、声優の宮野真守さんと小野大輔さん、斎藤千和さんを起用した理由は?

神山監督:基本的にオーディションはニュートラルな意識で行ないたいので、可能な限り名前は伏せて声優さんの資料などにも目を通さず、声だけを聞いて役を決めています。そして今回はキャラクターを少し若返らせたいと思っていたので、事前に声優さんの事務所にはその旨を伝えておきました。ジョーは見た目は高校生だけど、内面の大人っぽさを表現できる方。ジェットは諜報機関に勤めているエージェントとしての立ち振る舞いができる方、など。先方にざっくりとしたオーダーを伝えてから、テープオーディションをしました。

 オーディションの内容はシナリオの重要なパートの台詞を読んで頂く、というものでした。その時点で僕からはとくに演技指導もしていないし、どういうシーンかもあまり深くお伝えしてない、そんな厳しい条件のなかで大勢の方に声を当ててもらいました。物語の中心人物であるジョーとジェットに関しては、約50名の方がオーディションに参加してくれました。でも今回は、なかなか決まらなくて苦労しましたね(笑)。

 まず最初に決めないといけないのは、ジョーとジェットなんです。このふたりが決まらないと、周りも決まらないので。そう考えたとき「小野さんがジョーかな」っていうのは途中まであった。でも小野さんをジョーにしてしまうと、ジェットの声優さんがもう少し年齢の高い方になってしまう。そうなると、ほかのゼロゼロナンバーたちも全体的に年齢が引き上がってしまうな、と。

サイボーグ009/島村ジョー(CV:宮野真守)

サイボーグ009/島村ジョー(CV:宮野真守)

サイボーグ002/ジェット・リンク(CV:小野大輔)

サイボーグ002/ジェット・リンク(CV:小野大輔)

 それで一旦、小野さんは諦めて別の方を選んでいったんですが、これがうまくハマらなくて。そこでふと「ちょっと待てよ。小野さんがジェットで宮野さんをジョーにしようか」と思ったんです。じつは宮野さんと小野さんは、ジョーとジェットどちらの役もオーディションを受けてくださっていたので。そしてそのパターンで聞かせてもらったとき、いちばんしっくりきた感じがしたんです。とくに小野さんの声っていうのは、組織に属しながらも一匹狼みたいなイメージで、「おれはやれるんだ」って自信が必要なんです。そうなると宮野さんの持つナイーブさがより引き立つな、とか段々見えてきたんですよ。

 若々しさが必要なジョーと、ジェットはそれより少し老獪になってきているけどまだ情熱がある、みたいなところが声の成分のどこかに隠れているんです。たとえば、サイボーグ006 張々湖(ちゃんちゃんこ)を演じてもらった増岡太郎さんは、何度も聞いているうちに「これは本当に腹から出ている声だな」とか。そういう声の持つイメージと、自分のなかにあるイメージが一致したときに役が決まる感じですね。

サイボーグ006/張々湖(CV:増岡太郎)

サイボーグ006/張々湖(CV:増岡太郎)

 斎藤千和さんに関して、フランソワーズ単体で聞いていたときは、5名くらい候補者がいてなかなか絞れなかったんです。でも宮野さんと小野さんが決まった瞬間に「この組み合わせでいくんだったら斎藤さんがいちばんいいな」と。フランソワーズはアクションもあるので、可憐なだけではダメなんです。そこで可愛らしさと大人っぽさをうまく表現できる斎藤さんにお願いしました。あと劇中ではフランソワーズともうひとりヒロインにあたる女の子が出てくるんですけど、その役も斎藤さんに担当してもらっています。

サイボーグ003/フランソワーズ・アルヌール(CV:斎藤千和)

サイボーグ003/フランソワーズ・アルヌール(CV:斎藤千和)

――アフレコ現場の雰囲気はいかがでしたか?

神山監督:キャスト全員が揃う時間って二日間、しかなかったんですけど、そのなかでも長くテレビシリーズをやってきたチームみたいに和気あいあいとしていました。みなさんとても作品や台本を読みこまれていましたね。

宮野さんは主役という自覚も強くあって、いちばん最初の原作から読んでいて「じつはこうやって改造されたんですよ」など詳細な部分までしっかり理解していました。まさに現場のリーダーという感じでみんなを引っ張ってくれて、本当に島村ジョーみたいな存在でしたよ(笑)。

サイボーグ001/イワン・ウイスキー(CV:玉川砂記子)

サイボーグ001/イワン・ウイスキー(CV:玉川砂記子)

サイボーグ004/アルベルト・ハインリヒ(CV:大川 透)

サイボーグ004/アルベルト・ハインリヒ(CV:大川 透)

サイボーグ005/ジェロニモ・ジュニア(CV:丹沢晃之)

サイボーグ005/ジェロニモ・ジュニア(CV:丹沢晃之)

サイボーグ007/グレート・ブリテン(CV:吉野裕行)

サイボーグ007/グレート・ブリテン(CV:吉野裕行)

サイボーグ008/ピュンマ(CV:杉山紀彰)

サイボーグ008/ピュンマ(CV:杉山紀彰)

■ 宮野さんと小野さんが演じきる、「ジョーとジェットの微妙な気持ちの変化や表情の移り変わり」をぜひを感じ取ってほしい

――監督の考える、作品の見どころは?

神山監督:ジョーとジェットの心の移り変わり、みたいなところが本作における見どころですね。確執があってしばらく会ってなかったふたりが、心にわだかまりを持ったまま再会するんだけども、最終的には友情でふたりが共闘していく。お互いの気持ちが変わっていく様に、ぜひ注目してもらいたいです。おそらく芝居をされていた宮野さんと小野さんも、そこにすごく力を入れていると思います。

――ラストに関しては、さまざまな意見が出るように思いますが、監督が作品に託した思いとはなんでしょうか?

神山監督:主人公たちはヒーローだから世界を救ったわけですよね。でも彼らはヒーロー、サイボーグである前にひとりの人間である。では「サイボーグになったから正義を成したのか?」というと、おそらく違うと思うんです。もっと普遍的な正義というのがあると思うんですよ。そこに彼らの思いが至っていった理由は物語の中盤、ジョーの心の移り変わりと、ラストシーンから見えてくると思います。

 僕はジョーが「正義とはなにか」というところに気付いたからこそ立ち向かっていったと思っているので、そこを見て頂きたいですね。「人類共通の正義ってなんだろう?」っていうのは石ノ森先生もずっと書いてきたテーマだと思うのでその部分を映画を見てから考えてもらえるといいな、と。

■ ウィルス遠隔操作の事件は、笑い男事件の模倣犯なのか!? 監督が語る

――最後に、せっかく監督に、お話を聞ける機会なので、ぜひこの話題を聞きたいと思ったんですが、いま社会で起こっている他人のPCをハッキングする事件、あれが「笑い男」と非常に似ていると思うんですが、監督ご自身はそれをどうお考えですか?

神山監督:現象としては、似ていると言えば似ているかもしれません。ただボクが決定的に違うと思うのは、笑い男は「良い事」で、あれをやろうとしたんですね。でも今回の事件が、仮に笑い男の模倣犯だとすると、残念ながら笑い男が目指した部分とは違うのではと思います。現象だけをとらえずに、ぜひその部分をしっかりと観て欲しいなと思います。

 ボク自身は、「良い事」ってなかなか伝播していかないなっていうのが、すごく残念に思っています。たとえば映画『ダークナイト』でも、同じテーマを描いていると思うんです。バットマンは、市民のためを思い行動しているけれども、彼の行う「良い事」は、彼の意志に反して批判されてしまう。バットマンの場合は、一度活動を諦めるけれども、やはり諦めずに帰ってくる。誰にも誉められないんだけど、やはり「良い事」」を選んでいくんです。でも残念ながら、その「良い事」のほうはなかなか、人々に伝播していかない。あの、ウィルス事件が、笑い男に似ていると思う人は、ぜひこの部分をもう一度考えて欲しい。

 だから、似ていると言ってしまうと語弊があるかなと思います。僕の立場からすると「似てません」って言いたいし、「似て非なる物」だと思いますね。『009 RE-CYBORG』も『攻殻機動隊 S.A.C.』もそうですが、作品を見た人は作品の中にあるメッセージの方へ、耳を傾けてもらえればと思います。また、そういった目線で、ぜひ楽しんでもらえればと思います。

<作品データ>
タイトル:009 RE-CYBORG
公開日:2012年10月27日(土)
原作:石ノ森章太郎
監督:神山健治
脚本:神山健治
キャスト:宮野真守、小野大輔、斎藤千和、杉山紀彰、吉野裕行、増岡太郎、大川 透、丹沢晃之、玉川砂記子、ほか

>>009 RE:CYBORG

(C)2012『009 RE:CYBORG』製作委員会
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