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映画『アリータ』原作者・木城ゆきとさんにインタビュー

映画『アリータ: バトル・エンジェル』原作漫画家・木城ゆきとさんにインタビュー|ジェームズ・キャメロンさんが熱烈オファーした『銃夢』の魅力とは?

『アリータ: バトル・エンジェル』原作者・木城ゆきとさんにインタビュー|ジェームズ・キャメロンさんが直筆サイン入りで熱烈オファーした『銃夢』の魅力とは?

SF漫画の最高峰として語り継がれ、日本はもとより世界17の国と地域で翻訳された木城ゆきとさん原作による伝説の漫画『銃夢』がハリウッド映画化! ジェームズ・キャメロンさん&ジョン・ランドーさん製作、ロバート・ロドリゲスさんが監督を務めた『アリータ: バトル・エンジェル』が、2019年2月22日(金)より日本公開となります!

このたび、アイメイトタイムズでは、原作者である木城ゆきとさんにインタビューを実施! ハリウッド映画化のオファーが来たときの心境や、あのジェームズ・キャメロンさんとのエピソード、『銃夢』が外国でも高い評価を得ていることから考える日本漫画の魅力などを語っていただきました!

10年以上の時を経て再スタートした『銃夢』のハリウッド映画化

――漫画『銃夢』がハリウッド映画『アリータ: バトル・エンジェル』として、ついに2019年2月22日(金)より公開となりますが、原作者としての率直な今の感想をお聞かせください。

木城ゆきとさん(以下、木城):素晴らしい映画を作っていただけて感謝しています。いち映画ファンとして、想像以上の出来だったのも嬉しかったですね。本当に、長いこと待っていましたから……。

――構想20年ということですからね。改めて、最初に映画化のオファーが来たときのことを振り返りつつ、その経緯を教えていただきたいと思います。

木城:95年頃から、いくつか別々のところから映画化のオファーをいただいていました。あまりに次から次に連絡が来るので、「ハリウッドから来たらする」と当時の編集者の方と話をしていたら、なんと本当に20世紀フォックスから来てしまいまして(笑)。

ジェームズ・キャメロンが興味を持っている、という情報を知って、これは大変なことになったぞと思いましたね。こっちも態勢を整えて挑まないといけないということになり、エージェントを通じて契約交渉を始めました。

キャメロンさん直筆のサインが入ったFAXが届いたこともありました。礼儀が籠もった文章をいただいて、「これなら信用しても大丈夫だろう」ということになり、本格的な契約交渉に入ったんです。

中々にタフな交渉で、2年間くらいはすったもんだモメたりしながら交渉を進めていましたね。契約書にサインできたのは、2000年の春頃でした。その後、2003年にキャメロンさんが日本に来られて、物凄いお話をいろいろ伺いました。自分がシナリオを書いて、しかもフルCGで映画にするということだったので、驚きました。

――2003年の段階でフルCG映画になることは決まっていたんですか?

木城:そうなんですよ。しかも、立体映画(3D)映画でやるとおっしゃっていて、正直、そんなこと可能なのかと。3D映画なんて全然ないし、当時の技術で人間をフルCGで作るなんて、まったく想像がついていませんでした(笑)。

――そうでしょうね(笑)。

木城:その頃にキャメロンさんはもう一本の企画も進めていて、どちらを先にするかはまだ迷っている、ということでした。『アリータ』に決まったら連絡をくれるということだったんですけど、それからなんの音沙汰もなく、「あ、これはもう一本に決まっちゃったんだな」と、残念に思っていました。

その話にでたもう一本の企画というのが、『アバター』だったんですよ。これが見事に大ヒットしましたからね。フルCGだし、日本にも3D映画館がいっぱいできたし、「流石キャメロンすげえな……」てなりましたよね。

もう一度『アリータ』の映画化の話が来たのは、それからずっと後のことでした。

 

――どれくらい待っていたんですか?

木城:もう、軽く10年以上は待っていたと思います(笑)。こちらサイドからも、キャメロンさんの知り合いを通して催促をかけたりはしていたんですけどね。なにしろ、ガードが硬すぎますから……(笑)。まったくコンタクトが取れませんでしたよ。

これはもう塩漬けになっちゃったんだろうなと諦めていたところに、2016年になってジョン・ランドーさんが、「制作が決まったからぜひ説明をしたい」とコンセプトアートを持って日本にいらっしゃったんです。

――もうその段階でコンセプトアートがあったんですか?

木城:コンセプトアート自体は、もっとずっと前にできていたらしいですよ。その時に一緒に、キャメロンさんが書いて、ロバート・ロドリゲス監督がリライトした、短いバージョンの日本語版シナリオをいただきまして。家に帰って読んでみたんですけど、これがえらい面白かったんですよ。「!?」てなりましたね。

一応、僕は原作を書いているはずなんですけど、別の作品のように面白かったんですよ(笑)。これは素晴らしい映画になる、100%信用しても大丈夫だと、その瞬間になんの疑いもなくなりました。

――映画のシナリオについて、先生から注文はあったりしなかったんですか?

木城:そもそも、2003年に初めてお会いしたときに、「変えてしまっても構いません」「僕を驚かせてください」と言っておいたんですよ。だから、僕の方から注文は一切していません。2017年になって、1月にテキサスのオースティンにある撮影所に招待されたときには、もうほとんど撮影も終わっていました。このときは実写に必要な部分だけで、アリータの3DCGとかは観ていなかったんですけどね。

去年あたりからの予告編が出始めたタイミングで、断片的なシーンで構成された特別映像を観させてもらいながら、ようやく試写に招待してもらって。完成度の高さに驚かされました。

構成が素晴らしいんですよ、それぞれのシーンの並びに無駄が全然なくて、すべてが名シーンのように感じられて、感激してしまいましたね。

大ヒット原作『銃夢』の誕生秘話

――原作者という目線から、『アリータ: バトル・エンジェル』の見どころや、注目してほしいポイントはどこでしょうか?

木城:個人的には、最初にアリータが目覚めて、恐る恐る周囲を見回すところですかね。イドと言葉をかわして、オレンジを食べようとするんですけど、あのシーンがすごく好きなんですよ。キャメロンさんの映画のすごいところは、助長になりがちな最初のシーンにもけして手を抜かないんで順番に描いていくんですよ。そうやって、観客を映画の中に引き込んでいくんですよね。

僕の漫画では描いてない部分も多いんですよ。コマが多くなってしまうので、僕の場合、日常シーンはカットしてしまうことが多いので。キャメロンさんはそれを丁寧に描くから、静かなシーンなんだけど映画の力が籠もっていて、それが、「良いなあ……」と思ったんです。

 

――意外といいますか、後半のアクションシーンではなく、日常シーンのほうが先生にとっては見どころなんですね。

木城:モーターボールのアクションは気合が入っていてもちろん素晴らしいんですけど、これはクライマックスに向かっていくシーンですからね。僕がわざわざ見どころですと言う必要はないかなと(笑)。

――映画の原作になっている『銃夢』ですが、この作品はどのような着想から生まれたものだったんですか?

木城:これが、かなりの難産の歴史があるものでして。もともとはサイボーグをテーマにした男性主人公の作品を、小学館に持ち込みをしていたんですよ。絵コンテを描いて持ち込みをして、ダメ出しをされて、また書き直して持ち込み、ということをずっと続けていました。

あるタイミングで集英社の当時の編集担当だったトミタさんという方にお会いして、そこで「女性主人公で描いてみないか」と言われまして。そこで、持ち込みをしていた作品のサブキャラクターだった婦人警官のガリーというサブキャラクターを主人公にして短編を2本ほど描いたんです。

だけど、それでもダメ出しをされてしまいまして(笑)。流石に疲れ切っていたんですけど、そんなところにビジュアルから連載の話がいきなり来たんですよ。「こりゃ大変なことになってしまったぞ……」と、かなり焦っていました。

――『銃夢』の設定もまだ固まっていなかった感じですか?

木城:それまでも試行錯誤はしていたんですけど、サイボーグ活躍する、という世界観がなかなか作れなくて、それこそ、ありきたりな近未来ものっぽい設定ばかり思いついていたんですよ。だけど、連載が決まったという刺激があったのかもしれないですね。布団の中で唸っているときに、はっと思いついたんですよ。

それが、軌道エレベーターがあって、その上の空中都市から排出されたくず鉄でできた街、という設定です。この生態系のようなイメージが思い浮かんだとき、「これならサイボーグが生きるのに相応しい!」と、かなりテンションが上りました。

――インスピレーションが湧いてきた、という感じだったんでしょうね。

木城:そこから〆切までは3週間くらいしかなくて、準備時間はほとんど残っていなかったんですよ。当時は小説のイラストなんかの仕事も受けていたので、さっきの設定を思いついた勢いのまま1話を描いて、それをトミタさんに直接持っていって感想を訪ねたんですけど……。その時点では、クライマックスのシーンでイドがロケットハンマーで敵を倒していたんですけど、「ここは主人公が戦わないと」と、さらにダメ出しを受けまして(笑)。「

『カムイ外伝』の飯綱落としみたいなのさせよう」と言われたんですけど、記憶を失っていて、戦闘能力を持っていない女の子に飯綱落としをさせるにはどうしたらいいか、また頭を撚ることになったんですけど、もう、そこまできたらハッタリを効かせるしかないないですよね。パンツァークンスト(機甲術)という火星の古代格闘技をでっち上げて、そうして始まったのが、『銃夢』連載のだったんです。

――当時は『攻殻機動隊』などの戦う女性の作品が流行った時期でもありましたが、同時代に連載を持っていて、「戦う女性」が時代に求められているようなものは、なにか感じることはありましたか?

木城:たまに「戦う女性の物語の走り」みたいに言われるんですけど、僕自身、最初は男性主人公でやろうとしていたくらいなので、特別に意識したことはなかったです。

男性主人公にすると、キャラクターに感情移入しすぎてしまうことが多かったんですよ。「主人公=自分」になってしまうといいますか。主人公が悩むと自分も一緒になって悩んでしまって、内容がグダグダになっちゃって、それを上手くコントロールできてなかったんですよね。

ところが、トミタさんにアドバイスで女性を主人公にしてみたら、分厚いフィルターを通したように物語を客観視できるようになったんです。

トミタさんは、僕が女性キャラクターを上手く描ける、と評価してくれていたらしくて。それで、自信を持って続けていくことができました。

時代と流行に囚われない“普遍的”な作風がヒットの鍵

――『銃夢』が海外で高い評価を得ている理由について、先生ご自身はどのように考えていますか?

木城:僕は基本的に、現代日本からスタートする話は描かないんです。日常から非日常に入っていくことで読者を引き込むのが王道なんだけど、僕の場合はいきなり異世界の非日常から始まることが多くてですね。それが連載を取れなかった原因だったんですけど、そういう内容が、結果的に外国の方たちに受けた要因だったのかなと思っています。

正直に言ってしまうと、現代ものが描けなかったんですよ。あの頃だと1990年の日本になるんですけど、それを舞台にすると、どうしても当時の流行に縛られてしまうんです。僕はそれが嫌で、まったく別の世界で始まる、時代も国境も超越した、普遍的な物語にしたいという気持ちが強くて。

だからなるべく、台詞に当時の流行語とかギャグとかを入れないように気をつけていました。だけど、当時は漫画が翻訳されて外国に広まるとか、そういうことを考えていたわけじゃなかったので。自分の漫画の理想像を描き続けていた結果、いろんな国で評価していただいて、実写映画化までいった理由なんじゃないかなと思っています。

――キャメロンさんが声をかけてきた理由などを伺ったことはありましたか?

木城:どうも、僕とキャメロンさんの作風に一致する部分が多かったようなんです。それは、僕がキャメロンさんに影響されたとかではなく、それぞれ独自に持っていたスタイルが、たまたま同じ方向を示していた、ということなんですけどね。

キャメロンさんとお話したときに一番ビックリしたのが、どうやらキャメロンさんは学生時代にアイディアノートを作っていたらしいんですけど、その中に、軌道エレベーターの上野空中都市、というのがあったらしくてですね(笑)。

――それは、凄い偶然ですね。

木城:誰にも話したこともないし、作品にもしていないということで、僕も本当に驚きましたね。「まさにシンクロニシティ(因果関係のないものが偶然に類似性を持つこと)」と言っていただきました(笑)。そういう不思議な共通点があったことも、興味を持っていただいた理由だったのかもしれないですね。

多様性が受け入れられる世界一のコンテンツ市場

――外国で日本の漫画やアニメの人気が高いことについて、海外でヒットした先生の目線から、日本のコンテンツの魅力はどんなところにあると思いますか?

木城:個々の作品についてはわからないですが、漫画やアニメを含めたサブカルチャー的な業界の多様性なんじゃないかなと思っています。日本ほど、この業界に多様性のある国はないんですよ、もちろん素晴らしい作品は世界中にあるし、クリエイターだってたくさんいるんですけど、多様性に関しては、間違いなく世界一です。

50年以上の漫画の歴史があって、過去にものすごい名作があるだけじゃなくて、新しいものがどんどん生まれてくるほど活気がある状況というのは強みですよね。生態系的な考え方なんですけど、もし多様性が失われていったら、ちょっとした疫病が流行っただけでその生態系は絶滅しちゃうんですよ。漫画とかアニメも似たようなものだと思っていて、多様性がある限りは、どんな環境の変化があろうともそう簡単に滅んだりしないはずなんです。

そういう活気にあふれている環境でコンテンツが次々に生まれてくるのが、外国からはエキゾチックに見えるんじゃないかなと思っています。

――それでは最後の質問なのですが、先生が影響を受けたアニメや漫画をお聞かせ願いないでしょうか。

木城:『銃夢』を描くときに一番影響を受けたのは、『装甲騎士ボトムズ』だと思います。

 

80年代前半は、『機動戦士ガンダム』から始まった新基軸のアニメが増えていった時代で、毎回新番組が始まる度に「次はどんな作品だろう?」とワクワクしていたのを覚えています。『1stガンダム』は凄く好きだったんですけど、その後どんどん増えていってしまって、その後の『ガンダム』は全然観れてないんですよね。

僕はリアルロボット路線のアニメが好きで、その究極系が『ボトムズ』だと思っています。作画的に厳しい面はあったかもしれませんが、ロボットのデザインやあの世界観は最高でした。実は、モーターボールのイメージの一つにもなっていたりするんですよ。そういう意味でも、意外な繋がりを感じていただけたらなと思います。

――ありがとうございました。

[取材/内田幸二 撮影/鳥谷部宏平 文/原直輝]

作品情報

2月22日(金)公開! 『アリータ:バトル・エンジェル』

ストーリー

舞台は、“支配する者”と“支配される者”の2つの世界に分断された、謎めいた遠い未来。サイバー医師のイドは、瓦礫の中から少女の人形の頭部を拾い上げる。

彼女は300年前のサイボーグであり、なんと脳は生身のまま生きていた。イドは、過去の記憶を失っていた少女に新たな機械の身体を与え、アリータと名付けて成長を見守る。

ある日、自分の中に並外れた戦闘能力が眠っていることに気づいたアリータは、自分が300年前に失われたテクノロジーで創られた“最強兵器”だということを知る。

逃れられない運命に直面した少女は、与えられた自分の命の意味を見つけるために、二つの世界の秩序を揺るがす壮大な旅に出る。

スタッフ&キャスト

原作:「銃夢」木城ゆきと
脚本・製作:ジェームズ・キャメロン
監督:ロバート・ロドリゲス『シン・シティ』『スパイ・キッズ』
出演:ローサ・サラザール、クリストフ・ヴァルツ、ジェニファー・コネリー、マハーシャラ・アリほか
配給:20世紀フォックス映画

公式サイト
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(C) 2018 Twentieth Century Fox Film Corporation
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