この記事をかいた人
- 逆井マリ
- 神奈川県横浜市出身。音楽フリーペーパー編集部を経て、フリーのライターとしてインタビュー等の執筆を手掛ける。
昨年11月、アーティスト活動終了を発表した沼倉愛美さんがアーティスト活動の軌跡をまとめたアルバム『みんなで!』を2月12日にリリースします。
『アイドルマスター』シリーズの我那覇響役などで声優として活躍する沼倉さんのアーティストデビューは2016年。シングル4枚、アルバム2枚、ライブBlu-ray1枚をリリースしてきました。
『みんなで!』には自身のファンクラブライブのみでリリースされた楽曲2曲に加え、新曲「みんなで!」を収録。また、これまで発表された各シングルとアルバムのリード曲&新曲「みんなで!」のMusic VideoをBlu-rayに収録という豪華版です。
2019年12月下旬。本作と2月16日豊洲PITで開催されるラストライブについて沼倉さんにインタビュー。アーティスト活動終了に至る経緯や現在の心境についても、誠実にお話してくれました。
──ジャケットで沼倉さんが手にしている“オンシジウム”を個人的にお渡ししたいなと思って今日持ってきたんです。小さな花束ですけど、もしよかったら。
沼倉:わあ、ありがとうございます! 綺麗。
──オンシジウムの花言葉には「可憐」に加えて「あなたと一緒に」「一緒に踊ろう」という意味があるんですね。まさに今回のアルバムのピッタリで、グッときてしまいました。
沼倉:えーっ! そうだったんだ!
──驚かれた様子を見ると、ご存じではなかったです?
沼倉:知らなかったです。撮影当日、他に青やピンクのお花も用意していただいていたんですが、私が黄色を選んで。そういったお話は聞いていませんでした。でもすごくいい花言葉。推していきます……! すみません、わざわざご用意してくださったのに。
──とんでもない(笑)。偶然にしては凄く運命的ですね。どの花言葉も今作にピッタリです。
沼倉:ありがとうございます。
──では順を追ってお話をうかがわせてください。今回のベストアルバムはアーティスト活動終了を受けてリリースされるものですが……発表から約1か月を経て、いまの心境はいかがですか?
沼倉:発表をするときはどんな風に受け止めてもらえるのかなと思っていたんですが……。皆さんいろいろな気持ちがあるとは思うんですが、応援してくださっている人、注目してくださっている人がこれだけいたんだなと。すごく優しい人たちだらけでありがたいなぁと感じています。
──コメントなどを見ても、沼倉さんのファンは温かい人たちばかりですよね。
沼倉:はい、本当に。ただすべての方を納得させることは難しいとは思っているので、そこは心苦しくもあるんですが。
──お話できる範囲で構わないんですが……アーティスト活動を終了しようと思った理由はなんだったんでしょう。
沼倉:大きな出来事があったというより色々なことがたくさんあったので、ひとつひとつ説明することが難しいんです。そのなかからひとつ、ふたつ抜き出してお話してしまうと、それが大きく受け取られてしまうのではないかと思うので……。
でも決して「何かが嫌だ」「投げ出したい」というわけではないです。そういう風にしか話せないのも、すごく申し訳ないんですが……。
──そんなことないです。誤解やすれ違いが生まれてしまうのは悲しいですもんね。
沼倉:はい。でもひとつ言えることは……私がソロで音楽活動をすることをとても喜んでくださった人がいたというのは、私にとっての財産であるということ。その人たちに楽しんでもらえる方法はまだまだ無限にあると思っていて。楽しんでもらう方法を探すことはやめないつもりなんです。そういうものを少し楽しみにしてくれていたら嬉しいなと。
──みんなで一緒に楽しむ方法は決して歌だけではないですもんね。
沼倉:そうですね。そこは信じてもらえたらいいなと。……言葉が足りないとは思うんですが。
──十分です。私としては休止ではなく、終了と決めたその潔さもなんだか沼倉さんらしいなと……。
沼倉:ああ、そう言ってくれたかたもいました。「ぬーさんらしいね」って。ただ私が決めたことに対して、スタッフも巻き込まれてしまうじゃないですか。それでも前向きに「(ベストアルバム発売とラストライブ)やろうよ」と声をかけてくれて、MVではいつものバンドが集まってくれて、撮影でお芝居チックなことまでしてくれて(笑)。周りのかたにも、ファンのかたにも恵まれているなぁと思います。
──アーティスト活動をやめるとは言え、声優活動は続けていくし、沼倉さんの音楽は誰かの生活の一部となって生き続けるわけで……。
沼倉:残るって凄いことだなと思います。ここまで続けてこられたのは、それを認めてくれた人たちがいたからで。本当に「みんなで」作ってきたなと感じているんです。音楽はその結晶だから、とっても大事なものですね。
──「みんなで」はアルバムタイトルであり、新曲のタイトルでもありますが、いま会話の中に自然と登場しましたね。
沼倉:はい。実際、自分のなかから自然と出てきた言葉なんです。最初は「みんなで」か「みんなへ」か迷いましたが、曲の方向性を決めたときに「みんなで」が良いんじゃないかなと思っていて。その後上がってきた曲を聴いて、やっぱり「みんなで」でいこうと決めました。
──曲の方向性っていうのは、沼倉さんからご提案されたものだったんです?
沼倉:はい。そのとき私がよく曲を聴いていたのが、ヒゲダンさん(Official髭男dism)とWANIMAさんだったんです(笑)。WANIMAさんの全力前回の振り切った感じと、スロウな曲調でも楽器が活きるヒゲダンさんのような曲調がすごくステキだなと思っていて。そんな話をしたら「沼倉さんは盛り上がる曲が真骨頂だと思うから、振り切った感じにしてみたら?」というお声をいただき、曲が上がってきました。
──爽やかで、凛とした歌声が印象的です。シンガロングパートもあり、こぶしがたくさん上がっているライブの景色が想像できます。
沼倉:強い意志を感じるサウンドだったので、そこに言葉をのせるだけでした。シンガロングのパートは、もともと想定してなかったそうなんですが、みんなで叫びたいなと思って入れさせてもらいました。最後の「WOW」もレコーディングのときにお願いして、その場で録ったんです。「メッセージを入れる?」と聞いてもらったんですが、それよりは「最後までみんなで歌えるパートを入れたいな」と。
──切なさはあるんですが、しんみりせず明るく終わるところにも惹かれました。
沼倉:別れの曲ではあるんですが……「お互い選んだ道をきちんと進んでいこう。私も進んでいくから、みんなもそうしてほしい」という誓いと約束の曲という感じですね。
──歌詞のなかに<大好きだよ>というストレートなメッセージも含まれていますが、この言葉も自然に出てきた言葉です?
沼倉:(頷きながら)そうですね。いつものことなんですけど……綺麗に装いきれないというか。もっとスマートにいけたらいいなと思うんですが、結局泥臭い感じになってしまうんです(笑)。
──“泥臭い”ですか(笑)。
沼倉:はい。もっとカッコつけたいのにボロが出ちゃうというか。「みんなで」も「Come on New World!!」も「アイ」も……結局は同じことを書いていて。曲に合わせて言い方を変えているだけというか。最終的にはここにくるのかと感じています。
──“ここ”というのは、言葉にするとどんな着地点なんです?
沼倉:なんだろう……。「ここがとってもステキな場所」ってことですね。ステージ、ファンクラブ、そこにいるひとたちへの愛情とか。ただの私の気持ちなんですけどね。伝えたいというよりかは「そうなんだよ!」というか(笑)。
──では、ファンクラブイベント限定でリリースした曲「Come on New World!!」「わたしたち」についても教えてください。「Come on New World!!」は、ライブについて歌われたエネルギッシュに駆け抜ける曲ですよね。
沼倉:はい。ファンクラブイベントで歌うために作った曲だったので「さあ、騒げ!」というか(笑)。
私のライブでは「隣と仲良く、女子に優しく、ぬーさんにもっと優しく」というルールだけを守ればいいと言っているんです。この場所では、それぞれが楽しいと思うことを思う存分全力でやっていい。それを曲にしたような感じですね。テーマが明確だったので、完成するのも早かったです。
──もう一方の「わたしたち」はイベントのゲスト・諏訪彩花さんとのコラボレーション曲です。
沼倉:ゲストさんとの曲を作るってどうなんだろうと思っていたんですが、その回に来てくれた人にとっても特別な曲になったのではないかなと。最初は共感できる歌詞にしようと思ったんですが、だいぶ私の主観というか……私から見た諏訪さんのイメージが入った曲なので、諏訪さんとしか歌えない曲ですね(笑)。これもキャラソンというのかなと。
──でも結果として、いい形でラストの「みんなで」にバトンが繋がっていきますよね。
沼倉:「わたしたち」から「みんなで」になる流れが良いとは言ってもらいました。意図しないところにステキなことが起こっていて。もっと言うと、終了することも含めて意図してなかったんですけど……。
──そうですよね。
沼倉:最初から辞めることを考えていたわけでは決してないですから。(終了にむけて)みんなが動き始めたことでエネルギーがまわってることを感じていて。すごくいいチームだなと思っています。
──すごくいい人たちに囲まれていたからこそ、意図しないミラクルがおきるんでしょうね。
沼倉:そういうことがあったから3年もできたんだなと。期間も別に決めてなかったですし、当時はファーストツアーが終わったら「終わりかな?」と思ってたんです。
──つまり続けることを決めているわけでもなかったと。
沼倉:そうですそうです。むしろ3年半続いたことが私にとってミラクルなことでもあるんです。後ろ向きな考えではなく、いつこれが「最後の作品なんです」と言われても悔いのないものを作ろうと思っていました。「みんなで」を作ることになって、それこそ全力を注ぎこまないとダメだと。
──改めて34曲聴いて思われたことなどはあります?
沼倉:曲が多いなぁと(笑)。
期間に対してすごく曲数が多くて、たくさん作らせてもらったなと思いました。1st LIVE「My LIVE」(2017年8月20日Zepp DiverCity)までは、ライブのためにも曲数をとのことで駆け抜けた感じがあったんですが、蓋を開けたら3rdシングル「彩 -color-」(2018年6月6日発売)からも結構なスピード感で作らせてもらったんだなと。
──作詞曲も豊富ですよね。
沼倉:振り返ってみると多いですね。でも1stシングルの「叫べ」(2016年11月2日発売)のときは「そんな責任重大なことはやだな」って言いました(笑)。もちろんやるからにはしっかりやらないと」思っていましたが。作詞を重ねるうちに慣れのようなものは多少あって、楽しさや奥深さが分かるようになった気はするんですが“得意です”とは言えないです(笑)。
──2ndアルバム『アイ』(2019年2月20日発売)のインタビューで“素の自分が出せている感じがする”といった趣旨の発言をされていました。メッセージは一貫しつつも歌に対する向き合い方に変化があったんでしょうか。
沼倉:そうですね。作り方がまずちょっと違うんです。1stアルバム『My LIVE』(2017年6月14日)は“前向き”というテーマだけ預けて、どのクリエイターさんに曲を作ってもらうかはお任せ状態でした。『アイ』は一曲、一曲にテーマを自分で作って、世界観も含めて全部自分で監修させてもらったんです。それぞれに良いところがあるし、それぞれに大変なこともあったんですけど、2枚目はやりがいがあった作品でした。“作ってる”という実感がありましたね。
──今回のベストアルバムにはこれまでの軌跡に加え、Blu-rayにはミュージックビデオ7曲が収録されています。本当に豪華な一枚ですね。
沼倉:本当に全部入っています。「みんなで」のMVもすごくいい映像になっているのでフルで見て欲しいですね。バンドメンバーがお芝居しているのが微笑ましくもあり、ありがたくもあり……。みんなが楽しそうなのが、とても良いなというか。「らしいな」って。
──バンドの皆さんとのお付き合いも長いですよね。絆もあったと思いますが──。
沼倉:や、そんなエモい感じではないですよ(笑)。でも長くお付き合いさせていただいています。キーボードの伊賀拓郎さんが一番長くて、次がベースの中村圭さん。ギターの香取真人くん、ドラムの大野陸は「My LIVE」のMVからですね。
ファーストのときは彼らが勝手に楽しいことをはじめてくれて。……「勝手に」というと語弊があるかもしれませんが、自分から楽しいことを追求してくれて、それが伝染して、増幅して“みんなが楽しい”になっていく。お客さんもそれをやってくれていたんですが、後ろからもそのエネルギーを出してくれていたことがとっても助かりました。だってキーボードがピアノを弾かず踊ってるんですよ(笑)。そういうバカバカしいこともまかり通る世界を作ってもらえたことが、とてもとてもありがたかった。ただただ感謝です。
──2月16日、東京・チームスマイル・豊洲PITで行われるラストライブがあります。そこで「『みんなで!』作ろう!プロジェクト」では沼倉さんに歌ってほしい曲をリクエストするという試みをやりました。「みんなで」というタイトルにふさわしいライブの作り方ですね。
沼倉:そうですね。最後だからできることもたくさんあると思うんですが……最後までチャレンジして終わりたいと思っているんです。
降りるのは全部が終わってからだから。2ndライブを経て、もう一個上がったところを見せないと思っているんです。同じところに行って同じことをして終わってもなぁと。だから楽しくて驚きのあるライブを見せられたらなぁと思っています。
──今日お話を聞いていて、ライブに対する熱い想いを感じました。
沼倉:ライブが好きですね。最初から言ってたのが「レコーディングは得意ではない」ということで。実際に届けるひとが目の前にいるという状況が好きで、空間や相手が見えると、表現もふくよかになれるんですけど、それがブースのなかになると……うまく歌うことができても“音楽をなかなかできない”という感覚があったんです。でもソロでライブして、ツアーをして、ブースのなかでもそれができるようになった気がしていて。それは得たもののひとつです。
──「みんなで」いることで音楽が完成する。それは沼倉さんの音楽観でもあるんでしょうか。
沼倉:そうだと思います。捉え方はそれぞれだと思うんですが、綺麗な音が全てじゃないというのは、私のなかで一個持ってる答えですね。綺麗に歌おうと思ったらあのライブはできません(笑)。
──最後までチャレンジしたいとおっしゃっていましたが、思えばアニサマ(「Animelo Summer Live 2016 刻 -TOKI-」)にメジャーデビューより先に出演、誰も知らないデビュー曲「叫べ」を歌うという異例の出来事もあって。あのスタートからして大きなチャレンジでしたよね。
沼倉:あのときはなんて無謀なことをするんだろうと思いましたけどね(笑)。誰も曲を知らない状態で歌ったので緊張しましたし、キャラクターや作品が伴わない自分にそこまで魅力があるとは思っていなかったので、その自信のなさがにじみ出ていたんじゃないかなと思います。
いまでも自分に魅力があるとは思ってないんですけどね。でもこの三年半、身一つでうたを歌って、それを見てくれるひとがいて。自分という人間の存在が認められているような気持ちにさせてもらって、とっても救いになりました。
──色々とおうかがいさせていただきましたが、ラストライブに向けて何かコメントできることはありますか。
沼倉:今回は初めてパンフレットを作ってもらうことになったんです。今までのことを振り返ったインタビューやバンドメンバーのコメント、撮りおろし写真などが入っています。撮影ではロケもしました。残るものとして作れたことが良かったなと思っていますね。結構分厚いですよ(笑)。
──楽しみにしています。ありがとうございました。
【取材・文/逆井マリ】
神奈川県横浜市出身。既婚、一児の母。音楽フリーペーパー編集部を経て、フリーのライターとしてインタビュー等の執筆を手掛ける。パンクからアニソン、2.5次元舞台、ゲーム、グルメ、教育まで、ジャンル問わず、自分の“好き”を必死に追いかけ中。はじめてのめり込んだアニメは『楽しいムーミン一家』。インタビューでリアルな心情や生き方を聞くことが好き。
価格:4,950円(税込)
発売日:2020年2月12日発売
アニメイト特典:複製サイン&コメント入りA4クリアファイル
≪収録内容≫
【CD-1】
01. 叫べ
02. 言の葉
03. HEY!
04. Climber's High!
05. 星の降る町
06. もっと一緒
07. Good Day
08. Smiling & Smiling
09. Spiral Flow
10. Anti-Gravity
11. Shining Days
12. ハレルヤDrive!
13. Hello,Ms.myself
14. 屋根上の朱い花
15. 暁
16. My LIVE
【CD-2】
01 彩 -color-
02. RELOAD
03. Checkmate
04. Desires
05. I Love You
06. What You Want
07. Benvenuti
08. This Kiss
09. 魔法
10. グッバイ
11. Don't back
12. 夜と遠心力
13. まどろみ
14. SWAY
15. アイ
16. Come on New World!!
17. わたしたち
18. みんなで!
【Blu-ray】
01. 叫べ
02. Climber's High!
03. My LIVE
04. 彩 -color-
05. Desires
06. アイ
07. みんなで!
沼倉愛美FINAL LIVE「みんなで!」
日時:2020年2月16日(日) 開場:17時/開演:18時
会場:東京・豊洲PIT
料金:7,000円(税込・All Standing・Drink代別500円)