劇場版『Fate/Grand Order -終局特異点 冠位時間神殿ソロモン-』高橋李依さん×鈴村健一さんインタビュー｜マシュとロマニの絶妙な関係

藤丸に信頼を寄せるマシュに嫉妬!?

ーーおふたりはマシュとロマニの関係性について、どのようにとらえていらっしゃいますか？

高橋：これは……的確な言葉で表現するのは意外と難しいですね。ロマニはマシュのことをずっと看てきた主治医ですが、ただの“医者と患者”という関係ではなくて。

鈴村：意外と難しい質問だよね。ロマニはマシュの体調面をずっと管理してきたのは、デザイナーベビーとして作られたマシュの“生”に対して、責任を持つ立場だからではあるんだけど……。でも、主治医としての責任感だけではないですよね。『バビロニア』のEpisode0では一緒にゲームをしたり本を読むなど、様々な形でマシュと接しているシーンが描かれていました。ロマニは長い時間を共に過ごすことで、マシュの情緒面の成長を担ってきたんです。そういう点では、親目線で見守ってきたのかな、と思います。

マシュは英霊を身体に宿すために調整された人間なので、長くても20歳くらいまでしか生きられません。なんとかしてあげたいけれど、どうにもならない。普通だったら、辛くて見ていられないから距離を置いたりするところを、ロマニは最後まで責任を持とうと、正面から向き合ってきました。だから僕はロマニのことを、よくがんばってるな、えらいやつだな、と思ってきたんです。だから、マシュがロマニのちょっとした冗談に辛辣なツッコミを入れたり、素で引いたりしているのを見るたびに、少しだけせつない気持ちになっています。

高橋：でも、なんだかそれって本当の親子関係みたいですよね。娘にとって父親は唯一無二の存在ではあるんですけど、側にいることが当たり前なせいか、特別気を遣うようなこともないというか。私自身、父のことを大切だと思ってはいますが、普段、その気持ちを改めて態度に出すようなことはしないんですよね。でも、幼いあの頃、何も知らなかった自分の心を解きほぐしてくれたのはドクターだったのだと、マシュは後になって実感しそうです。

鈴村：そこはもうちょっと早く気づいてほしいなぁ……。これまで2人の関係が明確に描かれたことはあまりなかったから、普段のロマニとマシュの何気ないやりとりをもっと見たかったな、という気持ちはありますね。

高橋：態度にはあまり出しませんが、マシュはロマニのことをよく見て、理解しているとは思いました。『終章』ではロマニに化けたソロモンに対して「ドクターは悲観的で、非人間的で、自分の言葉に傷ついたり、すぐにくじける方ですが……。人間の行うあらゆる努力を否定する方ではありません」と言って、偽物であることを見破るシーンがあって。マシュがロマニへの思いを口にする機会はこれまであまりありませんでしたが、彼女なりにロマニのことは尊敬していて、強い信頼を抱いているんだろうなと感じています。

鈴村：過去に担当していたラジオの人生相談なんかで「なかなかお父さんに『ありがとう』と言えないんです」というメールが来たことがあって。僕は「言った方が絶対にいいよ。言葉にしないと伝わらないこともあるんだよ」って答えたんですが、マシュにも同じことを言ってあげたいです（笑）。

ーーマシュと藤丸の関係を見ていて、鈴村さんは「娘を取られた」みたいな気持ちになることは？

鈴村：なりますね！　ずっと面倒を見てきたのはロマニのはずなのに、初めて出会った藤丸を「先輩」と呼んでなついちゃって。2人が親密にしている姿を見るたびに、複雑な気持ちになります（笑）。ただ、ロマニ自身はそんなふうに思っていないんですよね。

自分だけではマシュと向き合い続けることはできなかったし、藤丸がいたからこそマシュが救われている部分も大きい。「君のおかげでいろいろなことがうまくいった」と藤丸に言ったことがありましたが、そんなふうに感謝の気持ちを抱けるところを見ると、ああ見えてロマニは器の大きな人物なんだなと感じます。どこかに感情が偏ることなく、いつも中庸でいられる。誰かに対して憎しみや怒りを抱くということがなく、ただ事実をありのままに受け入れて、自分が成すべきことだけ見据えていられる。それがロマニのすごさなんだなと。

ーー高橋さんはマシュにとってロマニとはどのような人物だととらえていらっしゃいますか？

高橋：実験体として扱われていたマシュが人間らしい心を手に入れることができたのは、ロマニのおかげなんです。かつてロマニから自分の寿命が短いことを知らされたマシュは、そのことを悲壮感も絶望感もなく、淡々と受け止めていて。そこで、普通の人との感覚のズレを見て取ったロマニは、マシュと接していく中で大切なことをたくさん教えてくれて。マシュが藤丸と初めて出会った時、彼のことをとても人間らしい人だと感じ取って「先輩」と呼んだのは、きっとロマニのおかげだと思うんです。もしもロマニと出会っていなかったら、きっと藤丸と出会った時に、人間らしさを感じることもなかっただろうなぁと。